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本来この話は連載を前提に書かれたものですが、完結させるだけのスペックが作者に無かったため放置されていたのですがせっかくだからとの投下です。
なので一話で終わりますが、少年月間雑誌の素人投稿作品みたいなもんだと思ってください。

【決闘のアリス】

注意、この物語は『カードでバトルしよーぜー!!』という作者の妄想の産物です。以下の項目を許容出来る方のみお読みください。

・色々とパクってる → インスパイア
・話しがベタ → 王道
・何でカードで闘うの? → そこにマロンがあるからさ!


いざ逝かん!薔薇乙女達の戦場へ!! 





僕は桜田ジュン。サムオブゼムの高校生。
取り柄と言っても特になく、パソコンが少々いじれる根暗なヤツだ。これ以上言うと持病の鬱とか喘息とかリウマチとかが多弾ヒットするので自粛する。
まー、何が言いたいかと言うとだ、

さあジュン。ゲームの始まりよ。覚悟は良いわね?

お、おお…

手加減も容赦も無用。さあ!私のメモリーからカードを抜きなさい!

断じてこんな非科学的なバトルに巻き込まれるような運命なんか持ち合わせていない普通のヤツのはずだったんだ。
そう…あの赤服の金髪女が、通販で買った本から出てくるまでは。



ドロン!
「うわーー!?」
胡乱な効果音と共に悲鳴を上げた僕、桜田ジュン17才。よろしく。
あらかじめ言っておくと僕が悲鳴を上げたのにはやむを得ない理由があるからで、決して引きこもりの果てにキーボードをクラッシュする野郎になってしまったわけじゃない。
「くそっ、なんなんだよ…」
そうだ、僕が叫んだのはあの本が原因だった。
通販で『これでアナタも楽々ウィザード!』と紹介されていた“魔術の書”なるモノを興味と期待で購入したはいいものの、届いたソレを開けた結果がこれだよ!
煙りモクモク視界ゼロ。ついでに尻餅のオマケ付き。最悪。
やるやれ、ただのパーティーグッズか…と煙たい空気を追い出す為に窓を開けようとした時、それが僕とアイツの初対面だった。
「………へ?」
女の子。それも金髪の。真紅のドレスを着た。そんなヤツが、煙り舞う部屋にいた。正確には、あの本の上に。
「コホッ」
あ…咳した。てことは…人間?え、なにこれ?なにこの状況?誘拐?監禁?え、犯罪か!?
脳内がコミケ初日くらい慌ただしく混乱する中で、その女の子を僕を見つけるとその小さな口を開いた。
「問うわ。貴方が私コホッ…の、コホッ、コホッ…私の下ぼっ…コホッ、下…コホッ、コホッ、コホッ!」
「………窓、開けるな」
「…そうしなさい。コホッ」

…換気中…換気中…換気中……おわり。
で、

「コホン。…問うわ。貴方が私の下僕ね?」
部屋を換気した後、何故か掃除させられ紅茶を沸れさせられ、文句の後にもう一度沸れてやった後、ようやくソイツはそんな事を言いやがった。
「その前に聞くけど…お前は何?」
「何、とは何を指してのことかしら」
「いや…いきなり本から出てきたり…その格好もそうだけど…下僕とかもさ」
「ふむ、やっぱり説明は必要のようね。これも毎度の事だけれど…流石に飽きたのだわ。だから自分で調べて頂戴」
「いやいや、こんな奇怪なことどーやって調べんだよ」
「辞書とかあるでしょう」
「載ってんの!?」
「突然悟ることを許してもいいわ」
「出来るかそんなこと!」
「仕方ないわね…貴方に私の記憶を覗く権利を与えましょう」
「甘いな!オ○ーナの購入は既に完了して…」
「動かないで」
結果として、その言葉はボケでもなんでもなかった。その女の子が指を僕の額にかるく当てると、僕の頭に彼女の記憶が“なだれ込んできた”のだ。
「う!うわっ!?」
「さて、もうおわかりね?」
「おわかりって…」
だが、僕はその時既に“知っていた”。彼女が魔法使いの弟子であること。あの本は彼女の力を引き出す魔道具であること。弟子は他にもいて、その人達と戦い続けてきたこと―
「そして、今回のミーディアムは貴方という事よ。精々私の為に頑張ることね」
「お、おい待て。そのミーディアムって何だ?」
「?私の記憶を見たでしょう?」
「いや…いきなり叩き込まれたから頭の中ぐちゃぐちゃで…」
「なるほど。可哀想に…貴方、バカなのね」
「いきなりひでぇ!」
「哀れむに値する低脳さね。自分を可哀想などと考える人間は愚かだけれど、貴方にはその権利があるわ」
「なんだその惨めな権利は!?いらねぇよそんな権利!」
「むしろ義務ね」
「うわー!こんなに虐められる自分が可哀想になってきた!」
そんな事を言っている間に、僕の頭は取りこぼした情報をいくらか拾い直し、ミーディアムとは彼女が魔術を使う際のバイパスのようなモノと思い出した。
「んー、つまり、お前は僕と組んで魔法使いの弟子達と戦い合って修行しにゃならんと」
「あら、悪くない要約ね。奇跡が起きたわ」
「随分軽い奇跡だな…てか、僕の記憶があやふやでわかり辛いんだが…その戦いって割と危険そうだな?」
「そうね。でも死にはしないでしょう。過去にそんな事例は無いもの。骨くらいは折れたかもしれないけれど」
「戦ったら負けかなと思ってます」
「私に折られたいの?」
「バトルしよーぜー!(涙)」
そして僕はまた“思い出した”。僕は彼女に逆らう権利など無い事を。まったく、自分を哀れ権利はあるってのに…
「それに、どうやら時間も無さそうね」
そう言うとソイツはいきなり立ち上がって僕の部屋から出て行こうとした。
「お、おい!どこに…」
「ついてきなさい。アクシデントのようよ」
ああ、抵抗する気など自分の記憶に吸い取られましたさ。
「ところで、貴方名前は?」
「…ジュンだよ。桜田ジュン。つーかまずそれを聞けよ」
「ジュン…美しくない名前ね。これからはブラックハヤテ号と名乗りなさい」
「それを拒否する権利を僕に下さい!」
答えなどする気もないようで、僕は泣く泣くソイツの後を犬のように忠実についていったのだった。
ちなみに、こいつの名前まだ知らないんだが。でもそれを言ったら殴られそうなので思い出すまで黙っていよう。


