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「巴が正式にアリスゲームを放棄するってさ。昨日ベリーベルからそう連絡があったよ」
 巴との激戦から一週間が経過し、みつ、めぐとそのミーディアム達が真紅の部屋でたむろしていた時にジュンがそう言った。
 それを聞いて、みつやめぐを初めとしてその場に居る皆が安心した表情を浮かべた。
 もうこれで戦いなんてする必要が無いのだ。
「そう…これで本当に平和になったのね」
「もう何も余計な心配せずに済むのね。…長かった…」
「ああ…本当に長かったよ」
 クッションにもたれて目を閉じ、感慨深げに呟く。これまで何度と恐ろしい目に合ったことか…。
「これで私も安心だわ。余計な事で体力を吸われないで済むんだから」
 不意にそんな意地悪っぽい台詞が聞こえてきてそっちを見ると、真紅が人数分の紅茶を淹れて部屋に戻ってきたところだ。
 真紅はそのままジュン達に紅茶を渡していくと、自分の勉強机のイスに座って紅茶を一口飲んだ。
 それから部屋を見渡すと、今度は少し落胆したような表情を浮かべる。
「どうしたんだよ、今度はそんな顔して」
「どうしたって…この部屋を見て何とも思わないの?」
 真紅の部屋は、いつも通り見るも無残に散らかってしまっていた。
 みつ達が来る前は綺麗に片付いていたのに、来たらあっと言う間にこの有様だ。
「…僕が出した訳じゃないから」
「言い訳無用、さっさと片づけなさい! …大体金糸雀も水銀燈もいるのに何でこうなるのよ!」
 今度は怒りを水銀燈と金糸雀に向けるが、二人は顔を見合わせて笑うだけだ。
「だってぇ、こんなに元気なめぐ見ると嬉しくってぇ…」
「そうかしら。あんな目にあってもみっちゃんがこうして元気でいられるのが嬉しくて…」
「…あなた達…将来絶対親バカになるわね…」
 ダメだこりゃ、と真紅は天井を仰いで溜息を吐く。

 

「…そう言えば、そろそろ来るんじゃない?」
「そうね、もうそんな時間だわ」
 みつとめぐが時計を見て、そんな事をかわす。
 事前に何も聞かされていない真紅と金糸雀、水銀燈は何のことか分からず首を傾げた。
「何が来るの?」
「何って…あ、噂をすればって言うやつね」
 みつが説明しようとする前に鏡台の鏡が波を打って輝き出し、部屋に居る皆の視線がそこに集まる。
 何が来るのかと人間達に少し緊張が走るが、ジュン達は平然としている。
 それからしばらくすると、中から一体の人形が現れた。
 ジュン達と比べると大分歳を――人形だから歳なんて関係ないだろうが――取っているような風貌の人形。
 大分落ち着いている雰囲気で、ジュン達よりも大分落ち着いた雰囲気だ。
「…ジュン、みつ、めぐ…何年ぶりだろうか」
「じーさん…61639時間ぶりだよ」
「そうか…そんなに長い時間眠っていたのか…。懐かしい顔だな」
 一人感慨に耽る人形。ジュンは真紅達人間の方を見ると、口を開いた。
「この人形が前に言ってた巴にローザミスティカを奪われてたじーさん…本名は一葉って言うんだ」
「君がジュンの新しいミーディアムか…どうだ、迷惑は掛けてないか?」
 落ち着いた笑みでそう真紅に問いかけると、真紅は思わずプッと吹き出した。
「迷惑も何も、毎日大運動会よ。おまけに憎まれ口ばっかりだし、大変もいいところだわ」
「やっぱりな…全然変わってないみたいだな、ジュン」
「ちぇ、また説教する気かよ…まったく、年寄りは説教好きだから困るよ」
「ジュンが悪いんでしょ?」
「ジュンジュンも素直に受け止めたら? いつまで経っても素直じゃないんだから」
「な、何だよお前らまで! クソ、僕に味方は居ないのか…」
 続け様にみつとめぐからもそう言われ、一人拗ねてクッションに寝転がった。
 その様子がおかしくて、その場にい居る皆が笑った。

