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「やめて!!お願い!やめて頂戴!! 」

どんなに泣き叫ぼうが、懇願しようが、町中の人が真紅に向けてビーフジャーキーを投げつけてきます。
走ってその場から逃げ出しても、ビルの上から、通りのわき道から、ジャーキーが飛んできます。

ポコポコと、美味しそうなビーフジャーキーが真紅の体にぶつかります。
「やめて!!こんな物を貰ったって、私は嬉しくないわ!! 」

真紅は涙を浮かべながら叫びますが、それは嘘です。本当は嬉しいのです。
その証拠に、頭の上では犬耳がとっても幸せそうにピコピコと……―――



「―― はっ!? ………ゆ…夢…? 」
ベッドの上でパチリと目を覚ました真紅は、そのまま上半身を起こすと、小難しい顔をして考え込み始めました。

とても楽しい夢を見た気がするけど……何か、何かが胸に引っかかる。
どことなく腑に落ちないものを感じつつも、それでも、とりあえず学校に行く準備を始める事にしました。

パジャマを脱ぎ、ペッタンコな胸にブラジャーを当てます。隙間に仕込むパットの枚数を計算する為です。
それから真っ白なブラウスに腕を通し、スカートを履きます。
首元に可愛らしい赤のリボンを付けて、着替えは終了。

それから真紅は鏡に向かい、綺麗な金色の髪の毛を梳かします。
くるくる、っとツインテールにして……最後に、頭の上でピコピコ動く犬耳を髪の毛に隠して、準備は完了。 




       ◇ ◇ ◇   け も み み ☆ も ー ど !   ◇ ◇ ◇
  



真紅は何度も角度を変えて自分の頭を鏡に映して、犬耳が外に出てないかを確認します。

もし……もしも、犬耳の事が学校や世間に知られてしまったら……
見世物小屋に売られる?あるいは新種の生物として捕獲される?まさか、宇宙人だと思われてNASAに………

「……あぁ…想像するだけでも恐ろしいわ…… 」
真紅は目を固く瞑り、ブルブル震える自分の体を抱きしめます。
よっぽど不安なのでしょう。頭の上では、犬耳もふるふる震えています。

「……… 」
震えた隙に髪の毛から顔を出しやがった犬耳を、再び髪の毛に隠すと……
真紅は念には念をと、帽子を被る事にしました。


通学路でも、気は抜けません。

出会う犬全てが、真紅の姿を見ると、その場でピンと足を伸ばして不動の姿勢をとったりお腹を見せてきます。
いくら帽子で隠してあるとは言え、少しでも気を抜くと、犬耳は帽子の中でピコピコと揺れ始めます。

「……なかなか思う通りにはならないものね…… 」
何とかして、頭の上の犬耳を寝かしつけておきたい真紅でしたが、こればっかりは本能で動いているのでしょう。
事あるごとに犬耳は、帽子の中でピコピコしてしまいます。

痛いのは自分だと分かってはいましたが、真紅はそんな言う事を聞いてくれない犬耳をつねりながら歩きました。

と……そんな事をしていたせいで、注意力が散漫になっていたのでしょう。
真紅は曲がり角で……出会いがしらに、女の子と正面から衝突してしまいました。

「きゃっ! 」
悲鳴を上げて尻餅をつく真紅。その拍子にピン!と立った犬耳。そして、地面に落ちた帽子……

いけない!そう思い、真紅は慌てて片手で頭を隠しながら片手で帽子を手繰り寄せます。

それから、見られたのではないかという不安を胸に……
自分と同じように尻餅をついている女の子に視線を向けました。

「み…見たですか……? 」
スカートを押さえながら、真っ赤な顔で真紅の向かいに尻餅をついていたのは、同じ学校に通う翠星石。
このリアクションからすると、パンチラチラチラに気をとられて、他の事には気付いてない様子。

真紅は帽子を被り、それから犬耳に神経を集中させ……
「大丈夫、見えてないわ。それに…私たち以外は誰も居ないみたいだし、心配ないのだわ 」
そう言い、相変わらずスカートを押さえたままの翠星石に手を差し伸べました。

