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金「卵焼きー、今日もたっくさん焼くかしらー♪」
雪「バターの焼けるいい匂い…おはようございます」
金「おはようきらきー」
雪「卵一ついただいても?」
金「かまわないわよ。卵焼きなら一緒に作ったげるかしら」
雪「いえ、生のままいただきます」
金「卵かけご飯にするの?」
雪「いいえ」
バリッ、ゴクン。
雪「か・ら・ご・と・」
金「ドン引きかしら…」

 

 



utuutu sinineta

あの日、私は   を失った。


燃える屋敷。崩れる天井。私を窓から突き落とす誰かの手。
地面に堕ち意識を失う前の刹那、私の右目が見たのは……せめてもの無事を祈る、どこか哀しそうな   の姿。



そう言えば……あの日以来、私は大好きなお父様の姿を見ていない。


お父様はどこへ行ってしまわれたのだろう?
それに、あの日私を逃がしてくれたのは誰だったのだろう?
私を窓から逃がし、そのまま焼け死んでしまったのは誰だったのだろう?


ふと浮かんだ疑問と、同時に起こる激しい頭痛。

私は痛みに堪えるように、両手で強く右目を押さえつけた。


存在するはずの無い悪夢を網膜に焼き付けてた右目は、自らの手で抉ってやった。
今では、空洞になった眼窩にお父様の好きだった薔薇の花を飾っている。


私という大地に根付き、美しく咲いた白薔薇。


これほど見事に咲き誇っているというのに、お父様は見に来てくださらない。
 
 
「お父様……どこに?……私は……どこに行けば……お父様に会えますか……?」


うわ言のように、ただそう繰り返す。
空を、海を、街を探しても、お父様の姿は見つからない。

やがて私は、焼け落ちた屋敷の跡地で佇んでいた。


「お父様……お父様……お父様……お父様……お父様……」


呼びかけながら、周囲を探す。
なのに、お父様はどこにも居ない。

私は炭化した家具を手がかりに、お父様の書斎があった場所を探す。


きっと、あれが有れば。


辿り着いた消し炭の山を丁寧に払い、原型を留めてない本を一冊手に取った。

一度だけ、お父様に叱られた事がある。
この本を興味本位で手に取った時に。


きっとこの本が在れば、お父様が叱りに来てくださるに違いない。
 
 
私は両手でその本を強く抱きしめる。
すると、まるで砂のお城が崩れるように、本は私の胸元でボロボロと崩れ……中から黒い鉄の塊が出てきた。


現実では馴染みの無い鉄の塊を見て、私はすぐに気が付いた。
きっとお父様はあの時、私がこれで怪我をしないかと心配して怒ったのだ、と。


気付くのと同時に、一つの名案が浮かんだ。



この方法なら……間違いなく、お父様は私を叱りに姿を現してくれるだろう。
例えそれがどんな形でも構わない。お父様に会う事が出来るのなら。



素敵な予感に笑みを浮べながら、右手に握った黒い鉄の塊を目の高さまで持ち上げる。
そのまま、人差し指でゆっくりと引き金を引いた。









 【逢いたい】【逢えない】

 

 



僕の彼女はフランス人形に命が吹き込まれて動いていると言っても不思議じゃないくらい綺麗で可愛い。
淡いピンク色をした触り心地のいいふわふわの髪の毛。そしてなぜか右目には薔薇の模様が施されている眼帯をしていて結構怪しい人に見えるんだけどね。


「怪しい、私がですが?」
「僕の思考を読むようなことするなよ。」
大きく溜息をつく僕に、雪華綺晶はちょこっと舌を出してすいませんと言いながら、見ていると蕩けるような微笑を見せてソファへ座る。
ここは彼女の家。流石は日本で有数の良家ということもあり、僕の家とは比べ物にならないぐらいに家が大きい。
それに家具や調度品も、最低で何十万もするような物ばかり。多分、僕が今座っているこのソファも、平凡な働き人の年収ぐらいはするのだろうと想像してみる。
想像してみるだけで何と庶民には場違いなところか。最初にこの家にやってきたときには緊張のあまり、がちがちになっていたのを彼女は笑い飛ばしていたのを鮮明に覚えている。
隣に座った雪華綺晶の視線から逃げるように、テーブルに置かれていた白い陶磁器のカップを手に取り、冷めきっていた紅茶に口をつけた。
これも多分、グラム単位何千円もするような茶葉を使っているのだろう。ミルクティーの上品な甘さが口全体へと広がって、馨しい匂いは鼻へと抜ける。
普通の紅茶なら冷めてしまうとその風味は全体的に劣化してしまうのだが、これは違う。冷めても、一つの紅茶として飲めるのだ。
「もしかしてもう冷たくなっていましたか?」
いつもなら紅茶の感想にうるさい僕が黙っていたのを見て不安になったのか、雪華綺晶はくいっと首を傾けて訊ねてきた。
「うん、けどいいんだ。冷たくても十分おいしいからね。」
「それならばいいのですけれど。たまに黙っているのを見ると困ってしまいます。」
「そうか?」
「ええ。」
ジュンは自分自身の顔が見えないでしょう、なんて少し困ったような微笑みを見せる雪華綺晶。ちらっと覗く白い八重歯が眩しく映る。
僕は思わず、カップとそれを見比べてしまった。これはいつもの癖。多分、一生治らないような気がしてならない。




