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ぶるぶる震えながら、翠星石と蒼星石は寄り添って歩いていました。

「ねえ翠星石……やめとこうよ…… 」
「だだだ大丈夫ですぅ……し…しっかりついて来るですよ…… 」

薄暗い神社の竹林にあるあぜ道では、小声で囁く二人の声だけが、やけに不気味に響きます……。

時折、頭上の木々から鳥の飛び立つ音が聞こえ……
にも関わらず……鳴き声一つ聞こえないのは、どこか不気味でもありました。

まだ太陽が沈むには早い時間だというのに、林の中は薄暗く…冷たい風が吹いています。

「やっぱり、肝試しなんてよそうよ…… 」
蒼星石は自分の手をしっかりと握る翠星石に、そう声をかけます。

「こここ怖いならかかか帰ってもいいんですよ!? 」
ブルブル震えながら、それでも翠星石は精一杯に強がった声を上げます。


ちょっとした肝試しにと、近所の神社までやって来た翠星石と蒼星石。
この時は二人とも、まさかあんな事になるとは想像もしていませんでした。




     ◇ ◇ ◇  け も み み ☆ も ー ど !  ◇ ◇ ◇


 

「ちょっと待って。あなた達の思い出話は聞いてないわ。
 私は、翠星石の尻尾について聞いてるんだけど… 」

屋上での一件で、翠星石の後ろでバッサバッサと動いている大きな尻尾を発見した真紅は……
とりあえず詳しい事情を聞く為に、彼女の家へと来ていました。

真紅はそこでやっと安心して帽子を外し、頭の上で犬耳をピコピコさせます。
翠星石も、お仲間が見つかって嬉しいのか、何食わぬ顔をしながらも尻尾をパタパタ振ってます。

そんな中……自分の家だというのに相変わらず帽子を被ったままの蒼星石が、口を開きました。

「いや、これは……翠星石の尻尾と…僕に関わる、大切な話でもあるんだ 」

そう言い、再び蒼星石が遠い記憶の話を語りだします。

それは、遠い、遠い、記憶の話。
決して忘れる事の無い、翠星石と蒼星石……二人が深い業を背負うまでの話……


◇ ◇ ◇


「ぜ…全然大した事ないですぅ…… 」
神社の薄暗い蔵の中で、翠星石が消え入りそうな小さな声で虚勢を張っていました。
「……声、震えてるよ? 」
背中にしっかりとしがみ付いた姉の手の温かさを感じながら、蒼星石は心配げに声をかけます。

それから二人は、狭く、暗い蔵の中を見渡し……思わず背筋が寒くなるのを感じずにはいられませんでした。
 

蔵の中には、幾つもの箱。
それだけなら、何も怖くありません。
ですが……その箱の中身全てが、呪われた品として神社に保管されている物だと知っていたら? 


ぶるぶる震えながら蒼星石の背中に隠れながら、翠星石は涙目で囁きました。

「と…とにかく……ここまで来たですから……何か証拠になる物を…… 」
そう言いながらちょっとだけ手を伸ばして、魔除けのお札の貼られた箱へと手を伸ばします。

「だから、やめときなって」と、蒼星石は言おうとします。
ですが……それは薄暗い蔵の持つ威圧感でしょうか。それとも周囲に置かれた呪いの品の見えざる魔力でしょうか。
喉からは何の言葉も出ず……渇いた息が少し漏れるだけでした。

そして、翠星石の指先が、魔除けの札に触れた瞬間……!

