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兎の穴というのは、得てして見えにくい所に存在するもの。
それ故に、ふとした拍子に、誰もが足を踏み入れてしまいそうな…そんな落とし穴。


  「ほぁぁぁ!!遅刻ですぅ~!! 」


はてさて、今、私達の前を走りすぎていった可愛らしいお嬢さん。

彼女は、『たった一つの言葉』
それによって、この奇妙な落とし穴に落ちてしまった一人。


イーニ、ミーニ、マイニーモー……


彼女の運命は………いやはや、私めが語るより、実際にご覧になられた方がよろしいのでは…?
……クク…クックック………




◆ ◇ ◆ ◇ ◆  世にも奇妙な コノマチダイスキ!  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 
  キーンコーンカーンコーン

一時間目の開始を告げるチャイムが、高らかに鳴る。
それを校庭のど真ん中で聞いた翠星石は……
「や…やばいですぅ!……そもそも、何で今日に限って蒼星石は起こしてくれなかったですか!! 」
全力疾走したせいもあり、顔を真っ赤にしていた。

遅刻したのがバレたら、先生に怒られてしまう。
そう考え、翠星石は……校庭の隅っこを、気配を殺しながら進む。

こっそり靴を履き替え、こっそり校舎に入る。こっそり廊下を進む内……翠星石はふと異変に気が付いた。

もう、一時間目が始まって5分は経つ。
普通なら、授業を始める先生の声や……
先生の到着が遅れてるとしても、騒ぐ生徒たちの声が聞こえてくるはず。

それなのに…
どの教室からも、水を打ったような静寂だけが広がっていた……。


「…ひょっとして…臨時の朝礼か集会でもあったんですかね…? 」

疑問は残るが…
そんな事より今は、遅刻がバレるかバレないかの方が重要。
そう考え、翠星石は廊下を音も無く走り、自分の教室まで辿り着いた。

遅刻した事がバレないように進入するのは可能か否か。覗き窓からチラッと教室の中をうかがってみる。
だが、教室の中の光景は…翠星石の予想を遥かに超えたものだった。
 

先生も生徒も、まるで膝を合わせるように教室の中心に集まり…何かをヒソヒソと話している。


「はて?何かあったんですかね? 」
ちょっと首をかしげて考えてみるも…新聞部部長である翠星石にさえ、その原因の心当たりは耳にしてない。
「………とりあえず…今なら遅刻をバレずに進入するチャンスですぅ 」

小さく息を呑み意を決すると…翠星石は音を立てないように教室の扉を開け…スッと自分の席に荷物を置いた。
そのまま何食わぬ顔をして、良く分からない集まりの輪に入ってしまいさえすれば……
そう思い、クラスメイト達に近づいた時 ―――

「……先生……翠星石が……来た…… 」
薔薇水晶の一言のせいで、翠星石は全員の注目を一身に受けるはめになってしまった!

(キー!このおバカ水晶!密告しやがるとはいい度胸ですぅ! )
外見だけはシュン…と申し訳なさそうにしながらも、翠星石は心の中で地団太を踏む。

と…そんな風にしていると……
担任の桜田のり先生が生徒達の輪から離れ、翠星石の下へと近づいてきた。

(う…うぅ……怒ってるですかね……のりは怒らせるととんでもねーですぅ……ぅぅ…… )
小柄な体をさらに小さくしながら、翠星石はのり先生を恐る恐る見上げてみる。

だが、これもまた予想に反し、のり先生はいつものように、能天気な笑顔を浮かべているではないか!

何で?
翠星石が疑問に思うのと同時に、のりは
「翠星石ちゃん、聞いたわよ!凄いじゃない!先生、感動しちゃって… 」
そう言いながら翠星石をクラスメイトの輪の中心に押しやり……
「ささ、今日はあなたが主役なんだから!あ、鈴カステラ食べる? 」
椅子に座らせると、目の前の机にお菓子をならべ始めた。


「は?はぃ? 」
キョトンとした翠星石に、のりやクラスメイト達の言葉が追い討ちをかける。

「前々から、ひょっとしたら、って思ってたのよねぇ… 」
一人でウンウン頷く水銀燈。
「やっぱり翠星石は自慢の姉さんだよ… 」
涙を堪えるように天井を見上げる蒼星石。
「翠星石ちゃんの担任として、これからも張り切っちゃうわよぅ! 」
ルンルンと嬉しそうにしているのり先生。

