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 二人同時に駆け出し、距離がゼロになった所で同時に互いへと攻撃を仕掛ける。
 武器と武器がぶつかり、耳をつんざく鋭い音が辺りに響き渡たってお互いの武器が弾かれる。
 それで隙が出来た巴へと一歩踏み込み、もう片方の刀を胸へ一直線に突き出した。
 巴はそれを身を捻ってかわし、その回転した勢いのままジュンの顔へと木刀を一文字に凪ぐ。
 勢いもあり隙のあったジュンに直撃すると思われた一撃だったが、ジュンは攻撃に反応して顔を引き頬を掠っただけで終わった。
 更にジュンは二本の刀で十字に斬りかかる。
「クッ!」
 隙が大きく出た巴にその連続攻撃は完全にかわしきれず、二発目の刀で腹部を斬り付けられてしまった。
 致命傷とまでは行かない浅い傷だが、切り裂かれた服から覗く傷痕を見て巴は忌々しげに表情を歪める。
「さすがジュンね。他のドールだったらまともに喰らってるはずなのに、そこから反撃してくるなんてね…」
「そうか、褒めてくれてありがとよ!」
 追撃とばかりに刀を両斜めから袈裟状に振り下ろす。
 それを巴は二本とも木刀で受け止め、その体勢のまま睨み合いになった。
 武器が擦れ合い、摩擦で熱を持っていくのが顔に伝わる熱気で分かる。
「その実力ならすぐアリスになれたかも知れないのに、バカな判断をしたわね」
「知ったことか、アリスなんてクソ喰らえだ!」
 そのまま力を込めて切り伏せようとしたが、予想外の巴の蹴りが腹に飛んできて一瞬呻き声を漏らす。
 それで力が弱まったジュンから巴は一旦後退り、木刀を上空へ思いっきり放り投げた。
 無手になった巴はそのまま身を低くしてジュンの懐に入り込み、みぞおちへと強烈なフックを叩き込んだ。
 避ける隙も無くまともにそれを喰らって意識が遠のき掛ける。
 巴は更にストレートを叩き込み、体勢が完全に崩れたジュンの顔に最後の回し蹴りを叩き込み吹き飛ばした。

 

「ぐあっ!」
 ジュンが転がるのが停止したと同時に放り上げた木刀が落ちてきて巴の手に収まった。
 巴は木刀を振り上げてジュンへと飛び掛り、その顔面へと木刀を振り下ろす。
 ジュンは片方の刀で攻撃を防いだが、馬乗りというこの体制は不利だ。
「私が木刀を振り回すしか能が無い、そう思ってないわよね?」
 歪んだ笑みでそうジュンに問いかけるが、ジュンに答える余裕は無い。
 少しの間そうして睨み合っていたが、やがてジュンがワザと力を抜き木刀を自分の顔の横に受け流し、その巴の腕を掴んだ。
 バランスを崩した巴の腹に足を掛け、腕に力を入れそのまま後ろへと投げ付けて巴は思いっきり背中を地面に打ちつけた。
「ゲホッ…!」
 受身をまともに取れずに衝撃を全て受けてしまい、巴の意識が一瞬遠のく。
 巴を投げ飛ばしたジュンは立ち上がり息を整え刀を構える。
 そうしている間にも巴も飛び上がって木刀を構え直した。
「…それはこっちも同じだ。これぐらいなら僕だって出来るさ」
「なかなかやってくれるわね…。それでこそ最後の相手に相応しいってものよ、ジュン」
 そのままお互いに睨み合って牽制し合う。そうしていると不意に鼻先に冷たい感触が伝わってきた。
 それから間も無く雨粒が空から降り出して大雨になっていった。
 二人とも雨を気にする素振りも示さず、睨み合ったまま全身が雨でずぶ濡れになっていく。
 更に睨み続けていると今度は空が光り雷鳴が聞こえて来た。
「…これもお前の演出か?」
「いいえ。でも…この雰囲気は最高ね!」
 その瞬間凄まじい雷鳴が響き渡って稲妻が御神木の枝に直撃し、その部分が折れて焦げた枝が地面に落ちた。
 空気が辺りを震わせ、それが合図になり二人とも一斉に斬りかかった。

 

