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第二話


ど、どうしましょう。
男性なんて、ただでさえ怖いのに。
一緒にいることなんて絶対にムリ。
やっとの思いで同じ場所にいられるようにはなったけれど。
話すどころか、目を合わせるのもまだ出来ない。
桜田さんには悪いけど、早く帰ってくれないでしょうか……。
というか、まだいらっしゃるのかしら。
外はもう暗いし、さすがにお帰りになられましたよね。
い、いるかな……。


『帰らなくてもいいのよ』

『なんでだ!』

『今日は部活のみんなとお勉強会するから、今夜はよろしくねぇ~ですって』


ひいいい。
ま、まだいらっしゃいます~。
コレは困りました。
晩御飯が終わったらばらしーちゃんと一緒にゲームする予定でしたのに。
これでは、部屋から出られません……。
でもお腹が、ああ、ぐうぐう言ってます。
やっぱり、ダイエットのつもりでお昼を少なめにしたのがまずかったでしょうか。
でも、まさかこんなコトになるとは思いませんでしたし、うーん。
……って、ダメよ雪華綺晶!
いい加減に男性恐怖症をどうにかしないと、これから先、絶対に困るんですから!
うう、なんだってこう社交的云々なんてこなさなきゃならないのかしら。
他のみんなも、何で平気なのか全然わかりません。
男性なんて怖いだけなのに。
ああ、くらくらしてきました。
でも、ここで倒れるワケにはいきません。
もし倒れてしまった日には、気付いたらベッドの上にいて、横には私を介抱した桜田さんがいて、そしてそして、ああ!
多分にイイ感じな雰囲気になってしまった私たちはそのまま、きゃー!
ダメですダメです、流石にそんな展開は恥ずかしいですもの。
いくら私でも、そんなオチの読める結果に持っていくほど落ちてはいません。
というか、お腹が減って頭が……。
もう、こうなったら仕方ありませんよね。
何も考えず、平常心で。
そう、平常心ですよ。
真っ白な心を持つのです。
私の名は雪華綺晶ですもの。
名前ニ負ケズ、男ニ負ケズ。
と、いうワケで。
こちらきらきー、これより(階段を降りる)ミッションを開始します!
降りました。


「雪華綺晶、やっと降りてきたんだね。これから晩御飯だから、もう少し待っててね」

「あ、はい……」


蒼薔薇のお姉さま……じゃなかった、ちゃんとファーストネームで呼ぶように言われてたんでしたっけ。
蒼星石さんは、翠星石さんと一緒に忙しそうに色々作っていらっしゃいますね。
お二人の作るご飯は美味しいから大好きなのですけど。
ううー、ちら。
やっぱりいらっしゃいます。
さっき聞こえてきた話の通り、どうも晩御飯はご同席なさるみたいです。
心臓がばごばご言ってますよ。
私、生きて部屋に戻れるんでしょうか。


「ふー、やっと出来たですよ。急に一人増えるもんですから手間取ったですぅ」


翠星石さんが、なんだかニコニコしながらお料理を運んできました。
な、なんかいつもより随分と豪勢な。
イイ匂い。


「あ、きらきーじゃねえですか、丁度いいです。ちょっと味見するですよ」

「あ、は、ぴゃい!」

「……いい加減、畏まるのはやめるですよ」


そう言われましても、私はまだここに来て日が浅いですのに。
一緒に来たばらしーちゃんの順応力が羨ましい。
とと、そうでした、味見。
スープ、ですかねコレは。
お腹が空いてるから余計に美味しそうに見えます。
が、私も夢がありますゆえ、ここで空腹に負けて適当な返事を出すコトは許されません。
厳正に審査しなくてはっ。
じゅる、さっそく一口。


「んく……」

「どうですかね」


ふあー、やっぱりお二人の作る料理は美味しいですね。
確かにコレ単品では美味しいのですが、前菜の後に出るものですし。
かと言って、全てを試食するワケにもいきません。


「前菜は、何を出すのですか?」

「べ、別にフルコース形式で出すワケでもないですけど。ちょっとオシャレに、魚介類と野菜をカクテル風にしてるです」

「そうですか。なら、このスープで良いと思いますよ。とても美味しいです」

「そうですかぁ。きらきーのお墨付きなら翠星石も安心です」


お魚料理の香りが漂ってきていますし、じゃがいもの冷製スープは良いですね。
じゃがいもの旬は少し過ぎてる感もありますが、お二人の腕にかかればチョロイもんらしいですし。
ふふ、楽しみです。
一応ダイエット中ですし、食べ過ぎないように心掛けたいところではありますが。
翠星石さんも蒼星石さんも女性ですし、きっと大丈夫ですよね。
さて、私もそろそろ席に着きませんと……。


「ひきっ」


そそ、そうでした忘れてました。
今日は桜田さんがいるというコトを。
ご飯でこんなに緊張するのは、初めて本番でテーブルマナーに挑む時以来です。
め、目が合ってしまいました。
あ、私の素振りが気に入らないのでしょうか、やっぱり。
桜田さんが睨んできてます。
こ、怖い。
今思いっきり顔ごと目を逸らしてしまいましたけど、お、怒られるかなァ。


「なァ、雪華綺晶」


ひいいい!
び、びっくりし跳ねてしまうなんて生まれて初めてですよ。
それにそんな、あまり話したコトもないのに呼び捨てなんて。
やっぱり男性は恐いです怖ろしいです女たらしですエゴイストですっていうかもう大佐です!
こんなことなら、部屋の隅でガタガタ震えながら神様にお祈りしてたほうがマシでした!