 

 そうしている間にも鏡は輝いていて、今度は中から帽子が現れてた。
 それに皆が気付き、また視線がそこに集まる。
 そして今度出てきたのは、真紅と水銀燈のクラスメートであり金糸雀の友達である蒼星石だ。
 これには真紅達も驚きを隠せない。
「そ、蒼星石!?」
「まさか、この人形のミーディアムってあなたなの!?」
「鏡台から失礼します…って、真紅の部屋か。…うん、僕が一葉のミーディアムだよ」
「…凄いかしら…友達が三人もローゼンメイデンと契約してるって…」
「僕も最初はそれを聞いてびっくりだよ。まさか真紅達がそんな契約を…ぐえっ!」
 台詞を最後まで言い切る前に、鏡の前に立っていた蒼星石は後ろからど突かれてそのまま倒れてしまった。
 何事かと思って見てみると、今度はその姉の翠星石までが出て来ていた。
「翠星石!? あなたまで来たの!?」
「おめーら何私を差し置いて勝手にローゼンナントカと契約してるですか! 何で私の所には来ないんですか!」
 怒り心頭、といった様子で真紅達を睨む。ちなみに蒼星石は翠星石の下敷きになったままだ。
「何でって言われても、ローゼンメイデンは六体しかいないんだからしょうがないだろ」
「キー!! 蒼星石の所に来て私には来ないなんて不公平ですぅ!!」
 ジュンに言われて一人悔しがる翠星石に、皆呆れたように笑う。
 もっとも、蒼星石は笑える状況ではないが。

「あいててて…もう、姉さん酷いよ…」
「…まあしょうがない、こうなったら潔く諦めてやるですぅ」
 何とか翠星石も落ち着いて、双子と一葉も小さいテーブルに着いた。
 ちなみに蒼星石の背中にはあちこちに翠星石の足跡が出来ている。
「真紅、客人に早くお茶を出すですよ。私はローゼンナントカを持ってないんだから少しぐらいねぎらえですぅ」
「ローゼンメイデンよ。まったく…ジュンよりタチが悪いわね」
 呆れながらも真紅は立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
 だがその前にジュンが口を開いた。

 

「そうだ。じーさん、僕のやつ飲んでいいよ。まだ口付けてないから」
「おお、悪いな。頂くよ」
 ジュンは一葉に紅茶を差し出すとそのまま立ち上がり、鏡台へと向かって行った。
 それに気付き、真紅は扉を半分開けたところでジュンを見た。
「どこに行くの?」
「ん…ちょっと用事」
「用事? nのフィールドに?」
「ああ。ちょっと巴とデートだよ」
「巴と…」
「じゅ、ジュンジュンが、でっ、デートぉ!? しかも、巴となんて…!」
 真紅もジュンの台詞に驚いたが、それ以上にみつが一番驚いていた。
 あまりの驚き様に、ジュンよりもみつへと視線が集まる。
「そう言う訳だから。晩ご飯までには帰ると思うから、じゃあな」
 それだけ言うとジュンは鏡の中に消え、また視線がみつへと集まる。
 みつは固まったまま鏡の方を見つめていて、何かブツブツ呟いている。
「…ジュンジュンが…デート…巴と…デート…」
「…み、みっちゃん?」
「そんな…あのジュンジュンが…ジュンジュンが…」
「…みっちゃん、もしかしてジュンの事…」
「止めてー!! それ以上言わないでー!!」
 全てを言い切る前にめぐの頬を真っ赤な顔で引っ張りだした。
「い、いひゃいいひゃい!! やへへひっひゃん!!」
「…へえ、みっちゃんが…あのジュンも意外とモテるわねぇ」
 一人納得したように頷き、悪戯っぽい笑顔を浮かべる真紅だった。