 それからどれ位の時間が経ったのだろう。
 二人とも激しい攻防を繰り返して一向に展開を見せない。
 巴が攻撃すればそれをジュンが防ぎ、ジュンが反撃すれば巴がそれを木刀で受け流しまた反撃する…その繰り返しだ。
 武器と武器がぶつかる度につんざく金属音が鳴り激しく火花が散り、雨が二人を濡らしていく。
 もう濡れていない箇所など二人には無かった。

 

 やがて二人とも息が乱れて距離を取り、お互いに息と体勢を整える。
「なかなかやるわね…ちょっと遊びすぎたかな」
 息の乱れが収まると巴は構えを解き、目を瞑って木刀を額に押し当てた。
 ジュンが警戒を解かずにそれを眺めていると、やがて木刀がピンク色の光に包まれて一回りも大きくなっていった。
 それを掲げて手と手を離すと、それは巴の身長と変わらぬ大きさのピンク色に輝く二本の刀となって両手に収まっていた。
 巴は二本の刀の感覚を掴むかのようにそれぞれ振り回すと、ジュンに向けて構える。
「さぁ、少しは本気を出すとしましょうか!」
「二刀流は僕の専売特許だったんだけど…お前に扱いきれるかな?」
 片方の刀を巴に向け、挑発的に手招きをする。
 巴はそれに答えるかのように笑うと、次の瞬間にはジュンの目の前にまで来ていた。
「なっ!?」
 目で確認出来ないほどの速さで、さすがにこれにはジュンも対応しきれない。
 防御を取る暇も無かったジュンに、巴はすかさず片方の刀を逆袈裟状に切り上げた。
 それをかわす間も無くまともに喰らってしまいジュンの体が宙に浮く。
 巴もそれに合わせて飛び上がり、空中で完全な無防備状態になったジュンへと連続攻撃を仕掛けた。
 一刀、二刀と振る度にジュンの体に刀傷が刻まれていき、防御しようにもその隙がまったくない。
 やがて最後の一振りを喰らい、ジュンの体は地面へ叩き付けられた。

 

 ジュンは痛みを堪えて立ち上がったが、巴がどこにもいない事に気が付いた。
「クソッ、どこに…!」
 辺りを見渡すが巴の姿は確認出来ない。だが次の瞬間には上空から巴が刀を振り下ろして飛び降りて来た。
 ジュンはギリギリでそれに気付き後ろへ飛んでかわし、指から蜘蛛の糸を出し巴の腕を絡め取った。
「これで自由は無くなっただろ…!」
 素早く動き回るならその動きを封じてしまえば良い、単純な答えだ。
 巴の腕を封じ、絡め取った今なら反撃できるはず…ジュンはそう思った。
 だが巴は動じる事も無く、その糸で封じられた腕を見て笑う。
「今の私に…」
 巴は腕から伸びている糸を掴むと、それを思いっきり引っ張った。
 それと同時に、ジュンの体が引っ張られ、宙へ無防備に浮かび巴の方へと飛んでいく。
「うわっ!?」
「こんな物が通用すると思わないでよ!」
 飛ばされたジュンは空中で何とか体制を立て直し、着地したらすぐに動ける様に構え直す。
 着地の隙を突かれると拙い、せめて防御だけでもせねば。
 だが次の瞬間、巴の周りに幾つものピンク色に輝く刀が現れて、彼女を軸にしてそれらが横に高速回転し始めた。
 ジュンは突然現れた刀達に動揺し、目を疑う。こんな技を見るのは初めてだ。
 飛ばされる勢いはそのままで、とてもあの回転する刀達に対応出来ない。
 そうしている間にジュンの体は巴の目の前に来てしまい、同時に回転する刀達に体が刻まれていく。
 防御する事もままならなかったジュンには、全てが強烈な一撃となって痛みが全身に走る。

  

