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「むきー!来るのが遅いですぅ!! 」
玄関のチャイムを押すなり、部屋着姿の翠星石がそう叫びながら飛び出してきた。

「慣れない事はするものじゃないわね。少し手間取ってしまったのだわ 」
赤色の綺麗な浴衣に身を包んだ真紅。
「遅いって…まだ十分間に合うわよぉ? 」
大きな包みを持ち、ラフなTシャツ姿をした水銀燈。

てんでバラバラの格好をした彼女達には、その理由があった。

「そーゆー問題じゃないですよ!待つ時間は長く感じるですぅ!
 ささ。オマエ達もさっさと入るですぅ!! 」
怒ったり笑ったりと忙しく表情を変えながら、翠星石が二人の手を引っ張る。


近所の神社で行われる夏祭り。そこへ浴衣を着て遊びに行こう。
全てはその一言から始まり、着付けの為に翠星石の家へと集合した。という訳だった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号9 ☆  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

「悪いね、真紅。わざわざ翠星石まで着付けてもらって 」
すでに青い模様の散りばめられた浴衣に身を包んだ蒼星石が、玄関先で出迎えてくれる。
その姿に、真紅は少しだけ目を丸くした。
「あら蒼星石。あなた、浴衣の着付けがでたの? 」

「色々教えてもらったり、自分でも勉強したりして、何とか自分のは出来るようになったんだけど……
 どうも、他人の帯を結んであげるまでには到らなくてね 」
そう言い蒼星石は、少し恥ずかしげに背中を向け、自分の帯の結び目を見せてきた。
「何度も失敗しちゃったけど…とりあえずは人前に出られるようにはなってるかな? 」

本人はそう言うが、真紅の目には申し分無いように見える。
「ええ。大したものよ、蒼星石 」
思ったまま感想を口にし、着付けの出来ない二人を引き連れ、翠星石の部屋へと向かった。

◇ ◇ ◇

「どうです!?似合ってるですか? 」
真紅に浴衣の帯を結んでもらった翠星石が、嬉しそうにクルクル回る。

クルクル回りながら…不意に何かを思いついたのか、ピタリと止まった。

「そうです!『あ~れ~お代官様~』ごっこをするですぅ! 」
そう叫ぶや否や、傍に居た蒼星石に飛び掛り……
「そーれそれ!回るですぅ~!! 」
満面の笑みで蒼星石の帯を解くと、思いっきり引っ張りだした!

「ちょ!ちょっと翠星石!せっかく結んだのに……うわっ!! 」
抵抗も虚しく、翠星石に帯を引っ張られクルクルと回る蒼星石。
「ひーっひっひっひ…良いではないか良いではないかですぅ! 」
完全になりきってる翠星石の怪しげな笑い声が、やけにリアルだった。 

◇ ◇ ◇

何故かやたらとテカテカしながら「むふー」と良い表情をした翠星石。
「ヒドイよ…姉さん……」と涙を浮かべながら、乱れた浴衣を着なおす蒼星石。

見る人が見たら、多大な誤解を招きそうな場面。
それを華麗に無視しながら、真紅は水銀燈へと向き直った。

「さあ。次はあなたの番よ、水銀燈。こっちへ来て 」
水銀燈に浴衣を着付ける為にそう声をかけるが…

「嫌よぉ…めんどくさい… 」

当の水銀燈は、乗り気ではない声を上げるばかり。
そのくせ、しっかり浴衣を持ってきて、尚且つ、時間にも遅れずに集合してる。
何で今になってヘソを曲げるのだろう?

でも、真紅もいいかげん、水銀燈との付き合いは長い。彼女がちょっとヒネてるのはいつもの事。
「いいから早くなさい」と言いながら、テキパキと浴衣の準備にとりかかった。


水銀燈は水銀燈で …―――
浴衣は着たいけど…それを着付けてくれる相手が真紅だというのが……
何だか恥ずかしいような、悔しいような、ちょっと腹立つような……やっぱり、恥ずかしいような。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆  

