※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「来週はみちのくでよろしーくんくん! 」
しまったわ、と真紅は呟いた。彼女の生きる上での生き甲斐である「名探偵くんくん」を今週も見終えるまでは気が付かなかった。
そう、来週はくんくんの公開収録なのだ。くんくんを愛してやまない彼女にとってはこんな間近でくんくんに逢えるイベントを易々と逃すわけにはいかない。しかも運よく収録前後は予定が入っていない。
「あぁ、これも私とくんくんが見えない赤い糸で繋がっているからなのね」
恍惚の表情を浮かべながら真紅はさっそく来週に向け、旅行の準備を始めるのであった。

薔薇乙女みちのく湯煙旅日記

「……ということなの。一人旅というのもなんだから貴女達もどうかしら」
駅前に新しくオープンした紅茶が美味しいらしい喫茶店で真紅は双子の乙女に訪ねた。
「旅行かぁ~、いいねたまには」
「しかしさすがにいきなりすぎるですぅ」
ボーイッシュの彼女、蒼星石はレモンスカッシュを口に運びながら予定はどうだったかと思い出してみたが来週の予定は無い。
夏休みも終わりに近づき、皆で過ごすイベントでもあればいいなと思っていたところだ。旅費等はこれまでにアルバイトをして貯めたものを使えばいい。
「僕はいいけど翠星石、君はどうすんだい? 」
「んー、そうですねぇ……まぁ~真紅がどうしてもっていうなら行ってやらんことも無いですぅ」
「そう。じゃあ予定は明日にでも伝えるわ」
翠星石は飲みかけのオレンジジュースをストローでブクブクと息を吹き込みながら何やら模索していた。皆で旅行、しかもくんくんという魅力的な提案であるが何かインパクトが足りないというかなんというか。
「そうですぅ! 雛苺や金糸雀も誘ってやるですよ」
「あら、その件はもう済んでるわ。あと雪華水晶と薔薇水晶も誘っておいたわ」
「私の提案を先読みするとは、用意周到な野郎ですぅ」
「水銀燈は誘わなくていいのかい? 」
どうかしら、と真紅は呟く。彼女も誘えばくんくんを愛する者として必ずや足を運ぶだろう。しかし真紅と水銀燈の微妙な関係から彼女は水銀燈を誘えずにいた。
「……素直じゃないんだね、真紅」
「翠星石とは違うわ、私は」
「そう、じゃあ僕が水銀燈を誘っておくよ。それでいいよね」
「貴方に任せるわ」
意味深に楽しそうな笑顔を浮かべる蒼星石に真紅はどこかほっとしたような表情で紅茶を口に運ぶのだ。
「ちなみに旅行先はどこなんですか? 」
「福島よ」
「福岡? 」
「福島よ」
「徳島? 」
「あなた、わざとやっていない? 」
「いや、私は真面目に尋ねているんですけど福島ってどこですか、蒼星石」
「福島県は東北地方の南部にある県だよ。面積は日本で三番目に大きい県だね」
「で、何かある県なんですか? 」
「僕もあんまり詳しくは知らないけど有名なのは戊辰戦争で活躍した白虎隊の会津だね」
「その会津の鶴ヶ城という所でくんくんの公開収録があるのよ。若き武士とくんくん……想像も出来ない事件が始まる予感がするのだわ。あぁくんくん待っていて……くぅんくぅん!!! 」


「で、新幹線ホームに集合と言っておいたのに集まっているのは蒼星石と翠星石だけというのはどういうことなの」
人もまだ疎らな早朝の新幹線改札口前。くんくんのストラップが付いた紅色の鞄を片手に真紅は苛立ちを隠せなかった。
「まぁまぁ、真紅。まだ出発には三十分近くあるんだし、その内みんな来るよ」
「そうですぅ、真紅は焦りすぎなのですぅ」
