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ジュンの部屋に置かれたテーブルの前で……
真紅は携帯電話を片手に少しだけ眉間に皺を寄せていました。

頭の上でピコピコと、今日も元気に動き回る、この犬耳。
何とか、これが外れないものか……せめて、何かこれの手がかりでも。
そう思い、ジュンの家で作戦会議を開く事になったまでは良かったのですが……

どれだけ待っても、ふさふさ尻尾の翠星石と、猫耳蒼星石の二人が来ません。
それどころか、連絡すらとれない始末。

単なる心配のし過ぎとも思えましたが、そこはやっぱり頭の上で秘密をピコピコさせる者同士。

「まさか……誰かに見つかって……今頃はNASAに…!? ああ!そんな…! 」
真紅は想像力逞しく、勝手な光景を脳裏に広げます。

「もしそうなら…今頃、私の助けを待ってるに違いないわ!
 ジュン!すぐに二人を連れ戻すから、あなたはそのままパソコンでこの耳を調べていて頂戴! 」
まるで根が生えたみたいに机の前から動かないジュンにそう声をかけると……
真紅は固い決意を胸に、彼の部屋から出て行きました。

勇ましく、そして優雅に、ピンと空を指す犬耳を見送ってから……ジュンは再び、パソコンに向かい合います。
そして、暫く考えた後……普段からは想像も付かない真面目な表情で、キーボードを叩きました。

「犬耳っ子のエロ画像ください……っと 」
引き篭もりは、今日もスレ建てに御執心です。




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇


 

「……寒いわね…… 」
ジュンの家から外に出るなり、真紅はそう呟きました。
ピューっと冷たい風が吹き、思わず小さな体を余計に小さくしてしまいます。

自分の家はすぐそこだし、コートでも。
一瞬、そんな考えが脳裏に浮かびますが……

『放しやがれですぅ!!』『うわー!真紅ー!』
尻尾や猫耳がバレて、白服の研究員に拉致されている翠星石と蒼星石の姿が目に浮かび……

結局、一刻の猶予も無いと判断して、寒空の下をテクテク歩く事にしました。


吹く風は確実に彼女の体温を奪い、そのせいで頭の上では犬耳がふるふると震えています。

「……情けないわね……あなたはこの真紅の耳なのでしょう?寒さくらい、我慢なさい! 」
真紅はそう言うと、お仕置きのつもりで、すっかり冷たくなった手でギュッと頭の犬耳を掴みます。
そして、あまりの手の冷たさに……「ひゃっ!? 」と悲鳴を上げながら、思わず飛び上がってしまいました。

……ほんのちょっとだけですが、恥ずかしさで体温が上がりました。

頬をほんのり赤くしながらも、それでも真紅は何食わぬ顔で歩きます。
こんな些細なミスで動揺を露にするようでは、一人前のレディーとは言えないからです。
もっとも、普通のレディーは頭に犬耳なんて生やしてはいませんが。

 
そんな風に、テクテクと歩く真紅でしたが……
まさか、「尻尾の生えた女の子が拉致されていませんでしたか? 」なんて聞き込みをする訳にもいきません。
とりあえず、手がかりになりそうな場所。
翠星石と蒼星石、二人の住む家へと向かってみる事にしました。

犬耳をレーダーのようにして周囲の音を確認しながら、慎重に二人の家へと向かいます。
町はとっても静かで平和でしたが……吹く寒い風と静寂が、嫌な予感をかえって胸の中に広げます。

「翠星石…蒼星石……どうか…無事でいて…… 」
祈るように呟いた言葉は、枯葉がカサカサと舞い上がる音にかき消されていきました……。


そして……
真紅の不安は、二人の家の前まで来た時に最高潮に達しました。


耳を澄ませば、家の中からはテレビの音が聞こえてきます。
ですが……それ以外の音。例えば、誰かが歩く音や……本のページをめくる音すら、聞こえてきません。
人が生活していて然るべき音の一切が、まるで切り取られたかのように抜け落ちていたのです。

『閑静な住宅街 真昼の凶行』
なんて嫌な言葉が脳裏をチラつき始めます。

真紅は犬耳を精一杯ピンッと伸ばし、髪の毛一本落ちる音ですら聞き逃すまいとしながら……
足音を殺して、様子を探るために、家の周囲を回ってみます。

そして、生垣の間から家の中を覗いて見ると………
まるで助けを求めでもしているかのように、震える手を精一杯伸ばしている翠星石の姿が!!
 