 
そもそも、これが何のお祭りかは知らない。
でも、そんな事は関係無かった。

「全員、はぐれないように気をつけるですよ! 」
可愛らしい浴衣に身を包んで上機嫌の翠星石が、夜店の列を前にテンションを上げまくる。

「ははは…翠星石が一番はぐれちゃいそうだね 」
翠星石とは色違いの浴衣を着た蒼星石が、楽しそうに微笑む。

「せっかく皆で来たんですもの。はぐれたりしたら興が冷めてしまうわね 」
鮮やかな浴衣姿の真紅が、屋台の列に思いを馳せる。

「とにかく、さっさと行きましょうよぉ。時間は有限なのよぉ? 」
落ち着いた色遣いの浴衣に身を包んだ水銀燈も、楽しそうに目を細める。

「早速、腹ごしらえですぅ! 」
祭りの喧騒に負けない位に元気の良い声が、夜店の並んだ通りに響いた。


焼きソバ、たこ焼き、カキ氷にフランクフルト。
小さな体に全力で、祭りの雰囲気と一緒に詰め込む。

当たりが本当に入っているのか怪しいクジ引き。食べるのが勿体無い飴細工。
懐かしさが漂うお面。何故だか心引かれるヨーヨー釣りに、顔より大きな綿菓子。

そして…いつの時代もやっぱり一番は、金魚すくい。

   
「この店はダメね。すぐに穴が開いてしまうのだわ 」
「…そうかな?ほら、こうやって…斜めに入れれば……ね? 」
一匹も金魚を捕まえられずに失敗する真紅と、小さな金魚をすくってみせる蒼星石。

「ふふふ…ほぉら……うふふ…逃げ惑うがいいわぁ… 」
金魚の頭上にポイ(金魚すくいに使う、例のアレ)をかざし、逃げる金魚で遊ぶ水銀燈。

「うぅ…救ってやるです……翠星石が全員、救ってやるですぅ…… 」
変な感情移入で半泣きになりながら、必死に金魚を追いかける翠星石。
ピリッ。あ、破れた。
「…あ!………オヤジ!もう一度ですぅ! 」
500円玉を屋台の店主に投げ渡す翠星石。正直、良いカモだ。
「この翠星石が救ってやると言ってるですよ!おまえ達もチマチマ逃げやがるなですぅ!……あ! 」

◇ ◇ ◇

右手に水ヨーヨー、左手に金魚の入ったビニール袋。
夏祭りの最強装備の翠星石が、満面の笑みで金魚を目の高さまで持ち上げた。
「この私に救われるなんざ、こいつには過ぎた幸せってやつですぅ!
 でも…どーせなんで、名前の一つでもつけてやるですよ! 」

そう言い、ふよふよ泳ぐ金魚をじっと見つめる。
「…そうですね……赤いですし……真紅!今日からおまえは、金魚の真紅ですぅ!! 」
「やめて頂戴 」
綿菓子をもしゃもしゃ食べながら、すかさず真紅(人間・女性)が反論した。

◇ ◇ ◇
   
皆で綿菓子片手に、屋台で彩られた通りをブラブラ。

そんな時 ―――
「あれは…くんくん探偵!? 」
真紅は射的の標的になっている、一体の人形を見つけた。

「そんな…くんくんを撃てというの?…ああ…そんな… 」
射的屋の前で、ガクガクと震えだす真紅。すると……

「……用件を聞こうか……ですぅ… 」
ココアシガレットを煙草みたいに咥えた翠星石が、殺し屋みたいな雰囲気ですっと横に現れた。
そして、景品になっているくんくん人形を一瞥すると……
「ほぅ……なかなかに、手強そうですが…翠星石にかかれば、一撃で眉間をズドン!ですぅ… 」

真紅の脳裏に、殺し屋(翠星石)に額を打ち抜かれた探偵犬くんくん、という絵が…
「嫌ぁぁぁ!! 」
叫んだ。そりゃあもう、心から。

と、そんな事をしている隙に……
「あいよー。じょうちゃん、大した腕だな 」と言う店主の声と、射的の銃を返す水銀燈と……
水銀燈の腕に抱かれた、くんくん探偵の人形。

「水銀燈!ああ!あなたが取ってくれたのね!? 」
真紅はそう言いながら水銀燈に抱かれた人形に手を伸ばす。
「何寝ぼけてるのぉ?お・ば・か・さん。これは私の物よぉ 」
だが水銀燈は、くんくん人形をしっかり抱きながら真紅の腕からひらりと身を遠ざけた。
 
