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ちょっと小さなマンションの一室で。

可愛らしい黄色のドレスを着た金糸雀が、恥ずかしそうに扉の影から姿を現しました。

「ど…どう……かしら…… 」
ちょっとほっぺたを赤くしてうつむきながら、スカートの端っこを摘んだりしてみます。

そして……そんな金糸雀の前には、目をキラキラさせた女の人……
彼女の保護者である、草笛のみっちゃんがハァハァと呼吸を荒げていました。

次の瞬間!
みっちゃんは獣のように素早い動きで金糸雀に飛び付きます!

「あぁぁぁああああ!!!!可愛いぃぃぃぃぃ!!!!カナァァァ!!!! 」
獲物を捕らえた歓喜の叫びを上げながら、みっちゃんは金糸雀のほっぺたに自分の頬を激しく摺り寄せます。

みっちゃんの頬は、愛の力を動力源としている為、一秒間に10回は上下します。
その際に発せられる熱量により、金糸雀のほっぺたはヒートアップ。
一説によると、その体感温度は生身での大気圏突入に匹敵するとも言われています。
結果………

「みっちゃん!ほっぺが……ほっぺが摩擦熱で……!! 」
「カナァァ!!可愛いんだからーーーー!! 」

金糸雀とみっちゃん……悲鳴と雄叫びが、今夜も小さなマンションに響き渡りました。 




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇
  



翌日。

「ぅぅ……寒いですぅ…… 」
制服姿の翠星石は、両手をこすり合わせながら帰り道を歩いていました。
「本当、めっきり寒くなってきたね。……手でも繋ごうか? 」
横では、いつもと同じように落ち着いた表情の蒼星石が笑みを浮かべています。

「なぁ!?い…いきなり何を言うですか! 」
翠星石はちょっとだけ顔を赤くします。
スカートの中に隠してあるふわふわの尻尾も、驚いた拍子にクルクルっと丸くなってしまいました。

そんな風に、二人で話をしながらテクテクと歩きます。
そして、その途中。
公園の前を歩いている時に、翠星石はある物を発見しました。

たい焼きと書かれた看板をかけた、小さな屋台。

「ちょうど小腹が空いてきた所ですぅ 」
翠星石はそう言いながら、目をキラキラさせました。
それを見ながら、蒼星石は「でも、ダイエット中じゃなかったっけ? 」と苦笑いを浮かべます。
「ぅぅ……ダイエットは明日からですぅ! 」
翠星石はちょっと頬を膨らませながら、屋台に向かって走っていきました。

「やい、おやじ!この翠星石にたい焼きを2つよこしやがれですぅ! 」
翠星石はそう言いながら、たい焼き屋にお金を渡します。
たい焼き屋の主人は「おう!威勢の良い嬢ちゃんだな!」と楽しそうに答えます。

「元気な嬢ちゃんには一個おまけだ!」と、豪快に笑いながらたい焼きの入った袋を渡す主人。
「そ…そんな物には釣られないですよ! 」と言いながらも、スカートの下で尻尾をブンブン振っている翠星石。
 

それから翠星石は、蒼星石と二人で公園のベンチに腰掛け……
二人で仲良く、たい焼きを食べる事にしました。

散り始めた紅葉が、冷たい風に吹かれてはらはらと舞い散ります。
たい焼きの甘さが、二人を体の芯から暖めてくれます。

カサカサと乾いた音を立てる落ち葉に耳を傾けながら、小さなベンチで寄り添いながら。
翠星石と蒼星石はたい焼き片手にのんびりと過ごします。

そして翠星石は一つ目のたい焼きを食べ終わってから……ちょっと、悩みました。
ここに居るのは、自分と蒼星石の二人。おまけしてもらったから、たい焼きは3つ。

翠星石はちょっと考えてから……残った1つのたい焼きを二つに分けます。
そして……
「す…翠星石はダイエット中ですから……特別に、大きい頭の方をくれてやるですぅ! 」
蒼星石にたい焼きの頭の方を押し付けると、自分は尻尾の方を食べ始めました。

