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 眼が。座ってるって。多分、こういうことを言う。

 僕は震えている。怖い、というと僕がどうなっちゃうかわかったもんじゃないから言わないけどああもうどうすればいい?
 その解答をくれるものが居ないというのなら、いつだって答えは僕の心の中に。そんなことを言いたいんじゃないんだよ。信じてよ。誰に語りかけてるんだろう僕?
 普通に生きてると、自分が何処に居ようとたまに眼の前にお花畑が広がることがあるんだ、ってばっちゃじゃなくて薔薇水晶が言ってた。僕はなるべくならそんなもの見たくないんだけど。

「さくらだくん?」
「はい逆らいません」

 手に持っていたものを差し出す。
 注ぎこまれるのは透明だ。ちょっと色ついてるけど。
 ああ、きれいだなあ。そうだよ透明って何もないことだよ。あるけど無い。哲学的だな。ほんと二律背反とかすきだなあいつら。

 そういえば小学校の低学年時の出席って「はい元気です」とか答えさせられたっけな。
 昔のことを思い出すって、なんかのフラグたってないか。
 フラグ? よくわからないことを言うものだ僕も。フラグといったら旗だろ。またはプログラミング。
 僕の脳内ウィキペディア先生がフル回転する。僕の浅からぬネット歴を舐めてもらっては困る。誰だよウィキペたんとか言い出したの。先生を馬鹿にするな! 先生をWikiって略すな別物だろ! プレイステーション・ポータブルとゲームギア位違う! 僕の中で先生は老眼鏡の似合う初老の紳士なんだよ! リストランテ・パラディーゾ!

『フラグ (Flag) とは旗を示す英単語であるが、ここで扱うフラグは小説やドラマ、または漫画・アニメ、シミュレーションゲーム等のストーリーにおいて、後に特定の展開・状況を引き出す事柄を指すスラングである。伏線と同義であるものの、フラグは比較的単純で定型化された「お決まりのパターン」の含意があるとされる』

 脳内ウィキペディア先生『フラグ(ストーリー)』の項より

 よくわからないことを言うなあ。漫画とかアニメとか小説とか言われても、今現実に起きてることだしなあ。先生のお言葉はやはり含蓄が深い。僕の思慮の遥か向こう側に居る。

「さくらだくん?」
「はい逆らいません」

 総合すると、僕はもう駄目かもしれない、ってことか。




―――――




 お酒はハタチを過ぎてから。
 それは僕たちにとっても例外ではなくて、むしろ本当は例外があってはいけないんだけど、若気の至りってやつも無くもないよね、と最近考えるようになった桜田ジュン、僕です。

『巴ちゃんは、日本酒って感じよねぇ』

 こないだ頭の中が年中春っぽい姉が、ウチに遊びに勉強しにきていた、もとい遊びに来た柏葉を見て言った。そうやってひとの印象を酒に結びつけて考えるのはどうかと思う。柏葉が日本酒なら姉はどぶろくだろう。脳までアルコールにつかったのか? あとジュン君なら青林檎サワーよね、とか言ってくるところに何処かしらの悪意を感じる。ひょっとして姉ちゃん怒ってる?

 ここでは、ひとの心の壁なんて紙よりも薄い。というかどうしてみんな僕の思考を正確にトレースしてくるんだろう。不思議でならない。

 柏葉は結構立派な日本風のお屋敷に住んでいて、家には剣道の道場まである。
 割とご近所で、家族ぐるみで昔から出かけたりもしたものだった。
 ちなみに何故柏葉がウチにきていたかと言うと、暇を見つけては姉に料理を習おうとしているため。大学言ってるんだろうか? とかも考えるが、多分真面目に授業も出席している筈だ。

『花嫁修業とか、ね』

 その時何やら不穏な単語が聴こえたような気がしたが、多分夢だろうと思う。旋律聴こえたもの。本当に最近、幻聴とか多い。

 そして今。死屍累々に折り重なるひとたちと同じ部屋で、僕と柏葉はサシで呑んでいる。

「ん」

 グラスが空になった途端、柏葉に促され、無言で僕は杯を受ける。うまいなーこれ。

 おかしいな。今日って普通になんかのパーティだったような……?


―――――


『パーティよぅ!』

 思った。ちょっと黙っててくれないか姉ちゃん。
 今日も今日とて、いつものパーティが催されることになった。とは言っても、昨年一年間はそれも自粛されていたわけだけど。今回の開催理由といったら、多分僕が無事、大学合格を果たしたことになるだろう。

 パーティが開かれることについて、本来それほど深い意味はなくていい。酒呑みが酒を呑む理由は、そこに酒があるからだ。だけどそれって、パーティじゃなくてただの宴会じゃないかと思う。言葉の響きってとても大事だよね。

 両親が外国に長いこと出張に行ってるのに影響されてるのかどうか知らないが、姉はやたら何かにかこつけてパーティを開きたがる。両親がどうこう、と言うよりは、絶対どっかの外国青春白書ドラマに感銘を受けてるんだと思う。テレビよりネットを見るべきだと思うよ、姉ちゃん。先生の含蓄深いお言葉を熟読するんだ。

 あとこれはいつまで経ってもわからないが、僕の知り合い呼び過ぎ。
 どういう訳か、姉の人脈は広すぎてかつ深い。そうは見えないんだけど……

 僕の高校時代のバイト先――お昼は喫茶店、夜はバーを営んでいる――のマスターまで家に呼んだ。
 まあ、お店にはちょこちょこ顔は出してたが。

『丁度、試作品のカクテルをお試ししていただこうかと思いまして』

 マスターの白崎さんはそう嘯く。
 そして何だかんだと楽しい雰囲気になるパーティに、僕も引きずられつつ、
 ――


――――


 それはもう、眼の前にやってきていた。
 状況、開始する。
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