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「大丈夫よ、ジュン。国によって飲酒は16歳から認められるわ」
「もう早く始めましょうよぉ。何か隠し玉でもあるのかしらぁ?」

 真紅、ここは日本だ。
 あと水銀燈。お前は酒がすきすぎる。ボトル抱えるな。

「いえいえ、本当に無理はなさらぬよう。しかしながら、皆様もう大学生。昨年よりは羽目を多少外したところで、お酒の神様も見逃してくれるでしょう」

 白崎さん……無責任なこと言わないでください……

 昨年、というのは。丁度僕が独りだけ大学に落っこちたものの、とりもあえず高校は卒業したんだということで、ちまりとお酒なんかも出されたりもしたのだった。
 それでもまだ、当時は結構平和的に行われていた筈のそれ――ごめん、ちょっと嘘ついた。
 今回は一体どうなってしまうのだろう。

 会場となった我が家の居間。妙に広い間取りがこういうときばかりは役に立つ。入ろうと思えば入れる空間。
 テーブルには、所狭しと豪勢な料理が並んでいる。

「腕によりをかけて作ったですよおめえら! ちゃんと味わって食いやがれです!」
「あ、今回は僕も手伝ったんだよ? ジュン君」

 言う程あって、料理でメインを張ったらしい翠星石の作った料理は、とても美味しそうだった。加えて、蒼星石が料理、というのは少し意外だったものの、何をやってもソツなくこなしてしまいそうな印象が彼女にはある。

『花嫁修業とか、ね』

 幻聴だ。しかも声が幾つか重なって聴こえた。病院いこうかな、と近頃真面目に検討している。

「スッパゲッチーがあるのー! スーパゲーッチィー!」
「落ち着くかしら……これに苺ジャムは入ってないわよ?」

 苺大福も用意してあるから安心してくれ、雛苺。柏葉の買い物に付き合ったからわかる。
 金糸雀は、もうすっかり雛苺の保護者ポジションになってる。いつもありがとう。いや、本当に。

「は……はやく始めましょう……! 私の、私のリミッターが外れてしまいますわ!」
「お姉ちゃん……それなんか意味が違う」

 早く食べ物を与えないと部屋にあるものを喰い尽くしかねない雪華綺晶と、それを上手い具合で嗜める薔薇水晶。恐らくこのしろい食魔人を抑えられるのは、この妹と――年上の面々くらいか。

「ジュンジュン何か言った?」

 (マジで)言ってないじゃないですか! 何か聴こえてるんですか!
 すみません逆らいません。知的で(妄想力の逞しい)お姉さんですよね、みつさん。

「みつさんじゃなくて、みっちゃん! もう、いい加減慣れてよう」

 や、なんとなく憚られまして……

「姪が心配で来てみたものの。僕がお呼ばれしてもよかったのかな?」
「いいんじゃない。私も似たようなもんよ」

 槐さんは、白崎さんのお店の近くでドールショップを営んでいる。酔うと酷い、というのは本当なのだろうか……?

「またまた二人とも。別に接点それだけじゃないでしょ? 桜田君とは」
「そうですよ。縁とは、知らず知らずのうちに広がっていくもの。それはただ、そこにあるだけです」
「あら白崎君。準備は上々?」
「そうですねえ。あとは皆様の雰囲気が出来上がるの待っている、といったところでしょうか」

 なかなか不思議な取り合わせの二人――白崎さんと、めぐさん。彼女の方はというと、白崎さんとは随分昔からの知り合いの様子……というか、ふたりとも年齢不詳だなあ。

「あー……姉ちゃん、そろそろいいんじゃない? これじゃだべったまま終わっちゃいそうだし」
「そうねぇ、じゃ、はじめるわよぅ! みなさーん、グラスを手に持ってくださぁい」

 めいめい、片手には並々と、そして色とりどりの中身の注がれた硝子を持っている。

「え~と……こほん。前置きはほどほどに、とりあえず……ジュン君が大学に受かりましたっ。おめでとうということで!」

『乾杯!』

 杯を乾かし乾杯と読むとて、干さないひとを怒るほど、野暮な集まりではない。
 まあ。最初のうちだけだし。自分のペースで呑めばいいよって、みんなが言ってくれるのは。

 かちん、かちん、とグラスを付き合い、口をつける。
 みんな律儀に僕のところまでグラスを持ってくる。口々に、おめでとう、という言葉をくれるのだけど、なんだかこそばゆい感じだ。

「あ、ありがと」

 まあ、僕の十代最後の年は勉強漬けで終わったとはいえ……こういう繋がりが切れないっていうのも、本当にありがたいことなのかもしれない。

「もぅ。一時期はどうなるかと思ったけどねぇ。とりもあえず、みんな安心してるわぁ」

 言われて見て、辺りを落ち着いて眺めてみる。
 ああ、……うん。みんなこの一年間で、どれだけの酒を呑んだんだ?
 僕もひとのことは言えないが。

「あら、……おいしいわね。初めて呑むけれど、これもなかなか……」
「グリーンリキュールみたいだね。紅茶もいいけど緑茶もなかなかだよね、真紅?」
「蒼星石……おめぇ呑み切るの早すぎるですよ。もっと味わって呑むです」
「何言ってるのさ姉さんあははは! あ、白崎さん同じのもうひとついただけますか?」