「は!?」
真紅て共に近所の空き地に着いた僕が目にしたもの。それは柏葉巴という幼なじみとピンク色の幼女が抱き合っているという魅惑…いやいや、驚きの場面であった。
「雛苺…貴女…」
「し、真紅!?」
が、真紅(怒られる前に思い出したぜ!)と雛苺という幼女の様子を見るかぎり、それはあまり歓迎すべき状態じゃないらしい。
「てか柏葉!大丈夫か!?」
「う…桜田、君…?」
近くによってみれば、柏葉は熱にうなされるように荒い息をして、ぐったりとうなだれてしまっている。
「ジュン、貴方その娘の知り合いなの?」
「そうだよ、幼なじみだ。てか早く病院に…」
そこで僕は見つけた。柏葉の背中に隠れていた、真紅が出てきたのと同じ本に。
「これ…まさか…」
「その通りよ、ジュン。それは雛苺の魔道具。その娘は雛苺のミーディアム…の、なりそこないと言ったところね」
「うぃ…」
淡々と説明する真紅とべそかく雛苺。いや、今はそーじゃねーだろ!?
「おい真紅!柏葉はどうなってんだ!?どうやったら治るんだよ!?」
「雛苺が彼女との魔術回路の設定に失敗したのね。私達は本から出た瞬間にミーディアムと魔術回路の結合をするのだけど、それはミーディアムから魔力因子を貰い過ぎないよう調節がいるの。雛苺?だからあれほど訓練しときなさいと言ったでしょう」
「う…ごめんなさいなの…」
ああもうコイツ等は!
「いやだから!どうやったら治せるのか教えろよ!」
「ふう…でもねジュン。これは雛苺だけのせいでは無いわ。彼女にも責任のあることよ。雛苺は寂しさゆえに求め過ぎたけれど、彼女は与え過ぎた。雛苺を受け入れ過ぎたのだわ」
「だから見捨てろってのか!?」
「私はそれでも構わない」
な…!?
「今その娘が因子を放出しつくせば雛苺は事実上のリタイア。そして雛苺を負かしたのはその場にいる私という判定になるはずだもの」
「お、お前!お前それでも…」
人間か。そう言おうとして止まった。そうだ、コイツ等は魔法使いの弟子。言わば人間を搾取する上位存在の…魔女。
「くっ…!」
「まったく…でもそれは貴方の望むところではないようね?」
「当たり前だ!!」
「私としてもミーディアムとの関係維持はそれなりに重要項目。なら、その娘を助ける方法をとることにしましょう」
何だか知らんが助けてくれるらしい。いやちょっとまて。関係維持って、お前あれだけ僕を虐めておいてか!?
「好きでしょう?虐められるの」
「なっ…!?」
読心された!?いやそれより否定しなければ!早く!そんな事無いと、早急に否定しないと僕は…!
「さ、準備を始めましょう。雛苺、貴女も異論ないわね?」
「はいなの…」
否定…否定しないと…
「ジュン、始めるわよ。貴方の為にやるのだから、しっかりしなさい」
「…ハイ」
ち、畜生…

「あの娘を助ける方法、それはあの二人と戦うことよ」
な、なにぃ!?ちょ、聞いてねー!!
「おい!それどういう…」
「いくわよ雛苺!」
「…わかったわ」
ちょ、聞いてねー!!

