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「うん」

 闘志むき出しのふたりへ。
 僕はもう、限界です。(脳内ウィキペディア)先生、もういいですよね?

「座ろうか」

 つかつかと歩み寄る。

「「邪魔しないで!」」

 ああ、そういう。

「す わ ろ う か、」

 片方ずつ順番に、首根っこを。

「酒の席で、」

 思い切り、掴む。

「暴れるとは何事だああああ!!」



―――


「あー、爆発しちゃったねえ」
「やはりのりさんの弟はかく在るべき、というところでしょうか」
「ええ? ちょっとしたものですよぅ、この位なら」
「……」
「……」


―――


 …………
 ……

 んん……

「朝ですよおめーらぁ! しゃっきり起きやがるです!」

 おおう、……頭痛い……叫ばないでくれ……

「酒が貴方を裏切ったんじゃない?」
「馬鹿言うな。酒が僕を裏切る筈が無い」
「重症ね……ああ、蒼星石。紅茶はあるかしら? ジュンはちょっと駄目そうだから、もう少し横にしておいた方がいいわ」
「そうみたいだね。緑茶なら直ぐに準備できるよ、真紅」
「じゃあ、それにしようかしら。蒼星石の淹れる緑茶は、一品だから。楽しみだわ」
「はは。褒めてもなにも出ないよ」
「カナはオレンジジュース飲むけど、雛苺もどう?」
「お願いするの!」
「のりぃ、乳酸菌が摂れるアイテムならとりあえず何でもいいけど、あるぅ?」
「ヤクルトは常に一ダース確保してあるわよぅ」
「お腹が空きました……」
「大丈夫だよお姉ちゃん。多分別枠の朝食が在る筈だから……」
「主におめーの為に作ってやったですよ。ありがたく食うがいいです」

 なんでこんな元気なんだこいつら。
 まあ、もともと回復力高いしな……翠星石と蒼星石といったら、朝食の準備までしてくれていた様子だし。

 僕の目覚めに続いて、ソファの近くで寝ていたふたりも起きだしてきた。

「槐さんもみつさんも、大丈夫ですか?」
「若さが足りないのかもしれないかなあ……はあ、頭いたい」
「僕としては、突っ込むことが出来ないのだが」
「あー、うん。半端に呑んだのがよくなかったのかもね。ばーっと呑んでばーっと戻した方が、次の日としてはダメージが少ないわけだし」
「戻すとか大っぴらに言うのはどうかと思うぞ。君は女性な訳だし」
「うるさいわよー、槐。お酒の呑み方なんて、体調と状況に左右されるんだから」

 なんなら今日二回戦よ、とか言うのやめてくだい、みつさん。朝にその台詞が出せるのは相当です。

「桜田君、だいじょうぶ?」
「んー……かなりよくない」

 当たり前といえば当たり前か。僕は酒の席でしぶといのは認めるけれど、次の日の保証は、誰が――勿論自分自身も――したわけでもない。

「桜田君、寝る前のこと、覚えてる?」
「え?」
「覚えてる?」
「なんでそこを強調するんだ」

 なんかやらかしたのか、僕は。ずきずきと痛む頭の前らへんを抑えつつ思い出そうとしてみるものの……無理だった。宴の途中からの記憶が、抜け落ちている。あんまり頭使いたくないなあ、今。

「いや、あまり」
「この朴念仁」
「繰り返し言われてるような気がするが、若干硬質的な響きを感じる」
「それも仕方のないことよ、巴。私達に、あれだけのことをしておいて」
「そうだね。あれだけのことをしておいて」

 やっぱり何かやったのか!?
 柏葉と真紅からその台詞が出たあと。ざぁっ、と部屋の空気が変わったのを感じた。
 ……ええー? ……なんか嫌だな。酒の席で記憶を飛ばすのは、もっともやってはいけないことの一つだ。

