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悲劇の産んだ狂気。


狂気の産んだ呪縛。


天秤に掛かるは『欲』と『理性』。


どちらに傾いていますか?



侵してはならぬ聖域に踏み込みし罪人。


来世などという標識はございません。


懺悔する間も恐怖する間も無く、混沌に呑み込まれてしまうでしょう・・・。



さて、手に入れたものは神の力。


その代償は貴方の心臓。


あなたなら、えらべますか?




ある時計屋に、老夫婦とその息子が住んでたんだ。


おじいさんはもうすぐだった息子の誕生日のために、特別な腕時計を作ったんだって。


その腕時計には録音機能が付いていて、息子はきっと喜んでくれるだろうとおじいさんは楽しみにしてたの。


でもその誕生日に息子が急に熱を出して寝込んじゃったわけ。


それでお医者さんを呼んで夫婦で見守ってたんだけど、息子の病状は悪くなる一方。


悲しみ嘆く夫婦。


結局その子死んじゃったんだけど・・・ふとした拍子に腕時計の録音が始まっちゃったの。


【「(息子の名前)!!」
「○時○分、ご臨終です・・・。」】


そのやりとりが腕時計に記憶されたんだ。



その後を聞いて驚いたよ。
だっておじいさん、おばあさんとお医者さんを殺して自分も自殺しちゃうんだもん。


悲しみで狂っちゃったのかもね。


それからはね、その腕時計は持ち主を求めて彷徨ってるって話らしいの。


もしそれを手に入れたら試してみてね。
誰かの名前をそれに録音するだけだから。


そうするとね、腕時計からお医者さんの声がするんだって。
『○月○日、○時○分。ご臨終です・・・。』って。


それは録音された名前の人の死ぬ瞬間なんだってさ。
だけどそれだけじゃないよ。
時計の時間をずらすと、その宣言された時間も変わるらしいの。
でも時間は早送りにしかできなくて、巻き戻しはきかないとか。


それはつまり、名前を録音された人を早く殺せるってこと。
だけど気をつけてね。


そうすると持ち主の寿命も早送りされるってことだから・・・。


ねぇ、あなたならこんな腕時計欲しい?






暖かい春の日の朝。澄んだ空間に響く少女の声。


「あれ?」


声の主は高校生・蒼星石。


ポストの中には朝刊と共に不思議な形をした腕時計が入っていた。


「誰のだろう。僕のじゃないし・・・。」


首をかしげる蒼星石。しかし紛れもなく彼女の家のポストに入っていた物だ。
それはまるで魅入ってしまう程に、妖美なオーラを放っている。


『キレイな時計...。僕が使っちゃってもいい・・・よね。』


蒼星石は少しだけ幸せな気分になった。
さっきまでの疑問はすでに霞んでいた。


付けるのにはちょっとばかり気恥ずかしかっので、それをポケットの中にしまう。


登校するにはまだ早かったので、蒼星石はゆっくりと歩いて行くことにした。


腕時計はポケットの中で、静かに時を刻む。



カチリ、カチリ、カチリ、カチリ・・・・・




蒼星石は自分の席で、今朝見つけた腕時計を眺めていた。


「えへへ・・・僕の時計。」


いろいろな角度から見ていくと、側面に小さなスイッチのような物があるのに気付いた。


『なんだろう、これ。』


押してみても特に変化はなかった。


そう悦に浸っているところに、ある声がそれを邪魔する。


「あら、今時腕時計? まぁ地味あなたにはちょうどいいんじゃなくて?」


その声は、同じクラスメイトの真紅のもの。彼女はそう言い捨て立ち去ってゆく。


「真紅・・・。」


蒼星石は真紅が苦手だった。それでも特に気にしてはいなかったが。



時計のスイッチは押されたままだった。




『シンク・・・。』


突然、彼女の間近から声がした。


どこからともなく聞こえたそれは、蒼星石自身の声だった。


「えっ?僕の声??」


彼女は、その声が腕時計から聞こえたものだとすぐに気付いた。


「へぇ、これ録音のスイッチだったんだ・・・。」


感心もそこそこに、続けざまに別の声が響く。


彼女のものではない、まったく違う冷たい声。



『真紅、2065年、5月25日、8時5分...ご臨終です・・・。』



蒼星石はぽかんとしたまま、ただ手に持っていたその腕時計を傍観していた。


『ご臨終って・・・お医者さんが言う、死ぬ瞬間のこと?  
でもこんなに細かい年や時間まで言うものなの? 真紅って名前言ってたし・・・。
え、と・・・てことは真紅はその日その時間に死ぬってこと??』


