※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

第八話


思い出した。
今日の夕方、学校から帰ってきたら珍しいお客さんがいたんだった。
黒縁の大きめな眼鏡をかけた、私にとって大切なお客様。
きらきーより先に帰ってきたのはマズかったなと思っていたのに、一瞬で忘れちゃったんだっけ。
うん、本当に大切だからね。
なにせこの寮の人たち、あんまりゲームしないし。
何人かはするけど、そこまでのめりこんでやるってワケでもない。
つまり話題があんまりないから、ちょっと困っていた。
真紅が連れてきたあいつは話がわかるし面白い。
私にとって、あいつは救世主でもある。
そういう意味で、私にとってあいつは大切なお客さまなワケだ。
さっそくこないだ買ってきたゲームを進めると、やっぱり乗ってくれる。
ある程度は進めたから、新規データ作っちゃえ。
普通は他の人のプレイを見ていても大して面白くはないけど、こいつは別。
なんだか見てて面白い。
別にプレイしてる最中に「うわ!」とか「やばい!」とか言わないけど。
なんだろう、なんでか飽きない。
とりあえず翠星石が帰ってくるまでは、コレでお互いに暇をつぶせるかな。
なんて思ってたら、真紅が紅茶のお代わりを頼んできた。
渋々しながらもちゃんと紅茶を淹れに行くなんて、割とお人好しだよね。
にしても、私をほったらかして行っちゃうなんて、ちょっとひどいよ。
だから、そうだな。
ちょっと近くに寄っちゃえ。
コレであとは、あいつが帰ってくるのを待つだけ。
シャンプー変えたの、気づいてくれるかな? なんて。


それが、夕日が沈み始めるころのお話。

とっくにご飯も終わって、ヘンな騒動も片付いて、もうすぐお風呂。
水銀燈たちが出てくる前に、準備を済ませて談話室で適当に本を読んでいた。
すぐにあいつの部屋に向かったのか、こっちに戻ってくるのは遅かったけれど。
なんか蒼星石をつかみながら戻ってきて、あの恐怖の折檻をしていたけど。
蒼星石ったら、いったい何をしたんだろう。
でも、ま、いっか。
ヘタにかかわると私にも被害が飛んできそうだし。
今日はえっと……私入れて残り4人か。
あの広いお風呂なら、余裕すぎるかな。
今回は大人組が一緒だし、騒がしくなくていいや。
きらきーと蒼星石と私と……む、真紅が一緒か。


「困ったな」

「何がぁ?」


首を振る。
思わず声に出しちゃったっぽい。
でもなァ、思わず声に出しちゃうほど困ってるのもホントなんだよね。
なんせ、真紅はプロポーションが良いし。
なんとなく自信喪失するくらいに。
普段から体形に気を使っているワケじゃないけど、真紅を見ると反射的に比べてしまうというか。
さすが、この寮で1、2を争う美体形だけはある。
しかも優雅で、上流階級のお嬢様みたいな雰囲気あるし。
その、どうしても劣等感みたいなものが出てしまう。
恨めしいので、せめて胸は貧しくなってください。


「さ、そろそろお風呂に行こうかしらね。……蒼星石? あなた大丈夫なの?」

「ははは、は、は、はい、はい」

「大丈夫そうね。特に用事がないなら、残り全員で入ってしまいましょう」

「ん」

「そうですねー」


すごーい震えてるー。
なんか魂が抜け切る直前のドールみたい。
いまだに折檻はライブで鑑賞したコトないけど、どんなもんなんだろう?
翠星石がツヤツヤになった理由あたりを主に、いろいろ聞いてみようかなァ。
きっとお風呂効果だよね。
今日の入浴剤は、感動系お肌ツヤツヤ剤に違いない。
うん、ちょっとだけ期待しておこう、ちょっとだけ。
そんなこんなで脱衣所。
うーん、なんていうかこの寮は、何もかもが広すぎ。
どうでもいい理由で頭を埋め尽くして、蒼星石の恐怖に満ちたお顔は見ないように。
やっぱり真紅は憎らしかった。









お風呂脱出。
いやァ良いお湯でござった。
魅惑のお肌ツヤツヤ剤ではなかったのが少し残念だったけどね。
お気に入りの紫パジャマを着て、さァここからは楽しい夜更かしの時間です。
お肌の大敵? う、ちょっと自重しようかな。
でも、ちっちゃいころに初めて夜の12時過ぎまで起きてた時とか、すごくワクワクしたよね。
私はここに来たのは最近だから、まだ修学旅行気分っていうか。
あれだあれ、きっとみんなと同じ部屋で寝てたら、恋バナとか始めたくなる。
実を言うと、いますごい楽しい。
日常がね、なんかいいの。
修学旅行気分っていうのもあるけど、なんだろう。
ちょっと言葉にできないや。
と、ふいに思ってしまうほどこの寮は楽しい。
それに今日は、あいつもいる。
せっかくお風呂上がったし、部屋に遊びに行こうかな。
枕投げとか付き合ってくれそう。
それも「なにすんだよ」とか言いながら、結局はってカンジ。
明日は休みだし、今日はちょっと特別だし、ハメはずしてもいいかな。
よし決定、あいつの部屋に遊びに行こう。
そういえば、客室なんて行ったコトないなァ。