と、なだめるのは対になるような蒼と緑のお揃いのバックを持つ蒼星石と翠星石。いつかの旅行の為にとお互い準備してきたバックらしくやっと今日、日の目を見ることが出来たらしい。
「それに雛苺と金糸雀なら僕、さっきそこのコンビニでお菓子を選んでたけど」
「翠星石は既に昨日の内に買っておいたですぅ」
蒼星石が指差した先のコンビニには良くは見えないが黄色の服装とピンクの服装をした二人がいる。真紅はため息を吐きながら翠星石に呼んできてちょうだいと頼んだ。
「……あとは薔薇水晶と雪華綺晶ね」
薔薇水晶と雪華綺晶についてはなかなか掴めていないのが真紅の本音であり、何処にいるかも見当が付かなかった。
「あと水銀燈もだよ、真紅」
「分かっているのだわ」
水銀燈についてはくんくんの為だ、何があっても来るだろうと思っていた。だから真紅は心配していなかった。真紅の彼女なりの水銀燈への信頼だった。
「……あっ」
そんなことを思いながら新幹線改札口へと続くエスカレーターを見ているとそこには鞄を大事そうに抱える薔薇水晶とおにぎり片手に幸せそうな雪華綺晶の姿があった。
「……おはようございます」
「遅いのだわ薔薇水晶、雪華綺晶」
「お腹すいちゃって……じゅるり」
て雪華綺晶は手にしていたおにぎりを丸呑みした。そう、丸呑み。
「……朝、たくさん作ったんだけど……なんだか……おねーちゃん興奮してて」
「興奮に対して食欲は比例しないのだわ」
「もぐもぐ……じゅるり」
「おねーちゃん……昨日から……こんな感じなんです」
「そんなんじゃ旅行前に旅費が尽きてしまうのだわ」
「……大丈夫です。もしものときは……ガムを大量に与えれば」
「あなた、一応姉なのだからそんな扱いは」
「……一時間で分解されちゃうんですけど」
「さすが雪華綺晶ね……並大抵のことじゃないのだわ」
ん、と不思議な顔をしてこちらを向く雪華綺晶に薔薇水晶と真紅は内心ため息を吐くのであった。
「これで後は水銀燈だけなのだわ」
「銀のお姉さまは……どこに……」
きょろきょろと改札口辺りを見回す薔薇水晶に真紅はまだよ、とくんくん特別仕様の腕時計を見つめながら答えた。
「そろそろホームに向かわないと間に合わないのだわ。薔薇水晶、雪華綺晶行きましょう」
「……はい」
「もきゅもきゅ」
異様な効果音に真紅はやや冷や汗を掻きながら蒼星石が待つ改札口へと戻るとそこには翠星石に引っ張られる金糸雀と雛苺の姿が。手には旅行バックの他にパンパンに膨らんだコンビニの袋。
「金糸雀に雛苺、何貴方達は集合時間になってもこないと思ったらまさかコンビニで買い物なんて」
「ごめんなさいなの。けど金糸雀がお菓子がほし~いって」
「カナのせいじゃないのかしら! 雛苺だって持ってきたお菓子が少ないって言っていたからカナは着いて行ってもいいかしらって」
「……いいわ、もう」
先が思いやられると真紅は内心思っていた。出発前にこれではこれなら一人旅でも良かったのではないかと。
「真紅にも買ってきたのよー」
「喜ぶがいいかしらー」
と、袋の中から雛苺はお菓子の箱を取り出すと真紅に手渡した。
『くんくんコレクション08~黄金の虫眼鏡編~』
要は食玩である。
「こ、これは……今日発売のくんくんコレクションの第八弾、劇場版くんくん探偵08のフィギュアじゃない!! 雛苺、金糸雀、感謝するわ! やはりあなた達を誘ってよかった」
「現金なんだね、真紅」
既にくんくんコレクションに夢中の真紅に蒼星石は苦笑いを浮かべる。そこが真紅らしいといえば真紅らしいのだけれど。
「あらぁ、真紅いいものもっているじゃなぁい」
「水銀燈、あなたいつの間に来ていたの」
「別にあなたには関係ないでしょう、真紅ぅ」