 はやい。蒼星石にもうスイッチが入った。

「うよ~……甘くておいしいのー」
「ほらほら、雛苺ったら……ん、確かにこれ、とってものみやすいかしら」

 ソファに座っている雛苺と、グラスを危うく取り落としそうになっている彼女を嗜める金糸雀の顔が、既に紅い。この二人を見ると、周りに比べて酒呑みの場では妙に安心できるのは何故なんだろう。

「ベイリーズねぇ……呑ませすぎないように注意しないとねぇ、白崎さん?」
「口あたりから選びましたが。まあ、自分の閾値を知るには、一度は経験として必要でしょう」

 不覚に陥っても、信用に足る面々が揃っていますからね、と。水銀燈にグラスをふたつ手渡しながら白崎さんは言う。

「そうねぇ……本当、不思議な縁だけど。こういうの、嫌いじゃないわあ」

 ぽふ、と。彼女は僕の隣に腰を下ろす。

「ジュン、お酒進んでるぅ――って、もう空ねえ。あなたは酔っ払っちゃっても、私は受け入れる自信、あるわよぉ?」
「はいはい」
「もう……ちょっと前なら、うろたえてくれたのにねぇ」

 その笑顔が少し寂しそうに見えたのは、僕の頭に、もうアルコールが回ってるからに違いない。
 まあ。僕を更に酔っ払わせようとしているのかどうかはわからないけど、グラスが空いているのを見越した上で白崎さんは僕の分まで用意しているわけで。

「乾杯」

 その言葉が交わされるとき、ひとは笑顔でいるものだ。何故だろう、それはわからない。
 手渡された琥珀を、かちん、とぶつける。

「はぁ……おいし」
「ん」

 うおー香り高い。スコッチかこれスコッチか?
 なんですかこれ、と、尋ねようとして、白崎さんはにっこり笑いながら、既に僕の方へボトルを示していた。

「ジョニーウォーカー(青)じゃないですか!」
「市販で手に入るなら安いものですし」
「うふふ、白崎さんわかってるぅ」

 透き通った香り。ちみちみと、喉へ落とす。胸のあたりが、かっと熱くなっていく。

「ささ、ジュン、もう一杯ねぇ」
「お、おう」

 杯を差し出そうと思った瞬間、僕の首あたりに衝撃走る――!

「……なになに銀ちゃん。たのしそう……」
「ギブ、ギブギブ」

 完全に首へ極まった腕に、タップを。

「けほ……薔薇水晶、不意打ちはやめろ。しぬ」

 ひとはしぬ間際にライジングサン(国士無双)とかあがれるらしいね。

「へへ……ぬるりときたぜ……!」

 とりあえず頭をはたいておく。良い音鳴ったなあ。

「いたーい……先にネタ振ったのジュンの方じゃん。バルチックフリートのが良かった? 正解そっち?」

 振ってない。僕は声に出してない。少し黙らないと危うい。

「もう……だって、ジュンと銀ちゃん、いい感じだったから……」

 何が『だって』なのかはさらさらわかる気がしないけれど、この普段寡黙でありながら結構大胆なところのある薔薇水晶という人間の気持ちは……やっぱりよくわからないな。

「……」
「ギブギブギブ!」
「薔薇水晶、その辺りにしとかなきゃだめだよ?」

 再び極まったチョークスリーパーから逃れた感覚。

「あら、めぐぅ。落ちたら落ちたでその方がしあわせだったかもしれないわよぉ?」
「さらっと怖いこと言うな。パーティ本来の主旨的に二重の意味を感じる」
「あはは。主賓にそういうのは勿体無いよ。まあでも桜田君は色々鈍いからねー。この女殺し」
「だから不穏な単語を出さないで下さいよ、めぐさん」

 にこにこと爽やかな笑みを崩さないひとだ。だけど結構毒を吐く。

「あれ、ばらしーちゃん。きらきーちゃんはどうしたの? 一緒に呑んでるんじゃないの?」

 受けた薔薇水晶はというと、ぷぅ、と頬を膨らませている。

「お姉ちゃんは、向こうでお話してるから……」

 目線を追ってみると、すごい速度、かつ優雅、でもやっぱり食べ過ぎてるとしか言えないような有様で雪華綺晶の周りにある皿は空になっていく。
 ちなみに、それを更にリアルタイムで補充しているのは、さっきから落ち着く間もなく動き回っている姉ちゃんだ。何気にすごくないか?

「巴とね、ずっと話をしてる……」
「そうなの?」

 『……』
 『……!』
 『それはタイミングもあるのではないでしょうか?』
 『そうじゃないわ。チャンスは限られているんだから』
 『いえ、ですから……あ、空きましたわね。はい、どうぞ』

 ブフォッ、と呑んでるものを噴出しそうになった。柏葉が、何時の間にやら一升瓶を抱いていて、さっきから雪華綺晶に酌をさせている。……九平次かよ! また素敵なものを。僕にもくれ!

「……私は美少年がすきだな(響き的に)」
「あらぁ。私は田酒がいいわあ」
「何言ってるの二人とも。適当な店で呑む八海山がいいんじゃない。普遍的に置いてあるって大事だよ」

 このひとたちを何とかしてください。

「で、何話してるんだあいつら」

 僕がふとそんな言葉を言うと、ジト眼で三人から視線を受ける。……何?

「……甲斐性なし」
「報われないわねぇ」
「苦労してこそとはいっても、見返りがないとねー」

 はぁ、と三様に溜息交じりで言うだけ言われる。なんだよ僕の味方はもういないのか! 先生助けてください!

「脳内だから無理ですね」
「白崎さあああん!」





  
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