ガラガラ…!
慌ただしい車輪の音が廊下に響く。それと共に、人の走る足音も重なってゆく。
「めぐ!めぐ!」
私は叫ぶ。叫びながら走る。それだけしか出来ないから、ただそれを繰り返す。
「すみません!ここからは付き添いは禁止されてます!」
「めぐぅー!!」
しかし、それすら拒絶され、私は冷たい廊下にへたり込んだ。
同時に灯る、『手術中』のランプ。その緑色の光が、何故かとても不吉な予感を煽る。
―止められなかった。
―私なら出来たはずなのに。
―私のせいだ。
私は泣きながらそんな事を繰り返し繰り返し考た。だが所詮それはただの自虐であり、後悔したところで時は戻らない。その虚しさにまた涙が出た。
『水銀燈。私…いつか鳥になりたい』
めぐがそう言った時、なんで私はもっと真剣に答えてあげなかったんだろう。もっと私が相談に乗ってあげれば…彼女だってこんなバカな事…
「付き添い人の方はあちらの控え室でお願いします」
看護師の言葉に反応する事も出来ず、殆ど引きずられながら控え室に移動する。
薄暗い部屋の中、私は両手で顔を覆い、嗚咽を漏らしながら抑えきれない言葉を呟く他なかった…
「トリ餅は食べ物じゃないのよぉ…めぐぅ…」
【餅が…】【喉に…】
水銀鐙の日曜日
11:00 起床
11:30 朝食(ヤクルト二本)
12:00 DVD鑑賞(くんくん映画豪華三本立て)
18:30 夕食(ヤクルト二本)
19:00 風呂
21:00 ゲーム(「ファミスタ」チームは言わずもがな)
23:30 夜食(ヤクルト一本)
00:00 就寝
ジ「折角の休日がこんなで、空しくならないのか?」
水「べ、別にぃ!」
銀「はぁ~い☆ジュンこんばんわぁ~」
ジ「………」
銀「やあねぇ、会っていきなり嫌な顔しないでよぉ」
ジ「…こんばんわ。んじゃ」
銀「やだ待ってよぉ。私今すご~く大変だからアナタを訪ねてきたのにィ」
ジ「…用件は?」
銀「お金貸して☆」
ジ「金に困ってる割には見慣れないコートだな」
銀「これは防寒対策よ~仕方ないでしょう?直輸入品だけど…ウフフ、あったかぁい」
ジ「そのブーツも新品だな」
銀「前のがダメになっちゃったんだものぉ。これも仕方ないでしょお?」
ジ「そんなに買ってまだ欲しいものがあると?」
銀「そう、スッゴく欲しいんだけどお金が足りないの。ねえジュン助けてぇ~」
ジ「単なる知的好奇心から何が欲しいのかを聞いてやる。それによっては可能な限り消極的に協力しよう」
銀「あのね、私が欲しいのはねぇ~」
銀「…お米」
ジ「…はい?」
銀「お米が…欲しいの…給料日まだまだ先なのに…昨日無くなっちゃって…」
ジ「…手持ちの残金は」
銀「………」フルフル
ジ「今日、何か食ったか?」
銀「………」フルフル
ジ「…とりあえず、うちで話そう。夕飯食いながらでいいからさ」
銀「うん…ありがとう」
銀ちゃんは挑戦者のようです
私は水銀燈……。有栖学園高等部の三年生よぉ。常に何かに挑戦している事から、私の事を挑戦者(チャレンジャー)と呼ぶ人が多いわねぇ。
そんな私の今日のチャレンジはぁ……まずこの網込み縄跳びを用意したわぁ。
「なっ、なにぃ~!? 網込み縄跳びと言えば、失敗してふくらはぎに当たったりするととても痛いアレじゃないか!!」
「正気なの?」
ふふ、凡人共(JUMと真紅)が騒ぎ始めたわねぇ。まずは手始めにぃ……二重跳びよぉ。
「助走も無しに二重跳び……。やはり挑戦者水銀燈だな。」
「なかなかやるじゃない。」
じゃあここからが本番ねぇ……。まずは三重跳びに持って行くわぁ。そしてそのまま……交差三重跳びよぉ。
「うぉぉ……このテクニックは!?」
「流石は水銀燈……私は二重跳びでダウンなのだわ。」
そして必殺のぉ……三重隼よぉ!!
