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「遅いわねぇ…… 」
「翠星石はいつもの事としても、蒼星石もまだ来てないなんて……気が緩んでる証拠ね 」

電車で少し行った所にある遊園地『くんくんランド』の入場ゲートの前で、
水銀燈と真紅は待ちぼうけを喰らっていた。

ちなみに『くんくんランド』では夕方には電飾パレードが行われ、併設された『くんくんシー』も大好評だ。

とにかく。
そんな皆の憧れ『くんくんランド』の前で真紅と水銀燈は…
待ち合わせの時間の一時間も前なのにも関わらず、既に臨戦態勢で待ち構えていた。

時折、二人して園内を覗き込み、皆のアイドルくんくん探偵を探す。
でも、入り口近くを徘徊してるのなんて、ピエロとか熊のブーさん位。
ガックリと肩を落すも…すぐに気を取り直して翠星石達を待つ。待ち続ける。

やがて……
「いやー、お待たせですぅ!皆のお弁当作ってたらギリギリになっちまったですよ! 」
嬉しそうに手を振りながらの翠星石と、
「でも、集合時間には間に合って何よりだね 」
いつもと同じように落ち着いた雰囲気ながらも、少し楽しそうな顔の蒼星石が到着した。


さあ、今日は楽しい遊園地だ!




◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号14 ☆  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 
「遊園地なんて久しぶりですぅ!楽しみですね! 」
早速買ったフリーパスを首にかけた翠星石が入り口で手に入れた園内地図を大きく広げる。
「全く…はしゃいじゃって、ガキねぇ… 」
呆れたようにそう言う水銀燈も、横目でしっかり地図を確認している。

「待って。いきなりだけど、これを見て頂戴 」
真紅はおもむろにそう言ったかと思うと…
彼女は鞄の中から数枚の紙を取り出し、それを全員に配り始めた。

見ると、それには……
びっしりと、分単位での行動スケジュールが書き込まれている……。

「この時期における混雑の状況と…
 それを基に私が考えた、最も効率的にくんくんランドを楽しむ為の予定表なのだわ 」
いつの間にか探偵みたいなベレー帽をかぶった真紅が、誇らしげに平らな胸を張る。

「……マニアの情熱とかいうやつを甘く見てたですよ… 」
ここまでやるか、と顔を少し引き攣らせながら翠星石が呟いた言葉を華麗に無視しながら、
真紅が全員に号令をかけた。
「さあ!くんくんの世界を堪能する為にも、早速行動開始なのだわ!! 」

◇ ◇ ◇

「限!界!を!!突破するですぅ!! 」
意味不明な事を叫びながら、翠星石が乗り物の『コーヒーカップ』を全力でグルグル回す。
「うわ!?す…翠星石!?危ないから!止めなって!ねえ、お願い!!! 」
遠心力で飛ばされそうになりながら、蒼星石が必死に翠星石を止める。
 
「ガキねぇ… 」と呆れながら呟いていた水銀燈も、いつの間にか対抗心に火がつき…
ちょっとだけコーヒーカップをグルグル回して…でも、やっぱり恥ずかしいからすぐに止めて。

水銀燈の向かいに座った真紅はというと、さっきから…
「あぁ…くんくん…どこに居るの?…くんくん…ふふ…ふふふ…… 」
何だか怪しげな笑みを浮かべながら、揺られるまま視線を周囲に向けていた。

◇ ◇ ◇

そんなこんなでアトラクションを巡り、この遊園地の目玉でもあるジェットコースターの列へと並ぶ。

「この『くんくんコースター』はその名の通り、
 くんくん探偵のようにスピード感溢れスリリングな人気アトラクションなのだわ 」
何だかガイドさん並の知識と披露しだす真紅。
そんな真紅に負けじと、
「ロープが二重になってるから、安全面もバッチリよぉ 」
と、補足説明をする水銀燈。

くんくん探偵ファンによる静かな闘いが展開されていた。

「ふーん…あんな犬人形のどこがそんなに良いんですかねえ……
 翠星石の方がよっぽど知的で可愛いですぅ~ 」
マニアックな話は聞き流しながら、翠星石が小さな声でぼやいた。

途端!真紅の心に火がついた!