「私がこの旅行を仕切っているのだから私の命令には絶対服従よ、水銀燈……あら、貴方それは」
ようやく現れた水銀燈の異様に膨らんだ黒いキャリーバックに視線がいく真紅。
「べ、別に何があろうといいじゃない!! 」
「水銀燈、開きなさい」
「なんで私があんたの命令に従わなくちゃいけないのよ! お断りよぅ」
「そのバックからくんくんの香りがするの、開けなさい、水銀燈」
「か、香りって貴方の嗅覚は一体どうなってるのよ! 」
「この私を侮らないでちょうだい。私が今までどのくらいくんくんと過ごしてきたか分かるの? そうよ、私とくんくんは見えない糸で繋がれている……誰かはそれを……絆と呼ぶのよ!! 」
「何、名言の無駄遣いしているのよぅ、貴方」
「ともかく! 渡しなさい、その鞄を」
「あの~真紅、盛り上がっているところ悪いんだけどそろそろ新幹線の発射時刻なんだけど」
険悪なのかわけの分からない雰囲気を出している二人を止めた蒼星石に他の皆は心の中で
「グッチョブb! 」
と密かに尊敬するのであった。


「ということで新幹線よ」
「なんでいきなり新幹線の中なのよぅ」
「だって貴方、新幹線のホームで新幹線を待っていたらふざけた雛苺を追い掛けていた翠星石が
金糸雀にぶつかってそのまま反対側の線路に落ちてそれを助けようと
蒼星石が手を伸ばしたんだけどさすがに三人の体重にはかなわなくてそのまま引きずり込まれた様子を
コンビニのあんまんと肉まんとピザまんとフカヒレまんとチョコまんをもふもふしながら見ている雪華綺晶と
慌ててるのか楽しんでるのか分からない薔薇水晶の事なんていいじゃない」
「なんだか重大な事みたいだけど別にいいわぁ」
と、他人事の様に水筒の紅茶を優雅に楽しむ真紅とキャリーバックを愛しそうに撫でる水銀燈。
「チビ苺のせいでどっと疲れたですぅ」
「ヒナのせいじゃないもん! ヒナを押した翠星石が悪いんだもん」
「そうだよ、翠星石。線路に落とすのはさすがに危ないよ」
「カナはとばっちりかしらー」
「蒼星石までっ……翠星石は悪くないですぅ! 悪いのは全て雛苺が悪いんですぅ」
「まぁまぁ、怪我も無かったんだし良かったじゃないか」
と、怒る翠星石をなだめる蒼星石の胃にこの旅行で穴が開いてしまうのではないかと心配している金糸雀の心配をよそにまたちょっかいを出す雛苺。
「もふもふ」
「……おねーちゃん、食べ過ぎだよ」
「もにゅもにゅ……ばらしーちゃんも食べる? 」
「おねーちゃん見てるだけで……お腹いっぱい」
「もがもが」
そんな騒がしい様子を見ている薔薇水晶とクリームパンとチョコパンとメロンパンとあんパンとジャムパンを様々な擬音を出しながら食らう雪華綺晶。旅の間はずっとこのままなのかと、いつかは止めないといけないと思う薔薇水晶であった。
「ところで真紅、何で貴方が私の隣なのよぅ」
「しょうがないでしょ。籤引きの結果なんだから。それよりも私は貴方のその荷物について問い詰められるいい機会だと思っているわ」
「……しつこいわね、真紅」
「あら、貴方には足元にも及ばないわ」
「何ならここでアリスゲームを始めてもいいのよぅ、真紅」
「……受けて立つわ、水銀燈」
重たい沈黙の中、真紅はポーチの中から、水銀燈はキャリーバックの小さなポケットからくんくんがプリントされている四角い箱を取り出す。
「アリスゲーム……」
「決闘(デュエル)!! 」
「私のターンからよ、ドロー! くんくん劇場仕様07を召喚! 」
「し、真紅そのカードはぁ! 」
「ふふっ、さすが水銀燈ね。そうこのカードは劇場版くんくん探偵07~七人の悪魔探偵編~で先着100名に配られた伝説のレアカードなのだわ」