「うわぁぁぁぁ!!!! もうやめてくれっ! 怖くて見てられないっ!」
あはははは。凡人共は平伏すがいいわ!! 私こそが真の挑戦者・水銀燈なのよ!! って……いったぁぁぁい!!
網込み縄跳びがふくらはぎに当たっちゃったじゃなぁい。もぅ、これじゃあやってらんないわっ。
ある日の放課後
翠「あら・・・?あれは水銀燈ですね・・・気分でも悪いですかね?」
銀「うぅ・・・ぐすっ・・・」
翠「どうしたです水銀燈?自販機の前にうずくまって・・・」
銀「!良かった・・・翠星石ぃ、助けてぇ」
翠「?」
銀「この自販機でヤクルト買ったんだけどぉ、取ろうとしたら防犯用の
内蓋に手が引っ掛かっちゃってぇ・・・抜けないのぉ」
翠「・・・水銀燈、ヤクルトを手放してから手を抜いてみるです」
銀「ええ・・・」
スポッ
翠「・・・。」
銀「・・・///」
翠「・・・ぷっ・・はははは!!昔話のサルに伍する間抜けがこの21世紀
に、こんな身近に存在するとは夢にも思わなかったです!!」
銀「だって・・・ヤクルトを手放すなんてぇ・・・」
翠「あーーっはっは!!明日真紅達に教えてやらなきゃですぅ!
ばーかばーか!!」
銀「!! お願いよぉ、真紅にだけは言わないでよぉ」
翠「この翠星石に忠誠を誓うなら、考えてもいいですよぉ」
銀「うぅ・・・」
【ばーか】【ばーか】
水銀燈が舞い上がっています
「あれ、ご機嫌みたいだね。何か良いことでもあったのかい?」
「あらぁ~蒼星石、聞いて聞いてぇ♪遂に私が望んでいた物が発売されるの♪『ヤクルト
カロリーハーフ』、カロリーと甘さを半分に抑えた画期的な商品なのよぉ♪それなのに乳酸菌の量はなんと据え置き!」
「なるほど、最近は低カロリー食品が増えてきてるからね」
「これでたっくさん飲めるわぁ~♪」
「…あれ?幾ら低カロリーだからって沢山飲んだら同じじゃ…?」
「シッ、黙ってるです蒼星石!せめて体重計に乗るまでは夢をみさせてあげとくのが姉妹の優しさってヤツです!」
「そ、そうかなあ…?」
「うふふ、早く発売されますように…♪」
ジ「女装しようと思うんだが」
銀「除草?ありがたいわぁ。お願いするわねぇ」」
ジ「ありがたい?まあいいや。で、初めてだから手ほどきを頼む」
銀「初めてですってぇ?今までやったことないのぉ?まったく…引きこもりは常識的なことも知らないのねぇ」
ジ「引きこもりでネットばっかりやってたからこそだ」
銀「まあいいわぁ。単純よぉ。引っこ抜けばいいんだからぁ」
ジ「引っこ抜く?切るんじゃないのか」
銀「根っこが残っちゃうと駄目でしょぉ」
ジ「そっそうか…これもジュン補完計画のためだ…で、次は?」
銀「せっかくだから見栄えのするのでも植えたらぁ?」
ジ「せっかくって…まあいいや、今通販でウィッグ(かつら)を注文してるからな」
銀「ふーん、何か用意してるんならいいわぁ。それ位ね」
ジ「おっおいそれだけか?もっと助言が欲しいんだが」
銀「他にやる事なんてないでしょぉ。私も除草なんて今まで翠星石と一緒に
無限にやってきたんだからぁ、それ以外にやることなんてないわよぉ」
ジ「えwwちょwwお前ら…」
銀「?何よぉ」
ジ「翠星石と女装って…お前ら…実wはw男wだっwたwのwかwよw」
銀「なっなんですってぇ!?ジュン、あなた言っていい事と悪い事があるわよぉ!?」
ジ「だってお前今自分で女装ww…そっか…それにしても見事な女装だな…しかし残念だな、惚
れてたんだが…」
銀「…私の中を色々な感情が駆け巡ってるけど、その最も足るものがあなたを斃せと雄たけびを
あげてるわぁ…」
ジ「うはwこれは大ニュースww」
銀「貴方が星になるのは間違いなくニュースにしてあげるわよぉ!銀ナックル!!」
ジ「プゲラ」
「…ただいま」
「お帰りなさぁい。ご飯すぐ用意できるけど食べる?」
「ん…じゃあ少し」
「はいはい。ちょっと待ってて」
「はい、どうぞ」