「お邪魔し……うわぁ」

「お、薔薇水晶。来たのか」

「ばーらすーいー、っしょーーーぁ!」


こ、コレは予想外というかなんというか。
この人は今日、この部屋で寝るというのか。
私には無理だ、次元が違いすぎる。
シャンデリア、ステンドグラス、それになんか、美術の教科書にありそうな白い像。
あとものすごい値段がしそうな額縁に入った、これまたものすごい値段がしそうな絵。
え、ここいつから博物館?
聖書? 枕の横の台の上に置いてあるその本はひょっとして新約聖書とかいうヤツですの!?
インドアの矢がどうたらとか書いてあるという、なんか読む気が失せるあの伝説の?
あれ、インドアだっけ、まいいか。
そりゃ、ヒナも私に抱きついてくるよ、ていうか逃げたくなるよ。
こんなゴテゴテの部屋で寝ろと、いったい誰が言ったのか……!
うん、言うまでもなく聞くまでもなく問うまでもなく私たちだけどさ。
ここまで人外魔境みたいな秘境だとは思ってもみなかったよ。
なんだろうここ、幽霊予備軍製作所?
人を脅かすための方法その1みたいな?
これは参った、来て早々「それじゃあね」なんて言えるワケがない。
本音を言うとこの部屋キッツイ。
なんていうか、隣にいる人間がずっと友達だと思っていたのにいざ見てみたら全然知らない人だった時の気まずさが。
ヒナもよく平気だな。
純粋、恐るべし。無自覚にミゾオチ狙ってヘッドバッドするあたりが特に、げふ。


「……まァ、気持ちはわかるけどさ」

「ご愁傷様」


私に残されている言葉は、それだけだった。
いや、うん、マジでハイスペック。
コレは居づれえ、というか居たくねえ。
思わず言葉を汚くしてしまうくらいな、うーん。
いやいやいや、負けるな私。
せっかく都合の良い暇つぶしがいてくれているのに、ここで屈したらそれこそ終わりだ。
でもここじゃキツイし、かと言って私の部屋に招くと折檻フルコースで石棺行きになりそうだし。
あれ、今は木棺だっけ。
て、そんなコトはどうでも良くて。
く、こういうときこそ、普段から頭を使っていればと後悔する。
まるでマンガのような感想がさらに思考を邪魔したところで、私の頭に電球光る。
実にレトロな自己表現にちょっとだけ満足したし、さっさと提案を提案しよう。


「行こう?」

「え、行こうってドコにだよ」

「ヒナも行くのー!」


問答一切無用である。
というワケで、こいつの手を取って談話室に避難避難。
室内なのに空気を美味しく感じてしまうあたり、やはりあそこは恐ろしい。
誰も近づきたがらない理由を身をもって思い知ったあと、いつも真紅が使っている椅子から少し離れたソファーへGO。
どうやら、真紅とカナは部屋に戻ったらしい。
水銀燈は冷蔵庫の前で何かを飲んでいるし、蒼星石は翠星石と何かしている。
もうすぐ夜も10時を回ろうという時間ですが、いやいやみなさん実に活発的です。
今からじゃ大して面白い番組もないし、さてどうするかな。
ゲーム……は翠星石に怒られそうだし、またもやピコーン。
そういえば、テレビ台の引き出しにカードゲームがあったような。
ごそごそがさがさ。
やっぱり発見。
そう、古くから用いられている、自らの手札で敵を打ち負かす札勝負。
相手の思考を先読みし、さまざまな戦法で翻弄する。
勝負の瞬間に手にとった自らの即席デッキを信じ、自分の勝負運を試されるソレは───!


「ああ、ウノやるのか。せっかくだしやってみるか」


定番だよね、コレ。
トランプで大富豪とか7並べとかスピードとかポーカーとかブラックジャックとかバカラとかもアリかと思ったけど。
意外にシンプルなウノのほうが、なぜか地味に盛り上がる。
トランプで思い出したけど、トランプマンって今なにやってるんだろうね。
けっこう前に昔の番組特集でチラッと見たな。
非常にショッキングなフェイスでド肝を抜かれた覚えが。
さては宇宙に帰ったな。
なんだっけあの番組、なるほど・ザ・時よ止まれ!だっけ。
すんごい人もいたものだ。


「でも3人だとちょっとつまらないな。水銀燈と翠星石と蒼星石もウノやらない?」

「あ、やるやるぅー。ちょうど暇してたのよねぇ」

「うん、参加させてもらおうかな」

「へっへーん、翠星石は『しゅくじょ』ですから、そんなお子様な遊びはやらないんですぅー」

「あ、そう。じゃあ5人で……」

「知ってます知ってます、ホントは翠星石にも参加してほしいのですよね。しゃーないからやってやるですぅ」


ふっふっふ、面白くなって参りました。
学校で「札憑きばらしー」とまで言われた私の実力、とくと見せてあげましょう。
私の二つ名、偽物ではないというコトを思い知るがいい……!
最初は無難に、青の6でも。
せいぜい楽しみなさい。
上部高層へ行くのを許されているのはただひとり、ばらしーだけなのだから。
そして私の記憶とゴーストは、永遠にネットに刻まれるであろうほっほっほ。
それではこれより開幕上演、負け犬たちの鎮魂歌───!



惨敗……だと……!?
|