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第十話



結局ソファーで寝るコトになったあの薔薇屋敷での妙な一日。
どうにかクリアして、じゃあ僕は自分ん家に帰るってコトになった。
そもそも、昨夜の宿泊もなし崩し的だった。
それも今朝で終わり、じゃあ朝飯を食べていってよと言われ、一応と御馳走になったワケだ。
んで、今が帰路。
玄関を出る前にすら、雛苺が乗っかってきたり翠星石がなんか言ったり、雪華綺晶は柱の陰だったり。
そういえば水銀燈がなんかブツブツ言ってたな。怖かった。
まァいつものような悶着があったけど、なんとか家に向かって歩いている。


「もしもし? なんか用?」


着うたが鳴り、ケータイのディスプレイには「ベジータ」の名が浮かんでいた。
通称愛称他称自称すべてベジータで成り立っている、高校からの友人である。
本名「斎矢部 陣太」、サイヤとベジータで構成されたような名前であるからベジータ。
安直な割に、本人は少し似ているからまた笑い種の友人からの電話であった。
将来的な砂漠化が懸念されるヤツ。


「は? 今から? まだ学校帰りなんだ。そう、ちょっと友達の家に。ああ、悪い」


ぷちっと。
僕の家に来たかったらしいけど、どうせまた美少女ゲームをやりたいだけなんだろう。
いい加減、Cドライブを初期化したくなってくる。
どうやって手に入れているのかはさておき、あいつは僕の家のPCでそういったゲームをする。
おかげですでに7作品ほどの美少女ゲームやら何やらが入っている。
あいつはPCを持っていないらしいから、らしいが、何も僕の家でやることはないと思う。
それはともかくとして、だ。


「もう姉ちゃんも帰ってくるころだろ。早く自分の部屋でゆっくりしたいな」


こう、知り合いの家に泊まるというのは、どうも気疲れしてしまう。
無意識に気を使っていたのか、すでに精神はくたびれまくっていた。
薔薇屋敷でも湯をいただいたけど、今は自分の家の風呂に入って、自分の部屋で休みたい。
そんな心持ちなので、今日はベジータを家に入れる気は起きなかった。
どんなに素晴らしい旅行先でも、最終的には我が家が一番というアレである。
今日は土曜日だし、明日も休みだからなおさらゆっくりできるという寸法だ。
要するに、自分のベッドでゴロゴロしたい。
住み慣れた我が家が一番なのである。
花の香りが添えてあってもいい。


「ふう……やっと着いた。下り坂もけっこう疲れるな」


やっと制服が脱げる。
さすがにこんなに長い時間、制服を着ているコトはないからな。
さっさと脱いでだらしない私服に着替えてしまいたい。
ドアを開き玄関を抜け、直線の階段を上がって自分の部屋へ。
ずるーっと制服を脱いで私服に着替え、脱いだ制服を持って脱衣所へ、と。
さて、凝り固まった疲れをシャワーで流してしまおう。
制服を洗濯機に放り込むのは忘れない。







「さっぱりしたー」


こう、なんとなく風呂上がりには言ってしまうフレーズを惜しげもなく独り放出。
人間、疲れると独り言が多くなってしまう気がする。
バスタオルで髪の水気を適当に取ってから、冷蔵庫に都合よく入っていた牛乳をコップ一杯飲み干す。
たまりません。
まだ11時前だけど、窓開けて昼寝するのもいいかな。
エアコンで涼しくなるものいいけど、窓を開けて扇風機の風でゆっくりするのも悪くないだろ。
つーワケでがらり、そしてベッドへ。
アイツらには悪いけど、やっぱ自分のベッドが一番落ち着くな。
さて、眼鏡をはずしてとっとと寝

ヴーヴー!

られなかった。
なんだよ急に、またベジータのヤツか?
せっかちなバイブレーションの音のあとに、ぬるい着信音が部屋に響く。
うとうとしていた時にこうだと、地味にイラッと来るな。
電話じゃない、メールか。


『いま、会いにゆきます』


最近の映画はメール広告でもしてるのか?
しかも古い、古いなんてもんじゃない。
もう4~5年前じゃなかったか、この映画。
2009年にハリウッドでリメイクとか、そういえば最近ネット広告で見たな。
それの影響なのだろうか。
なんてどうでもいいコトを考えていたら、いきなりインターホンが鳴った。
もう来たのかよ。
部屋着とはいえ、まァこのまま外に出ても問題ない服装だし、いいか。
しかしピンポンピンポンうるさいな。
今から出るからおとなしくしてほしい。


「はいはい、今出ますぼ!?」

「あ、あらヤダ、ジュンったら。ドア開けるなり抱きついてこなくっても……」


人ン家のドアを勝手に開けるとかどうとか、言いたいコトは割とある。
けど、さすがに外でこの体勢はマズイ、というかヤバイ。


「ぷあ! な、なんで勝手にドア開けるんだよ!」

「誰も出てこなかったからいないのかと思って……」

「あー……あーもう! いいから入れ!」

「お邪魔しまーす」


危なかった。
噂が大好きすぎて5~6人ほど首を吊らせたお隣さんの家のドアが開くのを見落としていたら僕も吊るとこだった。
しかしコイツ、僕が薔薇屋敷を出てからまだ1時間ちょっとの間にウチまで来るとは。
どんだけ行動が早いんだマジで。
とりあえずリビングのソファーに座らせ、一応は客というコトでお茶を一杯。
カツ丼があれば言うコトなしのシチュエーションである。


