※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


風邪をひちゃった為、金糸雀は学校を休んでベッドで休んでいます。
それも、頭まで布団をかぶって。

保護者のみっちゃんも、薬を買いにお出かけ中。

そんなこんなで、暖かい布団に包まれてウトウトしていた金糸雀でしたが……
突然、大きなベルがジリジリと鳴る音が部屋中に響き渡りました。

「………ぅ…ん………むにゃ…むにゃ…… 」
布団の中からモゾモゾと手だけを出すと、枕元に置いてある目覚まし時計の頭を叩きます。

これで静かになるはず。
金糸雀はそう思いましたが……一向にベルの音は止みません。

布団から手だけを出して、金糸雀は何度も何度も目覚まし時計をぺしぺし叩きます。

にも関わらず、ジリジリと騒がしい音は止まりません。
それもそのはず。
だって、火災警報の非常ベルの音だもの。

「もう!いい加減にしてほしいかしらっ! 」
まさかそんな非常事態とはつゆ知らず、金糸雀は改めて頭まで布団をかぶりなおし……
ジリジリ鳴る音を無視する事に。

ちょっとずつではありますが、部屋の中にも黒い煙が入ってきた事には気が付いていませんでした。




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇
 



そんな、今にも鳥(カナリア)の丸焼きが出来ちゃいそうなマンションからちょっと離れた公園で。

真紅は翠星石と蒼星石の三人で、ベンチに腰掛けながらのんびりと風景を眺めていました。

いいえ、傍目には散りゆく紅葉を眺めているように見えますが……
三人の気分は、そんな平穏な景色を楽しむどころではありません。

「一体、これは何なのかしらね…… 」
真紅は頭の上からぴょこりと顔を出した犬耳を、そっと撫でます。
「……僕ら……ずっと、このままなのかな…… 」
蒼星石は、翠星石のふわふわの尻尾を撫でながら呟きます。
「……こんなんじゃあ、海にも温泉にも行けんですぅ…… 」
翠星石も、蒼星石の頭に生えた猫耳を指先でつっつきながら言います。

肌寒い風が、三人の間を吹き抜けました。


「……ジュンがパソコンで調べて、何か見つけているかもしれないわ 」
重くなりがちな空気を吹き飛ばす為、真紅はそう言いながら立ち上がります。

何か手がかりを発見したらすぐにメールで知らせる約束。そして、何もメールが来てないと言う事は、つまり……

無駄足になりそうだとは思ってはいましたが、翠星石と蒼星石もベンチから立ち上がります。
とりあえず、ほんの少しの希望に賭けてみる事にして、三人は公園を後にしました。


―※―※―※―※―
 

その頃、金糸雀は……

ぽかぽかと暖かな布団に包まれて、卵畑を楽しく走る夢を見ていました。
『卵のなる木を発見したかしら!これは三食、卵焼きにするしかないかしら! 』
幸せそうにヨダレをじゅるりとさせながら、卵のなる木によじ登ります。
『大漁かしら~!ホーッホッホ!! 』
高笑いしながら、ポケットに卵を詰め込みます。

それから、ポケットに詰め込んだ卵が割れないように気をつけながら木から降り……
のつもりが、ちょっとだけバランスを崩して、卵が一つ、落っこちてしまいました。
『あっ!? 』と叫び、慌てて手を伸ばしますが……
残念な事に間に合わず、卵は地面に衝突してしまいます。

『ぅぅ……もったいないかしら…… 』
木から降りた金糸雀は、目の端に涙を浮かべながら潰れた卵に近づきますが……どうも様子が変です。

卵は、すっかりカラが割れてしまっていますが……中身が出たりはしていません。
『?……どうしてかしら? 』
呟きながら、落ちた卵を拾ってみると……
なるほど。ゆで卵になっていました。これなら、落ちても多少は平気です。

『う~ん……でもこれじゃあ、お砂糖いっぱいの卵焼きは作れないかしら 』
さてどうしたものかと金糸雀が頭を傾げて考え始めた時です。

春の陽気のように、ぽかぽかと快適だった世界が……まるで真夏の炎天下のように暑くなっていきます。
これでは、ポケットの中の卵も、全部、温泉卵になっちゃいそうです。



「は…早く冷蔵庫に…………はっ!? 」
金糸雀は自分の叫び声で、夢から覚めました。


そして、目が覚めたついでに……先ほどの夢のせいで、お腹がすいてしまったのでしょう。
キッチンに行って、何か食べるものでも。そう思い、布団から抜け出し……
そこでやっと、金糸雀は部屋の中に黒い煙が広がり始めている事に気が付きました。

「ひィ!?ひ…非常事態かしら!? 」
幸い、彼女の部屋にはまだ火の手は伸びてきていませんが、どう見ても火事です。
金糸雀は慌ててベッドから飛び起きると、そのまま逃げ出すべく玄関へ。
そのまま扉を開き、マンションの廊下に差し掛かり……そこで足が止まりました。

決して多いとは言えないお給料で、それでもみっちゃんが買ってくれたお洋服。
それを……このまま置いて逃げるの?

