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  『 ワァーー!!! 薔薇水晶さまー! ステキー! キャー!キャー! 』

全ての生徒達の集まった体育館は、異様な熱気と歓声にに包まれていた。

私のライブに来てくれた皆。私の歌声に心を合わせてくれた皆…。
全てのファンの期待に応えるべく、私は再びマイクに歩み寄る。

振り返ると、ドラムのきらきーが力強く目で頷いてくる。
準備は万端。

私は大きく息を吸い込み、そして……
言葉は、要らない。
リズムと歌だけが、今の私たちの共通言語。

最後を締めくくるに相応『PiPi』しい、最高にハイなビートをギターに『PiPiPi』刻みつけr『PiPiPi』


◇ ◇ ◇


……………ハッ!

私はそこで、目が覚めた。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号8 ☆  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

とりあえず、とっても楽しい夢から叩き起こしてくれた目覚まし時計の頭を叩く。静かになった。
それでもまだ、ペシペシ叩く。

もう!いい所だったのに!
若干の恨みを込めながら、ペシペシ。
でも…あんまり叩いても可哀想なので、最後はちょっとだけ撫でてやる。

「おーい、薔薇水晶。ご飯だよ 」

目覚まし時計と戯れていると、階下からお父様の声が聞こえてきた。
あんまり待たせても可哀想なので、私は寝起きのボーっとした顔のまま、とりあえず動き出した。

◇ ◇ ◇

「やっと起きたか。全く、薔薇水晶はお寝坊さんだな 」
優しく微笑みながら、お父様はフリフリの付いたエプロン姿で朝食を並べている。

以前、このフリフリした可愛らしいエプロンを着てくれと、お父様に頼まれたが…
あまりに目が本気な事に若干ドン引きして、断った。
それ以来、このエプロンはお父様の朝のユニフォームのようになっているが……

と、そこまで考えて、私は異変に気が付いた。
朝ごはんのお椀が、3つ。
私と、お父様と、あと…誰?

そんな風に首をかしげていると、不意に背後から声が聞こえてきた。

「ふふふ…寝る子は育つといいますが、ばらしーちゃんはまだ育つおつもりですの…? 」
振り返ると、きらきーがニコニコしながら立っていた。
 
 
あれ?何で?ひょっとして「薔薇水晶、新しいお母さんだよ」とか言うやつ?

私は変な妄想に浸りながら、頬を赤らめてお父様ときらきーを交互に見つめていると…
きらきーのチョップが額にめり込んできた。

◇ ◇ ◇

「いやあ、それにしても、2人は仲がいいなあ 」
お父様は嬉しそうにそう言いながら、食卓に着く。
「薔薇水晶は無口な子だから…友達がちゃんとできるか、いつも心配してるんだよ 」
ちょっと照れたように、頭をポリポリ。

「…………無口じゃ……ない…… 」
私は私で、ちょっと頬を膨らましながら反論する。

「ふふ…口に出てくる言葉より、もっと沢山の伝わるものがばらしーちゃんにはありますものね? 」
きらきーが素敵スマイルで私の援護をしてくれる。
グッジョブ、きらきー。
きらきーなら、私の新しいお母さんになってもいいよ?

そんな事を考えていると、またしてもきらきーのチョップが頭にめり込んだ。
これ以上叩かれたら、バカ水晶になっちゃうよ。

と…今日も冴え渡っている私の頭脳は、そもそもの疑問を思い出した。
何できらきーが私の家に居るんだろう?
あれこれ考えるより、素直に聞いてみる事に。
「……………何で?…… 」
うん。きらきー相手だと、必要最低限の言葉すら発さないでいいから楽だ。
 
「ご一緒にと思いまして、朝からばらしーちゃんの家の近所を張り込んでいたら…
 不覚にも見つかってしまって、そのままお呼ばれした、という次第ですわ 」
そう言うきらきーの手には、博物館のチケットが2枚。

なるほど。
でも、だからって朝から友達の家の張り込みはやりすぎだよ?

◇ ◇ ◇

「晩御飯までには帰ってくるんだぞ 」
そう言うお父様に見送られ、私ときらきーは出発する。
町の美術館で行われてる、特別展『世界のアンティークドール』のチケット片手に。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「これが…稀代の天才・ローゼンが作ったという人形……まるで生きているようですわね… 」
ショーケースに飾られた人形を見つめながら、きらきーがうっとりとため息を漏らす。

でも、私はそんな事より気になる物が…

特別展とは違い、いつでもやってる通常展。
そこに芸術品として飾られている、一振りの日本刀。

正直、ロマンを感じまくりだね。
 
この展示されてる人形が、実は呪い人形で…それに引き寄せられた魑魅魍魎を…
太古の力の宿る一振りの日本刀で私が切り伏せ……ふふ…うふふふふふ……
  

妄想が止まらない。

私はとりあえず、有事の際に備えて、非常口をあらかじめ探しておくことに。
勿論、きらきーには「お手洗いに行く」と適当にごまかしながら。

非常口の位置をしっかり頭の中に叩き込み、私はとりあえずトイレへ。
そして…
周囲に誰も居ないのを確認してから、備え付けてある大きな鏡の前で『決めポーズ』の練習をする。

華麗に悪霊共を蹴散らしたら…
『この薔薇水晶がいる限り!この町の平和が乱れることは無い!』の決め台詞と共にビシィ!と決める予定。
うん。我ながら格好良いと思うよ!うふふふふふふ…

そんな風に、ニヤニヤしながらポーズを取っていると……
不意に、嫌な予感がした。

…ハッ!?

