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『あ、あのベリーベルさん……その、えっと、な、何食べますか? 』
『ん~と、オムライスゥとね、オレンジジュースとね、あとねあとね……ミックスパフェ!!』
『あっ、じゃあそれで……あと私はコーヒーと本日のパスタで。あっ、はい……コーヒーとデザートは食後でお願いします』
『オムライス楽しみ~! ここのレストラン凄く美味しいんだってトモエが言ってたよ! 』
『わ、私もベリーベルさんが喜んでくれるよう情報収集に情報収集を重ねて一番美味しいお店を……ゴニョゴニョ』
『んもう、ベリーベルさん、じゃなくてベルって呼んでって言ってるのに~』
『え、いやその、は、恥ずかしくて……私にはベリーベルさんの方が似合ってるようなその』
『ベールー! はい、呼んでみて』
『じゃあお言葉に甘えて……べ、ベル? 』
『うん、なーに、ピチカート! 』
『か、可愛い……過ぎあ、いや何でもありません』
『?? 』

「あんな焦り吃るピチカートを見れるのはここだけかも知れませんわ」
「ホントかしらー。わざわざ先回りして盗聴器付けてきたかいがあったかしらー」
「ほんと……よく聞こえるね」

デパート内のお洒落なレストラン。
私達はピチカートとベリーベルからは死角にあたる対角側の席でイヤホンに聞き耳を立てていた。

「あ、あのお客様……ご注文は……」
「あっ、ここから、ここまで。デザートも一緒に持ってきちゃってくれますか? 」

適当に私はメニューの始めから最後まで指差す。どうせ食べるのだから完全制覇が好ましい。

「は、はいっ……かしこまりました」

若干、店員が怯えているのか引いているのか、声が裏返っていたような気がしたが気にしてはいけない。
お客様は神様……と。
私は再びイヤホンに耳を傾けた。

『けど今日はあんな可愛いリボンとか買えて良かったね! ピチカートさん、髪の毛長いから絶対似合うと思うもん』
『そ、そうでしょうか……だけどッ、あの、ベルだって似合うと思いますよ、うん絶対似合う』
『そーかなぁ……なんだかピチカートさんを見てたら私もピチカートさんみたいに長く髪の毛伸ばしてみたいなぁって思うんだ』
『そ、そうなんですか……』

頑張れピチカート。なんだかこっちが焦れったくなってきた。

『あ、あのベル……』
『どうしたの、ピチカートさん』
『その、あの……べ、べるは好きな人とかはいなかったりいてしまったりするのですか!? 』
『えっ……あっ、好きな人? えっーとね』

「「「……」」」

金糸雀が、ごくりと生唾を飲み込んだ。
ベリーベルの発言によってはこれからのピチカートの運命が変わる。
生か、それとも、死か。

『えっーと、うんとー』

悩むな、ベリーベル。私達は君の本音が聞きたいのだ。ありのままに答えるがいい。

「あ、あのお客様……サラダの方はこちらに置いておいてよろしいでしょうか? 」
「出来た順から適当に並べておいて。あっ、さっきの訂正で溶けるものは最後に」
「は、はいかしこまりましたぅ!! 」

まったく、空気を読んでほしい。現代用語でいうKYというやつだ。
……なんて私達が言える立場ではないのだが。

そんな自分勝手な事を考えながら私は三人分のサラダをつまみ、耳を傾けた。

『あっ、いないならいいんですよっ、はい、別に無理矢理言わなくても全然大丈夫ですから! その方が私にもチャンスというものがいや何でもないです』
『えっと、うんとね、好きな人は……トモエと』

「と、トモエラブだったかしらー」

金糸雀が黄色い声を上げる。

「確かに巴さんは私から見ても憧れる所がありますから……けどまさか巴さんなんて」

『トモエと、雛苺とね』

「……なんだやっぱり思った通りの展開か」

私は緊張で胸に蓄まった溜め息を吐き出した。
幼子は『友人として好き』と『大切な人として好き』を
混同するからもしかしたらと思ったが案の定か。

『あと、ピチカートさんも大好きだよ、私もピチカートさんみたいに大人っぽくなりたいんだ』
『あ……あ、そうなんですかぁう!? い、はい、私もベルみたいな可愛くなりたくて、けどこんなに背も伸びちゃったし、可愛い服もいつもサイズが無いしだから、ベルみたいなその可愛らしい女の子があばばばば』