金糸雀の脳裏に、嬉しそうにまさちゅーせっつをするみっちゃんの姿が……
楽しそうに写真を撮るみっちゃんの笑顔が、浮かびます。

「……せめて一着だけでも……持って行くべきかしら…! 」
本当なら、すぐにでも逃げないといけないのでしょうが……
金糸雀はそう呟くと、再び部屋の中へと駆け込んで行きました。


―※―※―※―※―


「そこで言ってやったですよ!それは残像ですぅ、と! 」
翠星石の武勇伝に耳を傾けながら、真紅と蒼星石はテクテクと歩きます。

そして、公園を抜けてすぐのマンションの前に、沢山の人だかりが出来ているのを発見しました。
マンションからはもくもくと黒煙が上がり、野次馬が遠巻きに消防車の到着を待っています。
 

「……私たちに何かが出来るのならば別だけれど……人の不幸をジロジロと見るものではないわ。
 行きましょう 」
真紅はそう言うと、マンションの前を通り過ぎようとします。

ですが……彼女の頭でピコピコ動く犬耳は、その声を聞き逃しませんでした。

「カナァァ!?どこなの私のカナァァァァ!!? 」
錯乱する、薬屋さんの袋を持った女性と、「大丈夫、きっともう逃げてるだろうから…」となだめる人の会話。

やがて女性は、周囲の制止を振り切って……あろうことか、黒煙上がるマンションの中へと突撃したのです!

「あなた!何を考えてるの!待ちなさい!! 」
真紅はその光景に、弾かれたように叫びます。
ですが……その声は、周囲の野次馬の声にかき消され、女性には届きません。

真紅は慌てて、女性の後を追いかけてマンションへと入ろうとしますが……
その腕を蒼星石にガシッと捕まれ、立ち止まらざるを得なくなりました。

「真紅……君が彼女を助けに行こうとする気持ちはよく分かる……でも……
 それで君まで危険な目に会ってしまったら……それに……仮に、無事に助け出したとしても……
 そうなったら、君は周囲の注目を集めてしまう……それが、今の僕らにとってどれだけ危険な事か…… 」

猫耳がバレないよう、帽子を目深に被りなおしながら、蒼星石が小さな声で警告を発します。

確かに……真紅にも、蒼星石の言う事が正しいのは分かります。
シロウトが無茶をするより、確実な救助を待った方がいいのかもしれません。
それに、頭の上の犬耳が世間に露見するような事態は避けるべきだという事。
 
ですが……
頭ではそう分かっていても、真紅の心は「あの女性を助けに行くべきだ」と叫んでいました。

「あの人は……居るのかどうかも分からない人間の身を心配して、自分の安全も考えずに飛び出したわ。
 ……それは無謀な事なのかもしれない。愚かな行為と言えるのかもしれない。
 でも……私はそんな彼女を見捨ててはおけないわ…… 」

強い決意の篭った眼差しを、真紅は蒼星石に向けます。
蒼星石も、真紅の目を真っ直ぐに見つめますが……やがて、静かに視線を逸らしました。

「ごめんなさい、蒼星石……それとも、お礼を言うべきかしらね…… 」
真紅はそう言うと、そっと蒼星石の手を振りほどき……
炎の広がりだしたマンションへと、人ごみを縫って走り出しました。


―※―※―※―※―


真紅は、非常ベルの鳴り響く階段を駆け上がります。

一人で先に突入した眼鏡の女性を探しながらなので、各階を慎重に調べながら。
お陰で、なかなか思うように進めません。

姿勢を低くし、帽子をハンカチ代わりに口元に当てながら、真紅はマンションの中を進みます。
そして……いくつかの階段を越えた先に……倒れている人影を発見しました。

混乱したまま駆け込んで、煙を吸ってしまったのでしょう。
先ほどの眼鏡をかけた女性が、そこにはバッタリと倒れていました。
 

「大丈夫!?しっかりなさい! 」
真紅は倒れている女性の体をゆすります。
小さなうめき声が返ってきたので、生きてはいるようですが……あまり良い状態とは思えません。

真紅はその女性を担ぎ上げ、何とか一緒に脱出しようと試みます。
ですが……
小柄な真紅一人では、それすらも満足に出来ません。
そうこうしている内にも、煙は濃度を増し、マンションの廊下は蒸し風呂のように熱くなっていきます。

「……くっ……早く…何とか逃げないと…… 」
真紅は女性を肩を貸し引きずりながら、小さな声で呟きます。

そして……予想以上に悪い事態に、真紅も焦っていたのでしょう。
誤って煙を吸い込んでしまい……その熱さと焼ける匂いに、激しくむせてしまいました。

視界がぐらぐら揺れ、気分も悪くなります。
真紅が地面に膝を付きかけた瞬間……!

