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  2-3
 
 
まるで光の滝だな――
それが、眼前に広がる幻想的な風景に対する、ジュンの率直な感想だった。
昼間は鮮やかな緑の天蓋となる木々も、夜ともなれば闇を濃くするだけの厄介者。
その厄介者がいま、枝葉の隙から点々と月明かりを零して、少年を魅了していた。
 
徐に吐かれた感嘆の息は、白く染まるそばから光芒の中へと融けていく。
それを目にして漸く、ジュンは言葉というものを思い出した。
 
「けっこう冷えてきたよな」
 
この秘やかな夜の森を歩き続けて、どれくらいが経ったのだろうか。
独りごちたジュンは、ひたと歩を止め、一口だけ水筒を呷った。
数時間前に汲んだ水は、すっかり温まっていて、喉にイガイガした不快感を残した。
 
「正直……夜中の森が、こうも寒いとは思ってなかったよ。
 おまけに暗すぎて、目当ての場所に着けるかどうかも怪しくなってきたし」
 
僅かばかりの潤いながら、乾きによるヒリつきを癒すには充分だったらしい。
それまでの沈黙がウソのように、少年は饒舌になった。
すかさず、彼の背後から、姉貴分の赤貧サモナーが異を唱えてくる。
 
「心配するのは早すぎじゃないの? 道なりに行けば、辿り着けるって話でしょ」
「でもさ、みっちゃん。さっき、分かれ道があっただろ」
 
言葉を発するのも、人の声を聞くのも、ジュンにはひどく久しぶりに感じられた。
こんな寂しい場所でも、自分は孤独じゃない。そう思えることが心強い。
けれど、一度生まれた不安は、どんなに拭おうとも尽きず滲み出してくる。
壁の隅を蝕むカビのごとく、少年のココロを執拗に惑わし続けた。
 
「あっちが正解だったのかも。こっちは藪が深くなって、道が消えかけてる」
 
間違いならば、すぐにでも引き返すべきだろう。これ以上の遅れは好ましくない。
それに、足元さえ不明瞭な山道を、目印もなく歩くのは危険きわまりなかった。
 
「自警団とかの応援を頼んで、夜明けと共に乗り込むのがベストなんじゃ……」
 
だが、ジュンの及び腰な発言はたちまち、みつと巴の反撥を食らった。
ベストだなんて耳触りがいいだけの逃げ口上であり、凡庸な選択に過ぎない。
彼女たちには、それが男らしくないと感じられたのだろう。
肝心なときには、多少強引にでも引っ張ってもらいたいと思うのが乙女心なのだ。
 
「あたしは賛成できないな。メイメイちゃんは、一刻を争う状況に曝されてるのよ」
「そうだよ、桜田くん。確実性を求めたいのは解るけど、結論を焦らないで」
 
口々に放たれる叱責は、勢いこそあれど、明らかな疲労も窺わせている。
思えば、麓からここまで登り詰めだ。しかも、かなりのハイペースで。
そこに不慣れな山道という悪条件も重なれば、女の子の足では相当キツイだろう。
殊に、めぐは身体が丈夫でないらしく、目に見えて消耗していた。
 
「すまん。今になって言うことじゃなかったよな」
 
事が急を要するからこそ、この闇の中、強行軍で登ってきたのだ。
朝を待つくらいなら、最初から街の宿で一泊している。
ジュンは自らの浅慮を恥じて、遅れがちなめぐに肩を貸した。
 
「みんな、ここらで少し休息しよう。辿り着けても、バテバテじゃ戦えないだろ」
 
せめてもの気遣いに彼が呼びかけると、誰ともなく、微かな安堵の息を漏らした。
口には出さなかったけれど、みつも巴も足を休めたかったのだろう。
ジュンが率先して腰を下ろすや、3人の乙女たちも、その場にへたり込んだ。
 
 
  ~  ~  ~
 
少し時間を遡って、夕刻――
時計職人の柴崎元治が操る馬車は、ようやくにして目指す街に到着した。
街並みの窓辺には明かりが灯り始め、調理の音や、美味そうな匂いが辺りに漂っていた。
 
「もうすぐ日が暮れるし、出発は明日にしなさいな」
 
元治の妻マツが、当然のように気遣いを見せる。
とても嬉しい申し出だ。大袈裟ではなく、老夫婦の温情には涙が出そうだった。
事実、ジュンたちは、老夫婦と過ごす時間を心地よく感じ始めていたし、
夕飯時の匂いに刺激されて、小腹が空き始めてもいた。
 