「え?え? 」
何が何やら分からない。
翠星石が困り果ててキョロキョロしていると……その肩をポンっと真紅に叩かれた。 

「…聞いたのだわ。あなた『ツンデレ』だそうね 」


「はい?つん…でれ…?…何ですかそれは? 」
グッと親指を立ててる真紅を無視しながら、翠星石は聞きなれない単語に素っ頓狂な声をあげる。



…………

教室が一瞬、静寂に包まれた……



「またまたぁ!とぼけたって無駄よぉ? 」
水銀燈が笑いながら翠星石の背中をバンバン叩く。
「ふふ…流石、一流のツンデレともなると、ジョークも一流ですわね 」
雪華綺晶が納得したように大きく頷く。
「やっぱり翠星石が言うと、重みが違うね 」
満面の笑みで蒼星石がそれに続く。

何が何なのか、さっぱり分からない。
分からないながらも…いや、だからこそ!この事態に収集をつけたい。一刻も早く。

意味不明な祝福の言葉に囲まれ、居心地の悪くなってきた翠星石は…そう考え、ガタン!と席を立ち上がった。

「おまえら!皆して翠星石をおちょくってるですか!?
 いい加減、こんな訳の分からん事はやめやがれですぅ!! 」



…………

再び、教室に静寂が広がった………



「そ…そうよね。先生もつい嬉しくって、調子に乗っちゃったわ… 」
のりがちょっと困惑した表情で沈黙を破り、
「さ…さあ!皆、授業を始めるから席についてー 」
と、クラスメイト達に声をかける。

(……良く分からんですが…とりあえず…この場は何とかなったですぅ… )
徐々に自分の席へと向かいだすクラスメイト達の背中を見ながら、
翠星石はとりあえずの平穏に安堵の吐息を漏らした。

だが…

「のり、待ちなさい 」
真紅がビシッと、のりの背に声をかける。

「あなた…ツンデレの『やめろ』という言葉を真に受けてるの?
 翠星石はね…恥ずかしがってるだけなのだわ 」
グッと親指を立てながら、真紅は力強く言い放った。


「…おお!」「なるほど…」「これがツンデレ…!」
クラスのいたる所から、ザワザワと生徒達の感心したような声が漏れる。

翠星石はというと…
せっかく解散の流れにしたのに、あっさりとそれを覆した真紅へと、恨めしげな視線を送っていた……

「…この赤だるま…勝手な解釈を言うのはやめやがれですぅ!
 いい加減にしないと血だるまにするですよ!? 」
ぴくぴくと頬を引き攣らせながら、翠星石は真紅を睨む。
「ふふ…いいのよ。そんなに照れないで頂戴 」
真紅は真紅で、『遠慮はいらないのだわ!』と言わんばかりの笑顔。

「そもそも――― 」
そもそも、『ツンデレ』とは何なのか。
翠星石のイライラも限界に達し、疑問を叫ぼうとした瞬間 ――――

  『  ピンポンパンポーン……
  …ただ今から臨時朝礼を始めます。
  生徒の皆さんは体育館に集合して下さい……繰り返します……   』

臨時集会を告げるチャイムが、学園中に響き渡った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 
学園の生徒、その全てと教師一同。
満員御礼の札でも出てきそうな体育館の舞台袖で、翠星石は途方に暮れていた。

「かのじょのような素晴らしいツンデレがこの学園に存在するという事…
 ずっと、それに気付かなかったのは、時間を無駄に……――――
 きっとこれからは、今までの反省を活かし、大いにツンデレを……――― 」

ボケかけの校長が、さっぱり意味の分からない演説をしている。
普段なら聞き流している生徒達も、この日ばかりは真面目に聞いているから、たちが悪い。

「…何ですか……ツンデレって……何なんですか…… 」
うわごとのようにブツブツ呟いていた翠星石だったが…
「ほら、翠星石ちゃん!出番よぅ! 」
やけにテンションの高いのりに背中を押され ―――

