※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


「うふふふふふ……買い、だな 」

怪しげなネット通販で怪しげな一品を買いあさるのは、ご存知、桜田家の引き篭もり。
ジョンでもなければジャムでもない、桜田ジュン。

「うふ。うふふふ…… 」
学校にも行かずにパソコンをカチカチ操作しながら、怪しげな笑みを浮かべています。
と………

「ジュン!あなた、また変な物を買ったのでしょう!いい加減にしなさい! 」

家に届いたヤバイ通販グッズの箱を抱えながら、
金髪碧眼の可愛らしい女の子が修羅のような形相で部屋に入ってきました。

「……部屋に入る時はノック位しろよな…… 」
ジュンはちょっと苛立たしげに……それでも、この子には弱いのでしょう。
ちょっとだけ控えめな声で、そう女の子に声をかけます。

この女の子は真紅ちゃんといって、ジュンの幼馴染であり……
すっかり引き篭もってしまった彼の所にやって来る、唯一の友人でもあります。

ともあれ。

真紅はふて腐れた表情のジュンを無視して、通販の箱を床に置くと座布団にちょこんと座ります。
そして真っ直ぐな眼差しをジュンへと向けました。

「……あなたの趣味に口出しするのは良くない事かもしれないけれど……のりも悲しんでいるのだわ…… 」
言わずと知れた、ジュンの趣味。イカサマ通販のクーリングオフに関する事です。
 

ジュンは、この事について完全に開き直ってしまってはいるのですが……
やっぱり、真紅に真っ直ぐな眼差しで言われると、心にズシンと響きます。
とりあえず、パソコンから視線を真紅へと向けますが……やっぱり、すぐに視線が泳いでしまいました。

「い…いや……でもさ……これで結構、おもしろい物もあったり…… 」
しどろもどろな感じでそう言います。
将来、尻に敷かれている絵が目に浮かびますね。

「…何が『おもしろい物』よ……こんな物、ただの子供だましじゃない 」
真紅は呆れた表情で、床に転がっていた通販グッズを手に取りました。

真紅が手に取ったのは『スケスケ眼鏡』という……
まあ、レンズ部分に下着姿の女の人の写真が貼ってあるだけの、明らかにインチキ商品。
「……子供すら騙せないわね 」
冷ややかにそう言うと、ポイッと『スケスケ眼鏡』を放り出しました。

「……『とっても不思議な魔法の耳』? ………全く……こんな物を買う暇があるなら、学校に…… 」
真紅はブツブツとお小言を言いながら、ジュンの買ったインチキ通販に再び手を伸ばします。
それは、三角形の犬の耳みたいな……というより、どう見ても犬耳なアクセサリー。
「学校に来たらどうなの」そう言おうとしながら、彼女は魔法の耳を自分の頭に乗せてみました。

当然、この後には「子供だましね」と言うつもりだったのですが………


運命の歯車がガッチリと組み合わさってしまった事に真紅が気付くまで、あと二秒。 




       ◇ ◇ ◇   け も み み ☆ も ー ど !   ◇ ◇ ◇  
  



「痛いわ!ジュン!お願い!!もっと優しくして頂戴!! 」

二階から聞こえてくる真紅の声に……ジュンの姉である桜田のりは感涙を流していました。
「ああ……ついにジュン君が大人の階段を上っているのね…… 」

天井を通して響く、二人の男女が激しく動く音。
これはきっと、持て余した若い肉体をぶつけあっているに違いない…。

「今夜は張り切って……お赤飯よぅ! 」
拭けども拭けども止まらない涙を手の甲で受け止めながら、のりはキッチンへと向かいます。


その頃、当の真紅とジュンはというと……


「だーかーらー!じっとしてろって!! 」
「痛いわ!!ジュン!そんなに引っ張らないで!! 」

真紅の頭にピッタリと引っ付いてしまった犬耳を、ジュンは思いっきり引っ張っていました。

ほんの軽い気持ちで真紅が頭に付けた犬耳は……
まるで初めからそこに生えていたかのように、真紅の頭から離れなくなっていました。

どんなにジュンが体重をかけて引っ張っても、真紅が痛がるばかりで取れそうな気配はありません。
それどころか、真紅の頭に乗っかった犬耳は充血すらしてきています。

「ほ…本当に引っ付いたってのか?まさか……そんな…… 」
ジュンは顔を引き攣らせながら、震える声で呟き、力無く地面にへたり込みます。
何が何やら分からない上に、引っ張られたせいで耳が痛い真紅も、座布団にちょこんと座ります。
 