「「アリスゲーム、スタート!!」」

ヴン!
二人が互いにそれを宣言した瞬間、周りのが急に暗くなったかと思えば青白く発光し、足下に大きな文字や模様の入った円が浮かび上がった。
「雛苺、ゲームの前に彼女に繋いだ個人識別演算式を解きなさい。私が一時的に干渉して接続を修正するのだわ」
「お願いなの…!」
真紅が手をかざして何かを唱えると、それに反応したように手元が光り、そして、
「う…?」
「トモエ、トモエ!」
「あ…雛苺…?」
雛苺に寄り添われていた柏葉はどうやら助かったようだった。
「やれやれ、といったところね」
「ああ…てか、お前一体何やったんだ?」
「大した事ではないわ。言わばバルブを閉めたようなモノね。ただそれには一時的に雛苺への魔力因子の流れを抑えなければならなかったから、ゲームを開始して流れを私達から本へ向けただけよ」
うーん、なんだからよくわからんが…まあ助かったなら文句ないか。
「とりあえず…ありがうな。んじゃ、コレ止めてくれるか?」
「出来るわけないじゃないの」
あー…やっぱり。
「アリスゲームは神聖な決闘なのよ?始まったら最後、決着がつくまで終わる事はない。私の記憶があるのだからそれくらい知っているでしょう?」
「うん、まーそうなんだが…」
一抹の希望ってやつは…無かったか。
「でも相手は…」
僕は地面に映るサークルの反対側にいる二人を見る。落ち着いたとはいえ地面にへたり込む柏葉と、それを心配そうに見つめる雛苺。あれらと戦えと?
「まあ聞くだけ聞いておきましょう。雛苺、どうするの?本来認められる事ではないけれど、これ以上貴女のミーディアムを苦しめたくないと負けを認めるなら…なるべく善処しましょう」
雛苺が柏葉を見上げて、柏原もそれを受ける。
「そこの貴女もどうするのか決めることね。雛苺が負ければ雛苺は消えてまた本へ戻り、次のサバトが始まるまでそのまま記憶の海を漂う事になるわ」
真紅の方を見ていた柏原は再び雛苺へと向き直って、そして言った。
「…やります。戦わせてください」
「トモエ…」
「私はもう大丈夫よ。だから頑張ろう雛苺」
「ふう…それでいいのね?」
「はい…お願いします」
そうでしょうね、と溜め息をつく真紅。
「桜田君…助けてもらったのに、ごめんなさい。でも私、このまま雛苺を見捨てるなんて…絶対に出来ないの」
柏葉の言いたい事は何となく解るけど…命の危険にさらされた原因に対してなんでそこまで…
「だからこそでしょう」
ぎゃー!また読心か!?
「魔力回路が暴走するほどにシンクロしたのなら、もはやあの二人は他人とは言えないでしょうね。お互いに姉妹のような意識をもっているはずよ。もっとも、そんなことを望んでいたから、あんな事になったのだけど。
さて、覚悟は決めたようね。では、改めてアリスゲームを始めましょうか」
「あのー…真紅さん?」
「何?」
「僕、アリスゲームの仕方知らないんだけど…」
こればかりは本当にわからない。なんせ僕に打ち込まれたのは真紅の記憶であって、ミーディアム側の事情はさっぱりなのだ。
「嘘、でしょう?私の戦った記憶がありながらわからないワケ…」
「いや、本気と書いてマジですが」
「…ああ!ジョークなのね?まったく、あまりセンスが良くないと言っておくのだわ」
「ふっ…僕が冗談を言うヤツに見えるか?」
「…ジュン、脳とは、使うために存在するモノのようよ?」
「当たり前だ!僕の頭はメロンパン入れじゃないぞ!」
「使っていてそれだとでも言うの!?なら嘘でも使ってないと言って欲しかった…!」
「泣くなよ…寂しくなるだろ…僕の存在がさ」
僕、そんなにバカなのかなぁ…てか、コイツ本当に泣いてるし!
「くっ…まあ、いいわ。良くないけど、いいわ。そこの貴女も戦いのルールは知らないのよね?」
「あ、はい…」
「なら条件はイーブンと言ったところね。第一こんな状況で戦ってもメモリーは私達の過去だけで構成するでしょうし、私達が自分で進めるしかないようね…
雛苺、貴女も自分のメモリーは自分だけの過去で構成しなさい。無理に繋げようとするより負担は少ないわ」
「わ、わかったわ」
「では始めましょう。互いにミーディアムを当てにしない、異例のアリスゲームだけれど」
こうして、僕は初めての戦いを強制的にする事になった。一つだけ心配なことがあるとすれば、僕は最後まで泣かずにいられるだろうか。正直、今すぐ一人部屋に帰って泣きたいぜ…


「ではジュン、そこの娘、私達の本を開きなさい」
言われるままに僕は持っていた旧魔術書を開いた。するとその本はいきなり光を発し、左のページにはカードや数字が、右側にはカード形の窪みが現れた。つーかこの本勝手に浮いてる!?
「今回は私達、魔法使いローゼンの弟子たるローゼンメイデンのドールズ自身によって進行させるわ。ただ逐一説明はするから、そこの娘も私の話を聞いていなさい。雛苺に聞くより効率的よ」
「あ…は、はい」
真紅の言葉にちょっとむくれた雛苺だが、しばらくしたらしぼんだ。自覚があるんだな。
「では二人とも、まずは自分の山札、メモリーからカードを六枚引きなさい」
左下にセットされていたカードの束から滑らせるようにして六枚引き抜く。
「おお…」
それらは複雑な模様で縁取りされ、綺麗な絵柄や文字や数字がぎっしり書き込まれていた。うーん、コレクションしたいぞ。さっぱり意味わからないけど。
「安心なさい。今回だけはカードの使用を私が指示するのだわ。貴方はルールを覚えることだけに専念すればいいの」
「指示って…手札見えないだろ?」
「だから貴方が手札と引いたカードを全て読み上げるのよ」
なるほどー…っておい!そんなことしたら相手に丸見えじゃないか!
「雛苺、貴女もそうしなさいな。さすがにルールも知らず、メモリーの内容すらわからない人間に任せるのは酷と言うものよ。互いにすれば同じ条件だし、メモリーの内容は貴女にも大体解るわね?」
「ええ、わかったのよ」
どうやら僕と柏葉は指示に従っていればいいらしい。うむ、ちょっと安心した。
「勝利条件は基本的に2つ。相手のミーディアムが持つ20ある『バーポイント(BP)』を0にするか、自分のドールの『アリスポイント(AP)』を20まで上げるか。逆にそれをされたら負けというわけね」
バーポイントってのはいわゆるライフってヤツだろうけど…アリスポイントってなんだ?
「カードは大まかに三種類。カードを使うための魔力を生み出す『フィールドカード』、様々な効果をもつアンティークを場に出す『アンティークカード』、呪文を行使する『スペルカード』よ」
手札にあるカードを見れば…ああ、確かに三種類がそろってるな。スペルカードらしいのにはいくつか別のマークが付いてるけど。
「そして一番大切なのは私達『ドールズ』。本に自分と相手のドールのパラメーターが出てるわね?」
「この…2/2と0/1ってやつ?」
「そう。2/2が私。上の数字がそのドールの戦闘魔力、下が防御魔力の値よ。また、各ドールズにはそれぞれ三種類の能力が付加されているの」
ぐ…そろそろ覚えきれないかも…てか、柏葉は冷静に僕の前にいる真紅を見てるな…やっぱり僕がアレなのか?
「常時発動形の『パッシブスキル』、ゲーム中一度だけ使用できる『プレイスキル』、条件が整った時発動する『フォーススキル』。互いのスキルは開始時点では解らないわ。発動してからのお楽しみね」
「えっと、それもお前に任せていいんだよな?」
「ええ。では、こちらの先行でいくのだわ。ジュン、覚悟はいいわね?」
別に指示に従うなら覚悟もなにもないだろう…と思った事を複数の意味で後悔するのは、あっという間の事だった。

