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仮に、貴方が親を亡くした幼い双子の姉妹の親代わりになっていたとしよう。

そんな貴方は、高齢の為に余命幾ばくも無いと知ったとしよう。


さて、貴方はどう思うだろうか。


『小学生になったばかりの娘達の為にも、まだ死ねない』
『老いた妻を残して、一人逝く訳にはいかぬ』


実に模範的で道義的で良心的な回答。


ここに居る老人、柴崎元治も、そのように考えていた。

ただ一つ。
彼は模範的でも道義的でも良心的でもなかった。

元治は他の追随を許さぬ、凄腕の時計職人であった。
彼は自らの持てる技術の全てを用い、その朽ちゆく肉体に圧倒的な魔改造を施したのだ!!





             時計仕掛けのオジジ
        【  A Clockworks O-G-G  】

 



翠星石と蒼星石は自宅で、ランドセルから取り出したプリントを眺めながら…深いため息をついた。

書かれているのは、可愛らしいイラストと『授業参観のお知らせ』の文字。

「どうするですか……」
「うん……どうしよう……」

双子は小声で相談するも、結論は出なかった。

確かに、実の娘のように自分達を可愛がってくれる祖父達にプリントを見せないのは躊躇われる。
しかし……

どれだけ考えてみても、答えは見つからない。

「とりあえず、この事はホリュウにするですぅ……」
「うん。そうしようか……」

どんよりと沈んだ表情で、二人はプリントを再びランドセルにしまう。
勿論、保留と言うのは体の良い言い訳で、このまま忘れた事にするつもりだった。

そう、忘れた事に。

そして……
数日が過ぎ、二人が授業参観の事を完全に記憶から押しのけた頃。


ついに『その日』が訪れた。



 
『 ♪ キーンコーンカーンコーン ♪ 』


チャイムが高らかに鳴り響き、小学生たちが笑顔で通学をしている。

今日は楽しい授業参観。
お父さんに日頃の努力を見てもらって、あわよくばお小遣いアップを。
誰もがそんな事を心の片隅で考え、誰もが今日だけは授業中にビシバシ手を挙げる気で居た。

翠星石と蒼星石の二人を除いては。


「ついに当日になっちまいましたねぇ……」
「うん……結局、おじいさん達には内緒のままだったね……」

ずしんと圧し掛かってくる罪悪感で二人の足取りは重く、元気もいつもより二割減だ。
と、そんなションボリと学校に到着した翠星石たちの背中に、クラスメイトの一人から声がかけられた。

「あら、おはよう。翠星石、蒼星石」

二人が振り返ると、真っ赤なリボンでおめかしした真紅の姿が。

「今日は随分と元気が無いわね。どうかしたの?」
「おはようですぅ……実は…………」


  ―※―※―※―※―


「まあ!それじゃあ貴方達は授業参観の事を言ってないというの!?」

翠星石達から事情を聞いた真紅は、呆れたようにそう口を開いた。
 
「でも、それには訳があるんだよ」と蒼星石が言い訳をしようとするが……
真紅はそんな彼女の目の前にピシッと指を突き出しながら、お説教を始めた。

「いくら他の父兄より歳をとっているからといって、家族の事を恥ずかしがるものではないわ」
「いや、そういう訳じゃあ……」
「人間、誰しも歳はとるのよ。
 それに、お爺様たちは貴方達の事を本当の娘のように可愛がってくれているのでしょう?」
「確かにその通りですぅ……でも……」
「いいえ、『でも』は無しよ。
 とは言え、過ぎてしまった事は仕方が無いのも確かね。
 今日が終わって家に帰ったら、ちゃんとお爺様に二人で謝るのよ。いいわね?」

「…はい」
「…はいですぅ」

真紅の長~いお説教が終わった頃には再びチャイムが鳴り響き、同時に担任の桜田のり先生が教室に入ってきた。


  ―※―※―※―※―


「じゃあ、この問題が分かる人はいるかしら?……はい、真紅ちゃん」
「プロテインなのだわ!」
「はーい、正解です」

授業参観の日だけあり、先生も児童もいつもよりキレのある授業をしてみせる。
教室の後ろでは、父兄たちが我が子の活躍に楽しそうに目を細めている。

そんな中……

翠星石ただ一人だけは、どこか憂いを秘めた表情で窓の外…校庭を、ため息混じりに見つめていた。


授業参観の事を教えてもらえなかったおじじを思うと、心が痛む。
かといって、素直に伝えていたら……

「……はぁ……」
本日何度目とも分からぬため息を翠星石が物憂げについた時。

校庭に、一陣の風が吹いた。
やがてその風は強風へ。そして暴風になり、ついには全てを吹き飛ばす恐風へと変わっていく!

