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「…………ふむふむ、なるほど……ですぅ…… 」

夕食が終わり、自宅のリビングで…翠星石が珍しく読書をしていた。
蒼星石はというと、食器洗いに後片付け、そんなこんなを一人でこなし…
横目でチラチラ様子を伺ってくる翠星石を無視しようと励んでいた。

「ほほう!これは何と! 」
聞こえよがしに、大声で叫ぶ翠星石。

どうやら…構って欲しいみたいだ。

正直、ロクでも無い事を考えてそうな予感がして仕方なかったが…
いつまでも、わざとらしい一人芝居を続けさせるのも気の毒なので、蒼星石はため息一つで諦める事にした。
「……で、翠星石。何を読んでるんだい? 」

そら来た!と言わんばかりの表情で、翠星石が読んでいた本をパタンと閉じる。

「ふっふっふー…『王様と乞食』ですぅ! 」
そう言うと、掲げた本を手の甲でパシッと叩く。
「つまり…そっくりな二人が、お互いの服を入れ替えてみるお話ですよ!! 」

蒼星石は…少し顔を引きつらせ、やっぱり聞くんじゃなかった、と後悔した。

手遅れだったけど。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号4 ☆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 
 
「…どうかな? 」
カラーコンタクトと変装用のカツラを装備した蒼星石が翠星石に向かい合う。

「ふむ…これは……完璧ですよ!! 」
同じく、カラコンと髪の毛を収納する為の帽子(流石に、切るのは嫌だったらしい)
を身に着けた翠星石が嬉しそうな声を上げる。

そして…意気揚々とした蒼星石(偽)と、げんなりとした翠星石(偽)が家の扉を開ける。

「さーさー!これで、おマヌケ真紅とお馬鹿の水銀燈を騙して遊ぼうか。ですぅ~! 」
マヌケで馬鹿な誰かは、そう叫んだ。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


本来なら夏休み中だが、部活の為に学校に来ていた薔薇水晶は…廊下で翠星石と蒼星石に出くわした。

「おお!バカ水晶じゃあないかい。ですぅ! 」
普段は物静かな蒼星石が、やけに高いテンションで声をかけてくる。

(え?え?蒼星石?今日はやけにアグレッシブだけど何で?って、今、私の事バカって呼んだ!? )
「…………うん……… 」

「今日は放送部の部活かい?……ですぅ 」
頭のネジが全て飛んでいると有名な翠星石が、いやに落ち着いた感じで声をかけてくる。
 
(え?え?何で?私、バカじゃないよ?バカって言った方がバカなんだよ?バーカバーカ。
 って、これじゃあ私もバカになっちゃうよ!だったら、こんな時は!……どうしたらいいんだろ? )
「……………うん…… 」
軽いパニックになりながらも、それでも薔薇水晶は平静を装いながら返事をする。

何が何だか分からないけど…何か、おかしい。

少し立ち話をして、廊下の彼方に歩き去る翠星石と蒼星石の背中を見送りながら……
薔薇水晶は、奇妙な違和感が心に波紋のように広がるのを感じていた。

(まさか…!! )
薔薇水晶は、窓の外へ視線を向ける。

(まさか…UFOの仕業!?それともFBI?CIA?いや、ひょっとしたら…… )
確かに、意識を集中させれば……わずかではあるが、眼帯の下の左目が疼く気がしないでもない。
ちなみに、この眼帯は格好良いから付けてるだけ。

それでも……
夢見がちな薔薇水晶の頭の中では、謎の勢力が学園を支配せんと暗躍する光景が勝手に広がり……
「………私が……何とかしないと……… 」
一人、どこまでも突っ走った決意を胸に、翠星石と蒼星石の尾行を開始する。


そして…そんな薔薇水晶を見つめる影が……

「ふふふ……ばらしーちゃん、楽しそうですわね… 」
廊下の角から半分だけ顔を出した雪華綺晶が、微笑ましいものを見るような視線を送っていた。 


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


「おはようですぅ! 」
「やあ、おはよう……です 」
蒼星石(偽)と翠星石(偽)が部室に到着すると…すでに真紅と水銀燈が二人を待ちわびていた。

「全く、時間厳守は人として当然の事よ?それなのに、蒼星石、貴方ま…で……? 」
お小言を言いながら振り返った真紅は、『なん…だと…?』といった表情で固まる。

「翠星石?それに…蒼星石……貴方たち、その格好――――むぐぅ! 」
その格好は何なの?そう言おうとした矢先、真紅は水銀燈の手で口元を覆われた。
「ふがー!もがー!(何をするの!放しなさい水銀燈!) 」
口を塞がれたまま必死に抗議する真紅。