彼女は混乱していた。しかしその疑問はすぐに好奇心に変わることになる。


分からないなら、試せばいい。と。


『僕が録音した名前の人の寿命が告げられる・・・そうだよね。』


蒼星石は、たった一度の、偶然に起こってしまった結果から全てを把握してしまったのだ。


彼女の頭の中は妙に冴え渡っていた。


まるで、解法を知ってしまったパズルを解くように・・・。


まるで、何かに取りに憑かれているかのように・・・



それから蒼星石は、試行をし始めることにした。
翠星石。雛苺。金糸雀。薔薇水晶。雪華・・・と。


しかし何度やっても同じ答えだった。
何せ、その腕時計は、ただ遠い未来を宣告しているだけなのだから。


いや、もう一人残っていた。
スイッチを押し、録音を始める。


「・・・水銀燈・・・。」


小さな機械音の後に返ってくる自分自身の声。
「・・・スイギントウ・・・。」


好奇心と興奮が昂ぶる。


「水銀燈・・・。2006年、3月22日、19時10分・・・ご臨終です...。」



とたん蒼星石に笑顔がこぼれる。
カレンダーを見た。
だって、あと6日。


彼女、もうすぐ死ぬから。



それからというもの、蒼星石はその日が楽しみで仕方なかった。


彼女の好奇心は、もはや狂気へと孵化しかけていた。


どこにいようと、腕時計を片手に、常に自分の世界に浸っていた。
しかししばらくすると、楽しみというより、禁断症状に冒されているかのように感じていた。


はやく、死ぬところが見てみたい。と。



そしてある日、蒼星石は腕時計のずれた時間を修正しようとして、あることに気付いた。
ネジを回すたびに、時計の端に記されている日時が進められるということに。


今日は、19日。


時計の日にちは、21日。


もう、引き返せない。



翌日、蒼星石は夜、バイト帰りの水銀燈をつけていた。
死亡予定の時刻まで、1分をきっていた。しかし、まったく予兆のようなものなど、起こらない。


蒼星石は焦っていた。このまま何もなければ・・・。


・・・何も、なければ・・・?



時刻まで30秒。


10秒。


3


2


1


・・・。
そう。何も、なかった。


水銀燈は自宅に入っていった。


蒼星石は絶望した。




一人街灯の下に取り残された蒼星石。


当然だった。なんの根拠も無しに、こんないたずら道具に依存していた方がどうかしていた。
そんなもののために人格崩壊しかけていた自分が気持ち悪かった。


持っていた腕時計を地面に叩きつけ、強引にネジを回していく。
「こんなもの・・・こんなもの・・・こんなもの!!!!!」


激昂の、緊張の糸が切れたのか、突然蒼星石の意識はそこで消える。
ばたりと倒れこんでしまう蒼星石。



地面にはヒビ入った腕時計がひとつ・・・



『・・・ガ・・・ガガ・・・

 ・・・スイギント・・・レイジ・・・レ・・イフン・・・ゴリン・・・ジュ・・・

  ガ・・ヒ・・・ガ・・ガガ・・・ヒヒ・・・ガガガガガ』



時計は


止まらない



蒼星石が目覚めると、電光時計は0:01を指していた。


『あれ・・・まだこんな時間・・・。』
次の瞬間、蒼星石はあることに気付いた。


彼女の部屋に、デジタル時計は無い。
暗がりで、細かく確認しかねたが、どうにも自分の寝室ではない。
手には何かを持っている。
そして、部屋中に漂う生臭い臭い・・・。


『と、とりあえず電気点けよう・・・。』


立ち上がった蒼星石の足に、何かがつまずく。


『何だ・・・?』


手探りで部屋の壁にあるスイッチを探す。


一瞬光に目が眩む。


足元にあったもの、それは




部屋の中央に転がる、人の形をしたそれ。


乱れた銀髪。恐怖に歪む表情。


水銀燈、だったものである。


顔から下は正視できるものではなかった。
部屋中に飛散している血、血、血。
蒼星石の手には、返り血に鈍く光る包丁。


そして、捨てたはずのあの腕時計。


「ぼ、、僕が・・・?? あ、ぁあ・・・うわぁああぁぁ!!!」


部屋を飛び出し、ひたすら走り続ける蒼星石。


時計の歯車がずれだす。


ギシリ、ギシリ、ギシリ、ギシリ・・・




蒼星石は自分の部屋で震えていた。
さっき目にしたものが、夢であると、自分に言い聞かせていた。


それでも鼻の奥にはあの血の臭い。
脳裏には水銀燈の恐怖の表情。


たしかに蒼星石は、誰かの死を望んでいた。
しかしそれは蒼星石自身のものではなく、何かがそうさせていた。


何か?


そんなこと彼女は知っていた。


でも、もう遅い。


真実は変えられない。


時計は止められない。


ここは、9秒後の黒。


ぜんぶ、ぜんぶ、手遅れ。




ポケットにはあの腕時計。
蒼星石は泣いていた。自分が情けなく、あまりに愚かだったことに。


「僕は・・・僕は・・・。」


突然、真っ暗な部屋に聞き覚えのある声が響く。


『ガガガ・・いやだぁあガガガ・・・ぁぁああ!!! ゆるガガガ・・て!!! だれか助け・・・ガガガごめガガガガなさぃぃぃガガ・・・!!! ガガガすいぎん・・・・・・ぷつ』


聞き覚えのある? 当然だ。彼女自身の声だったから。
それはポケットの中の『アイツ』が出している音。しかし、蒼星石はあれ以降何も録音していない。
すぐにその音は消え、部屋は再び静まり返る。


はずだった。



『ヒヒ・・・蒼星石、1時11分、・・・ご臨終です。ヒヒヒヒ・・・・。』
全身に鳥肌が立つ。それも聞き覚えのある予言。


時計を見ると1時10分を指している。


そして窓の外には



「え?」



FIN




いつしか悪霊は、剣にではなく彼女自身に取り憑いていたようです・・・。


歯車が狂い始めたとき、ヒトもそれに巻き込まれてしまう運命。


責任とは、鎧の様に重い物。


彼女はきちんと代償をお支払いになりました。


さて、利子がつかぬうちに、あなたも急がれたほうがいい・・・。


夢だけで終わらせるためにも・・・。


奇妙な贈り物にはご用心ください。


それでは、ごきげんよう。

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