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 どのお酒が一番すき? と問われれば、多分答えることができないと思う。
 なぜなら、お酒はどれもすきだからだ。
 うん。何が言いたいかっていうと、九平次うまいね。

「さくらだくん、あなたねえ、このぼくねんじん」
「いきなり酷くないかそれ?」

 箸を動かす。口へ運べば、しゃっきりとした歯ごたえ。はぁ……なんでこんなにただの漬物が美味しいんだろ。

「あかかぶちょうだい?」
「どうぞ」
「たべさせて」
「なんでだよ」
「さくらだくん?」
「はい逆らいません」

 何やってんだ僕は。とりあえずこの赤カブを与えないと危(ヤバ)い雰囲気を感じたので、従うことにする。こんなに赤いのに、僕らはこれを美味しいという……着色料とか使ってないんだよなー。姉ちゃんどこから仕入れてくるんだろう。そういう問題じゃないよ。弱いなあ僕。

「ほら」
「あーん」

 何故眼を瞑る。
 口に運んでみると、家の躾が良いやらなにやら、よく噛んで食べる習性があるようで。
 むぐむぐとしながら、頬に手をあてている。この幸せそうな顔といったら。

「しおからちょうだい?」
「……まだ食うのかよ……」

 マジックポットかこいつ。

「『雛鳥が親に餌をねだるようだ』という表現の方がよいとおもうわ」
「僕もそう思う」
「ええとねえ、さくらだくん。よく食べるのはとてもよいことなの」
「雪華綺晶はいきすぎだけどな」
「キャラ付け! キャラ付けで負けてるってことね!?」

 キャラって言うなよ。

「そうね、そうだわ。だってさくらだくんのまわりに集まる女の子はそりゃあきれいで、お人形さんみたいにかわいいし、個性もあるし」
「うーん……」

 きれい、というのも。うん。確かにそれはあって、個性的、というのも当てはまる。
 でも、あいつらが人形か……うーむ。
 何故か『呪い人形』というワードが僕の脳裏に浮かんだ。


『あまーいお酒があればそれでいいのー』
『玉子焼きによく合うお酒を造ってほしいかしら』
『酒よ! 酒が足りないわ! すぐに持ってきなさい!』
『この冷酒――ぬるいね。温度に気を遣ってくれないと、僕は満足しないよ』
『貰っちゃった、貰っちゃったぁ……蒼星石のグラス、貰っちゃったぁ』
『……か……かえして……返してぇッ! 蒼星石のお酒(無濾過原酒)!』
『常温の愉しみを知らないなんて……かわいそう、かわいそう……』
『お姉ちゃんはどっちかっていうと食べ物があればいいよね(紫蘇焼酎を呑みながら)』


 飽くなき酒への欲求をぶちまけながら闘うドールズ。誇りをかなぐり捨てた泥酔乙女。
 骨肉の争いの果て、至高の存在(酒)を求めて――

 うん……うん? ねーよ。あ、でもちょっとたんたかたん呑みたくなってきた。冷蔵庫にあったっけ?
 これ以上の思考を進めると何らかの支障が出るような気がしている。僕の脳内ウィキペディア先生で検索してはいけないような。そんな感じ。どんな感じ?

「できておる喃」
「頼むからその先生はどこかに追っ払ってくれ」

 命に関わる。あとその正気でも曖昧でもないような雰囲気を醸し出すのやめて。

「きめたわ! わたしお人形になる!」
「待て。決めるな」

 僕の第六感が告げる――人間が人形になるなんて、とかそもそもそれが大前提として眼の前の彼女の言を否定して然るべきであるというのに、さらにそれを覆すくらいの危うさを感じている。
 危うい。主にネタが。ネタ?

「巴メイデン……すてきなひびきでしょう? 私とさくらだくんのめくるめくアバンチュール!」
「お前どこか遠い平行世界を垣間見てきたのか」


―――


「はぁ……お人形になる道はきびしいね。ときにさくらだくん」
「どうした?」
「無濾過原酒――あるよね? 銘柄としてはあんまり有名じゃないかんじの」

 ええー。あれこっそりあとで愉しもうと思ってたのに……

「さくらだくんちの冷蔵庫事情ならみんなを出し抜く自信があるわ」
「僕を出し抜かれても困る」

 所有者なんだけど。
 ちなみに今眼の据わっている酔っ払いが言っている件のブツは、向こうで槐さんと仲良く寝てるみつさんが持ってきてくれたもの。あのひと自体は相当呑む方だが、今回は早かったなあ、寝るの。