「うん」
「夜遅くまでお勤めご苦労様」
「…うん。あいつらは…寝たか?」
「ええ、ぐっすりと。『パパが帰ってくるまでおきてる』って頑張ってたけどねぇ」
「………そうか」
「はいコレ」
「ん?」
「可愛い可愛い娘達からの贈り物。父の日のね。もう日付は変わっちゃったけど」
「ネクタイだ。…銀の刺繍入りの」
「あらぁ素敵。そんなの着けたら会社でモテモテねぇ。焼いちゃうわぁ」
「これ、君が選んだろ」
「あら、バレた?」
「…派手だな」
「アナタはそれ位でいいのよ。普段が地味過ぎるんだから」
「………なあ」
「なあに?」
「僕、ちゃんと父親…出来てるのかな」
「ふっ、おかしな事聞くのね。立派に一家を養ってるじゃない」
「でも…今日、帰って来れなかった。あいつらが待ってるのわかってたのに」
「まあ、あれだけ『パパには内緒ねー!!』って叫んでればわかるわよね」
「…なのに」
「それで、自分は父親失格だって?」
「そこまで言うつもりはないさ。けど、僕があいつらにしてやれる事って、仕事して稼ぐぐらいじゃないか」
「旦那は仕事で留守がいいって言うわよ?」
「…う」
「もうっ、冗談よ。そうね、夕食くらいみんなで食べないと寂しいものね」
「…なあ、水銀燈。僕は…いい父親になれてるか?なれるのか?」
「…ふー。よし、いいわジュン。私のお父様の話をしてあげる。亡くなった時にお母様から聞いた話」
「ああ」
「私から見たお父様は本当に素敵でね。いつもカッコ良くて、優しくて、素敵で。小さい時なんかいつも『パパのお嫁さんになる』って言ってたもんよ」
「微笑ましいな」
「だけどね、お母様の話だと…ふふっ、あらいやだ、笑っちゃ失礼だわ。でも…くっく。何でも事ある毎にお母様に『娘の気持ちがわからない』『娘に何をしてあけたらいい?』『娘にこんな事を言われた。どうすれば』『娘を怒鳴ってしまった私は親として…』云々と」
「………」
「私の誕生日なんか何を渡すのか30通りくらいリストアップして夜通し唸ってたって言うんですもの。で、結局決まらずに目を赤く晴らしてお母様に泣きついたんですって」
「………」
「私から見たらあんな理想のお父上も、お母様から見たらさぞ滑稽だったでしょうねぇ。それでも、私から見たら私のお父様だった」
「…そっか」
「子供が見る親の姿なんて、特に娘からすればパパは初恋の人よ。不器用でも不格好でもいい、自分なりにイイトコ見せようとしてみなさいな。どうせ埋め合わせする時間はまだまだあるんだから」
「…ああ」
「具体的に言うと、私との初デートみたいな」
「あの失態を娘の前で晒せと言うのか…!」
「なーに言ってるの。あれで私アナタにときめいちゃったんだから。そんな私の血を引く二人よ?一瞬でメロメロよ」
「絶対何かが間違ってる…」
「ま、そうやっていい父親を目指してる内はいい父親なんじゃない?せいぜい娘達の為にテンパりなさい。大丈夫、例え失敗しても私が慰めてアナタを受け止めてあげるから。この大きな胸でね」
「ダジャレかよ」
「うふふ。それに家庭を守るのはこの水銀燈よ。あの娘達だって、ちゃんと育てて見せるわよ。そして可愛い娘を他の男にさらわれる悲しみに泣き叫ぶといいわ」
「うぐあーーーーーー!!」
「ふふふ、それも父親よ。乳酸菌でもとって、元気に父親しなさぁい」
「真紅ぅーーーーーー!!雛苺ぉーーーーーー!!パパはそんな男許さないぞぉーーーーーー!!」
「うるさい。近所迷惑でしょ」
【父の日】【乳の日】
真「…水銀燈…」
銀「オッケ~!!」
真「水銀燈…、なぜ貴女は高速で腰を振っているわけ…?」
銀「下半身中心に見てよぉ、この腰の振りを~!!」
真「ちょっ貴女、淑女に反する振舞いだわ!!」
銀「腰を振るmyですよぉバッチコーイ!!」
真「こ…来ないで…」
銀「来てますよぉフォ――――!!!」
真「いやっ!!!」
銀「フォ―――!!!」
【いやっっ】【ほうっっ】