「あ、そういえば。」
「何でしょう?」
「この前のバレンタインのチョコ、すごくおいしかったよ。」
それを聞いた途端に雪華綺晶の表情が一層明るくなり、
「あぁ、よかったです、気に入っていただけて。ずっと口に合わなかったりしたらどうしようって思ってたぐらいですから。」
「あの手紙通り、愛に溢れてた。」
さすがに愛が溢れすぎて、チョコが吐くほどに甘かったことは心の中にそっと秘めておくことにしておいた。
素直に言っていいことと悪いことがあるぐらい僕にだってわかる。
そうでなくても目の前にいる美しいお嬢様は一度誤解してしまうと、それに意識のすべてが囚われてしまう人なので、軽い嘘でもついてしまうと厄介なことになってしまうのだ。
彼女が抱いた誤解を解くには相当な説得力と根気強い気合いが必要になるし、きっとアメリカの実力ある交渉人でさえも諦めて手を上げるだろう。
要するに、世界で一番敵に回してはいけない人物。
かの有名な薔薇乙女たちの中でも、隠れた実力者と呼ばれて、結構怖れられていたという話もちらほら聞いたことがある。
でも僕にはこんな、か弱そうな雪華綺晶が水銀燈や真紅に勝るほどの実力を秘めているなんて思えなかった、つい最近までは。
「あれだけ愛を込めればジュンも、銀ちゃんやばらしーちゃんに誘惑されても大丈夫ですよね?」
いつの間にこんな恐ろしいことを普段と変わらぬ微笑を湛えたままで言えるようになったのか。お嬢様が誘惑なんて言葉を使うのはドラマの中でしか見たことが無い。
と言うよりか、知り合いにお嬢様がいるのは滅多にない、さらに彼女がそんな身分にある状況。
うまくいけば僕と彼女の恋愛は映画のモチーフになる可能性があるかもしれない、なんてあり得ないことだけれど。この世間一般とはかけ離れているお嬢様を演じることができる人は日本、世界中探しても絶対に見つけることは出来ないと思う。
だって、彼女は彼女。雪華綺晶なのだから、真似できる人なんかいない。
「……そうかもね。」
「なんですか、その暗い口調は。」
 薄い金色の瞳を妖しく輝かせながら、器用に眉を片方だけつり上げて僕を見てくる雪華綺晶。
 世界に誇るその可愛さをこんなところで発揮することはないのに、彼女の本性を知らない人はそう言うかもしれない。
だけどそれは違う。こんなところだからこそ発揮するのだ。
彼女がそんな可愛い表情を浮かべるとき、僕はこの世界から荷物をまとめて逃げ出したい気にかられる。
とにかく、よからぬことを企んでいる時、凄まじい怒りを秘めている時のどちらかなのだ。多分、今は後者の方だと思うのだけれど……