「ぐああぁぁ!」
 逃げようにも巴に糸を掴まれたままで逃げ出せない。
 やがて何周かした頃に、刀はガラスのように砕けて消え去った。
 同時に巴の刀を突き出しての突進が直撃して糸が切れ、ジュンの体が吹き飛ばされた。
 刀の連続攻撃と突進により全身に深い傷を負い、ジュンは激痛で体が動かず立ち上がれない。
 そのジュンに、巴は一歩一歩と近付いて行く。
「どう? これが力の差ってやつよ。私に勝とうなんて事、無理だって分かったかしら?」
「ふ、ふざけんな…! まだ終わっちゃいない…!」
 刀を支えにして、力を振り絞り立ち上がって構えを取り巴を睨む。
 巴は全身ボロボロになりながらも自分に立ち向かおうとするジュンを見て、挑発気味に拍手をした。
「実に見事な闘志ね。尊敬するわ」
 小ばかにした台詞とパンパンと言う音がジュンの神経を逆撫でし、刀を持つ手に力が入る。
「…いや、ただ単に諦めが悪いだけなのかもね。諦めが肝心よ、ジュン」
「誰が諦めるか…みつと約束してんだ、お前を倒してローザミスティカを奪い返すって約束をな!」
 ジュンは駆け出し巴へと一閃を放つが、巴はそれを軽くかわしてさっきの刀を召還し、今度はそれをジュンへ飛ばしてきた。
 一直線に飛んで来た刀達を何とかかわすが、どれもスピードある。避けるだけで精一杯だ。
 やがて最後の刀を避けたと同時に、ジュンは蓄積されたダメージから体のバランスを崩し大きく隙が出来てしまった。
 しまった、そう思った時には巴が目の前に来ていて、刀で思いっきり薙ぎ払われて地面に倒されてしまった。
「クソッ…!」
 体を起こそうとしたその瞬間に巴に馬乗りにされ、今度は刀ではなく拳で顔面を思いっきり殴られた。
 それも一発ではなく、何度も何度も。巴に殴られる度にジュンの体が跳ね、激痛が走る。
(ち、ちく…しょ…)

 

 どれぐらい殴られただろうか。
 やがてジュンの手から力が抜け、刀が二本とも地面に落ちた頃に巴は立ち上がり、ジュンの髪を掴んだ。
 そしてジュンを振り回して御神木へと投げ飛ばし、更にジュンの刀を二本とも拾ってジュン目掛けて飛ばす。
 投げ飛ばされたジュンにはもう受身を取るだけの力は残っておらず、そのまま背中を思いっきり御神木へと打ち付けた。
 それと同時に刀が二本飛んで来て、それは両肩を貫きジュンを磔にしてしまった。
(がっ…!)
 悲鳴を上げようにも、もうそれだけの力がジュンには残されていない。
 巴は御神木へまるで十字架のように固定されたジュンに、侮蔑の表情を浮かべて近付いて行く。
 その足音に気が付き、ジュンはゆっくりと顔を上げ霞む目で巴を見た。
「無様ね…哀れね…そして愚かね。ジュン」
 声は出せないが、目に憎悪の念は残っていてそれを巴に向ける。
 だがそれを気にした様子も無く巴は続ける。
「力の無き者が何を言ったって無駄に過ぎないし何も守れない。あなたの言うみつとの約束も、自分の体もね」
 巴の手に、ピンク色に輝く刀が生まれ始める。それに抵抗も出来ず、ジュンは眺めるだけだ。
「そして消えていく運命なのよ。一葉もめぐもオディールもみつも…あなたもね」
 やがて錬成された刀が巴の手の中に作られ、それをジュンに向けて構える。
「さよなら、ジュン。…永遠に」
 台詞を言い切ると同時に巴は刀を突き出し、それはジュンの胸を貫いてそのまま後ろの御神木にまで深く突き刺さった。
「…っ!!」
 ジュンは声無き悲鳴をあげ、全身に力が入り首だけが大きく空へ向けて仰け反った。
 やがてジュンの体から力が完全に抜け首がうな垂れると、赤色と黄色に輝くローザミスティカが二つ出て来て巴の前に飛んで来た。
 それを取り、巴は感慨深そうに眺める。
「…ジュンとみつのローザミスティカ…これでやっと全部揃ったわ」

 手を強く握りその感触を確かめると、雨に濡れ垂れていた前髪をかきあげて水気を払った。
 空を見てみれば既に雨は止み、煌々と輝く蒼い満月が空に浮かんでいる。
「…アリスになるには絶好の雰囲気ね…」
 二つのローザミスティカを天に掲げてもう一度じっくり眺めると、それを滑り落としそのまま口の中に含んで飲み込んだ。
 喉を通る感覚を感じ、嬉しさで高揚とした気分になる。
「ついに、ついにアリスに…! うふふ…アハハハハ…アーハハハハ…!!」
 巴の高々とした笑い声が境内に響き渡る。もう動かない、ジュンの前で…。

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