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MISSION5――再会の歓び――

 

 中庭から通路に入りふぅ、と息を吐き如雨露を構えると、そのまま思いっきり右側に突き出した。
 如雨露はそこにいたゴーレムを突き刺して泥に還し、周りにいるゴーレム達を見回す。
「これから感動の姉妹の再会ってのに、水を差すなんて無粋な奴等ですね!」
 行く手を阻むザコ達に苛立ちながら銃を乱射し、如雨露を振るって倒していく。
 本来なら無視して突き進みたい所だが、通路全体に結界が張られこいつ等を倒さないと先に進めないようだ。
 まるで蒼星石が翠星石の腕を試している、そんな思惑が感じられて不愉快な気分だ。
「はぁっ!」
 最後のゴーレムを倒すと結界が消え、薔薇水晶の言っていた螺旋階段がある方へ向かっていった。
 そこの吹き抜けの下には広いホールがあり、十字架の書かれた扉があるのに気が付いた。
 あれが礼拝堂だろう。翠星石は高まる鼓動を抑えながら階段を降りていく。
 階段を降りてその扉を手で押すとあっけなく開き、そのまま中に入っていった。
 そこは確かに礼拝堂に違いないが、その雰囲気は翠星石の知っている礼拝堂とは大きく異なっていた。
 壁一面に書かれている宗教画は異様な物で、大鎌を持った死神が白い衣を着た天使を羽交締めにしていたり、天使が拷問に掛けられている。
 ステンドグラスも骸骨が白いベールを羽織っている物で、不気味な雰囲気を漂わせている。
 邪悪な怨念がそれから発せられている様な雰囲気で、神を冒涜しているとしか思えなかった。
 そして幾つも木製の長椅子が並べられている中、部屋の真正面に背を向けている人影が見えた。
 巨大な鋏を背負い、ハットを被って宗教画を見上げている髪の短い女性…。
 見間違えるはずも無い、蒼星石だ。
 その姿を確認し、蒼星石に近づいていくと不意に扉が勝手に閉まり結界を張られてしまった。
 一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し蒼星石の方を向く。
 どうやら逃がすつもりは無いらしい。もっとも、逃げるつもりも無いが。

 

 そこで蒼星石がゆっくりと翠星石に振り向き、数メートルの間を挟んで約一年ぶりにお互い顔を見合わせる。
 それでもすぐには口を開かない。
 蒼星石は目を閉じて深く息を吐き、数秒経って目を開けると翠星石の顔をジッと眺めた。
「…久しぶりだね、姉さん」
 一年前までは、悪魔に見せていたような不気味な笑顔を翠星石に浮かべる。
 翠星石も答えるように不敵な笑みを浮かべて腰に手を当てた。
「ああ、そうですね」
「どう? この再会のシチュエーションは」
「…いやはや、大したパーティですね」
 翠星石は肩を竦めて、やれやれといった口調で言葉を投げかける。
「パーティだって言うのに酒も食い物も無い、おまけに出て来るのはダンスのダの字も知らないような連中ばかり…ここまでセンス無いなんて思わなかったですよ」
「心外だね。これでももてなし方を一生懸命考えたんだけど…どうやら感性が違ってたようだ」
「まったく…。私みたいな上品な姉がいながら残念です」
「上品? 散らかした部屋の片付けをしていたのは、僕の方が多かったはずだけど?」
 フッと小ばかにしたような笑顔を浮かべ、翠星石を挑発する。
 翠星石はその挑発に笑い声を上げ挑発し返し、蒼星石もクックッと笑い出し、礼拝堂に二人の笑い声が木霊する。
 たっぷり数十秒間二人が笑い続けると、二人の顔から笑顔が消えてピンとした緊張感が走った。
 それまでの雰囲気が嘘のようで、少しでも刺激を与えれば均衡が崩れそうな空気だ。

 

「…君が聞きたいのはそんな事じゃないんだろう?」
「さすが双子の妹、よく分かってるですね」
 翠星石は髪を弄るのを止め、蒼星石の目をジッと覗き込んだ。
「…この一年間何してたですか? 悪魔を滅ぼすとか言っといてこんな所に居座って…悪魔の王にでもなったつもりですか?」
 核心を突いた質問に、蒼星石は真顔を崩す事無く口を開いた。
「あれから一人で悪魔を狩り続けて、僕は感じたよ。このままじゃ力が弱すぎるってね」
「力?」
「ああ。君の如雨露と、僕の鋏に嵌められた、悪魔の宝石…それだけじゃ明らかに力不足だ」
 翠星石の腰の如雨露を見つめながら蒼星石は言う。
 その顔からは感情という物が読み取れない、冷たい物だ。
「それに気付いてから僕は色んな文献を読み漁ったよ。古代の聖戦の歴書、魔術…それで、僕は気が付いた。答えは身近な所にあったんだ」
「…何がですか?」
「この悪魔の宝石…悪魔に抵抗できるのは悪魔の力…つまり、悪魔の力を直接体に得れば最強の力が手に入るって!」
 力強く握り拳を作り、熱弁を振るって見せたが翠星石はつまらなそうな表情を浮かべたままだ。
 それに気付く様子も無く、蒼星石は話を続けていく。
「よく考えたら生身の人間が悪魔に完全に勝てるわけが無いんだ…そうだろう?」
 蒼星石の問に翠星石は答えず、そのまま熱弁を聞き続けていく。
「力があれば負ける事は無い…それが例え、悪魔の力でも…」
「…悪魔の力ね。そんな物に価値があるとは思えませんけどね…」
「要は使いようだよ。悪魔は悪魔でも、これを有効に使えば正義の力になる。そう…伝説の魔剣士、スパーダのようにね!」
「スパーダ…ですか」