――が、めぐの相棒メイメイが掠われたとあっては、悠長にも構えていられない。
結局、後ろ髪を引かれる想いで、気のいい老夫婦に別れを告げたのだった。
 
 
それから、手分けして盗賊団に関する聞き込みを始める矢先に、「ところで――」
めぐがジュンたちを眺め回した。「あなたたちの名前、まだ聞いてないわ」
 
確かに。メイメイ救出の策を講じることにかまけて、うやむやにしていた。
気まずさを振り払うかのように、ジュンは口元を綻ばせた。
 
「じゃあ、改めて名乗ろう。どうもー、ジュンでーす!」
 
いきなり、軽妙な語り口と共に、少年が右腕をサッと挙げる。
事前に打ち合わせていないにも拘わらず、みつも連鎖した。「みつでーす!」
続いて、巴は――
  
「綾波レイでございます」
「そりゃねーよ柏葉!」
「巴ちゃ~ん。せめてカラーのウィッグを用意しとくべきだったわねー」
「急にネタがきたので……」
「まあ、スルーしなかっただけマシか」
  
――と、いきなり始まった3人の掛け合いに、めぐの眉間が深い皺を刻んだ。
凍りつく空気。放たれる視線のレーザービームが、容赦なくジュンたちに刺さる。
 
しまった! つかみでハズした!
ドン引きされたと3人が落ち込みかけた、まさにそのとき、「それって……」
めぐは、胸の前で指を搦め合わせて訊ねた。「レツゴー三匹?」

ネタが通じてくれた! さてはイデのチカラが発動したに違いない!
少年は都合よく拡大解釈をして、胸を撫で下ろした。
 
「よかった。また、死ね死ね怒鳴られるんじゃないかと、ヒヤヒヤしてたんだ」
 
だったら普通に自己紹介しなさいよと、鋭くつっこみが入るかと思いきや、
めぐは、なぜか誇らしげに胸を張った。
 
「実はね、こうして流浪の吟遊詩人になる前、長いこと入院していたの。
 その時に視た『ちりとてちん』に触発されて、落語や漫才に興味を持ったのよ。
 で、初めて知ったの。幸せだから笑うんじゃなくて、笑うから幸せになるんだなって」
 
なるほど、そういう一面はあるかも知れない。
我が身を振り返って、ジュンは唐突に、夕方の教室を思い出した。
 
 
 『最近、笑わなくなったです。いつも仏頂面で、どこ見てるのか判らなくて』
 
 
この夢境に来るキッカケとなった、翠星石の言葉だ。
ずっと周囲の世界をつまらないものと決めつけ、解った気になっていた、あの頃。
だが実際には、自分の感性が凝り固まっていただけではないのか。
笑うことなど容易くできたはずなのに、それをしようともしていなかった。
 
僕は、間違ってたんだろうか? 背伸びしすぎてたのかな。
ジュンが忸怩たる想いに胸を痛めている横で、めぐは尚も喋り続けた。
 
「そうそう。開腹手術直後で辛そうな人に、落語を聞かせてあげたこともあったわ。
 あの人、涙まで流して喜んでたっけ。よっぽど嬉しかったんだろうなぁ」
 
おいおい、それは本当に感激の涙だったのか?
喉元まで出かかった台詞を呑み込み、ジュンは気分を変えて、話を合わせた。
 
「ふぅん……そりゃ、いいコトしたな。でも、なんで急に旅をしだしたんだ?」
「天使を探すためよ」
 
事も無げに即答する。「わたし、どうしても、天使に逢いたいの」
この娘、少しばかり夢見がちなところがあるらしい。
あるいは、超自然的なナニかに縋りたくなるほど、深い失望を抱えているのか。
 
めぐの言う『長期の入院』というフレーズが、ジュンのココロに引っかかった。
慢性的な病。そして、天使を探すための旅立ち――
これで、よからぬ想像をするなと言うほうが、無理な注文だろう。
 
「だったら、僕らにも手伝わせてくれ」
ジュンは自分でも驚くほど自然に、そう告げていた。「一緒に、天使を探そう」
 
彼の決意は、しかし、ただの同情からではなかった。
ここは現実世界とは違う。天使だって実在するのかも知れない。
ならば、その御利益にあやかりたいものだと、ジュンは目論んだのである。
すべては、暴れん坊天狗の呪いから救われんがために……。
 
「いいの?」いきなりの申し出に驚いたらしく、めぐは忙しなく瞬きを繰り返した。
「あなたたちも、旅の途中なんでしょ?」
 
「僕は、自分の『ココロの樹』を探してる途中さ。柏葉たちは――なんだっけ?」
「まだ話してなかったよね、確か。私は、自分らしさを求めて、かな」
「あたしは……まあ、ワケありでねー。できれば詮索されたくないんだけどー」
 