それから二人で学校へと向かう道中……真紅は隣を歩く翠星石の双子の妹、蒼星石の事を考えていました。

そう言えば、蒼星石が帽子を取るところを見たことが無い。
それどころか、彼女が何かの拍子にでも帽子を頭から落っことす所も見ない。

これから暫く……少なくとも、この犬耳をきちんとコントロールできるようになるまでは、帽子は手放せない。
蒼星石に、帽子を落とさなくする秘訣でも聞いてみるのも良いかもしれないわね……と。


学校に付いてからも、気は抜けません。

隣のクラスの翠星石に別れを告げた後、真紅は自分の教室へと入ろうとしたのですが……
いかんせん、マナーに気を使う彼女のこと。
帽子を被ったまま部屋に入ると言うのは、どうも気が進みません。
 

仕方無しに帽子を外して、犬耳に気を張り巡らせながら、緊張した面持ちで教室に入ります。
クラスメイトに挨拶をしながら、自分の席へと向かいます。
今にも髪の毛から顔を出しそうな犬耳の感触に、頬を冷たい汗が流れる感触を覚えます。

それでも……一挙手一投足に気をつけながら進んだ甲斐もあり……
何とか、真紅は自分の席まで無事に辿り着く事が出来ました。

鞄を自分の机に下げ、とりあえずの安堵感と共に彼女が椅子にぽふっと座った瞬間……
『ピコーン!』と聞こえそうな勢いで犬耳は頭から飛び出してきやがったのです!!

「くっ! 」
真紅は油断してしまった自らの浅はかさに歯噛みしながら、両手で頭を……犬耳を隠しました。

あまりに一瞬の事なので、何が起こったのかも気付かないクラスメイトの間を、真紅は駆け抜けます。
この犬耳を再び隠すために……人目に付かないトイレに行く為に………

確かに、真紅の犬耳に気付いた人間は居ませんでした。
ですが……頭を押さえながら走る彼女の瞳から……美しいしずくが零れ落ちた事には、皆が気付きました。


真紅が髪の毛に犬耳を隠して、再びクラスに戻った時……クラスメイトの皆は、いつもと変わらぬ様子でした。

普段なら、二言目には「踏まれたい。罵られたい」とばかり言う男子生徒も……
女の子の涙を前に紳士の心を思い出し、あえて何も聞いてこようとはしません。

お陰で真紅は、表面上は普段どおりの学園生活を送ることが出来ました。
 
でも、内心は緊張の連続です。
 
ちょっとした小さな物音でも、髪の毛に隠した犬耳がピコピコと動くのが分かります。
それに、退屈な授業で、ついうとうとしかけると……その隙に犬耳が髪の毛から出てきそうになります。

お陰で真紅は、人形のような硬い表情で午前中の授業を送ることになってしまいました。


そして……なんとか無事に漕ぎ付けた、運命の昼休み。
真紅は隣のクラス……蒼星石のいるクラスの扉の前に立ち、考え込んでいました。

是非とも、蒼星石から帽子を落とさなくする秘訣を聞きたい。
だけれど……彼女とはクラスも違うせいで、そんなに話したことが無い。
一体、どうやって切り出せば………

そう考え、あと一歩が踏み出せなかった真紅ですが……
突然目の前の扉が開き、その一歩を半ば無理やり踏み出すしかなくなってしまいました。

「あれ?…そんな所で、一体どうしたんだい? 」
扉を開き、出てきたのは……蒼星石本人でした。
自分の教室の前で思いつめた表情をしている真紅の姿を見て、蒼星石はそう声をかけます。

「え…?いや……その…… 」
真紅は突然の事に、何と切り出して良いのか分からなくなりましたが……
基本的に彼女は、腹の探りあいや智謀策略とは縁の薄い人間。
ここで出会ったのも何かの縁と、ストレートに尋ねてみる事にしました。

「あなたに聞きたいことがあるのよ 」
「僕に? 」
 
真紅は訝しげな表情をしている蒼星石に向け、言葉を続けます。

「最近、私も帽子の魅力に気が付いたの。だけど……ほら、風の強い日に飛んでいってしまったら困るでしょ?
 何か、頭から帽子が離れない秘訣でもあれば、と思って…… 」