そんな彼女の耳に口を近づけ、水銀燈は小さな声で囁いた。
「ねぇ、真紅ぅ……これ、面白そうじゃなぁい?……少し…気付かないフリして、遊びましょうよぉ… 」
ネズミを弄ぶ猫のような目で、楽しそうに告げる。


何だか、ゴニョゴニョ小声で相談を始めた真紅と水銀燈。
それを見て…蒼星石(中身は翠星石)は、満面の笑みで翠星石(中身は蒼星石)に振り返った。
「ふっふっふー…完璧ですぅ!アイツら、全然気付いてないですよ! 」

あまりに能天気な発言に、蒼星石(翠星石の格好)は『なん…だと…?』といった表情で固まる。


とりあえず…バレてないつもりの翠星石(蒼星石に変装中)と、げんなりした蒼星石(翠星石に変装中)。
ニヤニヤした水銀燈に、呆れ顔の真紅。
全員が集まった所で、今日もダラダラと部活が始まった。
 
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「そう言えば、合宿の場所って、どこだったかしらぁ?『蒼星石』? 」
ふとしたタイミングで、何気なさを装いながら水銀燈が声を上げた。
「ええっと、確か… 」
「はて?何ですか? 」
蒼星石(翠星石に変装中)と蒼星石(本当は翠星石)が同時に返事をする。

その光景に、水銀燈は顔を背けながら笑いを押し殺す。

「あら、『翠星石』。どうして貴方まで返事をしてるの? 」
いつの間にやらノリノリの真紅も、半笑いでチャチャを入れる。

「え!いや、すいせ…いえ、ボクはですね…あれ?……いや、ボクは蒼星石で……あれ? 」
何やら蒼星石(本名・翠星石)は、軽いパニックを起こしながらしどろもどろする。

「あらぁ?蒼星石…貴方、屋内なのに帽子被ったままじゃなぁい…… 」
「そうね。部屋の中では帽子を取るのが、マナーというものなのだわ 」
肩をプルプル震わせながら、真紅と水銀燈が追い討ちをかけてくる。

「わた…ボクは今ちょうど、頭が風邪をひいてるですよ!だから翠星石が……あれ?
 とにかく、この帽子には翠星石が蒼星石の秘密が……あれ?……と…とにかく……とにかくですぅ…!! 」
目を白黒させながら、翠星石(蒼星石に変装中)は喚き散らす。
完全に、ゲシュタルト崩壊を起こしていた。
 

「とにかくですよ!! 」
完全にパニックを引き起こした翠星石は、変装用の帽子をかなぐり捨て、立ち上がった!
「とりあえず、全員、表に出やがれですぅ!! 」

「……嫌よ 」
真紅がバッサリと答える。
「…お断り、ってヤツねぇ 」
水銀燈が可哀想な人を見る目を向けてくる。
「……僕も…遠慮するよ 」
カツラを外しながら、蒼星石が呟く。

まさかコイツら、最初っから……
翠星石の脳裏に疑問とも確信ともとれない思いが浮かび始める。 


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


その頃…

部室の扉に備え付けられた、小さな窓から彼女達の様子を窺っていた薔薇水晶は……
ガタガタ震えながら、腰を抜かしていた。

何かが、変。
そう考え、翠星石達を観察していたら……

蒼星石だと思ったら翠星石で、翠星石だと思ったら蒼星石で……
確かに、さっき会った時の蒼星石は様子がおかしかったけど…でも、間違いなく蒼星石だったし……あれ?
じゃあ、蒼星石は翠星石、って事?……あれ?…じゃあ、翠星石は?
ああ、なるほど。翠星石は蒼星石という事なんだ。……あれ?……でも、翠星石は翠星石だし……あれれ??
 
何が何だか理解できない。

薔薇水晶はゲシュタルト崩壊を起こしながらブルブル震え…
確信に近い一つの思いがグルグルと頭の中を駆け巡った。

「……宇宙人の……仕業……! 」
いつか、TVで見た事がある。
キャトル…キャトル何とか、というやつに違いない。
彼女達は、私の知らない間に宇宙人的な何かに、キャトられたんだ…!

「……皆に…知らせないと…… 」
ガクガク震えながら、腰が抜けて立てないので這いながら逃げる薔薇水晶。


「ばらしーちゃん……ファイトですわ…! 」
廊下の角から顔をのぞかせ、薔薇水晶に静かな声援を送る雪華綺晶。




学園は今日も、おおむね平和だった。



     
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