「ま…まさか…!」
嫌な予感に翠星石は目を見張りながら、遥か彼方を……太陽より輝く、一点の光を見つめる。

その正体は!


「KAAAAAAAJYUKI I I I I I I I I!!!!!!」


雄叫びを上げる、金属質な外骨格(フレーム)に身を包んだ老人の姿が!!


  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

   説明しようッ!

 柴崎元治氏は自らの肉体に改造を施し、最強のサイボーグ…O-G-Gへと変貌を遂げたのであるッ!
 彼が搭載しているのは、時計屋としての技術全てをつぎ込んだ『カジュキ式動力炉』
 444万馬力を誇るこのエンジンは、彼を天空の支配者の地位へと容易に導いたのだッ!!

  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


背中のバーニアから炎を迸らせながら、サイボーグO-G-G元治は小学校へと迫る!

「あ…あわわ……どうして…どうしておじじが来てるですか!?」
ガクガク震える翠星石。

突然鳴り響いた轟音に、何事かと窓の外を見る児童たち。
正体不明の物体?人物?……とにかく、よく分からない代物の接近に、ただ呆然とする父兄と先生。


そして、その全てを無視するかのように、元治は小学校の壁をブチ抜きながら教室へと不時着した!


「ななな何って事しやがるですか、おじじ!学校が無茶苦茶ですぅ!」
翠星石は轟々とバーニアを噴かしたままの元治に飛び掛り、ぽかぽか殴りつける。

元治は、そんなちびっ子の攻撃には何の痛痒も感じない。
それどころか、にこやかな笑顔を浮べながら翠星石の頭を撫でたりしていた。

「お…おじいさん……どうして……」
そんな光景を見て、名前みたいに顔を真っ青にした蒼星石がガクガク震えながら呟く。

元治はニッコリと頷くと、説明を始めた。

「いやな。授業参観のプリントを見て、二人の為にと店を休みにして来たんじゃよ」

「で…でも、翠星石も僕も……」
プリントを見せてないのに。
蒼星石がそう言おうとした瞬間。
元治はその目からギランと光を。文字通り、怪光線を瞳から放ち満面の笑みで答えた。
 
「ほっほっほ。ワシにとっては透視など容易いものじゃよ。ランドセルの中身を透視したらたまたま見えての。
 証拠に、ほれ。今、蒼星石が履いているパンツは婆さんが編んだ毛糸の」

「黙りやがれですぅ!」
翠星石は愛する妹のプライバシーの為、元治の目を突く。
2本の指で、容赦なく、目を突く。

「ほっほっほ」
元治には効いていない。


と、そんな一人だけが笑顔の教室だったが……
元治が壁を壊しながら入ってきたせいで、遅ればせながら非常ベルが鳴り始めた。

ジリジリと耳をつんざくベルの音。
怪老の登場に呆然としていた児童たちは、事態を理解する前にパニックに陥ってしまった。

「お父様!?お父様どこなの!?」「みっちゃーん!助けてかしらー!!」
「ああ!僕の薔薇水晶!どこだい!?早く逃げるんだ!」

父兄も巻き込んでのパニックの渦は広がる中……

「翠星石、蒼星石。ワシが様子を見てくるから、二人はここで先生の言う通りにしておるのじゃぞ」
元治はしゃがみ、二人と目の高さを揃えながら、優しく頭を撫でる。
そしてすくっと立ち上がると、颯爽と廊下へと飛び出していった。


「間違いなく、おじじが原因ですぅ……」
「うん。気付いてなかったみたいだけど、間違いないね……」

パニックが広がる教室の中、やけに冷静な声が二つだけ有った。


  ―※―※―※―※―


廊下に飛び出した元治は、首を傾げていた。

非常ベルが鳴ったからには、火事か何かだろうと考えていたのだが……全くといっていい程、火の気配は無い。
搭載されている高感度センサーにも、炎はおろか煙さえ探知されていない。

「……何にせよ、一刻も早く原因を突き止めて翠星石と蒼星石を安心させてやらんとな」

小さく決意を呟きながら、非常ベルの原因を探すために廊下を駆けようとして……
一枚の張り紙に気が付いた。

『廊下は走るな』

「ほっほっほ。ワシとした事が、うっかりしておったわい」
小学校における基本的なルールに気が付いた元治は、廊下を『急いで』『歩く』事にした。

そう決めると、元治は素早かった。
靴底が中心から割れたかと思うと、そこからローラーが現れ……


  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

   説明しようッ!