蒼星石はほんの一瞬、目つきを鋭くします。ですが……
すぐにもじもじと頭の上の帽子を触る真紅を見て、すぐに優しい表情を浮かべてアドバイスをくれました。
サイズが大きすぎても駄目だし、あまり窮屈だと頭が痛くなっちゃう。など等……

うんうん頷きながら、真紅は蒼星石の言葉に耳を傾けます。
帽子に隠れて見えませんが、犬耳もピコピコ動きながら蒼星石の言葉を聞き逃すまいとしています。

そうやって、あまりにも真面目に話を聞いていた為、真紅は気付きませんでした。
蒼星石と話す彼女を……監視するかのように見つめる、もう一人の存在に……

「ありがとう。お礼を言わせて貰うわ、蒼星石 」
「はは……どういたしまして 」

真紅は蒼星石にお礼を言うと、手を振って彼女と別れます。
そして、自分の教室に戻り、遅ればせながら昼食でもと考えた時……異変に気が付きました。

自分の鞄の中に、一枚の手紙が………
内容は『とても大切な話がある。一人ですぐに屋上まで来るように』と……。

『とても大事な話』……普段なら無視してもいいような悪戯にも思えますが……
今の真紅にとっては、犬耳を見られたのでは、という疑念が強すぎます。

もし……この犬耳を知った人間が…恐喝まがいの事でも企んでいるのなら……
 
真紅は手紙を握り締めると、静かに教室から出て行きます。
それから、周囲に誰も居ない場所まで移動すると……帽子を外し、ひさしぶりに犬耳を外に出しました。 


全ての神経を、犬耳に集中させます。
屋上の物音、その全てを聞き取り……呼び出しが罠な可能性を出来る限り探ってみます。

聞こえるのは……足音……それも多くない……一人………体重も…軽い………恐らく……女子生徒…… 


これなら…最悪のパターンにはならないだろう。
そう判断すると、真紅は屋上に向けて足を進め始めました。

その間も、警戒を怠りません。
常に音を通して相手の動向を探ります。

カンカン…と…恐らく、屋上の貯水槽の梯子を上っている音……
「……頭上から奇襲をかけるつもりね…… 」
相手の出方が分かれば、怖くはありません。
真紅は確かな足取りで、屋上へと向かう階段を上ります。

そして……改めて帽子を被り、犬耳を隠してから……屋上の扉をバンと開け放ちました。

――― 言われた通り……一人で来たみたいですね……

屋上に声が響く。
この声は……忘れる訳が無い。最近聞いた声だ。
 

「この声は……翠星石、あなたね…… 」
真紅はそう言うと、屋上に備えられた貯水槽の上で仁王立ちする少女へと視線を向けました。
……って、仁王立ちなんかしてたら、目立って奇襲なんかかけられやしません。
 
「……何がしたいの…? 」
本当に、色んな意味で、真紅はそう思いました。

そんな呆れ顔の真紅を無視して、翠星石は不敵な笑みを浮かべます。
「……蒼星石を通してこの翠星石の事を探っていたようですが……どうも詰めが甘かったですね…… 」
そして貯水槽の上でバン!とポーズを決めると、声も高らかに叫びました。

「秘密を知られたからには生かしてはおけんですぅ!!
 ここがてめーの墓場になるですよ!! 」

ビシッと真紅を指差したかと思うと、翠星石は「とぅ!」と叫んで貯水槽から飛び降ります!

そして……!!

着地に失敗。
「ほぁぁぁぁぁ!!! 」と叫びながら、地面をのた打ち回りました。

 
屋上で激しく転げまわりながら奇声を発する翠星石と、あまりの光景に目頭を押さえる真紅。

やがて……叫び疲れたのか、グッタリと動かなくなった翠星石へと、真紅は足を進めました。

「……全くもって、あなたが何を考えてるのかは理解しがたいけれど……一応、聞くわ。大丈夫? 」
そう言い、真紅は倒れている翠星石へと手を伸ばします。

そして……その時、気が付きました。

翠星石のスカートから、何かが見えている事に………
今朝の翠星石が気にしていたのは、パンチラではなく……スカートの下に隠してある存在だった事に………


ふわふわもふもふな尻尾が、翠星石のスカートの端から顔を覗かせています。

真紅には……顔を引き攣らせる以外、何も出来ませんでした………





 
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