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北欧と呼ぶにはあまりに極地に近い極寒の地。
吹き荒れる猛吹雪に隠れるように、一軒の大きな屋敷がそこには存在していた。

その屋敷の廊下を、金色の髪を揺らしながら歩く人物が一人。

彼女は廊下の突き当たり……大きな一枚の扉の前に立つと、ノックをしてから部屋へと入る。
「お父様。お久しぶりです」
そう言い彼女が視線を向けた先には……強力なライトを背後から照らし、後光で姿をぼかす男性が居た。

「ああ真紅……良く来たね……」
お父様と呼ばれた男は、顔こそ見えないが……それでも嬉しそうに声を上げた。
「それで会社の方はどうなんだい?何でも世間は不景気だというけれど……」

真紅は小さく頷き、父のシルエットに向かい答える。
「ええ……でも、お父様の築いてくださった会社です。この程度は問題ではありません」

彼女の父が興し、彼女が引き継いだ会社。
それは、世界をまたに駆ける貿易事業だった。

相変わらず強力な光で姿を眩ましたまま、父は告げる。
「それなら良かった。
 だったら……真紅も18になった事だし、僕のもう一つの仕事も引き継いでもらえるかな?」
そこまで言った後、彼は一拍置き……そしてどこか楽しそうにこう続けた。

「とても難しい仕事だが、とてもやり甲斐はある。
 そして……僕が君にいつも赤い服をプレゼントしてきた意味。それを知る機会でもあるんだよ……」


  ―※―※―※―※―
 

「………この部屋ね……」
父との接見を終え、真紅が新たな仕事の引継ぎの為に訪れたのは……屋敷の地下に繋がる階段。
その最奥まで降りた彼女は、一枚の扉の前に立っていた。

新たな仕事とは何だろう。一抹の不安が胸をよぎる。
だが……
「誇り高きこの真紅……お父様の期待に応える為にも……」
自らを奮い立たせ、その扉を開けた。

部屋の中は照明が落としてあり何も見えない。
真紅は壁に手をつき、手探りで照明のスイッチを探し……やがて見つけたボタンを押した。

甲高い音を鳴らしながら、地下室の照明が奥から順に灯り始める。
そこで真紅が見たものは……

「これは!……ソリ?」
一台の、ボロボロになったソリだった。
いや、それだけではない。
ボロボロのソリの隣には、金属製のフレームで作られたソリ。
そのさらに隣には、随分と古いエンジンを搭載したソリ。
流線型のソリ。UFOみたいな形のソリ。

唯一分かる事といえば、どれも手前に行くほど古く……奥に行くほど新しいという事。

「どうして、こんなに沢山のソリが屋敷の地下に……」
真紅は訝しげに呟きながらも、奥へと向かう。
 
そして……

ステルス戦闘機にしか見えないソリ。その隣。
まるで原点回帰とでも言うかのように、普通の木製のソリが置かれた場所で、数多くの陳列は終わりを迎えていた。

真紅は何気なく、普通の……何の変哲も無さそうなソリへと近づく。
そして、その座席にラッピングされた包みと一枚の手紙が置かれている事に気が付いた。

その手紙には、彼女が誰より敬愛する父の字で『愛する我が娘へ』と書いてある。

真紅は手紙を手に取り、読み始める。
そして……全てを読み終える頃には……彼女の目は、真っ直ぐに木製のソリを見つめていた。

「……分かりました……お父様の…いいえ、お父様のお父様…さらにそのお父様も……
 この仕事を誇りにしていたのですね……そして私も……」

真紅は再び手を伸ばし、今度は綺麗なラッピングが施された包みを開き……
そこに入っていた真っ赤な服へと着替える。

薄手のわりに暖かい上着に腕を通す。胸元で緑色のリボンをきゅっと結ぶ。ふわふわの付いた帽子を頭に乗せる。

「……私は真紅。そして……今日から……誇り高きサンタクロースなのだわ!」

そして、自らの為に用意された、最新のソリへと飛び乗った。

木製の筈のソリが『キィィィン』と機械的な音を立て始める。
同時に、ソリの背後が割れ、中から巨大な噴射口が出てくる。
地下室の壁がスライドし、吹雪の銀世界が眼前に広がる。
空気が震える程の轟音を響かせ、最新最強のソリが動き始める……!
 
