どこまでも広がる、荒れ果てた大地。その中心で、私は膝を付き、地面に倒れていた。
武器も砕け、心身ともに限界に達している…
「だーわだわだわ!(←笑い声)所詮は脆弱なる人の子!私に勝つことなどできないのだわ! 」
返り血で全身を赤に染めた大魔王が、笑いながら私を見下ろしている。
折れた足と砕けた腕で、私は再び立ち上がろうとするけど…もう、体が言う事を聞いてくれない……
世界は大魔王の力の前に屈するのか……希望は、もう残されてないのか……そう思った瞬間―――!
奇跡が起こった ―――
『ばらしーちゃん…私の力を…あなたに……』
死んだはずのきらきーの声が聞こえる。
不意に温かな一陣の風が吹いたかと思うと、全身に力がみなぎり…体は不思議な光に包まれ、全ての傷が瞬時に癒えた!
「そんな…!まさか…失われた血の盟約(エンシェント・ディステニー)が目覚めたというの!? 」
大魔王の表情に驚愕の色が浮かぶ。
私は立ち上がり、その手からほとばしるエネルギーを集約し、最強最古の魔法を大魔王に向けて放つ!!
「……エターナル…フォース………ブリザード……!! 」
周囲の全てを飲み込む破壊の暴風、具現化されたコキュートスが、大魔王の体を貫k
―※―※―※―※―
……ハッ!?
嫌な予感がして振り返ったら、案の定と言うのか何というのか……
きらきーが苦笑いを浮かべながら、私の背後に立っていた。
「ばらしーちゃん?……一体…何を書いてますの? 」
そんな恥ずかしい事、私の口から言わせないで。お願いだから。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ この町大好き! ☆ 増刊号17 ☆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夏休みの宿題の追い込み作業。
「分からない所があれば、教えてさしあげる事もできるでしょうし…」と言ってくれたきらきー。
彼女が来るまでの待ち時間が暇だったから、ついつい妄想を文章にしてる所を……見られた。
死にたい。
と…とにかく。
気を取り直して……
私は小さなテーブルを挟んで、きらきーと向かい合って座った。
完璧超人の彼女は、7月の時点で宿題は終えていたので…一人頑張る私と、それを見守るきらきー。
分からない問題がある時は、きらきーにノートを差し向けたりした。
「ええっと…ここは……xを代入して… 」
きらきーは優しく、丁寧に、教えてくれる。
それでもさっぱり分からないから不思議。
「―――――って、聞いてますの?ばらしーちゃん 」
ちょっとボーっとしてた私のほっぺたを引っ張りながら、きらきーが注意してきた。
「でも…ちょっと疲れましたし、休憩にしましょうか 」
本当に、いつも私の事を分かってくれてる。
「……… 」
私はきらきーの提案にコクンと頷くと、そのまま地面にコロンと転がって天井を眺めた。
もうすぐ夏休みも終わっちゃう。
それはやっぱり寂しいけど…でも、いつもの騒がしい学校も、ちょっとだけ懐かしい。
そんな複雑な気持ち。
きらきーは座りながら、私はゴロゴロしながら……のんびりと流れる時間が、どこか嬉しかった。
と、そんな風に休憩している内に、私はとある物を見つけた。
小さくクシャッと丸められたメモ用紙。
私はそれを拾い上げると……
コレが入ったら……何か良い事が起きる……!
ピョイっと、願いを込めてゴミ箱目掛けて投げた。
メモ用紙はゴミ箱のふちに当たり……コロンと床に落ちる。
失敗?ううん。違うよ?全然違うよ?
だってほら、今の練習だから。
私はブツブツ言いながら、真新しいメモ帳をちぎって丸めて……今度こそ本番。
「………えい…… 」
気合と掛け声に乗せて、運命の一球を投げる。
でも今度は、ゴミ箱にかすりもせずに地面にポトリ。
…………さ…最初のがおしかったから、1機増えてたんだよ?
これはつまり、もう一回チャンスがある、って事なんだよ!?
そんな感じで、再びメモ帳を丸めて投げていると…
きらきーが無言で、私の手の届きそうな場所までゴミ箱を持ってきてくれた。
そのお陰で、私のメモ帳投げは5ページ目にして見事成功。
嬉しくなって振り返ったら、楽しそうに頬を緩ませているきらきーと目が合った。
うん。さっそく、良い事が起こった。
◇ ◇ ◇
ちょっと休んだら、夏休みの宿題を再開。
せっかくきらきーが手伝ってくれるんだからと、苦手な数学の攻略を続ける。
「ええっと……ここは素数を数えて…… 」
きらきーは私の隣に座って、肌が触れ合う位の距離で教えてくれる。
思春期の私には、刺激が強すぎるポーズだよ…。
私はそう思いながら…小難しい解説なんか聞き流して、きらきーのフトモモだけを凝視してた。
しなやかに伸びた細い足首。幻想的な白い肌。とっても素敵。
そして一番は…何と言っても、このフトモモ!
学園中探し回っても、こんなに素敵なフトモモを持っているのはきらきーだけ。
流石の私も、この魅力は認めざるをえない。
……ちょっとだけなら、触っても怒られないよね?大丈夫だよね?減るもんじゃないし。
それに、これだけ素敵なフトモモ。何もしないのは、逆に失礼だよね。
一瞬の隙を突いて、私はきらきーのフトモモを思い切ってサワサワ。
すると……
「もう!ばらしーちゃん! 」
ちょっと怒りながら、きらきーがペンの先で私の額をブスリと容赦無く刺した。
久々に、地面をのた打ち回った。
◇ ◇ ◇
おでこに絆創膏を貼りながら、二回目の休憩。
私はまたゴロゴロしながら、テーブルに積まれた夏休みの宿題を眺めた。
きらきーのお陰で、結構進んだけど……
それにしても、何で夏休みだからってこんなに沢山の宿題を出すんだろう。
テーブルの上のプリントは、まだまだ半分以上は残っていた。
これじゃあ、残りの夏休み、宿題をするだけで終わっちゃうよ……
そんな風に悲しくなってきた時…今日も冴え渡っている私の頭脳は、素晴らしい名案を思いついた。
時間を止めればいいんだ。
今までも、一人でこっそり練習してきたし…夏休みの宿題という、追い詰められた状況。
それによって、私の新たなる能力が覚醒しないとも限らない。
私は仰向けになり、気分を落ち着かせ……
そして、意識を集中しながら、両手を天井目掛けて思いっきり伸ばした!
ついでに息も止める。
チクタクと時計の秒針が動くのが聞こえる。
まだだ。
時よ止まれ!と思いを込めて、掲げた両手に意識を集中させる。
………ダメ。息を止めてたせいで、これ以上は頑張れない。
私は大きく息を吐き、そのままグッタリと腕を下ろそうとして…ふと、思い出した。
そういえば今、きらきーと一緒なんだっけ?
自分の部屋だからって、完全に油断してたよ。
恐る恐る振り返ってみると……そそくさと目を逸らすきらきーを発見した。
「………………勉強で疲れたから……手の体操…… 」
とっさに浮かんだ言い訳にしては、かなり完璧なものだと自分でも思う。
「え…ええ、分かってますわ 」
きらきーはそう言いながら、視線を泳がせていた。
良かった。時止めにチャレンジしてたのはバレてないみたい。
それから暫く、きらきーの笑顔が引き攣ってる気がしたけど…多分、これは気のせいだよね。