「翠星石、あなた分かってないわね。くんくん探偵は本物の紳士でありその上で知性とユーモアに溢れた
 本物の紳士なのだわ。そして彼の推理は常に的確でそれは犬であるという事の嗅覚と (中略)
 つまり…そうね。一言でまとめるなら…くんくん最高、という事ねのだわ 」
 

でもやっぱり、そんな真紅の演説を聞き流しながら、翠星石は遠くを歩く着ぐるみの背中に視線を向けていた。
「…あんな垂れ目の犬より、翠星石の方が可愛いと思うですけどねぇ…… 」

「垂れ目の事を悪く言わないで頂戴。……って…あんな? 」
すかさずつっこんだ真紅は、翠星石の発した小さな言葉を聞き逃さなかった。
まさか!そう思い真紅が振り返ると……

愛くるしい目!知的なベレー帽!愛用のパイプ!
探偵犬くんくん(着ぐるみ)が園内を歩いている姿が!!

「くんくん!!今行くわ!! 」
真紅はそう叫ぶと、くんくん探偵目掛けて走り出す。
「真紅だけにいい思いさせてたまるもんですか!行くわよぉ! 」
そう叫ぶと水銀燈も、蒼星石の手をとって走り出す。
「え!?何で僕も!? 」
「あなたが居ないと、誰が私とくんくんのツーショットを撮影するのよぉ! 」
あれよあれよと言う間に、3人は遥か彼方まで走り去って行った……。


後に残ったのは…
「……はて? 」
一人ジェットコースターの列に残された翠星石が、キョトンとした表情をしている姿だけだった…。

◇ ◇ ◇

『やあ。今日はよく来てくれたね』
そう言い振り返ったくんくん探偵に、真紅はすかさずタックル…じゃあなくて、飛びついた。
「あの…!ぜ…是非、私と記念撮影を!そしてあわよくば、私を探偵の助手に…!! 」
くんくんにしがみ付いたままの真紅が、一気にそうまくし立てる。

 
「いきなり助手にしてくれ、って…まるっきり危ない女じゃなぁい。さっさと離れなさいよぉ! 」
水銀燈が真紅をむりやり引っぺがす。

蒼星石は「マニアって怖いなあ」と思いながら顔を引き攣らせていた。

◇ ◇ ◇

完全に出遅れた翠星石は…
「き…きっと、すぐに帰ってくるですよね!? 」
自分にそう言い聞かせながら、ジェットコースターの列に一人で並ぶ。

列はどんどん進み、自分の番が近づいてくる。
でも、まだ帰ってこない。

「………遅いですぅ… 」
心なしか、ちょっと元気の無くなってきた翠星石。
少し寂しくなってきた。

◇ ◇ ◇

「それじゃあ、撮るね 」
そう言い蒼星石の指先がシャッターのボタンに触れようとした瞬間…―――

「ちょっと待って、蒼星石。……どうして水銀燈まで一緒なの? 」
くんくん探偵の右側に陣取った真紅が、それを止めた。
「普通、こういう時はツーショットを撮るものよ。…という訳で、どいてもらえるかしら?水銀燈 」
鏡に映したみたいにくんくんの左側に陣取る水銀燈を一瞥。
 
「あらぁ?蒼星石を連れて来たのは私よぉ?だったら…私が先に写るべきよねぇ? 」
対する水銀燈も、全く譲る気はない。

「私が先にくんくんを捕まえたのだわ! 」
「何よぉ!カメラも持たずに走り出しといてよく言うわぁ! 」

「私が!! 」「私が!! 」
と、お互いに主張しあう真紅と水銀燈。

(どっちでもいいから、早くしてくれないかなあ )
と思いながら、蒼星石はゲッソリとした表情で空を見上げた。

◇ ◇ ◇

3人共、帰ってこない。
にも関わらず、ジェットコースターの列は容赦なく進む。

そわそわし始めていた翠星石は…
「1名様ですか?」という係員の声で、余計にそわそわした。

「え…いや…その……ぅぅ…ひ…ひとりですぅ…… 」
今にも消え入りそうなか細い声で答える。

真紅や水銀燈や…いっつも一緒だと思っていた蒼星石。
皆が居ないと思うだけで、泣きそうになるくらい寂しいのは何でだろう?
急に知らない人と話をするのが怖くなるのは何でだろう?

背中に寂しいものを感じながら、翠星石は心配げにキョロキョロし……
見知らぬ係員に誘導されるまま、ジェットコースターのシートに腰掛けた。
 
◇ ◇ ◇

(中の人…ご苦労さまです…… )
蒼星石は撮影を終え、手を振って帰るくんくん探偵(着ぐるみ)の背中に、そっと心の中で応援を送った。
間違っても、「中の人」なんて発言は言葉にはできないけど。

だって、もしそんな事を言ったら……
「嘘なのだわ!! 」と叫び、切れる真紅の姿や……
「…中に人なんて居ないじゃなぁい…… 」と、暗い笑みを浮かべる水銀燈の姿が容易に予想できるから。