とりあえず、全くもって現状は理解しがたいですが……
それでも、何か分かるかもという小さな望みにかけて、真紅は手鏡で自分の姿……頭を見てみる事にしました。

整った顔立ち。空より美しい瞳。上品な眉。可愛らしい耳。そして…頭の上でピコピコ動く、謎の三角形。

「ジュン……私……耳が4つあるのだわ…… 」
涙声で、助けを求めるように、真紅はそう呟きます。
「……うん……知ってる…… 」
ジュンには床を見つめながらそう答える以外、何も出来ませんでした。

「と…とにかく……同封されてた説明書を読んでみよう……何か分かるかもしれないしさ…… 」
すっかりブルーになっている真紅を励まそうと、ジュンは『魔法の耳』の説明書きを手に取り、読んでみます。
真紅も、頭の上の耳をピコピコ動かして、ジュンの横に並んで説明書き覗いてみます………

『この魔法の耳は、装着するだけで素敵な能力が身に付く、実に素晴らしい一品です。
 素敵なあの子にこっそり装着させて楽しみましょう! 』
と……実に意味の分からない事が書いてあるだけの説明書。
端に書いてある兎のマスコットキャラも、何だかリアルで可愛くありません。

「で……肝心の外し方はどこなの…? 」
真紅は頭の上の犬耳をピコピコさせながら、ジュンの横に並んで説明書をパラパラめくっています。

ジュンはというと……
説明書を読むために自分の横にピッタリ並んだ真紅の横顔をチラチラ見ながら、ドキドキし始めていました。

まばたきをする度にパチパチと聞こえそうなくらい、スラッと長く伸びたまつ毛。
曇りの無い、とても綺麗な瞳。雪より白く、美しい肌。
それに、とっても良い匂いもします。
これでドキドキしなければ、腰のマグナムは飾りです。
 

そんなこんなで血圧急上昇中のジュンには気が付かず……
というより、気にする余裕も無く、真紅は説明書を読み続けます。

一通り読んでみますが、外し方に関する事は一行も書いてありません。
きっと、見落としたのでは。そう考え、改めて最初のページから読もうとした時……真紅は気が付きました。

楽しそうなのりの声。まな板の上で何かを刻む音。
ここは二階のジュンの部屋なのに……一階のキッチンの音が、ハッキリと、聞こえる。

真紅は「まさか…!」と、改めて耳(とはいっても頭の上の犬耳の方です)に意識を集中させます。

『ふふふ…ジュン君もついに大人になったのねぇ……相手が真紅ちゃんなら、お姉ちゃんも安心よぅ!
 あ!パパとママに電話で報告しなくっちゃ! キャー! 』
のりの独り言が……しかも、さっきの騒ぎをピンク色に勘違いした内容が聞こえました。

そんな呟きを聞かされた真紅はというと、その名前と同じように、一瞬で顔を真っ赤にします。
それから慌てて顔を上げると……
「最低ね! 」
と言うや否や、フンフンと鼻息が荒くなっていたジュンの頬にビンタを喰らわせました。

そのままジュンの部屋の扉を勢いよく開け放つと、怒った表情で犬耳をピコピコさせながら出て行きます。
玄関で向かう途中で、のりにも出会いましたが……
「真紅ちゃん!も…もう動いて大丈夫なの!? って……そんな!初体験がいきなりコスプレファッk 」
頭の上の犬耳を見てテカテカしだした耳年増のボディーに一撃いいのを入れて轟沈させました。


真紅は怒りながら、ジュンの家から出て行きます。
彼女の家はすぐ隣なので、すぐに自分の部屋にも帰れたのですが……彼女は自宅に着く前に冷静になってきました。
 

全て…全ては、この自分の頭の上から取れない犬耳が原因。
一体、これは何なのか……
一体、私はこれからどうしたら……

真紅は自分の髪からピョッコリ顔を出す、三角の耳を恨めしげにつねってみます。
ほんのちょっと痛かったのが、どこかとても悲しく思えました。

「確かにこれを買ったのはジュンだけど……全ては私の不注意が招いた結果ね…… 」
切なそうに、消え入りそうな声でそう呟くと……真紅は家とは違う方向へ、当ても無く歩き出します……

こんな犬耳が付いてしまって、これからどうすれば良いのだろう?
まさか…一生このままなのだろうか……?

