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【これが】【最後の嘘】

「あ、いらっしゃーい水銀燈。今日は随分遅かったのね」
「ええ、ちょっとね…」
病室のドアを開けると、相変わらずのメグの笑顔が待っていた。相も変わらず、いい笑顔だった。
「ん?どうかしたの水銀燈?」
「…なんでもないわ」
「そう。じゃあいつも通り今日あった事話してよ」
「ええ、そうね。今日は…」

私が彼女と知り合ったのは半年程前。私が病院送りにした奴の形式上(罰則)の見舞いに出向いた先での事。
窓を眺めるその姿がとても美しくて、私は初めて自分から人に話し掛けていた。
『私はね、死んだらここから飛んでいくのよ』
だが話してみればとんだ娘。正直後悔した。だが、
『アナタ、相当イカれてるわぁ』
『あら、そんな私に興味を持ってくれた貴女もでしょ?私達似たもの同士ね』
『…バカじゃない?』
私と似た壊れた人間。今の社会に適応できなかった欠陥品。それは私が無理をせず付き合える唯一無二の存在でもあったのだ。

それから何かと理由を付けてメグの下に通い、話しをした。病院の中で生きてきた彼女は私に外の話しを強くせがんだ。私の話しなど面白くないと思ったが、そこは欠陥同士の共感が補ったらしい。
初めは行く理由を探していた私が、今度は行けない理由を探すようになるのにそう時間はいらなかった。毎日来てとねだる彼女を解き伏せるのには腐心した。
「あはは、水銀燈ったらおかしー」
「そう?ああそれと」
「うんうん」
ここに来るまでにあれほど躊躇していたのに、いざ話し始めたら私は笑っていた。それが彼女につられたのかはわからない。
だがそれは、何一つ偽りのない感情だった。ここは私がそんな感情を抱ける、唯一無二の場所となっていた。
ここでなら、私は自分の好きなように振る舞える。私の好きな事を話せる。私の好きなように感じる事ができる。
それなのに―
「あら、もうこんな時間なのね。あんまり遅くまで話してると佐原さんにまた怒られちゃうわ」 

「ええ、そうね…」
「しゃあ、またね。水銀燈」
それなのに―
「…ええ、またね」
バタン。

私は、嘘をついた。
“ええ、またね”
それだけの嘘。たった一言。
私は明日、遠くへ引っ越す。しばらくここには来られない。そして最近悪化してきたメグの様態を考えれば。
「…ッ!」
言えなかった。サヨナラも、ごめんなさいも。
そして、大好きですも。
私は嘘をついた。
最後の最後で嘘をついた。
最後の最後に嘘をついた。
…これが、最後で、最後の、嘘を。

翌日、空港で私はメグの訃報を聞いた。
そして佐原さんから、メグが私の引っ越しを知っていた事も伝えられた。
「どうしてよ…」
知っていながら、なんであんな顔が出来たの?なんで笑っていられたの?私なんてどうでも良かったの?
考えながら私は気付いた。“私も”笑っていられた事に―



引っ越し先にとある荷物が届いていた。それは病院からの小包。さっき佐原さんから聞いた、メグから私へのプレゼント。
「なによ、コレ…」
それは人形。手作りの人形。
だけれど所々縫い目が可笑しく、パーツも不釣り合いの欠陥品。
まるで、私達のような。
「ごめんなさいね…メグ。さようなら。私の大好きな人…」
私はその人形を胸に抱きしめた。
こうしていれば、私のかけた欠陥品のココロが、少しは補える気がして。



~おまけ~

『水銀燈~♪』
「………」
『ねぇ、水銀燈ってば~♪』
「………」
『水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈水銀燈…』
「うるさーい!!」
翌日、あの人形からメグが出てきた。
なんでもあれは自分の髪や血を使って作る、呪術的道具として作ったらしく、それを受け取った相手に取り憑くというモノらしい。
つまりは、引っ越しのプレゼントではなく、呪いのアイテム。
私は、メグに呪われた。
「…ったく、何時になったら成仏すんのよこの悪霊は…」
『んふ♪私が満足したらかなぁ?』
「………」
『私はまだまだ足りないの。貴女の引っ越しや病気なんかで私の想いは止められないわ!さあ水銀燈、一緒に寝ましょう!あ、でも寝かさないんだから♪』
「きゃー!!」
メグが満足するのと、私が取り殺されるのと。どっちが早いかしらねぇ…