「あっ、ピチカートが壊れたかしら」
「多分、『ピチカートさんも大好きだよ』の部分で思考回路が崩壊したんだろうね、ピチカートさん純粋だから……あっ、おねーちゃんもうハンバーグ食べちゃったの? 」
「いや、冷めてしまったらハンバーグに失礼かとモグモグ」

ハンバーグの次にはチーズハンバーグが待っているのだ。妥協している暇はない。
因みに次はトマトソースハンバーグ、次の次は月見ハンバーグが私を待っている。
『あっ、料理来たよー! ……あれ、ピチカートさん? 』
『アバババババウト……ハッ!! ……あっ、料理来ましたねアハハハ噂どおり美味しそうで何よりです』
『ほんと、ぷりぷりオムライス美味しそう~! いただきまーす』
『弾ける笑顔に鼻血が……いただきます』 「……お腹減ったかしらー」
「うん、そうだね……ピチカートさん達も気になるけど早くしないとテーブルの料理、全部食べられちゃう」
「いったいここの料金誰が払うのかしらー」

もちろん私のポケッツマネィーに決まっているだろう。こんな所で金糸雀のお小遣いは破産以上まで追い込むつもりなんて毛頭ないさ。

「モグモグ……むちゃくちゃ……」
「お、おねーちゃん……どこまで食べたの? 」
「もがもが……ごくん」
「メニューの2ページまで指差しているのかしらー!! 」
「早く食べないと単品だけになっちゃうよ……金糸雀さん、今はとりあえず、食べ物の確保を! 」
「わかったかしらー……あっ、そのミートソースはカナが楽してズルして確保かしらーってアーッ!! 一瞬で半分消え去ったかしらー」
「私はこのグラタン確保……っと」

金糸雀を犠牲(?)にし、グラタンを確保した薔薇水晶に私を微笑ましく思いながら再びイヤホンに意識を回す。どうやらあちらにも料理が届いていたようだ。楽しそうな会話が聞こえる。

『オムライスッ、ぷりっぷりぃのオムライスッ! 』
『……(理性理性理性理性理性理性理性理性理性理性理性性欲理性理性性欲理性理性)』
『あっ、ピチカートさんのパスタ一口ちょうだい! 食べあいっこしよーよ』
『……ハッ、も、もちろん! はい、どう……ぞ……? 』
『あーんーー』
『は、ハハ……はい、あーん』
『ん……うん、パスタも美味しいねー』
『ですよね……はい、うん(あーんしちゃった! あーんしちゃった! あーんしちゃった! )』
『じゃあ次は私のどうぞー』
『あっ、じゃあいただきま……』
『はい、あーん』
『……? 』
『ピチカートさん、あーん』

『あ、いやはいそのけどだからって……あーん』
『はい、あーん! 』
『……オムライスも美味しいですね(間接キス! 間接キス! 間接キス! 祖国のお父さん、お母さん、ごめんなさい。もう私、お嫁に行けそうにありません……)』

「……何をやっているのだか、もきゅもきゅ」
「グラタン美味しいなぁ……作り方教えてくれないかな」
「カナ悲しくなんて無いのかしら……カナにはドリアがあるかしら……ミートソース……ぐすん」