みつの『ワケ』とやらには胡乱なものを感じるが、そこは赤貧サモナーのこと。
おそらく、金銭的なトラブルなのだろう。
差し当たって、めぐをパーティーに迎える障害とはなり得ない……はず。
 
「ま、こんな感じの寄せ集めだけどさ。それでも構わなければ、ね。
 気が進まないなら、はっきり断ってくれていいよ」
 
めぐの決断は早かった。躊躇のカケラも見せなかった。 
 
「じゃあ――お願いしようかな。旅は大勢のほうが楽しいものね。
 それに、わたしって身体が丈夫じゃないから、同行してもらえると助かるわ」
 
ついでのように言ったが、後者こそが、彼女の偽らざる本音だろう。
うら若くか弱い乙女の独り旅なんて、悪党にとっては、鴨ネギもいいところだ。
 
現に、めぐは不逞の輩に襲撃され、商売道具とパートナーを誘拐された。
生命を奪われなかったのは、勿怪の幸いと言わざるを得ない。
そんな彼女だからこそ、ジュンたちも力添えをしてあげたくなったのだ。
 
「歓迎するわよ、めぐちゃん」みつがウインクしながら、サムズアップ。
「よろしく、柿崎さん」巴は微笑んで、右手を差し伸べた。
「きっと、メイメイさんを救出しようね」
 
めぐは「もちろん」と頷いて、その手を両手で包み込んだ。
  
その後、ジュンたちは手分けして、夜の迫る街で聞き込みを行った。
割けるのは僅かな時間だし、たいした収穫は期待していなかったのだが、意外や意外。
彼らの予想を大きく裏切って、有益な情報が得られたのだった。
この辺りをシマとする盗賊『星の瞳』団は、かなり頻繁に悪事を働いているらしい。
 
「星の瞳だなんて、なんかロマンチック。あんまり盗賊っぽくないわね」
 
不思議そうに小首を傾げためぐに、巴が耳打ちする。「イヌフグリの別称よ」
たちまち、めぐは夕焼けに染まる顔を、さらに赤らめた。
 
「イヤだわ……下品ね。でも、よく知ってたわね」
「野草には、薬として使える品種もあるから」
 
本当だろうか?
めぐの奇妙な視線を受け流し、巴は集められた情報を纏めて、一同に伝えた。
 
「確認できている構成員は10名ほど。活動時間は、主に深夜帯。
 団長のポリシーで殺しはやらず、追い剥ぎや誘拐をシノギにしてるらしいわ」
「そいつらのアジトは、山の中腹にある廃墟だって話だ」
 
ジュンが巴のセリフを継いで、粗末な手書きの地図を指でなぞった。
そこは、廃鉱山を流用したテーマパークだったものが、不況の煽りで倒産、閉鎖。
管理が杜撰だったため、ならず者に住み着かれ、現在に至っているらしい。
 
「警備隊が討伐に赴くと、廃坑に逃げ込んで、行方を眩ますんだって。
 あっちに地の利があるんじゃ、根絶できないのも仕方ないよねー」
「アウェーなのは、僕らも同じだ。人数が少ない分、条件はもっと厳しいぞ」
「どうする、桜田くん? 正面切っての戦闘は不利だよ」
 
こちらの武装は貧弱。その上、ランプも持たずに洞窟探検だなんて、愚の骨頂だ。
対する盗賊は10人。しかも、百戦錬磨の精鋭っぽいときている。
どう贔屓目に見ても、ドラマのような八面六臂の活劇を演じられるとは思えなかった。
現実を直視すればするほど、ジュンたちの倦怠感も膨らんでいく。
 
そんな中、めぐの戦意だけは変わらなかった。「わたしは独りでも行くわ」
当然だ。彼女には、失えないものがある。
 
「メイメイを見捨てたら、わたし、きっと一生後悔するもの。そんなの絶対イヤ」
「うーん。後味悪くなるのは、あたしも嫌だなー」
「ここは逆転の発想かもね。いまがチャンスじゃないかな、桜田くん」
 