蔵の外で、野鳥が飛び立ちます。
その羽ばたきに驚いた翠星石が「ひゃっ!? 」と叫びながら翠星石に飛び付きます。
突然しがみ付かれて驚いた蒼星石が「わっ!? 」と声を上げます。
その声にさらに驚いた翠星石が「きゃぁぁぁ!? 」と絶叫しながら逃げ出します。
そんな姉の後姿に「ちょっと!す…翠星石!? 」と声をかけながら蒼星石も走り出します。

そして……再び静かになった蔵の中には……お札がちょっとだけ剥がされた箱と、静寂だけが残りました。 


… … … 

… …


「はぁ……今日は散々だったよ…… 」
蒼星石はとても深いため息を付きながら、自分の部屋の扉を開けました。

翠星石に付き合って神社まで肝試しに行ったお陰で、今日はもうくたくた。
お風呂にでも入ろうと、着替えを持つとそのまま部屋から出て行きました。 

そしてお風呂の前まで移動し、その細い指先でブラウスのボタンを外し始めました。
開かれた純白の服から、彼女の小さく、可愛らしいおへそがチラチラと見えます。
細く、余計な肉のない、それでいて女性的な柔らかさを感じさせる蒼星石のウエスト。

次はスカートを……
そう思った瞬間、蒼星石は……スカートのポケットに、何かが入っている事に気が付きました。
お陰で、入浴シーンは無くなってしまいます。

ともあれ。

「何だろう? 」
蒼星石はいぶかしみながらも、ポケットに手を入れてみます。
そして……そこに入っていたものを自分の目の高さまで持ち上げて……改めて言いました。
「……何だろう?……耳? 」

それはちょこんとした、小さなふさふさ。
まるで子猫の耳のように見えます。

「……こんな物、持ってたかな? 」
全く記憶にありませんし、誰かがくれた物にしても……差出人も目的も不明です。
蒼星石は、ちょっと気味が悪いなぁ、と思いました。

気味が悪いとは思ったのですが……彼女はちょうど、お風呂に入ろうとしていた所。
目の前には、洗面所。つまり……鏡があります。

魔が差したのです。
そうです。ただ、魔が差しただけなのです。

蒼星石は、鏡に映る自分の姿を見ながら……猫耳を頭に………
 

と、その瞬間!!
『ドシーン!』と、誰かが派手に倒れるような音が大きく響いてきました。

「翠星石!? 」
自分の家で、こんな近所迷惑な音を出すのは一人しか居ません。
蒼星石は脱ぎかけの服のボタンを簡単に締めると、慌てて風呂場から飛び出します。

「翠星石!大丈夫? 」
そう叫びながら蒼星石が姉の部屋の扉を開くと……そこには目を覆いたくなる光景が広がっていました。


「くっ!この……逃げるなですぅ!! 」
姉が、自分の後ろでパタパタ動く尻尾を追いかけて、同じ所でぐるぐる回っています。
そして、追いかけて、ぐるぐる回って……目が回ったのか、派手に転びます。

蒼星石は、そんな翠星石の姿に……軽い頭痛を感じずにはいられません。

悲しそうに頭を押さえ、力無く猫耳をうなだれる蒼星石と……
「くぅぅ……なかなかすばしっこいやろーですぅ! 」と言いながら立ち上がり、またぐるぐる回りだした翠星石。

と…そんな風に続ける内、自分の部屋までやってきた蒼星石の姿に翠星石も気が付きました。

「おお!流石は蒼星石!いい所に来てくれたですよ!
 ちょっと、このふかふか野郎を捕まえるのを手伝って欲しいですぅ! 」
そう言い、自分の後ろでブンブン動いている尻尾をにらみ付けます。

蒼星石はため息混じりに「……うん 」と言うと、翠星石の背後にまわります。
そして、もふもふした尻尾をギュッと掴んだ瞬間……

「きゃっ!?へ…変な所を触るなですぅ! 」
顔を真っ赤にした翠星石に怒られました。

それから翠星石は、恥ずかしそうにうつむきながら、もじもじしながら小さな声を出しました。
「も…もっと……その…………あ…あんまり乱暴に触るなですぅ! 」


蒼星石は、顔を赤らめる翠星石の姿にキュンキュンしちゃっていて……
自分の頭に猫耳が引っ付いた事には、一切気が付いていません。


◇ ◇ ◇

「……うぅ……聞くも涙、語るも涙とはこの事ですぅ…… 」
翠星石が自分のふかふかした尻尾をハンカチ代わりに目に当て、泣きながら言います。

一体、どこに泣く要素があるのかは分かりませんでしたが……
それでも、犬耳を間違いで付けてしまった真紅には……その悲しみというのか、情けなさというのか……
とにかく、翠星石の涙の理由が分かる気がしました。
ちなみに翠星石は嘘泣きですが。