 
(まさか水銀燈…あなたも……あなたもくんくんファンだというの!? )
真紅の瞳に、嫉妬と驚きと、くんくん人形が手に入らない絶望が広がる…。
だが、そこで諦める真紅ではない。

無言で射的屋のカウンターにタン!と500円玉を叩き付けると、そのまま銃を借り、玉を詰める。
そして……水銀燈をポコポコ撃ち出した。

「きゃぁ!ちょっと真紅!何するのよぉ! 」

水銀燈の声を無視して、真紅はポコポコ撃ち続ける。
そして玉が尽き…そこにきて、ようやく口を開いた。

「…さあ、これで『あなた』は私の物よ。それは…あなたの物は、私の物、という事なのだわ 」
完全に頭のネジが飛んでる発言。
でも、半端じゃなく本気の目で、真紅は水銀燈に詰め寄る。


その頃、翠星石は翠星石で…
「オヤジ!もう一度ですぅ! 」
射的屋でまたしても浪費を始めている。

一体、どちらを先に止めるべきだろう。
蒼星石は苦笑いを浮かべながら、ぼんやりとそう考えていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

   
夜も更け、夏祭りも終わりが近づいてくる。

 ドン パラパラ…… ドン ドン…

どこか遠くで、花火の上がる音が聞こえてきた。


「あれ?…そういえば今日って、花火大会の日だったね 」
蒼星石が思い出して、そう口にする。

隣の町で行われる花火大会。
日程が被ってしまったので、近かった夏祭りに参加した。という事も有るが…
翠星石には、また別の考えが有った。

「全員、神社の上まで全力で走るですぅ!! 」
皆に号令をかけると同時に、神社の上の方へ…高台になってる所を目掛けて走り出す。

◇ ◇ ◇

高台の上には他の見物人もちらほらとはいたが、それでも十分な空間が広がっていた。
そしてそこから見えるのは……遠くで鮮やかに広がる花火。

「ここならのんびり見れますし、祭りと花火の両方が楽しめるですよ!翠星石が発見した穴場ですぅ! 」
嬉しそうに言いながら、翠星石は遠くに上がる花火を指差す。

ほんのちょっと遠いけれど、それでも花火の音や振動も伝わってくる。
何より、目の高さと同じ所に上がる花火、というのは、随分と新鮮だった。
 
 
「翠星石も、たまにはちゃんとした事を考えるものね 」
近くに見つけたベンチに座り、やっと一息ついた真紅。
「人ごみの中で見なくっていい、ってのが良いわねぇ… 」
その横に腰掛けながら、花火を見つめる水銀燈。
「うん。この距離なら十分楽しめるしね 」
蒼星石も楽しそうに、花火に照らされる翠星石の横顔に視線を向ける。

 ドン パラパラ…… ドン…

「た~まや~!!ですぅ! 」
花火に合わせて、翠星石が突然叫びを上げた。

「ちょっと翠星石!急に叫ぶのはやめなさい! 」
周囲の目を気にして、真紅が止めに入る。
「……本当に『たーまやー』って言う人、初めて見たわぁ… 」
引き攣った笑みで水銀燈が呟く。
「これはこれで…正しい花火の楽しみ方かもしれないけど…… 」
困った表情で蒼星石が翠星石に話しかける。

「ごちゃごちゃ言ってねーで叫んでみるですぅ!楽しいですよ?ほら!…た~まや~!!ですぅ! 」
周囲の全てを華麗にスルーしながら、翠星石は花火が上がると同時に叫ぶ。

「た…たーまやー… 」
釣られて蒼星石も、やっぱりちょっと恥ずかしいのか小声で叫ぶ。
逆に聞いてる方が恥ずかしくなってきた。
 
 
「もっとしっかり、腹の底から声を出すですよ!せーの!…た~まや~!!ですぅ! 」
満面の笑みで指導をする翠星石のテンションは、下がることを知らない。


そんな翠星石と、遠くに上がる花火。
二つを眺める内に…気が付けば、全員の頬が緩んでいた。 







     
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