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[ARMORED CORE BATTLE OF ROSE]


MISSION no.7[BLUE ATTACK!]



舞い散る銀の羽根。
神々しくも、禍々しくもあるモノクロカラーのAC。
それと向き合う蒼のAC。
目の前に広がるその幻想的な光景。

そしてその空間には―――――殺意と失意が満ちていた。



「その力、試させてもらうよ………! 水銀燈!!」
先に蒼星石機が動いた。
大出力のOBを発動し、超高速で突進する蒼星石機。
しかしその軌道は、ありがちな直線ではなく、稲妻のような不規則な軌道をとっていた。
OBの使用中、搭載された補助ブースターによって強制的に軌道をずらしているのだ。
それを連続で使用すれば、恐らく誰にも見切られることのない超高速、かつ全く規則性のない移動ができる。
だがその移動によって生じる加速度は、当然搭乗者に大きな負担をもたらす。
一言で言えば、『人間技ではない』のである。しかし、現実にそれを行う者がいる。
それが、蒼星石を有名にしている理由の一つでもあった。

「…はっ!!」
ブレードを振る蒼星石。だが、今までのような大振りではない。
居合いのような、無駄のない、洗練された動き。
必要最低限の挙動はエネルギーの節約と共に、高速での斬撃を可能にしていた。
ブレードが閃き、そこにあったものを両断する。

だがそこには、銀の羽根が少しばかり舞っているだけであった。
「今のをかわした…!? いや、確かに斬ったはず…!」
辺りを見回す蒼星石。
直後、頭上から無数のエネルギー弾が降り注ぎ、蒼星石機を襲う。
それをぎりぎりのタイミングでかわす。
「いつの間に上に…!?」
上を見上げる。そこに『天使』はいた。
翼を大きく広げ、見下ろすようにして空中に留まっている。
どうやら先ほどの攻撃は、翼の一部をエネルギー弾として射出したものらしい。
「でも、まだ手加減しているようだね…。そんなに欠けることが怖いのかい?『ジャンク』…」
「っ………!」

その言葉に水銀燈が、機体が反応する。
「……ジャンクじゃない………。私は…欠けてなんかいない………!!」
翼を立て、攻撃体勢をとる水銀燈機。
翼が再び巨大な青い炎と化した。
再び甲高い音が鳴り響く。機体の背部に、光が集まっていく。
「私は……………ジャンクなんかじゃない!!!!!」
空間が歪んで見えるほどの速さで、蒼星石機に突撃していく。
「(回避…いや、間に合わない…!)」
そう直感し、両腕を体の前で組み、防御体勢をとる蒼星石機。
水銀燈機の右拳が、腕を組んだ丁度真ん中に直撃する。
そして機体が吹っ飛ぶ速さより早く、空中で蒼星石機を掴み、そのまま飛び続ける。
「がああああああああああああああ!!!」
物凄い速度で壁に叩きつけられる蒼星石機。
壁にはその衝撃の大きさを物語る、巨大なクレーターができていた。
「ぐぅっ…!」
「…私は…ジャンクじゃない…! 不完全なんかじゃない!!」
蒼星石機の腕を掴み、空中へ放り投げる水銀燈機。
再度高速で接近し、蒼星石機を殴り飛ばす。
反対側の壁に着くよりも速く水銀燈機が回り込み、蹴りを食らわし上方へ吹っ飛ばす。
さらに天井に着くよりも速く回り込み、両手で握り拳をつくり、胴体へ力の限り叩きつけた。
蒼星石機が地面へと吹っ飛ばされ、床に大きなへこみをつくる。
「私は…! ジャンクなんかじゃ…!! ないッ!!!」
翼を広げ、エネルギー弾を雨のように降らせる水銀燈機。
標的は、床の上の蒼いAC。
激しい爆煙があがり、ACの姿が見えなくなる。それでもまだ撃ち続ける。
20秒ほど経ち、ようやくエネルギーの雨がやんだ。
翼からは炎も光も失われ、やがて翼そのものが消滅した。

「はぁ…はぁ……これなら………」



『―――ボクは倒れた。そう思ったのかな?』
「!?」


爆煙を切り裂き、光の刃が飛んでくる。
それが水銀燈機をかすめ、飛び去っていった。

「―――悪いね、水銀燈。まだボクは本気じゃないんだ―――」
煙の中から蒼い影が飛び出し、強烈な蹴りをお見舞いした。
不意を突かれた水銀燈は、体勢を立て直せずにそのまま地面へ落下した。