―※―※―※―※―

 

 nのフィールドを昨日ベリーベルに言われたとおりに行くと、行き着いたのは巴と激戦を繰り広げたあの神社だった。
 相変わらず寂れているが、空はあの時とは違って快晴で陽射しが心地良い。
 そこの御神木を見ると、巴がもたれかかっているのに気が付いた。
 ジュンは少し駆け足になってそこに行くと巴もジュンに気が付き笑顔を浮かべる。
 その笑顔は、今までの狂気染みた物とは違う、穏やかなものだ。
「待った?」
「ううん。私もついさっき来たところよ」
「そうか…」
 ジュンも笑顔になり、巴の隣に並んで同じように御神木にもたれて空を見る。
「どうだ? あれからミーディアムと仲良くやってるか?」
「ええ。いつも笑顔で一緒にいて…幸せよ」
「…だろうな、顔見れば分かるよ。大分表情が柔らかくなってるからな」
「…あなたが気付かせてくれたのよ。一番大切なものを…」
 巴は自分の首に掛けてあるペンダントを取り、それを開いて中の写真を見た。
 慈愛に満ちた表情、ジュンはその顔を横目で見て微笑む。
「こっちも相変わらずみつ達がはしゃいでるよ。毎日が大運動会だって、真紅が言ってた」
「ふふっ、その様子が目に浮かぶわ」
 その様子を想像して巴が笑い、ジュンも釣られて笑った。
 巴と過ごす穏やかな時間、こんな時が来るなんて思いもしなかった。

 どれくらいそうしていただろうか、空を眺めていた巴が不意に口を開いた。
「…そろそろ行かない?」
「ああ、僕もそう思ってたところだ」
「じゃあ…行くとしましょう!」
「そうだな!」

 

 さっきまでの穏やかな雰囲気から一転、二人は跳んで距離を取るとジュンは二本の刀を、巴は木刀を手に取ってお互いに向かい合った。
 そのまま武器を構えて、不敵な笑みを浮かべて睨み合う。
「確かに私はアリスゲームを放棄したわ。でも…私があなた以下だなんて、プライドが許さない」
 今の巴からはさっきまでの優しい雰囲気は消え、あの時の巴に戻っている。
「だから今度はアリスゲームも何も関係無しにあなたに勝って、私がローゼンメイデンで一番強いって証明してみせるわ」
「…負けず嫌いだな、お前も」
 呆れたような台詞だが、ジュンの表情は満更でも無さそうだ。
「言ったでしょう? 私は戦う事しか知らないドールだって」
「そうだったな…。しょうがない、暴れたくなったら来いって言った以上、しっかり相手してやるよ!」
 ジュンのその台詞で巴が先に駆け出し、ジュンもいつでも動けるように構えを取ったまま巴を睨む。
 巴はその勢いを生かしたままジュンへと突進攻撃を繰り出したが、ジュンはそれを横に転がってかわす。
 それから攻撃へとすぐに立て直し、立ち上がり様に片方の刀を切り上げた。
 だがそれは木刀で受け流され、カウンターの突きがジュンの顔に迫る。
 ジュンはもう片方の刀で突きを防ぎ、そのまま後ろに跳んで巴と距離を取った。
「全然衰えてない、やっぱり強いな」
「そう言うあなたこそ。あそこまで対応できるのはジュンだけよ」
 かつての戦いの最中では絶対に口に出さなかったであろう台詞。
 お互いを認め合っている今だからこそ出た台詞だった。
 そして二人とも跳び掛かり、再び激しい攻防が繰り広げられる。

 

 これまで何度も戦ってきた。何度もローザミスティカを奪われそうになった。
 その時と同じ戦いを今している。…なのに、今初めて戦いで感じている感情があった。
――楽しい――
 邪な感情も歪んだ目的も無い、ただ純粋に勝ちたいという意地と意地のぶつかり合い。
 その戦いで感じられる緊張感と高揚感が、心の底から心地良く興奮してくる。
 全てはプライドの為。戦いの中時々お互いに見える表情は、二人とも心の底からの笑顔だ。

「楽しいなぁ、こんなに楽しいの初めてだ!」
「そうね! 楽し過ぎて――おかしくなってしまいそうよ!!」

 この戦いの結末を知る者は…巴とジュン以外、誰もいない。


もしローゼンメイデンのポジションが逆だったら R

終わり

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