「さあ!世界に夢を届けに行くわよ!」

真紅が叫んだ瞬間、全てを吹き飛ばす程の衝撃波を放ち、ソリは空に輝く一筋の流星より速く天を駆け抜けた。


  ―※―※―※―※―


「……凄いわ……」
今まで乗ったどんな乗り物より、飛行機より速く空を駆ける感覚に、真紅は思わずそう声を漏らした。
それに……
それ程の速度だというのに、雪はおろか風すら自分には当たってこない。
良く見ると、ソリの前方数メートル先に、何かバリアーのような障壁が展開されている。
「……凄いわね……」
ここまでオーバーテクノロジー満載だと感心を通り越して呆れてくる。そんな感じで真紅は再び呟いた。

天空の支配者、ここに降臨せり。
そんな感じで空をソリで駆けていた真紅だったが……やがて、どこからか声が聞こえてきた。

『こちら○○国空軍。ここからは当国の領土ゆえ、それ以上の飛行は領空侵犯と見なす。』

「え?」
真紅は素っ頓狂な声を上げながら周囲をキョロキョロするが……
それが見えない位置に備え付けられたスピーカからの音声だとすぐに理解した。

『直ちに旋回し、当空域を離れるよう警告する』
再び通信。それから暫くもせぬ内に……威嚇射撃が真紅のソリの近くを掠めだした!
 
「きゃぁ!?」
バリバリと轟音を立てて通り過ぎる機関砲の嵐。威嚇だと分かっていても、これは怖い。
真紅は引き返そうとソリを動かす手綱(マニピュレーター搭載)を握り締め……
その瞬間、正面の木製部分が動いたかと思うと、中からタッチパネルがせり上がってきた。

真紅はパネルを操作し、通信回線を開く。
「私はサンタクロースよ!怪しい者じゃないのだわ!」
『これ以上の飛行は領空侵犯と見なし撃墜する。これは警告ではない』
「……そんな……!」
会話として成立しなかった事より、攻撃される事より……
真紅はサンタを信じない空軍パイロットの心に、深い悲しみを感じた。

その時!
パネルが赤く光り……一つの文字が浮かんだ。
「サンタ支援AI・ホーリエ……?」
真紅がパネルを見つめる中、人工知能ホーリエはその本来の目的どおり、真紅に対するアドバイスを開始する。
筈だったのだが……

「ホーミングミサイルで返り討ちに!?何を言ってるの!それは非サンタ的なのだわ!
 バルカン砲も禁止よ!もし直撃を食らっても、バリアーで敵の攻撃を無効化できる!?ふざけないで!」
全くもって使えない提案に、真紅はパネルをピシピシ叩きながらホーリエを叱り付ける。

やがて……
「ジャマーを散布、相手機器を無効化?そうね……それなら良さそうね」
真紅がそう決定すると同時に、戦闘機はソリ目掛けてミサイルを撃ってくる!

だが、オーバーテクノロジー満載のソリはミサイルをひらりと余裕で回避すると、戦闘機の真上をとり……
銀色の、キラキラ光る粉を撒き始めた!
その輝く粉を浴びた戦闘機は、不意にガクンと出力を落とし、何とか持ち直した隙に大慌てで引き返していく。
『こちらブラボォ!ボラボォ!計器がイカレた!兎の穴基地に帰還する!』


真紅はやっと平和になった空を飛びながら……
「やれやれね……サンタも楽じゃなさそうね……」
小さなため息と共に呟いた。


  ―※―※―※―※―


『ゴー!ガシャン!』と、何ともソリらしくない音を立てながら、真紅のソリはとある山に着陸した。
同時に、パネルやジェットエンジンが収納され……
オーバーテクノロジー満載のソリは、どう見ても木製の外観へと変貌を遂げる。

「……予想外のアクシデントもあったけど……ここからが本番ね」
小さく呟くと、座席の後ろに置かれているサンタのトレードマーク。大きな白い袋を背負い始めた。
「それじゃあ、留守番は頼んだわよ、ホーリエ」
こんこんと降りしきる雪の中で静かに佇むソリへと声をかけ、真紅は山を降りていく。

  ◇ ◇ ◇

ところで話は変わるが、サンタからプレゼントが貰えるのは全ての子供、という訳ではない。
真紅の遠い祖先……初代サンタクロースなら、不思議な力でそれも可能だったが……
今はもうそんな不思議な力は失われてしまっている。
真紅も、その父も、科学の力を使って努力はしているが……不思議な力には及ばないのが現実だった。