「愛のちからだよさくらだくん」
「何でも愛っていえばそれらしく聴こえるとか思ってないか?」

 もう思考を読まれるのは気にしないことにしよう。

「うん……まあ、うらやましいと思えば、あってるかも。やっぱり結婚とかするのかなあ?」
「どうだろな」

 金糸雀あたりはみつさんのしあわせを願ってやまない性質だから、おいそれと反対などしないだろうけど。
 しかし結婚式が開かれようものなら、その記念パーティは今など比べ物にならないくらいの修羅場が繰り広げられそうで何だかこわい。

『いつか私のウェディングドレスを縫ってジュンジュン!』

 昨年あたりは酔っ払いながらそんな絡まれ方をされていた。彼女の腕なら自分で作れそうなものだが。
 というか傍から見ると僕が結婚を迫られているように見えなくもないね。

「さくらだくんはやっぱり特別だから。専門学校だって、考えてたでしょう?」
「うん……まあ、ね」

 昨年僕が大学を落ちたとき、服飾の専門学校は一応受かっていたのだ。
 けれど。僕が僕として出来ること、――僕はもう、子供ではないから、洋服を縫うことがすきな自分を卑下したりはしないが――その行き先が、ひとつに限定されるのが、なんとなく嫌だった。

「猶予が欲しかった、って言ったら。やっぱりそうかもな」
「……それでいいとおもうよ」
「そうかな」
「うん。あせって前にすすみすぎると、ほかのことがみえなくなっちゃうもの。一歩ずつ進めれば、それでいいの」

 くぃ、と。互いの杯をあおる。この様だけ見ると雰囲気も何もあったもんじゃないが、

「ありがとう」

 意識せず、その言葉を漏らしていた。
 僕は一年遅れだけど。それでも今のみんなとの関係は、崩れないような気がしている。僕は、眼の前に居る彼女を含めて――色々振り回されたりもしているが――みんなに、感謝しなければならないのだろう。そんな気も、している。

「まだハーレムをおのぞみなのね」

 ブチ壊しです。

「さくらだくん、さあさあ。今すぐとってきて?」
「はいはい……」
「なんなら、これからロシアンショットガン(※)してもいいわ」
「余計状況が悪くなるだろう。お前のは普通のと意味が違うからいやだ」

※ロシアンショットガン
 いくつかのショットグラスを用意しておいて、一個だけお酒を注ぎ、残りはソーダなどの炭酸飲料のみを入れておいて複数人で一気に呑みきる呑んだくれ向けのゲームのこと。ランダムに注いでグラスを並べている筈が、酒注ぎ役が手錬になればなるほど、酒を呑む人物(被害者)は何故か特定され集中砲火になる場合がある。

 柏葉が言っているそれは本来の意味とは違い、おもちゃの銃(引き金を引くとランダムで銃声が鳴る)を使う。本当にロシアンルーレットする。順番に銃をまわすわけだけど、銃口を自分の頭に当てた後、「引き金を引くか否か」の選択ができる。引かなかったひと、すなわちパスしたひとは、問答無用でショットガン一回。
 引き金を、引いたひとは。銃声が響かなければ、セーフ。次のひとにまわす。
 しかし残念なことに、自分の頭を撃ち抜いてしまったひとは。ショットガンを三回こなさなければならない。撃たれたのにまた撃たれるだなんて。しぬぞ。二人でやったら泥沼なことこの上ないし、そこには残念な結果しかうまれないように思う。

「おさけ、おいしいじゃない」
「他意がないように言ってもだめだ」

 僕は実際にそれをしたことがない、が。
 もう今は潰れている呑んだくれ共(柏葉含む)で、やったことがあるらしい。

『見たの! 私見たのよ! 薔薇水晶が、こめかみに銃を当てて……』
『……ペルソナアアアアアア!!』
『出たの! 本当に何か出たのよ!』

 その場に居合わせた人物のひとり、真紅はきっと幻覚を見たに違いない。それ、口から出てる何かじゃなかっただろうか。ほら。滝のように口から流れ落ちる何か。実際眼にしたことはないが、目の当りにしたら平静でいられる自信があんまりない。

「わたしもみたよ」
「口から?」
「口から。はみ出るように立ち昇るなにか」

 魂だそれ。





  
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