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~この晴れ渡る空にありがとう~


泣くな前を見ろ、いつでもそこにみんながいる。
だから歩け、俺が支えてやるから。


~この晴れ渡る空にありがとう~

春風が桜の花びらを運ぶ3月の某日。
水銀燈は校舎の屋上で一人佇んでいた。
水「もうすぐ卒業式…か」
ため息をつきながら一人ごちる、3月の風はまだ冷たく
その言葉は風に掻き消された。
卒業式、新たなことに取り組むための一歩目と言えば聞こえはいい。
が、彼女にとってはこの学び舎とそして3年間苦楽を共にしてきた
友人達との別れはとても辛い気持ちにさせるだけの物だった。
水「あと1週間かぁ…なんか実感わかないわぁ…」
この景色ともお別れか…この景色は私と彼しかしらない秘密の場所だったのになぁ…
見下ろせば、校庭と町の様子が、見上げれば雲ひとつない晴れ渡った空が
一望できるここを水銀燈は何よりも大切にしていた。

こなぁああああああゆきぃいいいいいいい ねぇ
携帯が鳴る、この着信だと電話か…ジュンからだ…
水「もしもし、ジュン?」
J「もしもし水銀燈?いまどこに居る?」
水「学校のいつもの所…ちょっと一人でいたかったのよぉ」
J「そっか、いっても大丈夫か?」
水「いいわよぉ、来るならヤクルト買ってきてぇ」
J「わかった、じゃ後でね」
ピッと携帯を切る、彼の声を聞いて少し気持ちが楽になった。
いつまでもこの気持ちだと卒業するに出来ない、未練たらたらで卒業なんて
あの教師陣が許さないだろう。
立つ鳥後を濁さず、とはよく言ったもの。
自然と卒業を控えるとそんな気持ちになるのかもしれない。
J「よっ、おまたせ」
水「待ったわよぉ~」
それから数分後、ジュンが姿を見せた。手にはヤクルトと
自分用であろう飲み物を手にして。
J「悪い悪い、ちょっとベジータと一緒だったから遅れた」
彼はいつも通り、明るかった。まるで卒業式なんて忘れているようにも思えたのだ。
水「……」
J「どうした、そんなに落ち込んで」
水「やっぱり…ジュンには隠せないかぁ」
水「実はね、卒業式のことを考えてたのよ…」
水「もう皆ともお別れかぁ、この景色も見れなくなっちゃうのかぁって」
水「楽しかったり、辛かったり、笑ったり泣いたりしたこの学校ともお別れかぁって」
ヤクルトの蓋を慣れた手つきで外しながら、彼女は続ける。
水「でも、やっぱり出会いがあったら別れもあるし、仕方の無い事なのかなぁ」
蓋が中々開けられなかった…手が霞んで見えるのだ。
水「もぉ…おかしいなぁ…中々開かないよぉ」
J「開けてやるから、続けて」
ジュンにヤクルトを渡し、彼女は涙声のまま喋る。
水「真紅、雛苺、蒼星石、翠星石、金糸雀、薔薇水晶…皆みんな、
   バラバラになっちゃうのかぁ」
水「それはみんなの将来のためだから、分かってるわよぉ…でも分かってても
  どうしても分からない部分があるの」
J「開いたぞ…ほら」
水「ありがとぉ…うん、やっぱり美味しいわぁ」
渡されたヤクルトを一気に飲み干し、彼女は深く深呼吸をする。
J「でも俺はいつまでも水銀燈のそばにいるぞ」
水「うん、でもあの子たちはまた別なのよぉ」
やはり水銀燈も年頃の女の子、色々な話で盛り上がるには同性の方が
いいらしい。まとめ役的な立場の彼女はよく色々な相談を受けた
…恋の話から仲直りの仕方まで、多種多様。
だからだろう…彼女はいつも自分の心配よりも、真紅達のことを心配する。
前に一度雛苺が「水銀燈はママみたいなのー!」と言って授業中以外は
水銀燈の膝の上にずっと座っていた。
彼女からしたら、本当に水銀燈は母みたいなものなのだろう。
水「だからかなぁ寂しさが人一倍感じられるのよぉ」
J「そっか…でもまだ1週間あるからな…その間に皆とどこかいってくるのも
  いいんじゃないのか?」
水「ごめんねぇ…明日にはちゃんとしてると思うから」
今日だけは勘弁して、とジュンに持たれかかりながら水銀燈は言う。
それに答えるようにジュンは水銀燈をしっかり抱きしめる、
水銀燈の温もりが伝わってきた。
空を見上げる。先ほどと変わらず、空は雲ひとつない快晴だった…