良く見ると、鏡に映った私の背後に…壁から半身だけ出したきらきーの姿が……
何というのか……ものすごく生暖かい視線を向けてきてる……

恥ずかしさで死ねたら。そう思った。

「ま…まあ……その……格好良いと思いますわよ? 」
もの凄く引き攣った笑みで、私にフォローをいれるきらきー。

お願いだから、もうその事には触れないで。
私のライフポイントはとっくにゼロだよ?
  
◇ ◇ ◇

もうダメだ。もう終わりだ。
いや、そもそも、この年でそんな妄想に浸ってる時点で終わりなのかな?
…ま…まあ、ある意味では始まったと捉えても……

そんな感じでドンヨリする私。
心機一転。何も見なかったみたいに振舞うきらきー。

きらきーの細やかな気遣いや優しさは素敵だね。
私が男なら、とっくに惚れてるよ。
でも残念(?)な事に、私にソッチの気は無いから…そこは我慢してね?


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


予想外のトラブルが起こったりしたけど、それ以外は特に何も起こらず……
私ときらきーは、美術館を後にした。

それから2人で、お茶を飲んだり、ケーキを食べたり、商店街をブラブラしたり、ケーキを食べたり。

きらきーは、あれだ。胃拡張とかいうやつに違いない。
だって、あれだけ食べても太らないんだから。

ケーキは食べたいけど、お腹のお肉は怖い。そんな乙女心とは無縁の人。
ちょっと小憎らしくなって、きらきーが目を離した隙に、ショートケーキの苺を取ってやった。

人間って、あんなに怖い顔できるんだね。と、きらきーの顔を見ながら思った。
 
◇ ◇ ◇

太陽も沈んじゃったし、家に帰ろうと2人でテクテク歩いていると…
川辺でバカみたいに騒ぐバカ。つまり翠星石。あと、新聞部一同を見つけた。

「おお!バカ水晶じゃねーですか!おまえ達も一緒にどうです? 」
花火をブンブン振りながら、翠星石が相変わらず元気な声で叫んでいる。
私ときらきーも川原に下りて、何をしてるのかと聞いてみた。

どうやら…合宿で花火をするのを忘れたらしく……
それを解散前に思い出した翠星石の発案で、川辺で花火をする事になったらしい。

花火なんて大切な事、普通は忘れないよ?バーカバーカ。

でも、やっぱり面白そうだし、私たちもちょっとだけ混ざる事に。

花火を両手に持った翠星石とフェンシング勝負。
両者ともに保護者(きらきーと蒼星石)に怒られて、結果は引き分け。残念。
それからパラシュート花火のパラシュート部分を追いかけて、激戦の末、翠星石と2人で川に落ちたり。
きらきーと蒼星石が真っ青な顔をしながら助けてくれた。

ふと気が付くと、真紅と水銀燈は爆竹や煙玉を互いに投げ合いながら遊んでいた。
あの2人は仲がいいなあ、と思った。

◇ ◇ ◇

1時間ほど花火で遊んだり、のんびりと話をしたり…
そうこうしてる内に、解散の時間になった。
 
 
「最後だけとは言え、おまえ達も合宿に参加したですよ!だから、これだけは言っておくですぅ!
 家に帰るまでが合宿ですぅ!うっかり知らない奴に付いて行ったりするなですよ! 」
翠星石の言葉により、皆は帰路へ。
私ときらきーも、我が家へと向かう。

「…合宿ですか……楽しそうですわね… 」
その道中で、ちょっと羨ましそうにきらきーが呟いた。

私たち放送部は2人だけしかいない小さな部。だから、合宿なんて大層な事はできない。
そうは分かっているけど…やっぱり、寂しそうなきらきーを見てると、こっちまで寂しくなってきた。

私はちょっと考え…
「…………合宿もどき…… 」
と言いながら、きらきーの腕を引っ張った。

せめて気分だけでも味わって欲しい。
今日は私の家に泊まっていきなよ?

きらきーも、最初は驚いた顔をしてたけど…やっぱり、うれしそうな顔で頷いてくれた。

家に帰ると、お父様もちょっと驚いていたけど、やっぱり笑顔で了承してくれた。
私の周りには優しい人がいっぱい。ちょっとだけ、幸せな気分になってきた。
 
◇ ◇ ◇
 
きらきーをリビングに残し、私は自分の部屋まで行ってパジャマを探す事に。
体の線も似てるし、きらきーなら私のパジャマでぴったりなはず。

きらきー用のパジャマを持ってリビングへ戻ると、お父様ときらきーが楽しげに談笑していた。
あれ?ひょっとして「薔薇水晶。新しいお母さんだよ」とかいう流れ?私、お邪魔虫?

そんな風に考えながら顔を赤らめていると、きらきーのチョップが頭に突き刺さった。





     
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