「動きが鈍いね…。もう『殺意』は枯れてしまったのかい?
 …それじゃあ、折角の『ローザ・デバイス』も宝の持ち腐れだよ…」
「…ロ、ローザ………?」
聞いた事のない単語を耳にし、多少困惑する水銀燈。
「『ローザ・デバイス』…。新時代の礎となる、高貴な力さ。
 もっとも、その力を使えるのは限られた人間だけだけどね。
 …そしてキミは、その中でも更に特別な存在。その力を、お父様は欲している。
 本当はキミと争うためにここに来たんじゃない。協力してほしいだけなんだ。
 水銀燈、新時代を作り上げるため、ボクと…、お父様と一緒に来てほしいんだ。わかってくれるかい?水銀燈…?」

起き上がりながら水銀燈が言う。
「―――えぇ、とっても良くわかったわぁ。―――アナタが、とんでもないおばかさんだって事がねぇ!!」
「………?」
どうやら既に冷静さを取り戻したようだ。
「アナタが『お父様』とやらを溺愛しているのはわかったわぁ。でも、『お父様』は私だけでなく、翠星石も連れてこいといったのでしょう?
 それを個人的な理由で、片方は殺し、片方は連れて行く…。そんな中途半端な覚悟で作られた新時代なんか願い下げよぉ!!」
「………なら、一緒に来る気はないということだね…?」
「くどいわぁ。二度も同じ事を言わせないで頂戴」

「そう。だったら―――」
ブレードを上に掲げる蒼星石。

「―――殺してから連れて行くまでっ!!」
蒼星石のブレードから伸びる光の刃。それが、通常の5倍程の長さにまで巨大化していく。

「―――な、何―――? アレ―――」

ブォン、とブレードを一振りする蒼星石。
地面が大きく抉り取られる。深さも相当なものであった。
「今からキミに『ローザ・デバイス』の使い方…。それを見せてあげるよ…!」
そして居合い抜きのような構えを取り、ブレードを高速で振り抜く。
「…だぁっ!!!」
振り抜いたブレードから、巨大な光の衝撃波、通称『光波』が飛び、壁を抉りながらこちらへ向かってくる。
幸いにも、それほど速度が速くなかったため、難なく回避する。
「…そんなの、当たらなければどうってこと―――」
「―――それはどうかな…!?」
「!?」
両腕のブレードを高速で振り回し、様々な方向に光波を撃ちまくる蒼星石。
横方向に伸びている光波もあれば、縦向きに襲ってくるものもある。
恐ろしい数の光波が、水銀燈機を襲う。

「くっ…! さすがにこれはマズいわぁ…!」
回避するだけで精一杯の水銀燈。
「こうなったら…!」
自分も『ローザ・デバイス』とやらを発動しようとするが、全く反応がない。
というより、発動の仕方が全くわからないのだ。
「…っ…! 悪魔の兵器だか何だか知らないけど、これじゃブリキのおもちゃ以下よぉ…!」
そうしている間にも、攻撃は続く。
「………どうすれば………!」
だんだんとかすり始め、徐々に装甲が剥がれていく。
「はははっ!もうそろそろ諦めたらどうだい…!?そうしないと、本当に死ぬことに―――――ぐぅっ!?」
突如、蒼星石機の動きが止まる。
「…な、何が…どうしたのぉ………?」
蒼星石機のバランスが大きく崩れる。姿勢を維持するだけで精一杯のようだ。
「くうぅっ…、もう…『時間切れ』か…!」
「…『時間切れ』…? 確か、真紅も同じようなことを…」
そしてブースターを大きくふかし、空中へ移動する蒼星石。
「…キミが『本物』という確証は取れた。また会おう…水銀燈。今度は、本気でキミを迎えに行くよ………!」
そう言い残し、天井に開けた穴から飛び去っていった。





「な…何だったのよぉ………」
極度の興奮と緊張から開放され、完全に脱力する水銀燈。
翠星石の方を見るが、翠星石機は直立姿勢のまま固まっていた。
「…翠星石?どうしたのぉ?………あら、中で気を失っているわぁ…」

『………銀燈! 水銀燈! 聞こえるか!?』
「聞こえてるわぁ。今まで何をやっていたのぉ?」
『生きていたのか…! よかった…! …今、やっとECMの残留電波を除去できたんだ。それまでは通信そのものが繋がらなかったからな…』
「そう。ならさっさと迎えに来なさぁい。もうエネルギーが残りわずかなのよぉ」
水銀燈の言うとおり、機体のエネルギーゲージはレッドゾーンを指していた。
『わかった。すぐにMTで回収しに行く。少し待っていてくれ。…それと、翠星石は無事なのか?』
「…無事には無事よぉ。…でも―――