「ま、まさか真紅がそのカードを手に入れてるなんて……まぁ、いいわぁ。私のターン、私はくんくん探偵06~夢の探偵オリンピック編~で活躍した時のくんくん、くんくん探偵(真の探偵)を召喚よ! 」
「す、水銀燈!? そのカードはオークションで時価数十万といわれる幻のレアカードじゃないの! ジュンに頼んでも競り合うことすら出来なかったのに貴方……」
「んふふ……やはりくんくんへ対する愛情の差なんじゃないのかしら真紅ぅ~」
「まだよ、まだ終わらないのだわ」
そうして皆々の新幹線での時間が過ぎてゆく……。


「ねぇ、真紅」
新幹線が宇都宮に到着した頃、水銀燈とのカードバトルがまだ続いている真紅に蒼星石が声をかけた。
「何、蒼星石。忙しいから後にしてほしいのだけれど、水銀燈! 私はこのターン、『くんくんの七つ道具』を発動するわ」
「別にたいしたことじゃないんだけど、なんで今回の旅行を二泊三日にしたんだい? 別に一泊でも良かったんじゃないかって思ってさ」
「あら、別に対した理由じゃないのよ。
ただ、一日目は私の勝手で皆を連れ出す訳だから二日目は全員で楽しめたらいいんじゃないかって思っただけよ。それが何か? 」
そう、と蒼星石は呟いた。翠星石が雛苺や金糸雀を誘おうとした時だって既に真紅は誘っていた。
本当は、くんくんの為の旅行じゃなくて、みんなとの夏の思い出を作りたかったんじゃないかと思った。決して口には出さないが、出したところで真紅は否定するだけだ。そういう素直じゃないところは翠星石とよく似ているとフフッと笑みがこぼれた。
「掛かったわね、真紅ぅ! 私はこのターンに『七人の悪魔探偵の罠』を発動! これであなたの場には何もいなくなった! 終わりよぉ、真紅! 」
「まだよ、場にすべての人物がいなくなったときのみ発動できるこのカード『悪魔将軍』を召還。このカードの効果は分かっているわね、水銀燈? 」
「ま、まさか貴方……」
「そう、このカードが場に出た瞬間、貴方の墓地にある七人の悪魔探偵を吸収し、このカードは相手の二倍のパワーを得ることができるわ。これで終わりよ、水銀燈! 」
「真紅ぅぅぅぅ!!!! 」
水銀燈の恨みがましい声が響いた。すると隣の列に座っていた雛苺は立ち上がると水銀燈にしぃー、と人差し指を唇に当てた。
「電車で騒いじゃ、めーなの」
「わ、分かってるわ!! 」
幼い雛苺に注意されたからか顔を赤く染め、そっぽを向く水銀燈。
「雛苺に注意されてるようじゃ水銀燈もまだまだですぅ」
「う、うるさいわね! 」
「翠星石もイジワルなこと言わないの! 」
「うっ、翠星石はわるくないですぅ」
「雪華綺晶もあんまり散らかしちゃだめなの」
「……もぐ(うん)」
「す、すばらしいわ、雛苺。いつもの貴方じゃないみたい」
「巴から昨日たっぷり教わったの。新幹線とかで騒いだら車掌さんに窓から投げられるって」
「……巴、恐ろしい子」
無邪気な笑顔を浮かべる雛苺の背後に鬼の巴が見えたような気がして真紅は青ざめた。巴の教育方針は恐怖政治らしく、これでは雛苺も陰で苦労しているに違いないと。
「みっちゃんがそんなじゃなくてよかったかしら……」
「さぁ、磐越西線に乗り換えるわよ」
「真紅、ここはどこですぅ?」
「福島の郡山よ。ここから磐越西線というものに乗り換えて会津若松に向かうのだわ」
「ちなみに『あいず』じゃなくて『あいづ』だからね、翠星石」
「そ、そんなの知ってるですよ、蒼星石! 」
はは、ごめんと謝る蒼星石を始めとする八人は郡山駅から磐越西線のホームへと移動するのであった。
「しかし田舎ねぇ……見てみなさいよ、東北本線ってやつは福島まで一時間待ちしかないわよ。東京じゃ三分で別の電車が来るっていうのにぃ」