そんな恨み涙目で睨まれてもミートソースは帰ってはこないよ、金糸雀。人生とは非情なのだから。

「あっ、すみません、そろそろデザートを」
「おねーちゃん、まだ食べるの? もう皿が山みたいになってるよ。若干周りの人も引いてるよ」
「そこに食べ物があるかぎり私は食べ続けるのです……」
「かっこいいんだか悪いんだか……もう、おねーちゃんったら」
「カナのミートソース……カナのミートソース……カナのミートソース……うっ、泣いちゃダメかしら……」
「あら、ドリアが食べて欲しそうな風貌でこちらを見ている。食べますか? もちろん、はいですわ! 」
「みしゃぁぁぁぁぁ!! カナのドリアがぁぁぁぁぃ!?」
「あっ、すみませんそろそろデザートお願いします」
「……ふぅ。主食プラス単品はあのドリアで終わりだったのね」
「カナのドリアカナのドリアカナのドリアカナの……」
「で、デザートあげるから許してくださいですわ! 」
「カナのカナのカナのカナのカナのぉぉ!! 」
「ひぃぃ!? 目が病んでますわぁ!! 」
「あっ、アイスクリーム来た来た……いただきまーす」
「カナのカナのカナのカナ……あっ、タマゴパフェかしらーいただきまーすかしら」
「……(ありがとう、タマゴパフェ)」
というか我が最愛の妹、薔薇水晶よ。アイスばかりに心奪われてないで少しは私を助けてくれ。 『あっ、パフェ来ましたよ』
『わぁ~! たくさんアイスクリームとかフルーツとか乗ってるぅ!』
『ホント、豪華パフェですね……さすが千五百円』
『えへへ……いただきま』
「うるせーな、こっちの勝手だろうがッ!! 」

クラシックが流れていた優雅な店内に若い男の声が響いた。客達が一斉にその声の方向に振り向いた。
私達の位置からちょうど斜め向こう、ということはピチカート達の方面か。

「お客様、ここは禁煙席ですので御喫煙はちょっと」
「んな事そっちの勝手だろうがッ! あ゛、なんなのその嫌そうな目付き、こちとら客だよ、分かってんの?」

……なんだ、ただのチンピラもどきか。私は水の入ったグラスを散らかったテーブルに置き、様子を見ようと立ち上がった。ピチカート達に迷惑をかけなければいいのだが。

「あの少々お待ち戴ければ喫煙席をご用意できますので……」

奇遇にもあのチンピラを相手にしているのは先程の私にやや引いていたあのウェイトレスらしい。

こんな大食漢の相手からあんな馬鹿なチンピラの相手をしなくてはいけないとは可哀想に。
多分、今日は厄日だったのだろう。

『けほけほ……タバコの煙は……けほけほ』
『だ、大丈夫ですかベル! 』
『うん、大丈夫……』

ん、何かフラグだ立ちつつあるような気がする。もしかしたら私が出なければいけないのかもしれない。
いつぞやかピチカートが、
『恋は盲目』
と言っていた。今のピチカートにぴったりな言葉じゃないか。 彼女はベリーベルしか見えていない。だからあんな目立っていた私達にも気が付かなかったのだ。
もちろんベリーベルには私達が分かっているのかもしれないが顔が知られていないのが幸運だった。
要は今のピチカートはベリーベルを軸にして生きている。何事もベリーベルが中心なのだ。基本、ストレートで生きている彼女にとってこれほど危険なモノはないのではないか。

「じゃあ早く準備してよ、何もたもたしてんだよ、あんた馬鹿な上にノロマなんだな」

チンピラが口に含んだ煙をウェイトレスに吹き掛ける。
悪趣味の塊め、ウェイトレスが私だったら全身根性焼きして家畜の餌にしてやっている所だ。

「す、すみませ……げほっげほっ……」

『……あの人可哀想だよ、ピチカートさん』

ああ、ベリーベル。ピチカートを刺激するんじゃない、今の彼女はラピュタのロボット兵みたいなもの。

君の要望を叶えるのに必死なのだから。

『………』

抑えるんだ、抑えるんだピチカート。君が出たところで状況は混乱するだけだ。
「ったく、使えない女は生きてる価値ねーんだよ。あんただよ、あんた分かってんの? 」

プチッ

何か今、脳内に嫌な音がしたような気がする。多分、食べ過ぎからの幻覚だろう、うん。

プチッ、プチプチッ、ブチンッ!