つまり、サンタから直接プレゼントを貰えるのは非常にラッキーな、選ばれた子供だけなのだ。

  ◇ ◇ ◇
 

数刻後……

真紅が立っていたのは、古風な雰囲気を残す日本家屋の前だった。

背負った袋から双眼鏡を取り出し、中の様子を観察する。

家主と思われる父と母は眠っているようだが……
庭先では一人の中学生が、竹刀を振りながら練習を続けていた。

「……全く……最近の子は夜更かしね」
真紅は苛立たしげに呟くと、再び袋の中に手を突っ込んだ。

「確か、時計型麻酔銃が…………これね」
ブツブツ言いながら、真紅は袋の中から大きな掛け時計を取り出す。

そして、その掛け時計をバズーカのように構え……竹刀を振っている中学生目掛け、ボタンを押した!
掛け時計の底部が割れ、中から『ポッポー』と鳩の人形が出てくる。
そして、鳩人形はその目から音も無く、小さな麻酔入りの針を発射した!

「……………」
真紅は、全くもって無駄に凝った作りの時計型麻酔銃をガシャンと地面に放り捨てた。
ターゲットの家の庭先では、先程の中学生が首に麻酔を刺されて眠っている。

それを見て取ると、真紅は上着の袖をちょっとつまみんだ。
途端に真紅の姿は、周囲の景色に溶けるように掻き消えた……

「いくら見つからないようにしなくてはいけないとは言え……光学迷彩まで使うだなんて……」

何も無いはずの空間が、呆れたようにため息を付き……
暫くして、日本家屋の庭先で眠る中学生の背後の窓が、音も無くするするとひとりでに開いた。

古い日本家屋の廊下を、足音を殺しながら透明になった真紅は歩き……
やがて、一枚の扉の前で立ち止まった。

マナーにうるさい真紅だが、今回ばかりはノックしてから入る訳にもいかない。
眠っているであろう住人を起こさぬようそっと扉を開け、音も無く部屋へと忍び込んだ。

その部屋のベッドの上では……
ピンク色のパジャマを着た可愛らしい女の子が、人形を抱きながら幸せそうな寝顔を浮べている。

「……子供は天使、というのは、本当の事かもしれないわね」
この寝顔を見てると、ついつい笑顔になってしまうし、疲れも吹き飛んでしまうような気がする。

真紅は眠る少女を起こさぬように、そっと袋の中からプレゼントを……
軽く30キロはありそうな巨大苺大福を取り出すと、少女の枕元に置く。
「メリークリスマス……雛苺」
最後にそれだけ言うと、再び音も無く、真紅は部屋を後にした。


  ―※―※―※―※―


さて、こんどはどの子にプレゼントをあげましょうか。
そう考えながら、真紅は町を歩いていた。

と、そんな時……
彼女の耳に、この時間なら寝ていてもおかしくないような子供の声が。

「マッチを……ぅぅ…マッチを買ってくださいかしら……!」
 

このご時世にマッチを!?正気なの!?
真紅が驚いて振り返ると、そこには……涙を流しながら町行く人にマッチを売ろうとしている少女。
緑色の髪の毛はその輝きを隠し、可愛らしいおでこには泥がつき、大きな瞳は悲しみに沈んでいる。

真紅はその少女に近づくと……声をかけてみることにした。
「貴方、こんな所で…何をしているの?」

その少女は、散々空気扱いされていたのだろうか。
声をかけられた事にビクッと驚き……そして真紅の方へと振り返り……唐突に声を上げて泣き始めてしまった。

真紅は最初、予想外のリアクションに困ったような表情を浮べているだけだったが……
やがて少女も泣き止み、そして静かに語りだした言葉に耳を傾ける。

「実は……カナと暮らしているみっちゃんが……借金のカタに連れて行かれてちゃったかしら……
 今日中にお金を返さないと……みっちゃんはマグロ漁船か日本海に……
 だから!いくらでもいいから、このマッチを買って下さいかしら!」

真紅は、金糸雀が差し出してきたマッチを暫く眺める。きっと、この子が一人で作ったのだろう。
そして……
マッチを手に取り、金糸雀の頭をそっと撫でた。
「ねえ、金糸雀。貴方、サンタクロースは何をする人か知っている?」