 


めぐと水銀燈が初詣に来たようです。

め「まずは、お賽銭を入れて…と。水銀燈、鈴を鳴らしてくれる?」
銀「いいわよぉ」

――カランカランカラン

め「じゃあ、お祈りをしましょうか」
銀「分かったわぁ」

~~~数分後~~~

め「ちょっと、水銀燈、いつまでお祈りしてるのよ」
銀「えっ?めぐはもう終わりなの?!」
め「当たり前じゃない。後ろで待ってる人もいるんだから、お願いが済んだら順番を譲るのが当然でしょ」
銀「なんか長くお祈りしたら、その分だけちゃんと願いが叶うような気がしたのよ…」
め「あら、そんなこと考えてたの?じゃあ、余程たくさんの願い事があったのね。貴女、1分近くはお祈りしてたわよ」
銀「失礼ねぇ、私はそんなに欲張りじゃないわ。だって、私が叶えてほしい願い事はひとつだけだもの…」

め「水銀燈がそこまで想う願い事って何なのかしら?凄く気になるわ」
銀「めぐの方こそ、どんなお願いをしたのよ?」
め「私の願い事もひとつだけよ。“今年も水銀燈と仲良く過ごせますように”って」
銀「それだけなの?自分の身体のこととかは?!」
め「身体のことなんて、どうでもいいわ。私は貴女が傍にいてくれれば、それで充分よ」
銀「…な、何よぉ。そんなことを言えば私が喜ぶとでも思ってる訳?」
め「私の本心よ。それに、どんな願い事をするかは個人の自由でしょ?」
銀「それはそうだけどぉ……」
め「ねぇ、水銀燈はどんな願い事をしたの?教えなさいよ」
銀「…やぁよ、貴女だけには教えたくないわぁ」
め「ちょっと、それ、どういう意味?」
銀「言葉のとおりよぉ」
 (“めぐが早く元気になって幸せになりますように”ってお願いしたなんて、照れくさくて言えないわぁ…)

――水銀燈とめぐ、二人は今年も相思相愛のようです。

hr /> 銀「……でも雛祭りってのは女の子のお祭りであって、雛苺記念祭なのは少しおかしいってゆうかなんというか」
め「はいはい、水銀燈にもひなあられあげるから拗ねない拗ねない」
銀「別に、チヤホヤされてる雛苺がうらやましい訳じゃなくてぇ」
め「乳酸菌混入ひなあられなんだけどなー」
銀「……」
め「おいしい?」
銀「うん」


 め「ねぇ水銀燈、私ね、今度の週末に外泊許可がおりたのよ」
銀「あら、そうなの?」
め「うん。だからね、水銀燈と一緒に何処かに出かけたいなぁって思ってるんだけど」
銀「な、なんで私なのよ。他にも誰かいるでしょ?」
め「もう、どうしてそういうこと言うのかなぁ。あっ、貴女、もしかして照れてるの?」
銀「…バカじゃない?めぐ相手に照れるなんて意味が分からないわ」
め「じゃあ、一緒に行ってくれるでしょ?ちょうど観たい映画があってね…」
銀「いやぁよ。映画なんて退屈だもの」
め「そう?『くんくん探偵と銀の皿夫人』っていう映画なんだけど、退屈なら観に行かなくていいわね」
め「ちょ、ちょっと待ちなさい、めぐ。私は何も全ての映画が退屈だとは言ってないわ。  その…くんくんなら観てもいいわよ。噂で結構面白いって聞いたから」
め「へぇー、水銀燈って、くんくんに興味があったのね。意外だわぁ」
銀「別に興味なんて…。ただ暇潰しくらいにはなると思っただけだわ。
  そんな事より、出かけるならちゃんと時間とかを決めなくちゃダメよ」
め「ふふっ、なんだかんだ言っても結構ノリ気なのね」
銀「そんなんじゃないわよ!もう、本気でバカじゃなぁい?」

――ねぇ、めぐ。
あの時はあんなことを言ったけれど、本当は楽しそうに話す貴女を見てるのが嬉しくて仕方なかったの。
でも、そんな貴女を見るのは初めてだったから私は驚いてしまって、
どうしたらいいのか分からなくて、ついあんな態度になってしまったのよ。
今は少し反省してるわ。もっと他にも何か言葉があったはずだもの…。
そう、もう少し素直になれたら……。


【素直に】【なれたら】

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