「ちょっとすみません……」
マイクを通さすにピチカートの声がこちらまで聞こえた。
冷静を保っているがあれは怒っている、確実に怒りを隠している。
様子が静かに怒る薔薇水晶に良く似ているのだ。
薔薇水晶に限ったことではないが、普段静かな人が怒るほど恐ろしいものはない。

「……おねーちゃん、ピチカートさんが」
「……カナはまだピチカートが怒った所みた時無いから」
「……むぅ」

結末は神のみぞ知る……か。

「あ゛、何ねーちゃん、何か用? 」
「邪魔なので視界から消えて戴きたいのですが。貴方のせいで私達も周りの皆様も迷惑している。早々に消えて戴きたい」
「は? 何なのアンタ。全然かんけーねーじゃん。何なの? 」

ピチカートの凛とした声が店内に響く。思わず聞き惚れてしまいそうだが、今はそんな状態に鳴っている場合じゃないぞ、私。
ともかく今、大至急で行うべき事は、頭に血が上がって周りが見えてないピチカートとあのDQNもといチンピラを止める事だ。
私は静かに席を離れ、ピチカートとチンピラがいる席へ歩く。

「ってめー何俺の煙草取ってんだよッ! 」

む、ピチカートが煙草を奪い去ったか。全く、何故あんな毒の塊を吸うのがいいのだろうか。
チンピラはまるで愛しのオモチャを取り上げられ、怒り狂う赤ん坊の様な叫び声をあげる。
さて、ピチカートが次にする行動とは……、私は足を早める。

「ちょ、ねーちゃんまだその煙草、火付いてるから! ふざけてねーであぶねーから! 」

私がピチカート側まで着いた時には彼女は火の付いた煙草をチンピラの顔目がけて押し当てようとしている最中だった。あの店員さんが必死に止めようとしているがピチカートは動じない。
あの醒めた目で睨まれながら凶器と化した煙草を向けられてはチンピラもびびって当然だ。
私は素早く一歩踏み出し、ピチカートと向かい合わせになる様、体を入れながら煙草を持っている腕の肘部分を掴む。 「ピチカート、そこまで」
「……キラキショウさん」

ピチカートは私を睨むように顔を向けた。

「何故、止めるんですか。貴方に止める理由は無いでしょ」
「貴方にも、それを彼に押しつける理由も無いはずですわ」
「馬鹿は身体で覚えないとダメなんですよ。自分が害なのかすら理解できないのだから」
「その点では今の貴方もその馬鹿の一種にしか私は見えないのだけど」
「……キラキショウさん、貴方は私に喧嘩を売りにわざわざ来たのですか」

まさか、と私は笑う。
ピチカートと争った所で私が負けるか痛み分けの相討ちが精一杯。利益なんて無いに等しい。
私はピチカートの指から煙草を奪い取ると、ソファに置いてあったチンピラの、ブランド物らしい高級なバッグに押しやった。

「貴方を止めに来たのよ、ピチカート。まったく……ベリーベルが恐がってるわよ」

しまった、という表情がピチカートの顔に浮かび上がった。私達の後方ではピチカートが今にも泣きそうな顔でこちらを……うん、見ながらパフェを食べていた。
まったく、現金なものだ。

「べべべ、ベリーベル!? いや、その私ときたらその」
「……めっ、だよ、ピチカート。あの人泣きそうな顔してるよ」

確かに。まさか禁煙席で煙草を吸った事から、怖いお姉さんに絡まれ、大事なバッグに煙草を押し当てられる、なんてこんな厄災になるとは、彼もあのウェイトレス並に不運だったとしか言いようが無い。

「貴男、逃げるなら今のうちかと」
「あ……え……あっ、す、すみませんでしたーー! 」

逃げ足は誉めてあげよう。
小物はそうではないと始まらない。 私はすっかりしょぼ暮れているピチカートとベリーベルのテーブルへ向かう。

「初めまして、ベリーベル。私は雪華綺晶、以後お見知り置きを」
「あっ、ばらしーちゃんのお姉さん! ……だよね? ヒナが言ってたよ、いつもうにゅーくれるって」
「……まぁ、そんな印象でもこの際いいでしょう。ベリーベル、ピチカートを頼みましたわ」
「うん! だけど奇遇だねー! まさか同じお店に同じタイミングでいるなんて」

ピチカートが私を見上げた。

「……偶然ですか? 」
「……ええ。もちろん」
「なら、いいです……先程はすみませんでした。周りがまったく見えてませんでした、反則します」
「恋は盲目……という事にしてあげますわ」

図星なのだろう、ピチカートは一瞬、おもしろくない顔をして私から顔を逸らした。
そんな表情をする彼女も珍しい。
私はなかなかいい体験だ、と心の奥で微笑みながら薔薇水晶達が待つ席へと向かうため、踵を返した。

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