 ―――っ!!?」
突然頭に激痛が走る。しかも、尋常じゃない痛み。
ハンマーで殴られたような、剣で突き刺されたような、或いは、中で刃物が暴れまわっているような。
「ぐっ……! うあぁっ…!! な…何よ…コレぇ………!」
あまりの激痛に意識が遠のいていく。
『水銀燈?どうした?………水銀燈!?』
声がどこか遠くで響いているような感覚に陥る。
視界もぼやけ、触覚も鈍ってきたように感じられる。
頭がうまく回らない。何を考えているのかも曖昧になってきた。

「くうぅっ………ま…だ……! まだ………私はぁっ………!」

―――そこで、意識が途切れた。





―――目が覚めたとき、最初に目に入ったのは白い天井と蛍光灯。
嗅覚が独特の消毒液のようなにおいを感じ取る。
体にかかる重力の向きから、自分は仰向けに寝ているのだと理解した。
仰向けのまま、首だけを動かして辺りを見回す。
すぐ横で、ジュンが小さな椅子に腰掛けていた。
「お、目が覚めたか」
特に慌てた様子もなく声をかけてくる。
という事は、そんなに重篤な状態ではなかったのだろう。
「…ここはどこぉ…?」
「ここか?ここは研究所の緊急病棟―――まぁ、『保健室』ってやつだな。検査の結果、特に異常が無いってことで病院送りにはならなかったんだ。
 …それにしても驚いたぞ。通信がいきなり途絶えたから、MTでコックピットをこじ開けて緊急搬送したんだ。マニュアルもこういうときには役立つよ」
やはりここは病室のようだ。気を失っている間に運ばれたのだろう。
「…そう。…翠星石は?」
「まだ寝てるよ。―――余程ショックだったんだろうな。何度もうなされていたよ」
と、向かい側のベッドを指差す。確かにそこに、翠星石がいた。
「―――ところで、あの力は何なの?私には翼が生えた。蒼星石はブレードが異常なほど伸びた。
 強化兵装だとかオプショナルパーツだとか、そんな物とは明らかに違っていたわぁ。比べ物にならないくらい…」

「………それを今から言おうと思っていたんだ」
ジュンが立ち上がる。
「『ローザ・デバイス』…人の意思を具現化する装置。悪魔の力を持った、オーバーテクノロジーさ。
 そして、その要となるのが―――コレだ」
ジュンがポケットに手を突っ込み、中から手の平に収まるくらいの透明なカプセルを取り出した。
中には、淡く発光する宝石のようなものが入っていた。
「これは『ローザミスティカ』。かつてナービスが発見し、利用しようとした『新資源』。
 生体ACの動力源や、AMIDA、ディソーダーを生み出すのにもこれを使っているんだ」
「あのディソーダーってやつもこの研究所で開発してたのねぇ…。物騒極まりないわぁ」
「…警備システムが役にたたなかったのは僕の不手際だ。謝るよ。
 …そして、これは鉱物の一種でありながら、『生きている』らしい。
 これの放つエネルギーをローザ・デバイスで変換・放出することで、常識ではありえない現象を起こすことができるようだ。
 一例として、とんでもない機動力や、通常兵器を大出力で扱うことなどができるとされている。」
「さっきからはっきりしない答えが多いわねぇ…。しかも非科学的な感じ…」
「当然だ。実験では誰もローザ・デバイスを起動させることができなかったからな。
 …でも、非科学的な力があると仮定しなければ、生体ACは作れっこなかった。水銀燈も体験しただろう?
 何もなかったボディに、一瞬で装甲が施されたのを」
初めて生体ACに乗った時の事を思い出す。
確かにあの時から、普通のACではないことはわかっていた。
「どうやら起動の引き金となるのは、搭乗者の強い感情みたいだ。
 さっきの戦闘では強烈な「殺意」で起動したみたいが、他の感情でも応用が利くはずだ。
 でも、そのエネルギーがどんな風に発現するかは本人のイメージ、深層意識次第らしいな」
「それで蒼星石は、ブレードが伸びるようなイメージをした…?」
「恐らく。そしてこの力は、その莫大なエネルギーと引き換えに、人の精神に大きな負担をかけるらしい。
 お前の激しい頭痛も、ローザ・デバイスの急激な使用によるものだろう。…あくまでも推論だけど」
そこまで言うと、ジュンはカプセルをまたポケットにしまった。
「…ま、生きていてよかったよ。メインエンジンルームの壊れようは酷かったからな。よくエンジンが爆発しなかったよ…」
あれだけ暴れれば、どんな施設だろうと無事では済まないだろう。
「…そうねぇ。私は生きているわぁ…でも―――」
水銀燈が何かを言いかけたが、ジュンが言葉を挟んだ。