 サイボーグO-G-G元治は、高速歩行補助ユニットを搭載していおり、その最大速度は秒速444メートル。
 悪路でも走破可能なキャタピラ型も現在絶賛開発中だッ!!

  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 

ギュルギュルとローラーの駆動音を轟かせ、廊下を削りながら元治は歩く!
それはまるで、屋内に閉じ込められた戦闘機といった光景を想像させる。

そして……

いくら頑丈な小学校と言えども、そのような衝撃に耐えられる訳は無い。
校舎の壁にはヒビが走り始め、鉄骨は軋み、崩壊の序曲が鳴り響き始める……。


  ―※―※―※―※―


「ヒィ!?は…早く校庭に逃げるですぅ!!」

ガラガラと降り注いできた天井の破片を避けながら、翠星石はクラス全員へと声をかけた。
同時に、堰を切ったようにクラスメイト達は我先に廊下へと飛び出すが……

本当の緊急事態で最も恐ろしいのは何か。
翠星石と蒼星石は、それを目の当たりにした。

パニックになった児童や父兄が廊下を埋め尽くし、スムーズな避難を妨げている。
これでは校庭に避難するより、瓦礫に埋もれてしまう方が早いのは火を見るより明らかだった。

 
今持つべきは、平常心。
翠星石はそう判断すると、あらん限りの声で叫んだ。

「てめーら!落ち着くですぅ!
 避難訓練を思い出して、ちゃっちゃと行動しやがれですぅ!!」


蒼星石も、負けじと大きな声で皆に呼びかける。

「このままじゃあ二次災害が起こっちゃうよ!
 思い出して!『押さない・走らない・死なない』の『おはし』だよ!!」


まるで救世主のように響き渡った翠星石と蒼星石の声で、先生や父兄は我を取り戻し……
自分達より児童の安全を優先させて、校庭へと誘導を始めていく。


やがて崩れゆく校舎から、翠星石と蒼星石、全ての児童と関係者が脱出し、校庭で点呼を取る中……
皆の目の前で、校舎は悲鳴のような大きな音を立てて、倒壊した。


「……全員無事なのは不幸中の幸い、ってやつですかねぇ……」

瓦礫の山と化した校舎を見つめながら、翠星石は安心したようにぽつりと漏らす。
だが……

「大変だよ翠星石!おじいさんが居ないんだ!」
蒼星石の声で、何も安心できない状況であると思い知らされた。
 

「まさか…!」
翠星石が顔を青くしながら崩れた校舎へと視線を向ける。
「そんな……」
蒼星石が今にも泣き出しそうな顔をする。


その時だった。


立ち込める砂埃の中……瓦礫の山の上を歩き、こちらへ近づく人影が……


「おじじ!!」
「おじいさん!!」
翠星石と蒼星石が、同時に叫ぶ。


それは、服は破け、顔には泥がつき、それでもしっかりと大地を踏みしめるサイボーグO-G-G元治の姿。


校庭からは元治の帰還を祝う拍手が送られてくる。


夕日を背にして歩く老兵へと、翠星石と蒼星石は駆け出した。


 

  ―※―※―※―※― 




「……と、そんな事があったんじゃよ」

元治は自宅で温かいお茶を飲みながら、妻に今日一日の事を報告していた。

「あらあら、おじいさんったら。歳も考えずに張り切っちゃって…」
妻のマツは惚れ直したと言わんばかりの表情で嬉しそうに元治の話を聞いている。 


と、そんな時。 


「!あつつ……」
ふて腐れた表情でお茶を口元に運んでいた翠星石が、予想外の熱さに舌をヤケドしてしまった。

元治はそんな翠星石に優しい微笑を向ける。
「そんな時はじゃな……」
そう言うと、翠星石の湯飲みを受け取り、自分の正面に置き……

クワッ!と目を見開き、瞳から全ての分子運動を停止させる冷凍光線を放った!


「やめやがれですぅ!!」
すかさず元治の頭をはたく翠星石。

引き攣った笑顔を浮べている蒼星石。
それらを微笑ましいもののように見つめるマツ。
「ほっほっほ」と笑っている、サイボーグO-G-G元治。


今日も柴崎時計店からは、賑やかな声が絶えない。 





 
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