 

「姉さんも知ってるだろう? かつて正義に目覚めた悪魔、スパーダの手によって人間界の平和は魔界から守られたという神話…」
 翠星石は頷く。
 この世界に生きるなら知らない者はいないほど有名な話だ。
「悪魔の中にはそういったのもいる…僕が悪魔の力を得て奴等を滅ぼせば、僕もスパーダのようになれるんだ!」
「お前がスパーダ?」
「その強大な力を得る為には、直接魔界に行く必要がある。そこで悪魔の力を取り込み、僕は最強の魔剣士として生まれ変わる!」
 最初は無感情だったその表情が、今ではどこか狂気染みた笑みを浮かべて翠星石の方へと手を広げ向き直した。
 だが翠星石は呆れたような表情のままだ。
「それであの女…雪華綺晶と知り合ったわけですか」
「ああ。ここの書庫で魔界の文献を見つけてね。邪気が強いここで彼女と魔界の門を開く事になった」
 邪気が強い…さっき薔薇水晶が言っていた儀式の話が思い出された。
 そんな女と手を組む事になったのか…。
「僕は悪魔を滅ぼす為に力を得る…そうすれば誰にも、何にも負けない。この力で復讐を果たすんだ」
 散々喋って少し疲れたのか、蒼星石は一つ深く息を吐くと狂気染みた笑みを引っ込ませ柔らかい笑みを浮かべて見せた。
 その顔はかつて一緒に狩りを行っていた頃のそれにも見えるが、それでもどこか違和感が感じ取れる。
 やはり、あの頃の蒼星石ではない…復讐に溺れた、哀れな戦士の顔だ。
「…君なら分かってくれるだろう? さあ、姉さんも一緒に悪魔の力を得て、奴等に復讐を果たそうよ」
 まるで子供のような無邪気な笑顔。
 だがそれを冷笑し、翠星石は一瞥する。
「…ミイラ取りがミイラに…いや、この場合悪魔狩人が悪魔に…って言った方が適切ですね」
「…何だって?」
 蒼星石の眉が引き攣り、笑顔が消え去った。

 

「お前がスパーダに? 笑い話もいいところです。一年見ない間にずい分と頭が悪くなったようですね、蒼星石」
「何だと…」
「こう言っちゃ悪いけど、お前はとてもスパーダになれるようなタマじゃない。悪魔に魂食われて、終わりですよ」
「…翠星石…分かってくれないのか…」
 表情に怒りが表れ、翠星石の顔を殺気の篭った視線で睨みつけてくる。
 その視線を弾き返すように、ハッと鼻で笑う。
「分かりたくも無いですね。とにかく、そんな計画には賛成できませんね」
「…そうか…」
 張り詰めていた緊張感が一気に膨れ上がり、もう二人の衝突は避けられない状態だ。
 もはや二人の耳にはお互いの呼吸音以外何も聞こえていない。
 いつ掛かって来ても良いように、全神経を相手に集中させる。
「まあ何だかんだで一年ぶりの再会ですから、キスの一つでもしてあげましょうか。…こいつの嘆きのキスをね!!」
 ホルスターからレンピカを抜き取り、蒼星石に構える。
 それを見て蒼星石は、少し懐かしそうに目を細める。
「レンピカ…ちゃんと使ってくれてたんだね」
「馬鹿な主を持って、こいつも可哀想な奴ですね」
「…やるの? 僕と…」
「姉としてグレた妹を更生するのは当然の事ですからね。…少し痛い目を見てもらうですよ」
 翠星石の指が引き金に掛けられる。
 それを蒼星石は不敵な笑みを浮かべて見つめていた。

 

「姉妹喧嘩か…懐かしいね」
「忘れたんですか? 私が姉妹喧嘩で負けた事…一回も無かったって」
「ああ…そうだったね」
 蒼星石の背中から鋏が抜かれると同時に雷鳴が鳴り響き、静かな時間は一瞬にして終わりを遂げた。
 そして同時に、史上最強の姉妹喧嘩が始まる事となる。

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