僕はまず、自分手札のカードを全て読み上た。
「なるほど…私だけの過去しか入っていないと随分簡素なものね」
「なあ、さっきから過去とか記憶とか言ってるけど一体何なんだ?」
「貴方が持つそのカード。それらは使用するドールズやミーディアム達の過去にあった出来事や記憶を本に構成されるのよ。だからメモリーと呼ぶの。二人の繋がりが強いほど、カードが増えてより強力なメモリーが作れるのね」
繋がり…ね。ならもう少し優しくしていただきたいなぁ。
「さて、スペルやアンティークを使うにはそのカードに記載されてる魔力コストの分のフィールドが無ければならないわ。つまり基本的に2つフィールドがあればコスト2までのカードが使えるということね。
ジュン、まず貴方の手札の『ガーデン』を本にセットして頂戴。場所は一番下の欄よ」
「お、おう」
宙に浮く本の右下の窪みに言われたカードをはめてみる。すると真紅の足元に芝生と白い椅子と…つまり庭が出現した。
「ようやく地に足が着いた、といったところね。では次、アタックスペル『花びらの一閃』を使いなさい」
これはつまり魔力コスト1なんだな、と思いながらそれを本中断のマスにはめた、次の瞬間。

「はっ!」腕を振り下ろす真紅、
ヒュンッ!駆け抜ける薔薇の花びら、
「あぁ!?」それに切り裂かれる柏葉、
柏葉っ!?」動揺して叫ぶ僕…

「そうそう、スペルにも三種類あって、自分のターンにしか使用出来ない『アタックスペル』、逆に相手のターン専用の『ディフェンススペル』、どちらでも良い『フリースペル』があるの」
はっきり言って、その淡々とした真紅の説明は耳に入っていなかった。
僕はようやく気づいた。戦うことは、“こういう事”だと。いや、僕は知っていたハズだった。知っていたんだ。無かったのは、その意識と…覚悟。
「何を今更、と言いたいところだけれど…私が聞いてあげるわ。貴女、柏原巴と言ったわね。どうする巴?もし負けを認めるなら、なるべくその苦痛が少ないよう善処するけれど」
「構いません…続けて、ください…」
「トモエ…」
「いいのよ、雛苺。私が望んで決めた事だから…これくらい、我慢できるわ」
僕は本を見た。柏葉のBPが19になっていた。

僕は知っている…BPが減れば減るほど、体に負荷が掛かること。
僕は知っている…BPが一度に大きく減れば、苦痛も一気に増すこと。
僕は知っている…真紅は、相手のBPを減らして勝つタイプであること。
僕は…

「私に構わないで桜田君。でないと、桜田君は負けるわ」
「!」
「その通りね。私は指示はすれど、実際カードを使うのはジュンだもの。ジュンが戦えないのなら、私は負けて消えるでしょうね」
「………」
正直、僕はさっき真紅に会ったばっかりだ。恩も義理もなきゃ、虐められた記憶しかないし。ただ…
「ジュン、私が一つ言っておきたいのはアリスゲームに全力で挑んでくる相手に対して憐れみを持つのは侮辱行為よ。相手とこの戦い、両方に対して」
…ああ、それもそうだな。だけど僕の意志は別の場所にある。真紅から流し込まれた記憶…傷つき、傷つけ、時に笑い、時に怒り、戦い抜いてきた彼女の記憶が僕に焼き付けられている。
だけどそのパートナーは僕じゃない。記憶の相手は僕じゃない。
正直言って、僕は彼等彼女等に嫉妬していた。羨ましかった。
「しょうがないよな…」 
柏葉はシンクロしたとか言ってたな。そうだよな…こんなの見せられたら、もう、“他人事じゃない”んだよな…

「…真紅」
「なにかしら」
「次は、どうすればいい?」 
ちょっと笑った、ような気がした。
「攻撃命令を、出しなさい」
柏葉を見る。彼女は頷いた。僕も続いた。これで決まりだ。
「真紅、攻撃だ!」
僕が宣言したと同時に、真紅の手から薔薇の花びらが舞い、雛苺へと降り注いだ。

