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やれやれ、と私はベッドの隅に座りながら寝室を眺めた。
入口の扉から近い所にあるラジオからは絶え間なくN○Kのアニメソングが流れていて、その横には無造作に山積みされた書籍、漫画本にゲーム、CDと乱雑にものが放置されている。
今日は12月31日。今年最後の日である。となればやるべきことはひとつ。
そう、大掃除である。
しかし前から申しているように私の家では家事はすべて薔薇水晶の領域である。もちろん私も少しくらいはそう皿洗いくらいは手伝ったりするが、結果的に私が手伝わない方が損害が低いことが判明してからはあまりやらなくなった。

無論、掃除なども同じで私の清掃はよくモノを犠牲にする。例えばCDケースを踏み割ったり、花瓶を落としたり、終いには本来操る側の私が掃除機に操られたり、と散々な結果である。
薔薇水晶もそれを学習した、と言っては何か心に突き刺さるものがあるがリビングの掃除は私が全部やるからと、猫のうにゅーと共にこうやって寝室に放り込まれ軟禁状態にあるのだ。
……嘘だ。本当は寝室ならあまり壊れ物がないから、というか私、雪華綺晶の持ち物ばかりだから壊したら自己責任という事なのらしいのだが。

さて、どこから手を出したらいいのだろうかとあたりを見渡してみる。先も言ったようにラジオの周りから行うべきなのだろうか。それとも未だに私と薔薇水晶の残り香が匂うベッドから掃除、とうか私達の下着等を片付けからすべきなのだろうか。

にゅー?

足元でうにゅーが不思議そうな顔でこちらを見る。いや、意識がベッドの方にしか向いてないなんてまったくもって気のせいだ。もう既に身体がそちらを向いてるなんてもまったくもって気のせいだ。

と思いつつ私はベッドへとそのまま横たわり、そのまま枕がある方まで匍匐前進のように身体を動かしてゆく。まだほんのり温かな布団は私の気持ちを落ち着かせる。
やはり何か、エアコンなどで温めるより人肌というか体温で温めた布団の方が寝心地が良い。

それはやはり人の温かさを知れるからだろう、やはり人間というものはこれだけ技術は発達したしても生身のヒトには完璧に近づけない。モノには『心』がないからなのだろう。

未来のイヴ、という物語がある。青年貴族であるエワルド卿はある女性に恋をしていた。その女性はまるでヴィーナスの化身のように美しいアリシアという名の舞台女優。
しかし彼女はエワルド卿が思うほど内面までは磨かれていなかった。そのことを知りエワルド卿は幻滅する反面容姿に惹かれる自分に嫌悪感を抱く。
……ああ、これなら死んでしまった方がましだ、とエワルド卿はエディソンという科学者にその決心を告白する。しかしエディソンの一言にエワルド卿の心は躍るのだ。
貴方に理想を差し上げましょう、という一言に。
そう、狂気の科学者エディソンはもう一人のアリシア、アリシアの人造人間を地下で制作していたのだ。記憶円管しか持たない彼女の人造人間にエワルド卿は心奪われる。
しかし製作者エディソンには秘密があり……。
という話だ。
人造人間には心があるのか。魂の居所はどこにあるのだろうか。エワルド卿は人造人間の、魂のない彼女を愛することが出来るのだろうか。

私にはわからない。

例えば、私の愛する彼女、薔薇水晶が何かしら、例えば事故などで亡くなってしまったら、そしてもしも私の元へエディソンのような科学者が現れたら……。

私は彼女の人造人間を愛する事は出来ないだろう。

それは彼女であるが、彼女ではない。

魂のない彼女は彼女では無く、ただの彼女のイレモノでしかないのだ。

ただ、

もしもアンドロイドが魂を、本当の意味での感情を持てたとしたら。

身体を仰向けに反すとうにゅーが私の胸元へとダイブしてきた。

どうもこの子はこの感触が好きらしい。同性だというのにむっつりスケベめ。

ラジオから聞き覚えのある曲が流れているる。私はただその歌声に想いを馳せるようにうにゅーを抱きつつ瞳を閉じた。

未來のイヴ メフィストフェレスの骨から生まれた 涙もないアンドロイドの堕落の女神よ

未來のイヴ メフィストフェレスの骨から生まれて 涙を知るアンドロイドは恋する乙女よ

あなたの林檎 舐めさせて 齧らせて 悟らせて 生きる意味をもっと…………。


『未來のイヴ』


と、いった妄想の行き着く先にいった私であったが気が付けばその妄想は眠りに変わり、
「おねーちゃん、起きた? 」
いつの間に移動したのか私は薔薇水晶の膝元で目を覚ました。
おはようと、私はぼそりと呟く。やはり昨日の夜通し酒がいけなかったのか。寝てしまうなんて不覚だ。
「もう年が明けるよ」
暗い、あたりは淡い光のキャンドルランプだけの寝室で私は最愛の妹に優しく髪を撫でられる。
「今年もいろんなことがあったね」
本当に。色々なことがあった。正直痛い目も見たがたくさんの出会いがあった。人生において出会いほど楽しいものはない。
「来年もまたこんな楽しい年であるといいね」
うん、と私は頷き薔薇水晶の柔らかなふとももの柔らかな感覚を味わう。
今の私があるのは彼女がいるから。私の支えは貴方。この世の中で一番大切なもの。

あなたがいるから

私がいられる

「ほら、もう……」

年が明ける。私の、いや私達の新しい年が。

「あけましておめでとう、おねーちゃん」

「あけましておめでとう。薔薇水晶」

私はゆっくりと彼女の頬へキスをする。

ほら、新年始めに見たものは

君のとびきりの恥らう笑顔。

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