「あら、ほんとだわ。まぁ、貴方みたいに我慢ができない人には辛いかもしれないのだわ、水銀燈」
「……否定したいところだけど、さすがに乗り遅れたら一時間待ちだったらいくら乳酸菌取ってもイライラしそうだわぁ」
それもそうね、と珍しく水銀燈の意見ん同意する真紅。横では、
「確かに大変かしらー」
と密かに金糸雀も頷いていたり。
「ばらしーちゃん、福島の名物って何? 」
「やっと……まともに喋ってくれたね……おねーちゃん」
と、隣では薔薇水晶と雪華綺晶の食べ物話が再び始まっていた。
「蒼星石……何か知らない? 」
「福島の名産といえば桃とかだね。確か他には喜多方という地方においしいラーメンがあるよ。喜多方ラーメンはあっさりした醤油味で太ちぢれ麺でおいしいんだって」
「……じゅるり」
「おねーちゃん、よだれよだれ」
ごくり、と雪華綺晶がよだれを飲み干していると隣から雛苺が私も知ってるよーと話に混ざってきた。
「雛ね、巴から聞いたのはね、ままどおるっていうおいしいお菓子があるんだって! うにゅーとどっちがおいしいか雛、楽しみ! 」
「ままどおる……じゅるりりん」
「……おねーちゃん、駅の売店で買おうね」
と、薔薇水晶は今にも食ってかかりそうな雪華綺晶をなだめる。
ちなみに作者のおすすめはままどおると玉羊羹です。
「貴方達、早く乗るわよ」
いつの間にか現れた電車に乗り、八人はいざ会津へと向かうのであった。

「蒼星石、何もってやがるのですか? 」
「ああ、これかい? これは麦せんべいっていうんだって。さっきトイレの帰りに売店で買ってみたんだ。翠星石も半分どうだい? 」
電車内、蒼星石は持っていた薄い茶色のせんべいを半分に割って翠星石に手渡した。
「うう~、なんだかせんべいの色というか匂いがへんですぅ。いつもおじじとかが食べているせんべいとはまったく別物なんですねぇ」
「うん、そうだね。南部煎餅のちいさい感じかな? 味も素朴だよね」
「飽きない味ってやつですねぇ。あれ、水銀燈の持っているやつはなんですかぁ? 」
これぇ? と水銀燈は何やら黒いブドウのような玉の入った箱を翠星石の方へと向ける。
「私もさっき買ってみたのよぉ。玉羊羹(たまようかん)っていうんだってぇ。面白い形でしょう? 食べ方も変わっているのよぉ」
と水銀燈は二人に玉羊羹と爪楊枝を渡す。
「……って水銀燈、これどうやってたべるんですかぁ? 」
「少しは自分でかんがえなさーい、おばかさぁん」
翠星石に手渡された羊羹は周りが薄いビニールで覆われており結び目には輪ゴムで留められている。普通の羊羹とは違い切れ目があるわけでもないし、なかなか結び目を解こうとしても取れない。
「ムキー! なんなんですかこの羊羹は! 水銀燈、早く食べ方を教えやがるですぅ」
「あ~ら、そのまま悶え苦しみなさぁーい! あ、だけど雪華綺晶には見せちゃダメよぅ。そのまま丸呑みするから」
「翠星石、これには少しコツがあるんだよ」
と、蒼星石は羊羹と一緒に手渡された爪楊枝を翠星石に見せる。
「謎はこれだよね、くんくん探偵? 」
「爪楊枝ですかぁ? これでほじくり出そうとしても結び目は結構固いですし」
「真紅はどう思う? 」
私? とマンガ版『くんくん探偵~ロビンVSくんくん! ロンドンからの挑戦状』を読んでいた真紅が顔を上げた。
「このトリックはぜひとも解いてほしいね」
「そうねぇ……」
ビニールに囲まれた羊羹と爪楊枝。真紅は少し考えるとふと思い出したようにパラパラとマンガをめくり始めた。
「真紅どうしたですかぁ? 」
ぴたりとあるページで指を止めると真紅は再び玉羊羹を見る。