語りかけながら、巴は流れるような手捌きで、タロットカードを並べる。
 
「盗賊が仕事をするのは夜だよね、だったら……」
彼女が捲ったカードは、【運命の輪】の正位置。「ビンゴ! うまくいくわ」
 
言われてみれば確かに、盗賊が出払っている間が、メイメイを救出するチャンスだ。
留守番は、2、3人が精々だろう。丸々10人を相手にするより、勝機が見出せる。
 
作戦の可否は奇襲。その線で、ジュンたちは一致団結した。
 
 
  ~  ~  ~
 
――とまあ、こんな経緯で深夜の森を彷徨っていたのだが、成果はいまひとつ。
闇に包まれた山中で、自然と同化しつつある廃墟を探すのは、困難を極めた。
 
「寒いのか、柿崎?」
 
隣りで膝を抱え、小刻みに身を震わせている吟遊詩人に、ジュンは話しかけた。
彼女のパジャマみたいな薄生地の服では、大した保温効果など望めないだろう。
ジュンは、股間の天狗が露わになるのも構わずマントを脱いで、めぐの肩に掛けた。
 
「これ、羽織っておけよ。風邪ひかれたら困るし」
「あ、ありがと。ごめんね」
「いいって。吟遊詩人は喉が命だろ」
 
めぐはジュンと笑みを交わし合って、徐に視線を下げた。少年の下半身へと。
 
「それにしても、不思議な縁よね。天使さんを探して、天狗さんに巡り会うなんて」
 
呟いて、めぐは細く長い指で、天狗の鼻をふにふにと突っついた。
少年の若い性は、つい、ビクビクッ! と反応してしまう。なんとも面映ゆい。
だらしない顔を隠そうと背ければ、今度は、巴とみつのジト眼に曝される羽目となった。
どちらにせよ立場が悪化するのなら、いっそ開き直る道を、ジュンは選んだ。
 
「そうだ、柿崎。メイメイの特徴と、きみの楽器について教えておいてくれ。
 手懸かりは多いほうが、探しやすいからな」
 
彼の半ばやけっぱちな機転は功を奏した。みつと巴の視線が、めぐに移る。
首尾よくアジトに潜入できても、探索と脱出に手こずればリスクは同じ。
めぐも、彼の言い分をもっともだと思ったらしく、手振りを交えて説明した。
 
「メイメイは綺麗なショートの金髪で、ほっぺが、ふっくらぷにぷにで、澄んだ瞳で……
 とにかくっ、ぎゅうってして頬ずりしたくなっちゃうほどカワイイ女の子よ」
 
そう言われても、漠然としすぎて、なんのコトやら。鮮明なイメージは湧かない。
ジュンは、なおも熱っぽく語る少女を、次なる質問で遮った。
  
「メイメイのことは、もう解ったよ。あと、きみが奪われた楽器っていうのは?」
「銀のキーボードよ」
「はあ?」 
 
ジュンは頓狂な声をあげたが、あーなるほど。すぐに閃くものがあった。
めぐの言うキーボードとは、小学校の頃に使っていた鍵盤ハーモニカだろう。
メロディオンと商品名で呼んだほうが、通りはいいだろうか。
 
演奏中に、結露した汁が下からポタポタ垂れて顰蹙かったっけなぁ、アレ……。
そんな苦い記憶に、自嘲を禁じ得ないジュンだった。
 
「銀の楽器だなんて、値が張りそうね。急いだほうがいいわ、ジュンジュン。
 盗賊はすぐに、どこかに運んで売り捌こうとするはずよ」
「……だよな。その前に奪取しなきゃ」
「私なら、いつでも準備オッケーだよ、桜田くん」
「わたしもよ。メイメイと楽器を取り返して、盗賊どもをメギドの火で裁いてやるわ!」
 
 
――それから、さらに森を彷徨うこと小一時間。
獣道を藪漕ぎしつつ進んだジュンたちは、遂に目指す廃墟を眼中に捉えていた。
かなり騒がしくしていたのだが、折から強まった夜風に木々が揺すられ、
彼らの立てる物音は、うまいこと掻き消されていた。
  
「桜田くん、あれじゃない? 坑道に続く廃屋って」
「見張りらしいのが一人いるな。十中八九、間違いないだろう」
「たった一人だけど、厄介よね。さーて、どうやって黙らせようか」
 
藪の隙間から様子を窺いながら、ジュン、みつ、巴の3人は思案に暮れた。
彼らの潜む茂みから廃屋まで、30メートルは離れている。
しかも、身を隠せそうな障害物は、ご丁寧にも意図的に撤去されていた。
ちょっとでも茂みを出れば、たちまち見咎められるだろう。
 
「ここは、あたしの召喚魔法で――」
「待て待て、みっちゃん。召喚するとき白煙が出るだろ。バレちゃうって」
「じゃあ、ジュンジュンならどうするの」
「うっ……それは、だな…………どうしよう、柏葉」
「即効性の麻酔薬を塗った吹き矢で一撃すれば、まったくもって問題なし」
「マジで?! ひょっとして巴さん、吹き矢なんか隠し持っちゃってたりする?」
「ううん、持ってない。言ってみただけ」
 