「……まあ、そんな事があって……僕は猫耳、翠星石は尻尾が付いてしまったんだ 」
蒼星石がそう締めくくります。
そして、帽子を外した蒼星石の頭の上には…可愛らしい猫耳が付いていました。

真紅は猫は苦手ですが、人形の猫だと平気ですし、耳だけだと怖くもありません。
むしろ、自分と同じように耳が4つある者として親しみすら感じました。

真紅も、自分が犬耳になった経緯を話します。
引きこもりの幼馴染が、インチキ通販で買った事。
些細なミスで、それを頭に乗せてしまった事。
 

そんな真紅の話を聞き終えると……今度は翠星石が目を白黒させながら叫びます。
「私たち以外に、この秘密を知ってるヤローがいやがるとは……!
 そのジュンとかいうヤツ、今の内にトるですよ! 」

「まあまあ、落ち着いてよ翠星石……ひょっとしたら、僕らの仲間になるかもしれないだろ? 」
楽しそうに包丁的な何かを取り出した翠星石を、蒼星石がなだめます。
それから、小さく咳払いをして……今度は急に真面目な顔で、真紅の目を真っ直ぐに見ました。
「でも……実際、僕や君の耳や……翠星石の尻尾のことが世間にばれたら…… 」

真紅は力強く頷くと、静かな、それでも確かな声で答えます。

「大丈夫なのだわ。今日一日の事だけど、細心の注意を払ったから……誰にもばれてなんかいないわ 」

それを聞いて安心したのか、蒼星石は表情を緩めます。
それから、同じけもみみの先輩として、いざという時の耳の隠し方を。
そして、(誰にも見せることは無くっても、レディーのたしなみとして)
ブラッシング……要は、けもみみのお手入れの方法を、真紅に教えてあげました。


 

そんな風に、真紅と蒼星石、翠星石がなごやかに話をしている頃……
そこから数メートル離れた通学路を、二人の小学生が歩いていました。

「それにしても……本当に、昨日は危なかったかしら… 」
「うぃ……もう二度と、雨の日に河原では遊ばないの…… 」

第一話で真紅に助けられた雛苺と金糸雀が、河原で遊んだお陰でこってり怒られて、げっそりしていました。

「結局、助けてくれた人も、名乗らずに帰ってしまったのよ…… 」
「ああいう人を、正義の味方、って言うのかしら! 」

二人の記憶は、あの危機を救ってくれた謎の美少女の話題へと移っていきます。

「それに、沢山の犬も助けてくれたかしら!きっとあの人は、犬の女王に違いないかしら! 」
「うゆ…? でも、あの人と同じ制服を着てたのよ…? 」
そう言い、雛苺が指差した先には……
昨日助けてくれた少女と同じ制服を着た、一人の女学生。

「同じ制服という事は、きっとあの人を知っているに違いないかしら!
 ちょっと話を聞いてくるかしら~! 」

そう言うと、金糸雀は女生徒に向けて、インタビューをする為に走り出します。
ですが……数分もせぬ内に、がっかりとした表情で肩を落としながら、雛苺の元へと帰ってきます。

「……犬耳の正義の味方なんて知らないと言われたかしら…… 」

結局、命の恩人の手がかりが掴めぬまま……二人はあれやこれやと話しながら、通学路を歩いていきます。

 


そして………

二人が通り過ぎた後………
女生徒はその場に立ち尽くしたまま、小さな声で呟きます。

「……犬耳?………まさか……でも……本当だとしたら………ふふふ……これは面白くなりそうねぇ……? 」


銀色の髪に夕焼けの色を映しながら発したその声は……余韻も残さず、空へと消えました。 




 
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