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♪ ずっと ともだちー ♪ ともだちー ♪ ずっと友達いなーい ♪


軽快に歌を口ずさみながら通学する僕は、桜田ジュン。
今日から高校生になる、何処にでも居る普通の男の子さ。
しいて普通と違うトコロを挙げるとするならば、ずっと引き篭もってて友達が居ない事かな。

そんな僕でも、高校になると何か変わる気がして……
彼女が、とまでは言わないけれど…それでも友達くらいは出来るんじゃあないかなーなんて期待もしていた。

とにかく。
希望というものは不思議なもので、何の質量も無いわりには持っているだけで元気が湧いてくる。
僕は限りなくスキップに近い何かで軽やかに通学路を進みながら、ニヤケる顔を引き締められない。

そのまま舞うように、校門へとインサート。
先生達の誘導で、入学式の行われる体育館へとぶち込まれた。

………

それにしても、入学式での校長先生の言葉と言うのは意味があるんだろうか。
どこもかしこも、欠伸ばかり。
かく言う僕も、欠伸ばかり。

実に退屈な演説を聞き流しながら、僕は周囲に座る生徒達へと視線を巡らせた。

きっと、座席ごとにクラス分けしてあるだろうから……この辺りに座っているのは皆、僕と同じクラスだろう。
僕はこれから始まる高校生活への期待と不安を感じながら、チラチラと横目で人間観察を始める事にした。

そう。始めるつもりだったんだけど……
僕の目は、一人の女子生徒に釘付けになってしまった。


その子は、まるで物語の世界から飛び出してきたような可愛らしさだった。


癖の無い、流しそうめんよりストレートな金の髪。
整った顔立ちと青い瞳から、ハーフか何かだと一目で分かった。
控えめな胸は、逆に彼女のスレンダーで均衡のとれたモデルのような美しさを際立たせている。

そんな、美の女神に愛されてるどころか女神そのものが、二つ隣の席に座っている。
僕は、式典の最中だと言うのに脈打ち始めた自分のズボンの中の若さが恨めしかった。

心の底から隣に座っている男子生徒の事を羨ましくも恨ましく思いながら、僕はチラチラと彼女の姿を見る。

『隣の奴、邪魔だなあ。』
『彼女は何って名前なんだろう』
『彼女はどんな声で喋り、何が好きなんだろう』
僕の思考は式が終わるまで、この3つだけを延々とさ迷い続けた。


一目惚れ。
なんって陳腐で胡散臭い言葉だろう。
でも僕は、その陳腐で胡散臭い言葉通りの現象に、間違いなく陥っていた。


それからの事は、特に伝える必要も無いと思う。

入学式が終り、これから一年を過ごす教室に移動し、自己紹介と簡単なレクレーション。

彼女の名前が真紅で、紅茶が好きで、ドイツ系のハーフで、読書が趣味で、可愛くって、素敵で。
それを知る事が出来たのだけが、僕にとっては唯一の収穫だった。

そんなレクレーションも終り、今日は早くも解散。
幾人かの生徒は知り合い同士で教室の中で輪を作っているが……僕には関係が無い。


本当なら、真紅と話でもしてみたいけれど、友達すら居ない僕は何って声をかけたら良いのかも分からない。

ほんの少し。一歩踏み出す程度の勇気があれば良い事は分かっているけれど……
どうしようもない位に真紅に片思いし始めた僕には、その勇気が湧いてこない。


僕はせいぜい、クラスメイト数人と他愛も無い自己紹介を兼ねた会話をしてみるだけだった。
それも、真紅が帰ってしまうまで。
彼女が帰った途端、僕はクラスメイトとの会話が苦痛に感じ始める。
何でだろう。ちょっと考えてみて、すぐに分かった。
見栄だ。
友達も作れないような駄目人間であると、真紅にだけはバレたくない。
どうせ彼女は僕なんか見てないだろうけど…ちっぽけな見栄くらいは張りたい。

くだらなくも立派な自分の虚栄心に内心ため息をつきながら、僕は……
やっぱり、もうクラスメイトとの会話を続ける気にならなかったので、帰る事にした。

また明日になったら、会話は出来ないかもしれないけど、見ることは出来るさ。
自分にそう言い聞かせて、ついつい猫背になりそうな背中を叱咤しながら。


朝とは違い、靴箱まで向かう僕の足取りは重く、心は荒野のようにすさんだ風が吹いている。
思わず、魂が出ちゃいそうな位に深いため息が出そうになるけど、何とか胸元で押し留めた。