1週間とは早いものである、少なくともなにか予定があると人間はそう感じる。
朝食の時、父と母が「今日はめいっぱい泣いてきなさい」と言っていたっけな…
水銀燈は1週間前と変わらない空を見上げながら薔薇学に向かう。
水「おはよぉ」
教室に入り、いつもと変わらぬ挨拶をする。
J「おはよう」
真「…おはよう」
挨拶はすれど、どこか落ち着かない雰囲気のクラスメイトを尻目にイスに座る。
あっちへソワソワ、こっちをソワソワ。
なんだ、皆気持ちは同じだったのか…
やはり卒業という文字が今日この日、一番生徒が意識する言葉なのだろう。
梅「よし、じゃあ移動するぞー」
担任の梅岡が入ってくるなりそう言う。
いよいよ…か…早いなぁ…
廊下、階段、と一つ一つをこの目に焼き付けるように水銀燈は歩いた。
それからの事はあまり覚えてなかった。
入場して、席について、来賓紹介やら教師紹介、校長の挨拶に来賓の挨拶。
気がつけば卒業証書授与でムスカ校長の前に立っている水銀燈がいた。
ム「卒業おめでとう」
水「あ・・ありがとうございます」
一礼し、檀上から降りる。チラっと保護者席を見ると自分の母とジュンの母が
なにやら手を振っていた。
あの二人を見ていると、

いくら環境が変わろうとも、ジュンとは一緒だ。

と思い落ち着いてきた。
司会「校歌斉唱」
聞きなれた薔薇学の校歌の音楽が、合奏部の演奏と共に奏でられる。


遙かに望む富士が峰の裾野に

われら希望の光をみる

熱き情熱を胸に抱き

若人、文化の国をうちたつる

曉降りそそぐ学舎(まなびや)に

歓喜の声がこだまして
青春、ここに輝けり

あぁ薔薇学、良き師、良き友集いし学園

あぁ薔薇学、美しきわれらの母校

これが最後の校歌斉唱だと思うと、自然と声が出るようだった。
たぶん皆も同じ気持ちなのだろう、中には泣きながら歌うものもいた。

司会「ではここに○○年度、卒業証書授与式を閉会いたします」
…いよいよ終わりなのだ。本当の終わり、そして始まり。
教室ない、校庭に集まり、皆思い思いの時間を過ごしていた。
J「よ、遅かったな水銀燈」
水「ごめんねぇ~」
金「水銀燈、今までありがとうかしら!」
水「いやだわぁこちらこそ楽しかったわよぉ」
せめて…
水「皆も、3年間同じクラスで楽しい思い出をありがとうねぇ」
せめて…最後は
水「真紅、あまり紅茶は飲み過ぎないようにねぇ」
笑顔で皆を送り出そう…
水「翠星石も、あまり蒼星石を困らせないのよぉ」
翠「よけぇなお世話ですぅ!」
水「本当に…皆ありがと…ね」
ダメ…やっぱり無理よ…
水「ありがとね…ありがとうね…」
J「水銀燈…ごめん、ちょっと皆いい?」
おいで、とジュンに手を掴まれ、皆とはちょっと離れたところに移動する。
水「ジュン…ジュゥン!私やっぱり…うぅ」
J「水銀燈、いいかよく聞いて」
J「泣くな前を見ろ、いつでもそこにみんながいる」
J「だから歩け、俺が支えてやるから……な?」
水「うん…うん!」
J「よし、じゃあ皆のところいくか」
水「ありがとぉ…ごめんね」
J「気にするな、泣きたきゃ泣け、それは恥じゃない」
ダメじゃない、そんな事言ったら我慢してたものが溢れるじゃない…
金「水銀燈、泣いてもいいかしら!カナなんてもう泣いちゃってるかしらー!」
笑顔で、涙でグチャグチャになった顔になりながら水銀燈に抱きつく金糸雀。
水「うん…ありがとうね金糸雀。またどこかで会おうね…同窓会は絶対来てね」
金「当たり前かしら!カナ今よりもっと綺麗になって水銀燈を追い越すかしら!」
J「俺も…ちょっと泣いてこようかなぁ」


空を見上げる…そこには雲ひとつない青空が広がっていた。
3月、桜が舞いとても綺麗になる薔薇学…ここに入学してよかった、
皆に出会えてよかった…
あの後皆が帰ったあと水銀燈は一人いつもの屋上にいた。
水「ありがとう薔薇学、ありがとう私の三年間、ありがとう皆…」
水「そしてこの晴れ渡る空にありがとう…」


この晴れ渡る空にありがとう

END

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