柏葉巴 BP 19→18

「毎ターンドールは相手のドールに攻撃する事ができるわ。その際自分の戦闘魔力から相手の防御魔力を引いた値が相手ミーディアムのダメージとなる」
「雛苺は0/1だから戦闘魔力2の真紅なら1ダメージか…なあ、雛苺の0/1っていくらなんでも低すぎないか?」
戦闘魔力0って…これじゃ攻撃する意味が全くないじゃないか。
「そうね。戦闘魔力、防御魔力ともに基本は2であるドールズの中で彼女は特異ね。まあ、戦闘魔力を上げれば攻撃することも出来るけれど…ドールズの中で最も直接戦闘に向かいのに変わりはないわ」
「…でも、だから『弱い』ってわけじゃ無さそうだな」
「ふっ…そうよ。私達ローゼンメイデンは皆偉大なるローゼンの弟子だもの。彼女の力は直ぐにわかるわ。さ、ターンを終了なさい」
僕は頷き、ターン終了を宣言。柏原のターンになる。
「ここでヒナのパッシブスキル、『隣人愛の恩意』が発動するわ!」

雛苺 AP 0→1

「な…いきなりアリスポイントが上がった!?」
「ヒナのパッシブスキルはヒナのターンになるたび、アリスポイントを1上げるのよ!」
毎ターンアリスポイントをあげる!?だってアリスポイントって…
「そう、20になったら彼女の勝ちよ。そして当然、パッシブスキル以外にもアリスポイントを上げる方法はあるわ。
巴、そのターンから初めにカードを引く事ができるのよ」
黙って頷いた巴がカードを引き、手札を雛苺に告げる。
「うい…なら『ファーム』のフィールドを出して、フリースペル『豊穣の蜂蜜』をプレイするのよ」
「わかったわ。ファームをフィールドへ。そして豊穣の蜂蜜を使うわ」
真紅の時と動揺に、雛苺の足元に農場の風景が。そして柏葉の頭上に瓶が浮かんだと思ったら中身がキラキラと柏葉に降り注いだ。

柏葉巴 BP 18→20

「バ…バーポイント回復のスペルカード…」
「もう解ったわね?雛苺は戦闘能力が皆無の代わりに、アリスポイントを上げる能力に秀で、バー回復や攻撃妨害の手段に富んでいる。初戦が彼女で良かったかも知れないわね。戦いのバリエーションを理解するには丁度いいのだわ」
「つまりあいつらに勝つには…」
「アリスポイントが20溜まるまえにバーを削り切るしかない。躊躇は即命取りよ。覚悟はいいかしら?」
「ああ。やってやる!」
「いい心掛けね。ではジュン、私のメモリーを引きなさい」
真紅に初めて誉められた。ああ、コイツは悪くない。

引いたカードを読み上げ、言われたフィールドをセットする。これで魔力コスト2のカードまで使えるわけだ。
「フィールドカードには特殊な効果付きのもあるのだけれど、そるは基本的にミーディアムに依存するの。だから今のメモリーには無いものて考えていいわ」
僕の記憶の場所か…なんつーか、ロクなカードが生まれない気がする…怒られそうだなぁ(涙)。
「さてジュン。ルールはあらかた理解したわね?その手札で何をすればいいと思う?」
「ぬ!ちょ、ちょっとマテ」
まあ、実績練習もしとくべきだよな。えーと、つまり今はコスト2以下のカードしか使えないから…
「このコスト2のアタックスペル『棘の追撃』で戦闘魔力を3上げて攻撃…とか?」
「そうね…いいわ、やりなさい」
おっし!許可が出たぜ。早速プレイして…
「戦闘魔力5の真紅で攻撃だ!」
「トモエ!ディフェンススペル『轍の壁』を使うのよ!それで戦闘ダメージを0にできるわ!」
何!?これが真紅の言ってた妨害ってやつか!
茨の棘を従えて雛苺へと向かう真紅だったが、飛び出してきた壁に進路を塞がれてしまった。
「くそ…これじゃせっかくの強化スペルが無駄になっちまった」
「そうね。ところでジュン、アタックスペルとアンティークとフィールドカードは自分のターンにしか使えないのだけど、これらはもう一つ制約があるの。さっきの強化スペルだけれど、あれは攻撃の前に使用したわね?」
「あ、ああ」
「ではもし攻撃の後に使用出来たら、もっと言えば相手の妨害の後に使用できるとしたら、貴方は使ったかしら?」
使うわけがない。防御されると知っていればそんなの無駄じゃないか。
「では、先ほどの妨害スペルが私の攻撃より先に使用されていたら、貴方は攻撃した?強化スペルを使った?」
もちろん、どちらもノーだ。
「つまり、ディフェンス、フリースペルは相手が行動したのに被せて、カウンターの要領で発動できるのよ。アタックスペルは効果が強い分、対応されやすいのね。ではこれを踏まえ、先ほどの強化スペルは使うべきだったかしら?」
あの『棘の追撃』はアタックスペル。だから攻撃する前に使わないといけない。妨害される可能性は…高い。雛苺にフィールドが一枚とは言え、手札が六枚もあったのだから。ただ…
「確かに強化せずに攻撃したら使われなかったかも知れない…でもそしたら柏葉の手札にアレは残る。
コスト1であの効果だろ?なら似たようなカードがかなりあるハズだよな。ならそれを使わせるか捨てさせるかしないとどんなに真紅の力を上げても無意味だ。だから早めに使わせたのはそう悪くはなかった…と、思う」
「あら、ジュンの脳みそはどうやらただのメロンパンではなさそうね」
「じゃあどんなメロンパンだよ!?つかメロンパンじゃねー!!」
「まあ、採点するなら75点、といったところかしら。私のメモリーの内容を知らないのだから、悪くはないわね。正直見直したわ」
「そ、そーか!?いや~僕もやればできるとは思ってたんだが」
「貴方のメロンパンにはちゃんと味噌が詰まっていたのね」
「だからメロンパンから離れろよ!?嫌だよそんなメロンパン!!」
「私は少し興味があるわ」
「メロンパンへの冒涜だー!!」