そして新しくて全く馴染んでない靴に履き替えてから、僕は校庭を横切り帰路につく。
はずだった。

「待ちなさい」
校門の影から、僕を呼び止める声。


ああ、神様。
今日から貴方の事を信じる事にします。


忘れようとも、忘れ果てようとも、忘れられない声。僕を呼び止めた声の主は…真紅だった。

驚きと、神への感謝と、爆発しそうな位に早くなってく鼓動の音。
当然、僕は立ち止まる以外の一切の行動は取れない。
どうして、僕みたいにパッとしない相手に彼女が声をかけてくれたのかも理解できない。

そんな咄嗟の対応がまるで出来ていない僕に対して、真紅はあの美しい声で話しかけてきてくれた。

「大事な話があるの。付いて来なさい」

意中の人にそう言われ、断る馬鹿がいるだろうか。
居るわけがない。
僕は言われるがまま、真紅にホイホイ付いていく事にした。

そして、彼女に連れられた先は、一軒のおしゃれな喫茶店。

紅茶を飲む横顔も、その香りを楽しむ鼻も、カップに近づく唇も、琥珀色の液体を見つめる瞳も。
改めて気付いた。
全てにおいて、真紅は完璧だ。

こうして近くで見て、彼女の完璧さを目の当たりにすると…
僕は酷く、自分が場違いな所に居る気がして仕方が無かった。

若干、僕はソワソワしていたのだろう。

真紅は僕を一瞥すると、飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置き、静かに口を開いた。

「……突然こんな所に呼んで悪かったわね」
「え、い…いや、別に構わないよ…」
「そう。それなら良かったわ」

短い会話の後、今度は真っ直ぐに、真紅の瞳が僕を見つめた。
どんな湖面より、どんな宝石より美しい煌きを宿したその瞳に、僕の心臓は一瞬、止まりかける。

「私はずっと探していたの。
 究極の存在を…いかなる宝石より輝く、至高の人物を……」

何を言ってるのか分からない。
僕が、その究極の人物だって?何で?
色んな考えが頭を過ぎり、僕は思考を整理できずに、ただコクコク頷くだけ。

真紅は、さらに続ける。

「入学式の時、確信したわ。貴方は磨けば光る物を秘めている。
 だから……私が貴方を最高のゲイに導いてあげるのだわ!」

「………え?」

突然の発言に、僕は言葉を失う。
え?何?ゲイって聞こえたんだけど、気のせいだよね?

そんな僕を他所に、真紅は楽しそうな笑みすら浮べながら熱っぽく語りだす。

「貴方が隣の男子生徒に向けていた、恥らうような…それでいて、焦がれるような視線。
 貴方、男の人に興味があるんでしょう?この真紅の目は誤魔化せないのだわ。
 いいえ!みなまで答える事は無いわ!心配しなくても、私は貴方の味方よ」

いやいや。その恋する視線は真紅さん、貴方に向けていたのですよ。
そう言いたいけど、僕の喉は痙攣したみたいに何の言葉も紡ぎ出せない。

「確かに、一般的な嗜好とは違うかもしれないけれど、私が全力で貴方の恋を支援してあげるから安心なさい。
 そして究極の存在……アリス・ゲイに貴方はなるのよ!」

なんだか頭が痛くなってきた。
それにしても、今の真紅の笑顔は最高に可愛いなぁ、ちくしょう。 


何だか意識がショートしてぶっ飛びそうな僕。

真紅の演説が放つ熱気は確実に上昇していき、彼女の頬は朱を射したように染まっていく。
そして、頬を赤らめながらの最高に可愛い表情で、真紅は大きく締めくくった。 


「ホモが嫌いな女の子なんて居ないのだわ!」 



…………

ああ、神様。

生まれて初めて、心から懇願します。
どうか、真紅が腐女子だというのは悪い夢にしてください。

生まれて初めて、心から恨みます。
何を思って、貴方はこんなにも美しい少女を腐らせてしまったのか。

神よ。
もし可能ならば、今すぐ貴方をぶち殺しに行きます。 



 
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