なんかもう、いろいろとダメだ。ジュンは頭を抱え、叫びだしたい衝動に駆られた。
しかし、その時――「わたしに策があるわ。任せてくれない?」
めぐの強い意志を秘めた声が、3人の思惑に割り込んだ。
 
彼女の真剣な眼差しは、自信に溢れていた。ジュンは即決した。「よし、やってみよう!」
――歴史が動いた瞬間だった。
 
「僕らは具体的に、なにをすればいい?」
「あいつの注意を惹き付けて。ん……そうね、1分でいいかな」
 
言って、めぐはジュンに借りた黒いローブで、しっかりと身を包んだ。
暗い森の中では効果抜群の擬態だ。赤白ストライプの服より、断然、目立たない。
 
「1分か――よし、なんとかする」
 
あとは、ジュンたちが、どれだけ時間を稼げるかにかかっている。
相手が茫然自失してくれたなら上出来だ。仲間を呼ばせなければ、それでいい。
 
「みっちゃん! 柏葉! あいつにジェットストリームアタックをかけるぞ」
「女は度胸、やってやろうじゃない」
「いつでも私を踏み台にしていいからね、桜田くん。でも、どんな攻撃するの?」
  
巴の至極当然の疑問に、ジュンは至って真面目な顔で答えた。
 
「深夜とくれば大人の時間っ! みっちゃんと柏葉の悩殺お色気攻撃だ。
 男相手に、これほど効果絶大な戦法があるか? いや、ない!」
 
思いっきり独りよがりで安直な反語。しかも、発案者には低リスクときている。
そんな話を、乙女たちがホイホイと承伏するはずもなかった。
 
「や~、ちょっとジュンジュン。それは虫がよすぎじゃないのー?」
「ですよね。桜田くんにもリスクを背負ってもらわなきゃ、やってられない」
「……おまえらなぁ、僕に何させようって言うんだよ」
「決まってるでしょー。女装よ、女装。色仕掛けなら、三人娘でなきゃあねー」
「みっちゃんに賛成。ここはレイクエンジェルを結成すべきだと思う」
 
なにがレイクエンジェルだよっ! 
場違いな話題で、異様な盛り上がりを見せる乙女組に、ジュンは憮然と言って捨てた。
 
「やめだ、やめ。よく考えたら、色仕掛けなんて平凡すぎるしな。
 こうなりゃ正攻法で行くぞ。僕に付いてこい!」
 
いつまでも、ふざけてなどいられない。めぐは既にスタンバっているのだ。
ジュンは、夜道に迷った旅人を装って近づき、見張りの男に愛想よく笑いかけた。
 
「どもー。レツゴー三匹、ジュンでーす」
「みつでーす」例によって連鎖反応する赤貧サモナー。そして巴は――
「涼宮ハルヒでございます」
「いや、柏葉……そこは普通に長門有希だろ」
「それだと在り来たりかなー、なんて。思ったり、思わなかったり」
「あー、捻りすぎてネタを捩じ切っちゃったパターンね。あるある~」
 
――なんて、またぞろ始まった掛け合い漫才に、見張りの男は眉を顰めた。
胡散臭いにも程がある。即座に仲間を呼ぼうとしたが、ふと……ニヤ~リ。
むさ苦しい髭面に、いやらしい笑みが広がった。
大方、みつと巴を見て、スケベな妄想を膨らませたのだろう。
 
だが、次の瞬間――めぐしゃっ!
空を裂いて飛来したナニかが、男の側頭部を一撃。男は白目を剥いて昏倒した。
乾いた音を立てて転がったソレは、スペースコロニー……ではなく、白磁の花瓶。
なぜ、こんなコトに。ジュンたちの表情からも、音を立てて血の気が失せた。
 
そこに、森の中から意気揚々と走り出してくるのは、吟遊詩人の娘。
「やったねっ。どうよ、わたしの必殺技は。名付けて、ディープインパクト!
 ……あー、つくづく楽器がないのが悔やまれるわね。
 いつもなら、ここでエアロスミスの曲を演奏してパーフェクト演出なのにー」
 
自らの妄想に酔いしれながらも、めぐは口惜しげに親指の爪をガジガジする。
そんな彼女を呆然と見つめながら、ジュン以下の三匹は胸裡で同じことを考えていた。
 
 
それって『アルマゲドン』のほうだから。
 

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