「……で、いろいろと問い詰めたいコト山の如しなんだが」

「や、優しくしてね……?」


力が抜けるとは、今の僕のためにある言葉だろ。
ソファーから落ちかけるなんて、僕の人生で初じゃないか?
どうせ何もしやしないんだから、相手のペースに合わせるコトもないか。
さっさと質問するだけして答えてもらったら帰ってもらおう。


「……なんで僕の家を知ってるんだ?」

「……………………」


沈黙、赤面、視線は明後日。
いくら学校で薔薇乙女と呼ばれているからって、こんな時に乙女アクション取らなくてもいいだろ。
普段はそんな雰囲気ゼロのクセに。
本当にワケがわからん。


「えと、あのー、ね? ホラ、初めて手を繋いだ時にそのまま……」

「……?」


まったく身に覚えがない。
入学からこっち2ヶ月、そんな大それた真似をした記憶は一切ないんだけど。
何かの間違いじゃないだろーか。
まァなんだかわからんけど、どういうワケかコイツは僕の家を知っていたと。
あんまりウダウダしてると姉ちゃんが帰ってきそうだし、さっさと終わらせてしまおう。
どうせ学校でも聞く機会はあるだろ。


「んじゃ次な。なんで来たんだ?」

「えっと、これ」


おもむろに、ケータイ取り出しピッポッパ。
そのケータイの中に理由が入っているのか。
どうせロクでもないコトなんだろうし、適当な理由をつけて無効化するのが良い。
ところで、いつまでケータイいじってるんだ。
機械オンチなんて話は聞いたことないんだけどな。


「あった、これよ」

「どれどれ」


ディスプレイに表示される文章を流し読みして、目が滑るかと思った。
いや、本気で冗談じゃないぞ。


『水銀燈ちゃんへ。突然メールしてゴメンなさいね。実は、合宿があることをジュンくんに伝え忘れちゃって。
 ジュンくん一人じゃ家事とか大変だから、手伝ってあげてね。部屋は私のを使っていいわよ。
 なんなら夜這いしちゃってもいいからね。水銀燈ちゃんなら大歓迎よぅ。それじゃあ、ヨロシクね』


昨夜もそうだったけど、なんで姉ちゃんと繋がりがあるんだ。
それで、なんだ。
コレはつまり、今日から水銀燈がウチに泊まるってコトか。
しかも期限不明ときたもんだ。


「このメールが昨夜きて、それでのりから頼まれたの。というワケで、今日からよろしくね。ア・ナ・タ」

「ぶっふ!」


なかなかとんでもねえコトをのたまう薔薇乙女である。
で、返事もさせずにトコトコと台所へ向かう水銀燈であった。
うむ、良い手際である。
なんていうか、ツッコミさせずにそのまま行動に移るあたりが特に。
フライパンを取り出し調味料を出し冷蔵庫からうどんを取り出し、さらに野菜を取り出している。
なんでウチの台所事情を把握しているのかもまた疑問の種になるやもしれぬ。
で、ぼけっとしている間に、水銀燈お手製焼きうどんが完成、スムーズにテーブルに運び出される。
気づけばテーブルで待っている僕がいるあたり、実は洗脳とか精神汚染をすでに食らっているのではなかろーか。
良い匂いがしてきた頃には、そんな考えは吹っ飛んでいたけどな。


「はい、召し上がれ」

「ウム」


まずは一口。む、ウマい。
こんなコトを言うのもなんだけど、コレ翠星石や蒼星石に引けを取らない味じゃないでしょうか。
早くも惨敗、あっと言う間に水銀燈に組み伏せられて一本負けな僕なのであった。
や、ホントに美味しいよ? コレ。
メニューにあるのか知らないけど、そこらのファミレスよかよっぽど。
月並みな表現しかできないあたり、ちょっとボキャブラリーの養殖を始めたほうがいいのか。
なんとはなしに壁掛け時計を見る。現在正午きっかり。
嫌気がさすほど、水銀燈は主婦だった。







午後の番組ほど大して面白くないものばっかなのはもはや慣例っぽい。
まァそれでもBGM程度には機能するのであって、結局は変な風に電気料とかをむさぼっていく。
音量は低めに設定、さらに鼓膜をたたくオマケ音声と化していくのであった。
家にいるだけなのもなんだからと、水銀燈と一緒に繁華街へ出張り、適当にウィンドウショッピングをしたのが午後1時半。
ミスタードーナッツに寄りおやつを購入し、運搬用に持ってきた自転車のカゴに置いてさらに歩く。
帰り際になり、今日の晩ご飯の食材を買うためにスーパーに寄ってさらに買い物。
都市部の割にみんみんうるさい蝉の一生を飾る鳴き声を聞きながら帰宅、現在に至る。
雑談の中心となる話題は、主に学校での話である。
内容は実に普通の女の子であり、僕ができるのは頷きと笑うコトくらい。
普段はよく真紅とケンカばっかりしている水銀燈も、普通にしてりゃ美人だと再確認。
水銀燈も僕のリアクションに不満はないらしく、楽しそうにいろいろ話してくる。
気づけば夕方にさしかかる時間帯だった。


「それじゃ、夕飯作っちゃうわ。少し待っててね」

「ああ、手伝うよ。出来ること少ないだろうけど」

「うふふ、ありがと」


で、2人で台所に向かうのであった。
………………あれ?
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