「そんなに震えなくても、何もしないさ。それにほら、僕は離れて食べるから、その……」


信用したいのですが、やっぱりダメです……。
自分の性格が恨めしい。
もう少し、本当に少しでいいから、男性に慣れていればこんな不快な思いはさせなかったでしょうに。


「あー、悪い。僕、やっぱ帰るよ」

『えー!』

「ほら、ご飯は楽しく食べたいだろ? 僕が居ると大変そうだし。せっかく作ってくれた二人には悪いけどさ」


皆さんには申し訳ないんですけど、確かに今の私だと、緊張しすぎてご飯どころではなくなってしまいます。
桜田さんには悪いですけれど、私もご飯は楽しく食べたいですし。
やっぱりここは、帰ってもらった方が助かりますし。
そして私は……、


『今日は部活のみんなとお勉強会するから……』

『ご飯は楽しく食べたいだろ?』


私は気づく。
部屋から耳を澄ましたとき、今日は桜田さんが家に帰っても独りだと言っていたというコトに。
自分の性格を言い訳に、桜田さんを追い出そうとしていた卑屈な自分に。
私だって、食事は楽しく過ごしたい。
テーブルマナーも大切だけれど、和気あいあいと過ごすのが一番良い。
それを誰よりも理解していたハズなのに。
やっぱり、ここは我慢してでも……いえ、我慢じゃダメですね。
桜田さんはきっと、私が我慢しているコトにも気付くハズです。
我慢がダメなら、いっそ。


「あ、の」

「ん?」

「私、大丈夫です。き、緊張はしてしまうけど、努力、しますから」


私の言葉に、皆さんが静まる。
まるで、初めての大舞台で一人演技をしているような気分になる。
けど、ここで止まってしまったら、きっと皆さんも困ってしまう。
せっかく言葉に出来そうなのだから、最後まで言わないと。


「我慢じゃなくて、努力します。男性と一緒にいても平気になれるように。私は、大丈夫、ですから」


きっと、一生分の勇気を出している。
桜田さんの顔を見られない、床しか見ることが出来ない。
言葉がブツ切りになる。
それでも、今止めてしまったら、きっともう、続かない。


「だから、その、帰らないで……」


言いきれた。
一生分どころか、きっと来世で使うハズだった勇気まで使った気分。
あとは、返事をもらうだけ。
その、確かに異性に自分の気持ちを告白したのは事実なんですけど、これは決して恋愛沙汰ではなくて。
いやいや、桜田さんのコトが嫌いってワケでもないんですけど、事態は違うといいますか。
あれ、でも好きでもないって意味を含んでもいないんですよ。
ま、まずはお友達からっていうのが通例のようなですね。
ていうか、なんで皆さん静かなんですかぁ。


「頑張ったわね、雪華綺晶」


ぽん、と私の肩に誰かの手が置かれた感触が。
手が置かれた肩のほうを見てみると、そこには柔らかい笑顔を浮かべた真紅さんがいる。
笑顔まで優雅だなんて、本当に淑女です。


「ジュン、レディが涙まで浮かべてあなたを説得してるのよ? まさか、断るような言葉は吐かないわよね?」

「あ、あの。そんな大事にしないでください……」

「あら、大事なコトよ。ここで断るようなら、あなたに代わって引っ叩いてやるのだわ」


優雅な暴力は、さすがに聞いたことないです。
私が原因でこんなコトになっちゃったんですし。
どっちかといえば、怒られるのは私のほうな気がします。
それに涙なんて流して……ましたけど。
恥ずかしいので、あんまり強調しないでくださいぃ。


「……僕だって、そこまで言われて断るほど、イヤな性格はしてないさ」

「断ってたら頭かち割って脳みそをスプーンですくい取ってからブリゴキの餌にしてたです」

「なんか言ったか? そこの翠星石」

「なーんにも言ってないですよ」


翠星石さんと桜田さんが騒ぎ始めた。
ああ、本当によかったです、桜田さんが怒ってなくて。
やっぱり人に嫌われるのは、二番目くらいに怖いですし。


「あ、雪華綺晶」

「は、はい!?」

「そんな驚くなって……。ほらこれ、涙拭いておけよ。僕が泣かせたみたいで、ちょっと、な」

「あ、あ、ゴメンなさい!」


苦笑いされてしまいました。
でも今、緊張したとはいえ、男性と会話出来ました。
ちょっとどころではなかったけれど、勇気を出せば、少し進めるんですね。
それを知るコトが出来ただけでも、良かったです。


「ジュンを実験台にすればいいのよぉ。ジュンに慣れていけば、そのうち他の男にも慣れるわぁ」

「え、え?」

「実験台は語弊があると思うけど。そうだね、ジュン君に協力してもらって、少しずつ慣れていけばいいよ」


水銀燈さんと蒼星石さんが言う。
でもそれって、桜田さんは許してくれるでしょうか?
すごく不快な気分にさせてしまいそうな。


「……あー、別にいいよ、それくらい。避けられるくらいなら、そっちのほうがマシだ」

「あ、ありがとうございます」


優しい人です。
未だに緊張するし、少し震えてしまいますけども。
部屋から出てくるときのコトと比べると、震えも幾分か治まった気がします。
多分、気がする程度でしょうけど。
男性がいても、ご飯を美味しく、楽しく食べられるかもしれません。
そんな気がするだけでも、私にとっては大きな一歩です。
ちゃんと「努力」して、桜田さんとも普通にお話出来るようになれればいいなァ。


「さーさ、これからご飯を温め直してくるですよ。すぐ出来るから大人しく待ってるです! いいですねチビ人間!」

「なんで僕だけに言うんだ!」


このやり取りを見て、男性の前で笑ってしまったのも、生まれて初めてかもしれません。
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