そんな事を言い合っているうちに、柏葉のターンになり、アリスポイントと手札が増えた。
が、ここで柏葉は引いた手札を眺めるだけでそれを読んで雛苺に伝えようとはしなかった。
「うい?どうしたのトモエ?」
「ねえ、雛苺…ここから先、私に任せてくれない?」
いきなり柏葉はそう言い出した。て、まだ始まってから数ターンしか経ってないぞ!?
「わからない事やカードを使う時は雛苺に言うわ。だけど手札を全て筒抜けにするのはマズいと思う」
それを聞いて真紅は小さく唸った。
「へえ…あの娘、さっきの説明であそこまで行動できるなんて。随分と戦い慣れてるのね。何かしているの?」
「えっと…確か剣道やってんだよ。ガキの頃から」
「剣道?」
「あーっと、フェンシングぽいのって言えば解るか?」
「…なるほど。戦いにおいて初心者ではないということね。ジュン、貴方は何かの心得があって?」
「…………………ひとりオセロ」
「ダメ人間」
「痛ーい!視線と言葉がハートに痛いぃ!?」
「…私はフィールドカードを一枚セットしてターンを終えるわ」
僕等二人のテンションに対して柏葉は実に冷静だった。偉いな、とは思うが、僕等が間違っているとは思わなかった。僕等は今、確かに全力でアリスゲームに望んでいたのだから。


それから数ターンが経過。状況は柏葉のバーポイントの引っ張り合い。ゆっくりと溜まる雛苺のアリスポイント。互いにフィールドカードが揃ってきたここからが勝負の分かれ目のようだ。
だが正直柏原が早急に手札を隠したのは痛かった。当然それが普通なのだが、ここまでやりづらいとは思わなかった。

柏葉巴 BP 13 手札2枚 土地5つ アンティーク 0 雛苺のAP 8

桜田ジュン BP 20 手札3枚 土地6つ アンティーク 0 真紅のAP 0

「真紅、お前ならこの状況どう見る?」
「そうね…押してる、とは言いづらいわね。高コストのスペルにはアリスポイントを上げるものがあるから、下手をすると一気に上げられる可能性もあるし」
「だけど待てば待つほど危険は増える、と」
僕はカードを引いた。表情筋がピクリと反応する。
「なあ、こんなもんを引いたんだが」
そのままプレイ。初めて使用するアンティークカードだ。
『蟻酸付きの鞭』戦闘魔力を1上げると共にコイツを壊せばそのターンダメージが“軽減されない”
「あら、悪くないオモチャね。鞭は嫌いではないのだわ」
だろうな。なんか、凄く似合ってるし。
さて…僕の手札に真紅の強化カードがある。柏原の手札は二枚。だが、軽減は無効可できるなら…
「そうね、そろそろBPを追い込んでおきたいし…いいわ、やりなさいジュン」
了解!じゃあ先ずは、
「2枚目の『棘の追撃』をプレイ。そして真紅を攻撃させる!」
これで通れば柏葉のBPを5点減らせる。いや、僕の手札を使えばさらに。どうする柏葉!?
「私はディフェンススペル『桜花の盾』でダメージを0に軽減!そして雛苺の防御魔力を次のターン終了時まで3上げるわ!」
軽減ついでに防御魔力増強のカードか!流石にレベルが上がってきた、が!
「僕は『蟻酸付きの鞭』を破壊、効果発動だ!」
「でもそのせいで戦闘魔力は1下がるし、『桜花の盾』があればダメージは1まで減らせるのよ!」
「確かにな。だがおかげでコイツの出番だ!フリースペル『魔力転移』!コイツで雛苺の戦闘魔力と防御魔力“を入れ替える”!」
「な!?」
これで雛苺の防御魔力は0だ!だがこれで終わりじゃない!本命はこっちだ!
「さらにフリースペル『連続魔法』発動!このターン使用したコスト3以下のアタックスペルをこのカードの代わりに使用できる!そのスペルはもちろん、『棘の追撃』!」
柏葉の表情が、先程よりも強張った。
「雛苺の防御魔力値は0…連続魔法で加算される戦闘魔力は6。合計ダメージは8…!?」
その柏葉の表情から僕はダメージが入った事を半ば確信した。半ば、というのは一抹の不安があったからだろう。そしてそれは、そいつの声で現実となった。
「ヒナのプレイスキル、『ペイントレード』を使うわ!」
プレイスキル!アリスゲーム中一度しか使えないドールズの特殊効果!
「これで一つのダメージの半分を、ヒナのAPに“変換”するのよ!」
「くっ…ダメージを軽減ではく、変換させるスペルなのね。合計の値は変わらないから軽減無効が適用されない…」
つまり結果、

柏原巴 BP 13→9
雛苺 AP 8→12

「BPは一桁になったけど…APが既に12…!」

真紅 AP 0→1

「…ん?なんで真紅のAPが増えるんだ?てか…」
「何見ているの?あまりレディをじろじろ見るものではないのだわ」
いや、見てるのは正確には真紅じゃなくて、
「おい、そのクマの人形どっから出した?」
「あら、これが私のアクティブスキルなのよ?壊れてしまったオモチャをドールとして下僕できる『ソウルマネージメント』。さ迷う魂を私が繋ぎとめてあげるの。
ただしこのドールは自分のフィールドカードの数が上限。ああ、発動するたびAPも増えるわね。良いことだわ」
「…ちなみに、その人形は役に立つのか?」
「当たり前でしょう。主人を身を呈して庇ってくれるのよ?」
「あいつ、攻撃して来ないんだが」
「そうね」
「使えねー!!」
こっちは雛苺のアクティブスキルに苦しんでるってのに、なんだそのほのぼのとしたスキルは!?しかも今回に関しちゃ一切意味無しじゃないか!!
「私のターン。カードを一枚引くわ」

