……眠れない!
今何時?ほわぁぁ!午前三時!?早く寝ないと!目にクマなんか作ったらあいつに馬鹿にされてしまう!
「翠星石とデートできるからって寝不足で来るんじゃねーですよ!」なんて言ってしまったのは失敗だった。
勇気を振り絞って何とかデートに誘うことができたのに…せっかくの初デートなのに。
何とかして眠らないと!…でもこういう時に限って睡魔が襲ってきてはくれない。
授業中に襲うくせに、何で今から寝ますって時に襲わねーですか?お前は本当に役立たずです。
これは試練なのですか?それとも私とあいつとの関係を邪魔する何かなのですか?
…上等ですぅ!私を誰だと思ってるですか?さっさと寝てデートに備えてやるですぅ!!
さて、まずは落ち着きましょう。こんなに複雑な思考をしている時に眠れるわけがない。
ベッドから身を起こし、深く深呼吸をする。すぅ…はぁ、すぅ…はぁ、すぅ…はぁ。
よし、だいぶ落ち着いてきた。
たかがデートなんだ、そんなに気負いする必要はない。ん?たかがデート?……否!
大切なデートなんだ、しかも彼との初めてのデート。自然と気合が入ってしまうというもの。
ジュンを誘うのがまず大変だった。彼の周りには何故か女の子が多い。しかも胸の大きなのからオチビな奴まで選り取り見取り。
こんなのありえないですぅ、と思っていた時期が私にもありました。これがハーレムってのでしょうか?
でもジュンはスケコマシではない。周りにいるのは彼が、ではなく彼に、好意を寄せている女の子なのだから。とにかくその女の子たちから邪魔をされないように、ある奴は買収し、ある奴は脅し、交渉をしたのだ。
すぺてはデートのために!私だって年頃の女の子なんだ、気になる男の子とイチャイチャしたい!!
「負けられない戦いがそこにはあるのですぅ!」
ぐっと拳を突き上げて宣言してみた。うん、意味はないですぅ。
決心がついたところでようやく睡魔が襲ってきた。今からなら四時間は眠れるだろう。
瞼がだんだんと重くなり、意識がはっきりとしなくなってきた。…今日が最高の日になりますように。


「…むぅ、まだ来ないですか」
待ち合わせ時間五分前、ジュンはまだ来ない。
私なんてもう三十分前から来てるのに。まったく、女の子を待たせるなんて甲斐性がない奴です。…まぁいいですけど。
その間に服装をチェック。私の色、緑色をワンポイントに使ったいつもより大人びたコーディネイト。
いつもとは違った自分を印象付けるです。
「ごめん、遅れた」
急に私に突然かけられた言葉。
驚きと緊張で一瞬にして行動と思考が停止した。
今か今かと待ち望んだジュンの声にどくんと胸が高鳴る。
「遅いですぅ!女の子をまたせるなんてチビ人間は最悪です」(全然待ってないですぅ、気にしないでください)
…何で私はこんなにも素直じゃないのだろうか?言いたくも無い言葉が出てしまう。
ジュンも反発して私に言い返してくるだろう、最悪の出だしだ。
「何だと!…っと、確かに待たせちゃったし、ごめん、謝る」
正直に言おう。すごくびっくりした。これはチャンスだ!さっきの言葉のフォローをするですぅ!!
「私も言いすぎたです。でもそれだけ楽しみってことですぅ」
「うん、僕も。少し歩こうか」
「はいです」
前言撤回。最高の出だしだ、この流れなら今日は期待できる!
「どこか行きたい場所はある?」
「そうですね、実はこんなのを用意してるです」
今回のメインイベントに選んだチケットを見せる。
「へぇ、花の展示会か。なかなか面白そうだね」
私の得意分野ともいえる草花のイベント、これを逃す手はない。
「たまには綺麗な花を見て心を癒すです」
「おっけー。じゃあ早速向かおうか?」
「はいですぅ」
展示会の会場へ向かうために電車を乗り継ぎ、最後は徒歩。
二人でとりとめもない会話をしたが、いつもとは違う雰囲気で少し恥ずかしい。
やはりデートという特別な時間がお互いを意識させてしまうのだろうか?しかし良い傾向だと思う。
「ここかな?」
会場に到着。外にまでふわりと花の香りが漂っている。
「です。早速中に入ってみるですぅ」
ジュンの手をとり足早に歩きだす。…ふっ、今日の翠星石は一味違うですよ?
少し驚いたような顔をしているジュンを引っ張るようにチケットを提示して会場の中へ。
ゲートをくぐるとそこは別世界でした。色とりどりの花と、鼻をくすぐる香り。
「うわぁ」
「すごいですぅ」
思わず二人で感嘆の声をあげる。ちらりとジュンの顔を覗きこんでみると期待に満ちたような顔をしている。
…くっ、少年のようなあどけなさが堪らないですぅ。
「ささ、色々な所を回ってみるです」
「そだね。って、引っ張るなって、逃げやしないよ」
時間が逃げるです。皆に平等だからこそ無駄には出来ないんですぅ!
今日は思いっきり楽しむですよ!!
いけばなを見たり、花の種類のあまりの多さに驚いたり、最後に二人でフラワーアレンジメントをした。
ハート型に作ってみたら予想通りの顔をしたジュン。良いです…デートって良いものですぅ。
翠星石はこういうのをやりたかったんです。ああ…乙女冥利につきるですねぇ。
「ふぅ、時間が経つのが早いね。その分楽しんでるってことだろうけど」
「そうです。楽しい時間はあっという間にたっちまうもんです」
ベンチで一休み。先ほど買ったハーブを使ったアイスティーを口に含む。むむ、美味しい。
何でしょうこの気持ち。この高揚感とじわりとした嬉しさ。心がぽかぽかするです。
「翠星石」
がしり、と肩をつかまれる。
突然の事で声も出ない。
ジュンの腕でくるりと上半身だけ向きを変えられて。見えた彼の顔は真剣だった。
どきどきと胸が高鳴る。そしてパニックに陥る。
ほわぁぁ!とうとう来たですか!?心臓が壊れちゃうくらいどきどきしてるです!
目を、目を瞑るんですよね?これは自分から動くんですか!?それとも待ってればいいですか!?
わわわ、顔が近づいてくるです!とりあえず目を瞑るです!!
ジュンとの距離が数cm、あと少しで触れ合う、そして背中に痛み。

「ですぅ!」

がばりと起き上がり辺りを見回す。
何?何が起こったの?ここどこ?あ…私の部屋だ。
え?さっきの夢!?あんなにリアルだったのに!?ええー!こんなリアリティがある夢初めてみたですよ…
もったいないような安心したような、何だか複雑な心境。
ところで今何時?あれ、もうこんな時間?
「…ほわぁぁぁ!!」
とっくに待ち合わせ時間を過ぎている…慌てて携帯を開くと着信とメールが一通。もちろんジュンからの。
メールを読もうとしても目の前がぼやけてよく見えない。ぽたりぽたりと涙がこぼれてディスプレイが水浸し。
やっちまったです。せっかくの初デートだったのに…明日からどんな顔してジュンに会えばいいですか…
悲しくて、悔しくて、涙がとめどなく溢れる。
「…うぅっ…翠星石は…ぐすっ…どうすれば…」
こんこんとノックの音。どうせ蒼星石だろう。
「どうぞ、開いてるです」
「入るぞ性悪」
………え?

Fin

 

                                            

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最終更新:2009年01月15日 20:16