あれよあれよと言う間に、舞台の中心まで送り出されてしまった…。

恐る恐る視線を上げてみると……
やけにニコニコした校長が、でっかく『ツンデレ』と書かれた賞状を差し出してくる。

困った翠星石が振り返ると、舞台袖でのり先生は早くも感涙を流している。
助けを求めてキョロキョロするも、誰もが期待の眼差しでこちらを見つめているだけ。

(何が何だか、さっぱり分からんですぅ……ぅぅ…最悪ですぅ…… )
ドンヨリしながら翠星石は…
それでも、賞状を受け取ればここから降りられる。
そう判断し、校長の差し出すよく分からない賞状とトロフィーを受け取った。
 
(さて…これで帰れるですぅ… )
そう思い、翠星石はクルッと振り返ろうとして……まだ終わってない事に気が付いた。

体育館に集まった全ての人。生徒も教師も、用務員さんまで…
全員が、期待の眼差しで翠星石と……近くに置かれているマイクを見つめている……

つまりは…何か一言挨拶でもしない事には、どうにも収まらない雰囲気。

(…こいつら…ツンデレツンデレって……いい加減にしやがれですぅ! )
奥歯をギリリと噛みしめ、翠星石はそのままツカツカとマイクに歩み寄り ―――
ほんの一言。それだけ言おう。そう考え、改めて全員をグルリと見渡して……爆発した。


いや、別に翠星石が爆発した訳ではない。
彼女の溜まりに溜まった鬱憤が爆発したのだ。


「なんなんですか一体!こんな物もらっても、ちーっとも嬉しくないですぅ!! 」

トロフィーと賞状をブンブン振り回しながら、心の底から叫んだ!
不条理に対する怒りを込め、魂の叫びをマイクにのせた!

でも、そのおかげで、ちょっとだけ気分も晴れた。

ふぅ、と一息つき、「さっさと帰るですぅ 」といった感じで翠星石は舞台袖へとズンズン進む。


進む内…翠星石は、だんだん体育館中から向けられる視線が……刺々しいものに変わっていくのを感じ始めた…。


実際に、心の底から嬉しくないかったけど…それでも、学園の皆は祝おうという気でいたのに……
それなのに、翠星石が発したのは、期待はずれの言葉。
集まった人たちも、さぞかしガッカリしただろう。中には、腹を立てた人だって………


(こ…このまま帰ったら…リンチにでも会いかねんですぅ…… )
翠星石の背中に、冷たい汗が流れる。
(何とかして挽回しないと…生命の危機に繋がるですよ… )
 

ゴクリと息を飲み……翠星石は立ち止まる。
このままではマズイと、本能が危険信号を発してくる。

そして、ゆっくり振り返り……

今更ではあるが…まともなコメントを残していく事にした。


「で…でも…せっかくなんで……ありがたく頂戴してやるですぅ…… 」
静寂の中に消え入ってしまいそうな、小さな声。
それでも、うつむきながら、勇気を振り絞ってそう言った。



…………

体育館の中に、水を打ったような静けさが広がる……



その沈黙を破ったのは…誰かの発した一言だった。

「おお…これが…ツンデレ……!! 」

まるで火が広がるように、体育館の中にざわめきが広がる。
「さすがツンデレ…」「これほどまでに見事なツンデレとは…」「ツンとデレの完璧なハーモニーが…」
そして…その火は、誰かの叫びによって、消し止める事の出来ない大火へと変わった!
「地球に生まれて良かったぁーーーー!!」   

その声を筆頭に、堰を切ったように体育館の中に拍手が巻き起こる! 

  『ツ!ン!デレ!! ツ!ン!デレ!! 』 

全校生徒のツンデレコールと割れんばかりの拍手が、体育館の地面を、壁を、空気を震えさせる!

  『ツ!ン!デレ!! ツ!ン!デレ!!』

翠星石はツンデレと書かれた賞状とトロフィーを抱えながら…引き攣った顔をするのが精一杯。

  『ツ!ン!デレ!! ツ!ン!デレ!!』

学園中から意味不明な声援を送られ……翠星石は天井を眺めながら、小さく呟く。
だがその言葉も、最高潮に達したツンデレコールを前に、虚しく掻き消えていった……


「もう……勝手にしやがれですぅ…… 」 







   
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