陰鬱な気分が広がり……そんな真紅の心に呼応するように、空からは雨が………

真紅は顔を空へと向けて、大粒の雨を全身で受け止めます。
「……まるで……空も泣いているようね……… 」
小さくそう呟いた彼女は、ひょっとしたら泣いていたのかもしれません。


真紅は雨に濡れながら、町を…人目に付かない方へ……より明かりの届かない方へと、当ても無く歩きます。

最初、それは空耳かと思いました。
こんな絶望的な状況で、ついに幻聴が聞こえだしたのかとも思いました。

ですが……耳を澄ませば……確かに聞こえます。
どこか遠くで……助けを求める女の子の声が………

「………何かしら…? 」
不審に思いながらも…それでも真紅は、ふらふらと声のした方向へと足を向けます。

「……この辺りだと思ったのだけど…… 」
そう呟き、雨で増水した川の近くまで来た時……今度はハッキリ、犬耳ではない方の耳にも声が聞こえました。

「助けてかしらー!!ひ…雛苺が…!!誰かーー!!こっちかしらー!! 」

声に驚き、真紅が川の方向へと視線を向けると……
そこには増水し、まるで濁流のようになっている川岸にしがみ付く少女と、泣きながら助けを請う少女。

「大変!!あなた達!何をしているの!? 」
真紅は弾かれたように二人の近くまで駆け寄ると、ずぶ濡れで泣いている女の子に声をかけます。

「ひ…雛苺が……川に落ちそうになって!!お願いします!助けて欲しいかしらっ!! 」
小学生くらいの女の子は真紅にしがみ付くと、今にも濁流に飲まれそうな女の子を指差します。

真紅は急いで、雛苺という名前らしい、今にも落っこちてしまいそうな女の子に向けて手を伸ばしますが……
いかんせん雨で足場も緩く、その上、川辺の地面は滑るので、あとちょっとという所までしか手が届きません。

雨に濡れる事も、服に着いた泥も気にせず、真紅はオロオロするばかりのもう一人の女の子に声をかけます。

「……警察か消防署か……どこかに助けは呼んでないの? 」
「うぅ…ぐすっ……そんなのとっくに呼んだかしら……でも…全然来てくれないかしら! 」

真紅はすっと息を呑み……
それから「ちょっとの間だけでいいわ……静かにしてて頂戴」と言うと……
自分の頭に付いた犬耳に意識を集中させました。

聞こえるのは……確実に激しさを増す雨音……滝のように流れる濁流……
 
「…くっ……! 」
真紅は一瞬歯軋りをすると、生まれつき付いている方の耳を両手で覆い、改めて犬耳に意識を集中させます。

……………遠くで聞こえる電車の音…違う…………どこかの家から漏れるテレビの音…違う………
……車のエンジン音……これも違う………こちらに近づくサイレンの音…これだ!

真紅は目を見開き、音の聞こえた方向へと視線を向けます。
確かに、レスキュー隊は向かってきてはいますが……遠い。これではとても間に合うとは思えません。

「どこか……例えばロープみたいな物は無いの!? 」
真紅は何とかして自分で雛苺を助けるしかないと、周囲を探り出します。
「ロープ!ロープがあれば助かるかしら!! 」
女の子も真紅の考えにすがるように、地面の上を探し出します。

ですが、そんなに都合良くロープが見つかる訳も無く……
雛苺は徐々にではありますが、確実にその命を濁流へと向けています………

「早く!!時間が無いわ!!早くロープを……誰か!! 」

周囲に誰も居ない事は、先ほど耳を澄ませた時に知っていました。
ですが……真紅はこう叫ばずにはいられませんでした。

誰にも聞こえない叫びとは知っていても……。



ただ……その真紅の叫びを聞いた者は居ました。

彼は、人間ではありませんでした。
彼らは、聞こえてきた叫びに……本能に近い一つの思い、使命感を感じました。
ある者は自らを繋ぎ止めていた鎖を引き千切り、ある者は自らを捕らえていた壁を飛び越え………
町の中に居る全ての犬がその瞬間、一箇所を目指して駆け出しました。

百匹を優に超える数の犬が、またたく間に川辺に集結します。
そして犬たちは……自分達を呼んだ声の主を見ました。

その姿は金髪碧眼の、可愛らしい人間の女の子にしか見えません。
ですが……その頭には………この豪雨の中でもへたり込む事無く、気高く天を指し示す犬耳が……!! 


――― 女王が、降臨なされた。 


全ての犬は、真紅の頭でピコピコ動く犬耳を見て、そう確信しました。
すぐさま散歩中だった犬を中心にヒモが集められます。

真紅は最初、突如として自分の前に現れた犬の大群に肝を冷やしましたが……
全ての犬がヒモを自分に献上するのを見て……驚きより、今自分がなずべき事を思い出しました。

「……いい子ね 」
そう言うと、真紅は集められたヒモを受け取り、それを束ねてロープのようにします。

犬達は真紅に褒められて、嬉しそうに耳をピコピコさせました。
真紅もそんな光景に、犬耳をピコピコさせて応えます。
無言の絆が、そこには確かに存在していました。

それから真紅は川辺に向かうと、今にも落ちてしまいそうな雛苺へ向けてロープを投げました。
「さあ!早くつかまりなさい!! 」


雛苺の手がロープを握るのを見ながら……
真紅はちょっとだけ、ほんのちょっとだけですが、頭の上の犬耳の事も好きになれそうな気がしてきました。 



   
|