「もしかしてジュンはもう、銀ちゃんの毒牙にやられたのですか。」
僕の予想を裏切って、キレのある変化球を投げてきたお嬢様。
彼女の中で渦巻いていたのは怒りの感情ではなく、ただの焼きもちだったのだ。
「今さら私を捨てて銀ちゃんのところへ行くなんて……」
いけない、大いなる誤解が彼女を支配しようとしている。
くるりとした長い睫毛が小刻みに震え、華奢な膝の上に置かれた手をぎゅっと握りしめて、その上泣き出しそうな雰囲気さえ漂わせ始めていた。
それはまるで絵画の中にいる儚げに佇むか弱い女性の様。
このまま額縁に閉じ込めてみても、このお嬢様は美しい絵になるだろう。
逆に僕がされそうな気がしてたまらないのは某漫画のキャラクターのせいなのだろうか。
僕は俯いてしまった雪華綺晶の肩を優しく撫でながら、
「僕はきらきーが彼女だからこそ、こうして恋が出来ていると思うし、もし水銀燈が相手だったら今頃は影も形もなくなってるかもしれないじゃないか。」
「私だから、ジュンはこうしていられると?」
「そう。きらきーの隣にいるのが一番の幸せだと思うから。」
自分でも少し格好つけすぎたかなと思いつつも、そのままじっと雪華綺晶の目を見つめた。しかし彼女はそんなことを心配しておらず、
「……ジュン。一つお願いがあります。」
「出来る範囲なら何でもどうぞ、お嬢様。」
「私のことを、力一杯、ぎゅっと抱き締めてください。」
雪華綺晶はまだ少し頬を膨らませたままで、
「そしていっぱいキスをして。」
 それでも小悪魔に見えなくもない表情を浮かべて言った。
「私の望み通りにしてくだされば、ジュンのことを信じます。」
なんだろう、この胸の奥底がむず痒くなるような気持ちは。多分、雪華綺晶が言うからそんな効果があって、きっと真紅に言われても全然嬉しくも何ともなかったと思う。そこまで言うと、真紅には悪いけど。
我慢しようとしても、我慢しきれずに頬が緩んでいくのが嫌でもわかる。
小悪魔でも何でもいい、僕はこのお嬢様に心底惚れているんだから。
何とも言葉にし難い、複雑な表情で雪華綺晶は僕の次の言葉を待っている。
僕は彼女の正面に向き直り、その望み通りに力一杯、ぎゅっと抱き締めた。けれど、抱いているのは僕なのにお嬢様の細身ながらも柔らかな体に包まれて、奇妙な安心感を覚えるほどだ。
真綿を一本ずつほどいて集めたようにふんわりとした髪の毛に顔をうずめる。目の前にはうっすらと薔薇色に染まったうなじが広がっていて、無意識のうちにその美しさに魅かれ、思わずそっと触れるだけの接吻を落とした。

「ジュン……それ、くすぐったい。」
「自分から頼んできたんじゃないか、そうしてくれって。」
ここからだと表情は見ることが出来ないけど、きっと今、お嬢様は恥ずかしさに顔を真っ赤にさせている。
「それはそうですけど、でもそんなところに。」
「見えるところにしてほしい?」
「そっ、そういう意味ではなくて、」
僕は雪華綺晶を抱き竦めた手を緩めて、そのまま体を彼女に預けた。次は僕が抱き竦められる形になる。いつの間にか彼女のお願いとは逆の立場。
「印をちゃんとつけていた方が誰にもとられなくていいか。」
「今さら、私を攫っていこうと思う方はいませんわ。こうして私に抱かれている人以外は。」
そうでしょう、と耳元で囁かれて落ちない男性はいないはず。
「きらきーを攫ってしまった僕は、どうすればいいのかな?」
答えの分かりきった質問にも雪華綺晶は嫌な顔をせず、
「ずっと一緒に居てくださるだけでいいのです。隣で優しく抱き締めておいてください。」
「僕も同じこと望んでた。」
彼女の顔を見上げて、互いに笑い合う。こんな何の変哲も無い日々が一番の宝物。
そして、目の前に居るお嬢様が僕のかけがえのない人なのだろう。
小さな幸せを噛み締めて、僕は思った。


終わり

 

 



明日晴れたら彼女をデートに誘おう、なんて不埒な事を思いながら、沈黙を保つテレビの前に天気予報を気にする自分。

彼女はまだそんなことも知らずに先ほどから暢気にシャワータイムだ。

薔薇水晶と同棲、いや同姓どうしならばこれは二人暮らし、なんて味気のない言葉で締めくくられるのだろう。

けどこれが私達にとっては『普通』で、それでいて『異端』で。

珈琲を一口啜る。私はブラックが好きだが、彼女はまだ砂糖を2杯入れなければ飲めない、なんてこともこの生活で知った。

皆が、他人が知らない彼女の秘密を私が知っていて、私の秘密を彼女が知っている。

私達は共同体なのだ。お互いの秘密を知り合い、お互いに首元にナイフを突き刺しているような、

そんな関係。

そんな物思いに耽っているとバスルームの方から音がした。彼女の鼻歌が静かなリビングまで聞こえてくる。

さて、と私は立ち上がり胸のボタンを外しながらバスルームへと向かう。いつも『ながら』はだらしないと言われるが効率がよければ私はそれでいいと思う。

湯加減はどうだった? と私は扉を開ける。彼女はいつも通り、とバスタオル一枚を羽織ながら私に笑いかけた。

その姿はまるで理性を溶かす媚薬のような、そんな刺激を脳髄に与えてくれる。抱きしめたい、なんて安易な愛の表現をしてみたくなるのだ。

だけど私はそう、といつも通りに笑みを浮かべながら眼帯を外す。  鏡越しに彼女と目が合うと、雪華綺晶、と彼女が私の名を呼んだ。

『明日、晴れたら……』 彼女の話す言葉の一つ一つを理解しながら、私は静かにそれに頷くのだ。

私達は共同体。そんな単純で、出鱈目な関係。

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