「真紅!しっかりして! 」
声が聞こえると同時に、蒼星石が真紅の体を支えてくれました。

「蒼星石……どうしてあなたまで…… 」
汗を浮べながら、真紅は驚いた表情で蒼星石を見上げます。
そして、その問いかけに答えた声は……蒼星石とはまた別の方向から聞こえてきました。

「ぶっ倒れられて入院でもされた日には、見舞いやらで思わぬ出費になっちまうですぅ!
 そんな面倒になる前に、しゃーなしで助けてやるですよ! 」
そう言いながら、翠星石が真紅とは逆側から女性の体を支えます。
 
「翠星石がどうしても、って聞かなくってね…… 」
蒼星石が照れたようなはにかんだ顔で、そう呟きます。

真紅はこんな状況だというのに、少しだけ心が温かくなった気がしました。
「……姉妹そろって素直じゃないわね 」
ちいさく呟きながら……この時彼女は、少しだけ微笑んでいたのかもしれません。


仲間も増え、助けるべき人も見つけました。
「後は、ここから無事に逃げ出すだけね…… 」

真紅の提案に、翠星石と蒼星石も頷きます。
そして、三人で協力しながら女性を支え、進もうとした時です。
女性は意識を少し取り戻したのか、震える手で一枚の扉を指し示しました。

きっと、その部屋が彼女が向かっていた場所なのでしょう。
ひょっとすると……誰かが残っているかもしれないと心配して。

「……翠星石、蒼星石……あなた達は先に行って頂戴。
 私は……念のため、あの部屋を確認してくるわ 」


―※―※―※―※―


一着だけでも持って逃げよう。
そう考えて部屋に引き返した金糸雀でしたが……どうにも、どれを持っていくべきか決められません。
 
一番高かったお洋服?それとも、一番お気に入りのを?最近買ってもらったのにするべきかしら?
どれもこれもが、みっちゃんとの思い出の詰まった大切なお洋服。
とてもじゃありませんが、どれかを見捨てるなんて事は出来ません。

金糸雀はクローゼットをひっくり返しながら慌てるばかり。
熱い煙は、時間の経過と共に彼女の周囲を取り囲み始めます。

「誰か居るの!?居るなら返事をして! 」
突然、扉の開く音と共に、そう呼びかける声が聞こえてきました。

「こっちかしら!手伝って欲しいかしら! 」
金糸雀は両手に抱えきれない程の服を抱きしめながら、そう叫びます。
すると……
忘れもしません。雛苺が河原に落ちそうになった所を助けてくれた少女が……
頭の上でピコピコ動く犬耳まで、まるであの日のまま……救いの女神のように登場したのです。

金糸雀は周囲に散らばった服にもぞもぞともつれながら、助けを求めます。
「みっちゃんの買ってくれたお洋服を…… 」
そう言い、少女に近づいた時です。
金糸雀は、いきなり頬を打たれました。

頬を押さえ呆然とする金糸雀に……真紅は犬耳をピンとさせ、言いました。
「そのみっちゃんという女性は、あなたを心配して一人でこのマンションに駆け込んだのよ。
 それに……この部屋を見ただけでも……あなたがどれだけ愛されているのか分かるわ。 」

真紅は煙の広がる部屋に視線を巡らせ……再び、金糸雀を見つめます。

その青い瞳の輝きは、厳しさの中にも優しさと思いやりを秘めた……例えて言うなら、群れのリーダーのような。
そんな、どこか暖かな印象を与える目でした。
 
「物は、例え失われてしまっても……思い出は残るわ。
 でも……あなたが失われてしまえば……それはとても深い悲しみになるの…… 」

真紅はそう言うと、先ほど金糸雀の頬を打ったのと同じ手で……今度は優しく、彼女の頭を撫でます。

金糸雀は……いかに慌てていたとはいえ、自分がしてしまった事を心から悲しく思いました。
大好きなみっちゃんを危険な目に会わせてしまった事。
そして……もし、自分の身に何かあれば……
ひょっとするとそれは、大好きなみっちゃんの笑顔を奪う事になったかもしれない。

金糸雀は涙を流しながら真紅にしがみ付き……小さな声で、何度もごめんなさいと繰り返します。
真紅は軽く息を吐いてから、金糸雀の頭をもう一度撫で……

「さあ、今頃はあなたの大好きなみっちゃんも外で待っている頃だわ。
 早く会いに行ってあげましょう 」
そう言い、危なくないように金糸雀を抱きしめながら部屋の外へと向かいます。


廊下にはすっかり煙が広がっていて、ハンカチで口元を押さえていようとも咳が止まりません。
目もシパシパするし、怖くって泣いちゃいそうです。

熱い煙が押し寄せよせてきますし、火の粉も舞っています……

真紅は時々、頭の上で犬耳をピコピコさせて……比較的、火の気の少なそうな場所を選びながら進みます。

やがて見えてきた、マンションの出口から射す光を目の端に映しながら……
金糸雀は改めて、二度も窮地に駆けつけてくれた少女を見つめながら、こう思いました。


――― いつかカナも、こんな風に立派な犬耳を生やして……皆の役に立ってみせるかしらっ!! 




 
|