蒼星石は最初、食い意地が張った翠星石の意外な行動に、頭の上で猫耳をピンとさせて驚いていましたが……
すぐに、不器用な……でも、とても優しい姉の心に気付いて、嬉しそうに目を細めました。

ちょっとだけ暖まった体で、二人はベンチに座ったまま公園を眺めます。
風が吹く度に、木からは落ち葉が零れ落ち……穏やかな気持ちが、胸いっぱいに広がっていきます。

冬の到来を感じさせる、静かな時間。

ふと、蒼星石は肩に異変を感じました。
見ると、翠星石が自分の肩にもたれ掛かりながら、すぅすぅと小さな寝息を立てています。
 
「こんな所で寝てると、風邪を引くよ? 」
そう言い、蒼星石は翠星石に手を伸ばしますが……
あと5分。あと5分だけ、翠星石の寝顔を眺めているのも悪くない。
そう考え……伸ばした手で、そっと翠星石の頭を撫でました。

まるで鏡に映したみたいに、自分とそっくりな姉の顔。
自分とは違い、素直じゃないけれど……それでも、沢山の感情を見せてくれる顔。

翠星石の顔を、蒼星石はいつまでも飽きる様子も無く、幸せそうに眺めていました。
そんな風にしていると……聞きなれた声が、すぐ近くから聞こえてきました。

「……すっかり紅葉も散ってしまったわね 」
見ると、赤い落ち葉を身の回りに舞い散らせながら、真紅がすぐ傍に立っていました。

「隣、失礼するわ 」と言い、真紅は蒼星石の横に座り……
自動販売機で買ってきたばかりと思しき、まだ温かい紅茶の缶を蒼星石に手渡します。
そして、自分も紅茶の缶を開け、寒空にそっと息を吐きました。

「……町の図書館まで行って調べてみたけれど……… 」
そう言うと、真紅は髪に隠してある犬耳をぴょこんと出します。

聴覚に優れた真紅が犬耳を出したという事は、ここには自分たち以外に誰も居ないという事だろう。
蒼星石もそう判断して、帽子をとり、猫耳をぴょこんと出します。

「一体…これって、何なんだろうね…… 」
蒼星石は、頭の上でピコピコ動く猫耳を触りながら呟きます。
「今はまだ……何も分からないわ…… 」
真紅も、頭の上で犬耳をうなだれさせながら呟きます。

小さな紅茶の缶の口から上る湯気が、雲一つ無い乾いた空に吸い込まれていきました……。 


―※―※―※―※―


「ぅぅ……さ…寒いかしら…… 」
頭の上に氷枕を乗せた金糸雀が、体温計を咥えながら布団で丸まっています。

みっちゃんのリクエストで、色んな洋服に着替え……その度に『まさちゅーせっつ』され……
それから、また次の服に着替え、まさちゅーせっつ。

そんな事を繰り返していた金糸雀は、すっかり風邪を引いてしまっていました。

みっちゃんは目を白黒させながら、会社を休んで金糸雀の為にお薬を買いに行って……
お陰で金糸雀は、みっちゃんが帰ってくるまで一人でお留守番。

寂しそうな表情で時計を眺め……金糸雀はちょっとだけ怒りながら呟きます。
「……こんなの、温かくして寝てれば、すぐに治るかしら……みっちゃんも心配のしすぎかしら! 」 

本当はそれ以上に、病気で心細い時だからこそ一緒に居て欲しいと思ってはいるのですが……
そんな事をみっちゃんに言ってしまえば、それこそトイレにまで一緒に来たりされかねません。
流石に、それは勘弁してほしいです。

頭の上の氷枕をポイッと外し、金糸雀は拗ねた表情を隠すために頭まで布団をかぶります。
風邪のせいで体温も上がっており、布団はすぐに暖かな楽園に。

ものの5分もしない内に、金糸雀はすやすやと夢の世界に旅立っていきました。


その頃……彼女の住む部屋のちょうど真下の部屋で……
誰も居なくなった部屋の、消し忘れたストーブから、黒い煙が立ち込め始めているとは気付かずに…… 




 
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