「ふふっ、簡単なトリックだわ」
真紅は不敵に笑みを浮かべる。
「ビニールに包まれた羊羹、そして鋭い爪楊枝……そう、答えは大胆に」
真紅はマンガを脇に置くと片手に玉羊羹、もう片手に爪楊枝を持つと爪楊枝をぶすりと玉羊羹に突き刺した。
「あ~!! 何やってるですかぁ真紅! そんなことしたってただ、ビニールに穴があいて終わりじゃないで……」
翠星石の目の前には見事にビニールの剥けた玉羊羹がそこにあった。
「な、なんでですかぁ!? 」
「簡単な推理よ、翠星石。この爪楊枝は中身をほじくるためのものじゃない。これはビニールを破るためにあったのよ。ぴったりと伸びきり重なったビニールを破ればビニールは元の小さな大きさに戻るわ。その上、爪楊枝が玉羊羹に刺さりそのまま食べられる、というわけよ」
はぁー、と翠星石が感心していると真紅はそのまま玉羊羹を口へ運んでしまった。
「……うん、水銀燈が選んだにしてはおいしいわ」
「って、何翠星石の水羊羹食べてやがるですかぁ! 水銀燈、もう一つ分けるですぅ!! 」
やーよ、と笑う水銀燈に翠星石は無理やりにでも奪おうと手を伸ばすがするり、するりと避けられてしまう。

そんなこんなで次は会津若松。

「ここが有名な鶴ヶ城ね」
「って、またここまでの過程は省くのね」
ともあれ、八人はようやく会津若松市にある城、鶴ヶ城にやってきた。
「ちなみに鶴ヶ城っていうのは地元でしか言わないことが多いんだ。地元以外では会津若松城、他に黒川城、会津城なんても呼ばれるんだよ。作者の地元丸分かりだね。」
「って、蒼星石だれに話してやがるのですかぁ」
「えっと……世間かなぁ」
「で、このおっきいお城は何なんですかぁ」
「うんっとね、この会津若松城は一三八四年にし葦名(蘆名)家の七代目、葦名直盛が作った城といわれているんだ。
葦名(蘆名)って名前は信長の野望とかでも登場しているね。仙台の伊達政宗とはこの城で激しい戦いを繰り広げていたんだ。そして一五八九年、政宗はここを攻め、葦名家を滅亡させたんだ」
「ほほぅ、あの伊達政宗では相手が悪かったですぅ。あんな拳銃撃ちまくってるやつですからねぇ」
「ハハ、翠星石。ジュンくんの戦○無双やりすぎだよ。でね、そのまま会津若松城は当主を変えながら来たわけだけど
一八六八年、戊辰戦争でここは板垣退助達に攻められてしまうわけなんだ。これを会津戦争とも呼ぶんだけどね」
「戊辰戦争ってはなんなのですかぁ? 」
「戊辰戦争というのは簡単にいえば武士VS新政府軍って感じかな。会津戦争というのは会津藩を巡って
新政府軍と奥羽越列藩同盟との戦争のことだよ。あんまり説明すると飽きるからここ、会津の戦いだけ説明していこうか……あれ、真紅達は? 」
「真紅達はくんくんの撮影所にいったですぅ。雪華綺晶は何か食べ物を求めて去って行ったですぅ。残っているのは薔薇水晶と金糸雀、そして蒼星石と翠星石だけですぅ」
うん、と薔薇水晶は静かに頷いた。雪華綺晶についていったと思ったのだがここに薔薇水晶がいるということも珍しい。
「薔薇水晶、雪華綺晶はいいの? 」
「……うん。おねーちゃんはおなかが空けば帰ってくるから大丈夫」
「カナは策士として先人たちの歴史を学ぶかしらー」
「そっか、じゃあせっかくだから鶴ヶ城に登ってみようか。中は博物館になっているんだ」
「ほほぅー、じゃあさっそくいってみるですぅ」
珍しい四人のコンビはくんくん撮影所に向かった真紅たちや雪華綺晶に多少の不安を残しながら会津若松城へと向かっていった。
「さて、ここが会津若松城の中だね」
「……私、お城初めて」
「蒼星石、この燃えている絵に描かれている子どもたちはなんなんですかぁ? 」