蒼星石は頭をブンブン振り、そんなヤンデレな妄想を吹き飛ばす。
そして…置いてきぼりになってしまったツンデレの事を思い出して…何だか寂しくなってきた。

◇ ◇ ◇

「…ぅ…ぅぅ…… 」

カタカタとジェットコースターが斜面を上る。
お腹が痛くなる位まで締めたベルトに、鉄で出来た安全バー。
それを必死に握りながら、翠星石はカタカタと昇る音を聞いていた。

ジェットコースターなんて、何度も乗ったし…むしろ、好きなアトラクション。
ずっとそう思っていた。
キャーキャー叫びながら両手を上にあげたりして、大いに楽しんできた。
ずっと、そうだった。

なのに今日は、このカタカタと昇る音が怖くて仕方が無い。
どんなにベルトをキツく締めても、安全バーにしがみ付いても、不安で仕方が無い。
 
 
翠星石は絶対に下を見ないように心がけながら……それでも怖いので、目をギュッとつぶる事にした。

そして……

斜面を昇り終えたジェットコースターが、最初はゆっくり。だが、すぐに高速で下に落ち始め…―――

「!!?!?……ぅ……ぅぅ…… 」
怖くて悲鳴も出ない。
丸めるように体を小さくしたまま、翠星石はギュッと安全バーを握りしめていた…。

◇ ◇ ◇

「大丈夫よ。翠星石だって、もう高校生なのよ? 」
「そうよぉ…ちょっと過保護すぎるんじゃないのぉ…? 」
くんくんとの楽しい一時の余韻に浸る事もできずに、蒼星石に連れられて歩く真紅と水銀燈。
ちょっとだけ、いや、かなりの不満顔。

「翠星石はああ見えて、中身は小学生並みなんだよ?
 早く戻らないと、きっと寂しがってるよ 」
さらっとヒドイ事を言いながら、蒼星石は心配そうに早足で歩く。

そして、先程まで並んでいたジェットコースターの列を見渡してみるが……
翠星石の姿はどこにも見当たらない。

蒼星石は不安になって、周囲を駆け足で走りながらキョロキョロ。
すると……

ジェットコースターの降り口から、泣きながら翠星石が出てくるのが見えた。
 
◇ ◇ ◇

「…ぅぅ……二度と来ねーですぅ…… 」
ぐしぐしと目をこすりながら、翠星石が悪態をついていると……

「翠星石!!大丈夫!? 」
いっつも聞いている声が聞こえてきた。

「!…蒼星石!! 」
涙を拭きながら顔を上げると…いっつも一緒だった双子の妹が、心配そうにこちらに駆け寄ってきている。

「そーせーせきぃー! 」
翠星石は涙声で叫ぶと、わき目も振らずに走り出し……
そのまま蒼星石にタックル…じゃあなくて、抱きついた。

「どこ行ってたですか!勝手に翠星石から離れたらダメだといつも言ってるですぅ! 」
思いっきり蒼星石を抱きしめながら、その肩に顔をうずめて翠星石が叫ぶように言う。
「ごめんよ、翠星石… 」
そう言い、蒼星石も翠星石の背中に手を伸ばそうとして……

「あら! 」
「まぁ…! 」
真紅と水銀燈の声に、翠星石達の動きが止まった。

見ると、2人はニヤニヤしながら感動の再会を眺めている。

「…全く…公衆の面前だというのに…少しは自重なさい 」
「何だか、やっと飼い主を見つけた子犬みたいねぇ…? 」
  

「なぁ!?!? 」
翠星石の顔が瞬間湯沸かし器より早く真っ赤になる。

「ちちち違うですぅ!こ…これは…そう!
 翠星石を置いていった悪い妹にプロレス技をかけてるだけですぅ!! 」
咄嗟にそう答え翠星石は、蒼星石の首を抱きしめていた両手にギリギリと力を込め始める!

「ちょ…!すいせ……くるし……! 」
突然の姉の変わりように一瞬行動の遅れた蒼星石が、翠星石の腕の中で苦しそうに呻く。

「う…うるさいですぅ!翠星石を置いていくのが悪いんですよ! 」
照れているのか、それとも本気を出してるからか…真っ赤な顔の翠星石が叫ぶ!

蒼星石の顔色が悪くなってきた…

「…微笑ましいけど…止めるべきかしら? 」
ニヤニヤしたままの真紅が水銀燈に尋ねる。
「…微笑ましいけど、止めるべきねぇ… 」
水銀燈もニヤニヤしながら答える。

◇ ◇ ◇

「これに懲りたら、二度と私から離れやがるなですぅ! 」
苦しそうに首をさする蒼星石の前で、翠星石の勝利宣言が高らかに響いた。 






     
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