突然の質問に、それでも金糸雀はしっかりした声で答える。
「当然かしら!サンタさんは、皆にプレゼントを配る人の事かしら!」
 
真紅は満足そうに頬を緩ませると、そっと金糸雀から手を離す。
そして……しゃがんで、視線を少女と同じ高さに合わせながら、静かな声で話しはじめた。
 
「半分正解で、半分間違いよ。
 サンタクロースが配るのはね……奇跡なの」

「……奇跡…かしら……」
「ええ、そうよ」
真紅は話が飲み込めない金糸雀の手にマッチの代金を握らせると、再び歩き始める。

目指す先は町の中心ではなく……郊外の埠頭へと変わっていた。

 

  ―※―※―※―※―



その男は、根っからの小悪党だった。
様々な犯罪に実を染め……だが、今では自分以上の本物の悪党にこき使われる身となっていた。

本屋の姿を借りた、非合法の金融。
その借金のカタにさらってきた女を閉じ込めた倉庫。
携帯を弄りながらそこの見張りをしていた彼は……ことらに向かって歩いてくる赤服の少女の姿に気が付いた。

「おい!ここは……」
俺たちの場所だ。さっさと帰りな。そう言おうとした彼に対し、少女は素っ頓狂な質問を返してくる。

「貴方、サンタクロースは信じてる?」

「あ?サンタなんか居るわけねーだろ。ありえないんだよね、サンタなんて。」
イカレてるのか。面倒だな。
男はそう思い、とりあえず追い払おうと男は立ち上がる。

そして、少女の肩へと手を伸ばし……だが、彼の手が何かを掴む事は無かった。

「そう。だったら、今日から信じなさい」
そう言う少女は、いつの間にか両手にマシンガンを構えている。

彼が気を失う前に見たのは、サンタというよりむしろサタンだった。



  ―※―※―※―※―

 

「……こんなに早く終わるだなんて……予想してなかったのだわ」

完全に廃墟と化した黒煙上がる埠頭の倉庫跡地に立ちながら、真紅は小さく呟いた。
そして、両手に持っていたマシンガンやバズーカを、背負った大きな袋の中に戻す。
「後は……彼女を金糸雀の所に連れて帰るだけね」
そう言い、真紅は端の方でぐるぐる巻きにされた女性へと足を向ける。

その時!
『ガシャーン!』と大きな音と共に、真紅の周囲が大きなライトで照らされた!

「俺のダチが来たからには、もう終わりだ!」
最初にのした男の声が、廃墟の中に響き渡る。
ライトを向けられたせいでハッキリとは見えないが……それでもマシンガンでこちらを狙う人影がいくつも見える。
「ありえないんだよね!俺が負けるなんて!」
男が叫ぶと同時に、何十丁ものマシンガンが同時に真紅目掛けて弾丸を放つ!

だが……真紅は全く動じる事は無く……
さらに弾丸は、彼女の前で見えない壁に当たったかのように砕け散った。

真紅はため息を付きながら、天井を……といっても、すでに吹き飛んでしまっているので、空を仰ぐ。

「……随分と遅かったわね、ホーリエ。でも……パーティーはちょうど今、二次会が始まった所なのだわ」
真紅が見つめる先には、オーバーテクノロジーを満載した最強のソリが、轟音を響かせながら飛んでいた。

そして……真紅は、自分に向かって無粋なライトを浴びせかけてくる一団へニッコリ微笑む。
「私から貴方たちに、プレゼントがあるわ」
同時に、上空を漂っていたソリは『ガシャン!』という音と共に両脇のホーミングミサイルを発射する!

「メリークリスマス」
爆風でスカートを揺らしながら、最強のサンタクロースは満点の星空を眺めていた。


  ―※―※―※―※―


「みっちゃぁぁぁん!!」
「カナァァァ!カァァァナァァァ!!」

街角で感動の再会に抱き合う二人の姿を、ビルの上から見下ろしていた真紅は……
すっ、とポケットから懐中時計を取り出した。

いつもなら、もう寝る時間。でも……

真紅は振り返り、自らの相棒でもあるソリへと視線を向ける。
「さあ、休んでる暇は無いわ。次の町へ……サンタの奇跡をプレゼントしに行きましょう!」
そう言うと、真紅はソリへと飛び乗った。

木製のソリの背後が機械的な音と共にスライドし、中から巨大なバーニアが出てくる。
サンタ支援AI・ホーリエが起動し、全方位へとバリアーが展開される。
マニピュレーター搭載の手綱からは、エンジンの力強い振動が伝わってくる。

「さあ!世界に夢を届けに行くわよ!」

真紅の声と同時に、少女サンタを乗せたソリは煌く夜空へと流星のように駆け上がった。



 
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