雛苺 AP 12→13

くっ、アリスポイントも問題だが、さっきの攻防で僕の手札はあと僅か一枚。柏葉が今引いて二枚。
このままずるずるいけば確実にこちらが不利だ。雛苺のフォーススキルも恐らくは防御に適したモノのはず。加えてライフ回復やダメージ軽減を使われたら間に合わない!
「私はプレイ条件『AP10以上』をクリアーしたからアンティークカード『教訓の薬箱』を場に出すわ。これは私がダメージを受ける度教訓カウンターを乗せていき、これを破壊した際そのカウンターの二倍の分だけバーポイントを回復できるのよ」
な、なんつー極悪カードだ!?用は常にダメージを2減らすって事じゃないか!
「僕のターン…おい、真紅!どうすんだよあんなモン!うわ!引いたカードもフィールドだー!」
「あら、随分と運がいいのね」
「どこがだよ!ただのフィールドだぞ!?」
「まったく…ではジュン、ゲーム開始時からずっと手札に握り締めているそのコスト7のカードは一体いつ使うの?」
「…あ!」
それは、僕が最初からまったく使えなかったカード。一つはコストが高すぎたために。そしてもう一つは…相手がアンティークカードを出さなかったために。
「フィールドをセットして、これで七枚!いくぞ、アタックスペル『不良品の暴発』!これでアンティークカード一つを破壊!続けてそのコスト分のダメージを相手ミーディアムにぶつけることができる!」
「私のアンティークを破壊した上に追加ダメージまで…!」
『教訓の薬箱』の魔力コストは5!それがそのままBPを削る! 

柏葉巴 BP 9→4

真紅 AP 1→2

「くっ…!ううっ…」
「トモエ!?大丈夫なの!?」
わかってる…僕は一切BPを失っていないからなんともないが、柏葉は回復はしているが寧ろそのせいですでに20以上のダメージは受けている計算だ。
最初の状態を考えれば…正直、もう限界だろう。大丈夫なワケがない。
「大丈夫…だから、雛苺は前を向いてて…しっかり相手を見てて」
「は、はいなの…!」
それでも柏葉はそう言うだろうな…強いな、柏葉は。でも…だから…!
「あいつが諦めるまで僕が逃げちゃダメなんだ!桜花の盾の効果が続くから僕のターンは終了だ!」
「私の、ターン!」

雛苺 AP 13→14

いよいよ終盤…数字的にも、柏葉の体力的にももう後が無い。加えて言えば僕の手札も無い!かなりのピンチだ!
「手札…欲しいの?」
「え?」
聞き間違いかともおもったが、その声は間違いなく柏葉のモノ。
「なら…“あげるわ”。アタックスペル『神の施し』!これで私はカードを四枚引いて、桜田君は二枚まで引くことができる」
カード補充のスペル…しかも相手まで!?直接火力のある真紅のメモリーからカードを引かせるなんて…!
「僕は今引いたフリースペル、『返し木の葉』を発動!」
「くあっ…!」

柏原 BP 4→3 

ダメージ覚悟で引かせたのか!?だがこれで柏葉の手札は五枚!一体何のカードを引いた!?
「ここでアタックスペル『身分差からの恋愛劇』!私と桜田君の“手札の差だけ”アリスポイントが増える!」
違う、引きたかったんじゃない…それが使いたかったのか!!

雛苺 AP 14→17

マズい!このままじゃ…!
「そして…これで最後!アタックスペル『アメージング・マイノリティ』発動!追加コストでフィールドを一つ捨てて…桜田君との土地の差だけアリスポイントを増やす!」
僕のフィールドは7つ、柏葉は今壊したから…4!やられ…
「私のプレイスキル発動!」
「真紅!」
「『高貴なる威圧』で貴女が増やすアリスポイントを私が1.5倍にして貰い受けるのだわ!」

真紅 AP 2→7

「う…AP吸収のプレイスキル…」
「た、助かった…」
し、死ぬかと思った…いや、マジで。
「ジュン、気を抜かないで。急場を凌いだだけよ。次で雛苺のAPは18。あと3ターン待ってくれるとは限らないわ」
「まあな…なら、このターンで…」
メモリーから…ドロー!
「ん…これは…『薔薇革命』!相手の手札の数だけ直接ダメージを与えるスペル!追加コストとして自分もダメージを食らうが問題ない!僕の勝ちだ!柏葉ー!!」
カードを本に挿入!プレイしてゲーム終了だ!
「ああっ…!」
「まだよトモエ!」
何!?まさか…ここで出るのか!?
「ヒナのフォーススキル『神の愛娘』!これでBPが4以下の時、それ以上のダメージは全て無効になるのよ!」
「つまり…巴のBPが3の今、2以下のダメージしか受け付けないということ…!」
どんな強い攻撃も通さず、絶対に一撃じゃ倒せない、まさに神の防壁!
「ならそうするまでだ!真紅!雛苺へ攻撃だ!」
「そうはさせない!ディフェンススペル!『轍の壁』!」
くそっ、さっきのドローで引いていたのか…!
「ターン、終了だ…」