「詳しく話を聞かせてくれないかな?」
「ふっ、ふふ、おめえ……まさか一線を越えちまったとでも……」

 顔が笑ってるけど、眼が全然笑ってない。

「あらぁ……ジュンにそんな甲斐性があるとも思えないけどぉ」
「……やるときはやる男だと思ってるよ」
「それ、褒め言葉なのかしら?」
「うよー、よくわかんないの」
「雛姉さま、もし目の前に美味しそうなうにゅーがあったら、どうなさいます?」
「食べるの!」
「そういうことです」

 どういうことだ。


――――


 とりあえず。
 僕が何をしたかについては、全て投げっぱなしにしておいた。
 なんというか、あれだ。柏葉も真紅も怒っているようでいて、僕をからかう気満々である雰囲気が滲み出ていたから。

 美味しい朝食(他の面子はサラダとか冷奴とか、雪華綺晶だけはオードブル)に舌鼓を打ちつつ、まったりとした一時を。
 それで、まあ。朝食が終わった後は、後片付け。転がっている酒瓶やら何やらを、一気に始末してしまう。これは流石にみんなの義務で、誰一人として文句は言わない。実権握ってるの姉ちゃんだしなあ……

 それが終わったら解散、というのが毎度の流れなわけだけれど。今回も、それに倣う。みんな今日は休日ということもあって、早々に帰ってしまったものの。柏葉だけは、ぼんやりとした様子で家に残っていた。
 急に騒々しさが失われると、この部屋だけが世界から浮いたような感じになる。時間の流れから宙ぶらりんに、ぶら下がっている空間。
 一息ついて、紅茶を淹れることにした。

「ほら、これ柏葉の分」
「ありがとう」

 頭痛は大分治まってきている。体調が回復してくると、こんな雰囲気も悪くないような気もしてくるから、不思議だ。

「いい天気」
「そうだな」
「曇りの日も雨の日も、それなりにすき」
「何でもいいんだ」
「うん。穏やかであるなら」

 穏やかさ、か。こうやってぶら下がっている穏やかさは、望んで手に入るものなのだろうか。
 それは偶発的なもので、求めれば消えてしまったり、放っておいても、些細なことで壊れてしまったりは、しないか。
 僕はたまに、それが怖い。夢ではないか。僕は、やさしい夢のようなものを、見ているのではないか。
 かつては、独りを望んだ。それはそれで安定した暮らしが送れたのだけれど、「安定していた」のは「僕」だけで、それは他のひとにとっては違ったのだ。

「大丈夫だよ」

 ティーカップを手元において、彼女は言う。

「ここにこうやって、ひとが集まるのは。のりさんや、貴方がいるから。だから、なの」
「……そんなものかな」
「ところで、桜田君」
「ん?」
「昨日、寝る前に。私も真紅も、強引に唇奪われたんだけど。責任とってくれない?」

 ぼふぉっ。

「……柏葉?」

 盛大に紅茶吹いた。
 言ってる本人の眼は、やっぱり笑っているが。

「ウソよ、ウソ……半分ね」

 どの半分がウソかで、大分意味が違ってくる。

「教えてあげない」

 こんな性格だったか、こいつ。

「私達のこの一年間は、多分あっという間だったの。だけど、もうちょっと先はあるよ」
「まあ、な」

「だから、」
「これからもよろしくね、桜田君」


 ……
 はあ。もうちょっと先、と言ったところで。途方も無く続いているような気もするんだ。
 それでも、いいか。それは、悪くないことだから。

「ふつつかものですが」
「お前、もう酔い覚めてるよな?」

 三つ指立てるな。

 記念すべき「大学生として」初めてのパーティは、これでおしまい。
 だけどこれから、お人好しで気の利きすぎているパーティホストは、ことあるごとにみんなを呼び寄せる。
 お酒と、僕と、愉快な「仲間」たち。

 ありがとう、って。めったやたらに、僕は口に出すことをしない。
 僕はその辺は、変わらないのだ。

 毎度のこと、愉快な地獄変が繰り返されるわけで、誰もかれもが何かしらやらかして、笑っている。

 ネタはいくら挙げてもつきないわけだけど。
 そこはまた、別なお話で。







  
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