「大変!!翠星石!! 」
真紅は警戒する事も忘れそう叫ぶと、大急ぎで彼女の家の玄関へと向かいます。
ポイポイっと靴を脱ぎ……やっぱりキチンと整えて、それから翠星石の姿が見えた部屋の扉を勢い良く開きました。

そこには……
こたつに足を入れたまま、横着して、手だけを伸ばしてテレビのリモコンを取ろうとする翠星石が……

真紅には、全身の力がへなへなと抜けていく音が聞こえた気がしました。
実際、頭の上では犬耳が、ぺたんと力無く倒れています。

そんな真紅の状況は気にせず、翠星石が声をかけてきました。
「おお、真紅じゃねーですか。いい所に来たですぅ。 ちょっと、リモコンのやろーをこっちまで…… 」

深い、魂が出ちゃいそうな位に深いため息を付きながら、真紅は翠星石にリモコンを渡します。
そして、呆れたような表情のまま、翠星石に言いました。

「全く、心配して損したわね。翠星石、あなた一体、何をしているの?
 今日は作戦会議をすると……… 」

そうは言うのですが……
ずっと寒い外に居た上、緊張感がすっかり解けてしまった真紅にとって………
お小言も大事でしたが、それ以上に目の前のこたつの魅力は大きすぎました。

「こんな事なら、連絡の一つもしてくれればいいんじゃないの? 」
「ぅぅ……寒くてこたつから出られなかったですぅ…… 」
翠星石にお説教をしながらも、その足は一歩、また一歩とこたつへと近づいていきます。
 
「それに、あなたただけじゃないわ。蒼星石だって……あら?そう言えば、蒼星石は? 」
そう言いながら真紅がついにこたつに足を入れた瞬間です。

何かぷにっとした物が、こたつの中で足に当たりました。

何かしら?そう思い、真紅はこたつ布団を持ち上げて中を覗いてみます。
すると、こたつの中心では、蒼星石が体を丸めて寝ているではないですか!

しかも、布団が持ち上がって冷たい空気が入ってきでもしたのでしょう。
「お願いだから、早く閉めてよ 」とでも言いたげな感じで、蒼星石の猫耳がピコピコと動きます。

「………これじゃあ、まるっきり猫そのものね…… 」
真紅は呆れてそう呟くと、何も見なかった事にして、持ち上げていた布団をおろしました。

「ぅぅ……あの快活だった蒼星石が、すっかりストーブの前の猫状態に………
 あ、ところで真紅。ミカン食べるですか? 」
「ええ、頂くわ。
 それを解決する為にも、情報を集める予定だったけど……すっかり狂ってしまったわね 」

二人でミカンを食べながら、こたつでぬくぬくと過ごします。

頭では、今すぐジュンの家に行って作戦会議をしないといけない。そう分かってはいるのですが……
これは間違いなく、こたつの魔力でしょう。
誰一人としてその場から立ち上がる気配を見せません。

 
やがてミカンでお腹もいっぱいになり……しかも、こたつの温かさが全身に幸せを届けてきます。
真紅と翠星石は、その温かさに身を委ねるように、ウトウトと………

………

……



不意に、翠星石はぶるっと身を震わせました。

よく考えたら、朝からずっとこたつに潜ったままミカンを食べていたので……
ちょっとトイレに行きたくなったのです。

こればっかりは仕方が無い。
そう思い、こたつから抜け出た瞬間!

屋外よりはずっとマシとはいえ、寒い空気が全身を襲います。
ふわふわで素敵な尻尾も、あまりの寒さにクルクルと丸まってしまいました。

「ぅぅ……寒いですぅ……出たくないですぅ…… 」
再びこたつにダイブして、暖かい世界へと浸ろうとしますが………そうもいきません。

こたつから出たくない。出なきゃいけない。
二つの矛盾した思いに、翠星石はちょっとだけ泣きました。

でも、泣いていても仕方の無い事。残酷な限りです。

翠星石はせめて、ぽかぽかに暖まった自分の尻尾を抱きしめ……
こたつから抜け出すことを決意しました。


そして再び、部屋に戻ってきた時には………ああ、何と言う事でしょう。
あんなに暖かだった尻尾はすっかり冷え、指先はとても冷たくなってしまっています。

「ぅぅ……寒さで背が縮んじまうですぅ…… 」
ぶるぶる尻尾を震わせながら、翠星石は再びこたつへ入ろうとします。
と、その時。
ふと悪戯心に火が灯りました。

チラッと様子を覗ってみると、真紅はこたつに入ったままウトウトしています。
頭の上では犬耳が時々ピクっと動いているだけです。

翠星石はその光景にニヤリと口の端を持ち上げると………
よーく冷えた手で、真紅の犬耳をギュッと掴みました!


「ひゃぁ!? 」と叫びながら、真紅が飛び上がります。
翠星石はそれを見て、楽しそうに尻尾をブンブン振ります。
こたつの中では蒼星石が、縁側でお爺さんとお婆さんとの3人でお茶を飲んでる夢を見ています。
ジュンは「ブラクラ張るなよ…… 」と、パソコンの前で頭を抱えています。


窓ガラスほんの一枚向こう側では、寒い風が吹いていますが……
今日の彼女達には、あまり関係無い事なのかもしれません。 






 
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