「私、の、ターン!」

雛苺 AP 17→18

もしここで1でも上げられたら…ライフを回復させられたら…僕等の負けに等しい…!
「私は引いたフリースペル、『想いの再利用』で手札を一枚捨てる代わりに捨てられたアンティークを一つ場に戻す!」
アンティーク…それってまさか!いや、あれしかない!
「そう…私が戻すアンティークは『教訓の薬箱』!」
実質ダメージを2点減らすアンティーク…そして3点以上のダメージ無効のスキル…!だ、だめだ…これじゃ勝てない…
「最後に『対価の慈愛』でフィールドカードを一つ捨てて…アリスポイントを1あげて…ターン、終了…」

雛苺 AP 18→19

「ははっ…やって欲しくない事、全部やってくれたな…柏葉…」
実は僕の一枚の手札はただのフィールドカード。完全に詰み、だ。
正確に言えば…『アンティークを破壊して二点ダメージを与える』カードが引ければまだ勝てるかもしれないが…そんな都合のいいものが…
「くっ…」
それでも目をつむってしまうのは往生際が悪いのか?でも…見なくちゃいけない。最後の手札は…
「…『魔法摘出』」
相手の捨てたフリーかディフェンススペルを使えるカード、か。
「ダメだな…ごめん、真紅。僕等の負」
「ジュン。今何て言ったの?」
「え…?だから、僕等の…」
「違う、その前よ」
前?てことは…
「『魔法摘出』…?」
その時僕は確かに見た。真紅が、あの真紅が“ニヤリ”と笑うのを。
「良くやったわね、ジュン。さあそのカードを使いなさい」
「使うって…」
今更一体…何のカードを?
「摘出するカードは、『想いの再利用』よ」
「アンティーク再生のフリースペル…?だって僕等の捨てたアンティークは…」
「そう、一つだけ。だから“それ”を出しなさい!」
僕等が使った唯一のアンティーク。手札を捨て、『蟻酸付きの鞭』が場に戻される。だめだ、未だに真紅の意図が読めない。雛苺の『神の愛娘』は軽減無効でどうにかなるスキルじゃないんだぞ?
「“そっちじゃない”のだわ。ジュン、これを今すぐ破壊しなさい。“それで終わるわ”」
柏原も、雛苺も、そして僕すら…何が起こるかわからない中で、僕はそのアンティークを破壊した。

真紅 AP 7→8

「さあ…いらっしゃいな。私の可愛い迷えるドールよ」
真紅のアクティブスキルが発動し、手元に三体目のドールがやってきた。そして―
「相手のBPは3、ドールの数は3、私のAPは倍以上の8!これで条件が揃い、私のフォーススキルが発動する!!」
フォーススキル!?まさか…今度は真紅のフォーススキルが発動すると言うのか!?
「私のフォーススキル『鎮魂の拳』はドールの数が相手BP以上、かつ私のAPがその倍以上ある時に発動するのよ!」
ドールを作り上げ、APを吸収する真紅のスキル…あのパッシブスキルもプレイスキルも…全てはこのフォーススキルを発動させるための布石だったのか!
「そしてその効果は、全てのドールを魂に戻し、その輝きを拳に載せて討ち放つ直接攻撃!くらいなさい!この壊れたアンティークが繋ぐ魂の輝きを…それを人は、『絆』とも呼ぶのよ!!」
彗星。まさにそんなモノが真紅の拳から柏葉目掛けて走り抜け出した。
「でも3点ダメージならヒナの『神の愛娘』で…!」
「無駄よ!絆で結ばれた魂は砕けはしない!この攻撃は一切の干渉を受けず、カウンタースペルを使うことも許さない絶対攻撃能力!
これで…私の勝ちよ、雛苺!!」
ここで初めて、真紅が勝ちを宣言した。そしてそれは、絶対の魔女による宣告だった。
「雛…苺…!」

柏葉巴 BP 3→0

「ありがとう、トモエ…でもヒナ、とっても楽しかったのよ…」
暗転。足元の魔法陣が縮小して消え去り、周りの青白い光が消えた頃には風景も元に戻り…元の空き地になっていた。
元通りだった。
ただ、雛苺とその本が消えているのを除けば。
「柏葉!」
僕は倒れ込んでいる柏葉に駆け寄って抱き起こす。意識は無いが…大丈夫、気絶してるだけみたいだ。
「ふぅ…まったく、こんなアリスゲームは二度としたくないものね。私だけのメモリーの上にすべて把握できていないなんて。無謀の極みなのだわ」
「はあ…確かにすげー疲れたな。でもまあとりあえず、おめでとうって言っていいのか?」
「結果が全てと言うけれど…過程も大事にしたいものなのだわ。それでも、私がこうしてここに立っているのだから…そうね、一先ず、おめでとうかしらね」
横たわる柏葉を見る。僕等のせいで彼女は雛苺を失った。でも彼女が失わない事は僕が真紅を失うのと同じ事。ゲームが始まってしまってどちらか一方しかないのなら、全力で競い合うまでだ。
そして、僕等が勝った。可哀想とは思っても、後悔はなかった。
「では今日は帰りましょう。でも明日からは特訓よ。覚悟しなさい」
「え、ちょ!待てよ柏葉は…」
「起きるまで貴方の家に置けばいいのだわ」
「き、気絶した女の子を自分の家に連れ込むだと…!?僕はそこまでの鬼畜になってしまっていたのか…!」
「馬鹿やってないで早く行くのだわ」
「ちょっとは待ってろよ!よいしょ…む、柏葉見た目より重…ぐえ!く、首が…さては貴様起きてるな!?うぐぐ…あ、ダメ墜ち、る…」
こうして、僕の新しい世界での1日が終わった。それはいつもの日常とは比べモノにならないくらい慌ただしく刺激的で、忘れられない思い出となった。
だがこの時僕は、これから襲い来る危険や恐怖を真に理解してはいないのだった…

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