「それは白虎隊だよ。ここ、会津藩は新政府軍と激しく対立したっては今話したけど、そのときに活躍した一五歳から一七歳の部隊なんだ」
「今で言う高校生かしらー」
「そうだね、元々白虎隊は予備軍隊だったんだけど当時兵器、物量で劣っていた会津藩はどうしても新政府軍には劣勢で、本来は城下防衛の任に就いていた白虎隊も前線へと送り出されることになったんだ」
「大人でも勝てないのにそんなの焼け石に水ですぅ」
「そうだね。だけど、当時は大人も子供も玉砕覚悟で挑んでいたからね。それでね、大人が戦って勝てない新政府軍にまだ高校生の白虎隊は勝てるはずもなく撤退を繰り返していた。そしてこの絵に描かれている二番隊の運命の時が近づいてくる」
「……お互い刃を突き立ててる……仲間割れ? 」
「……飯盛山に撤退した白虎隊の二番隊はここから下の会津若松城を眺めていたんだ。するとどうだろう、城が燃えている。これではお殿様も自害、要は自殺してしまったに違いないと二番隊二十人はそこで自刃したんだ」
「あれ、おかしい話ですぅ。会津若松城が燃えていたらここはないんじゃないんですか、蒼星石」
「そう、実際に燃えていたのは会津城ではなくその周りの市内だったんだ。間違ってしまったんだね」
「金糸雀以上のおっちょこちょいですぅ」
「うるさいかしら! だけどその二十人は死んでしまったのになんでそのお話がわかるのかしら? 」
「さすが金糸雀、鋭いね。その二十人の内で一人だけ生き残ってしまった人がいたんだ。名前は飯沼貞吉さん。白虎隊二番隊の生き残りになってしまったんだ」
「運のいいやつですぅ」
「僕たちにしてみればね。けど飯沼さんにとってはそれは恥以外なにものでもなかったんじゃないのかな。友に戦った仲間たちと死ねなかったことは。
自分にとっても周りにとっても」
「可哀想……」
「飯沼さんはそのせいか白虎隊のことは晩年まで話さなかったんだ。思い出したくなかったんだろうね。
けどそのおかげで白虎隊は有名になれたんだけどね。僕はこの悲惨な事実を伝えるために生き延びろと神様の意志なんじゃないかとも思えるけど」
「運命からは逃れられなかったのですねぇ……で、結局ここはどうなってしまうんですか」
「うん、会津藩は苦戦しながらも新政府軍の猛攻に耐えていた。しかしそれも同盟の米沢藩などの降伏から孤立し、ついには降伏したんだ」
「なるほどですぅ……しかし蒼星石、やけに詳しいですねぇ」
「ハハ、実は来る前に少しガイドで勉強していたんだ」
「なるほど、そういうことだったんですかぁ。翠星石はてっきり歴史が趣味だとばかり」
「好きではあるけどね。地元の人くらいだよここまでしっているのは」
「それもそうです。さて、蒼星石、金糸雀、薔薇水晶! 真紅達が来るまでもう少し勉強して真紅達にたっぷりおしえてやるですぅ」
「……おー」
「策士金糸雀の実力を見せてやるのかしらー」
おー、と三人は意気込むとそのまま場内へと足を運んで行った。その後を笑いながら後を追う蒼星石。


「さて、簡単には説明したけど、少しでも興味を持ってくれた人、もっと深く知りたい博学な人はインターネットや書物でぜひ調べてみてください。
作者と僕は少しでもこれで福島や白虎隊に興味を持っていただけると幸いです。ではまた二日目、温泉湯けむり編にてお会いしましょう……翠星石、待ってよー!! 」



~白虎隊の敗因について~
当時、白虎隊の装備はヤゲールもしくはゲーベル銃でしたので
圧倒的な装備面、物量面での劣りなどの理由からの敗因などが考えられます。
一概に年齢だけでは無かったという点もご理解して頂きたいです。

|