「―――あ、めぐは生きてるよ。元気…とはいかないけど、今まで通りにな」
「何ですって―――!?」
―――めぐが生きている―――?
「本当なんでしょうねぇ!? それはぁ!!」
ジュンの肩を掴み、がくがくと揺さぶりながら問いかける。
「ほ、本当、だか、ら! 落ち、着け! 水、銀、燈―――!!」
水銀燈がジュンを放す。ジュンの眼鏡がずり落ちてしまっていた。
「…ここへお前を搬送した後、メイメイのレコーダーを調べたんだ。航空機で言うところのブラックボックスを。
 そこには戦闘での会話が全て記録されている。蒼星石とのやり取りを聞いて、すぐに病院に確認したんだ。
 全く問題ないって言われたよ」
それを聞き、これ以上ない安堵感を得る。
急に視界が明るくなるような感じがした。
「―――そう…。よかったわぁ……。
 でも、何故蒼星石はめぐが死んだ、なんて言ったのかしらぁ…?」
「…何か目的があってお前を激怒させたと考えていいだろう。そう…何かを試すような。
 …でも、翠星石への殺意は恐らく本物だ。テープ越しでも、痛いほどの殺気が伝わってきたよ」
「あら、心理学の勉強でもしたのぉ? さすが、伊達に所長はやっていないわねぇ…?」
その言葉を聞いて、少し照れ気味にジュンが言う。
「おだてるなよ、水銀燈。僕は所長なんかじゃないさ」
「思った通りの事を言っただけなんだけどねぇ…。謙遜しているの?」
「いや、謙遜でも比喩でもないさ。………もう所長はクビになったんだ」
「え?」
「さっき言った通り、エンジンルームほぼ全壊。8つある研究所のブロックの内、C~Gまでが全壊。
 ついでに蒼星石が地下90mまで大穴を開けてくれたもんだから、予備の発電機とAブロックが一部損壊。
 …もうここは『再起不能』だそうで、破棄されることになったよ。で、責任は管理職である僕に全部押しつけさ。
 白崎から連絡があったよ。『君の研究データは大いに役に立ったよ。ゆっくり休暇を取ってくれ』だとさ。
 僕はこんな事態を想定してのお飾りだったのさ。
 訴えてやりたいところだが、研究が非合法なだけに、訴えたくても訴えられないんだ…」
「…それは…何と言うか……ご愁傷様…」

しばしの間沈黙が広がる。が、それは突然飛び込んできた甲高い声によって破られた。
「―――これぞ『飛んだり跳ねたり』ってやつですね。
 ま、チビ人間に所長なんて似合わないにも程があるですから、これを機に身の丈にあった仕事を探すですぅ」
「うわぁっ!? お、起きてたのか!? と言うか、いつの間に隣に…?」
「後、それを言うなら『踏んだり蹴ったり』でしょう…」
音もなしに現れた翠星石。いや、二人が気付かなかっただけなのであるが。
「水銀燈がうるさすぎて目が覚めちまったですよ」
「…それはいいけどアナタ、もう起きて大丈夫なの…?」
首を振り、答える翠星石。
「―――確かにショックだったですよ…。まさか蒼星石が翠星石を殺そうとしているなんて、やっぱりまだ信じられないです…。
 でも、あの蒼星石はどこか異常でした。初対面のはずなのに、水銀燈を知っているような素振りをみせたり、
 もう随分昔に死んだはずの父親が生きていると言ったり…。多分、その『お父様』とやらが元凶です。洗脳か、はたまた脅迫か…」
「確かにそうねぇ…」
確かに、さっきの戦闘では不可解な言動が多かった。
一番気になっていたのは、最後に言い残した『本物』という単語だったが。
「…だから、決めたのです…!今度蒼星石に会った時は―――」
翠星石の肩が小刻みに震えだす。
そして拳をきつく握り締めると―――。
「一発ぶん殴って目ぇ覚まさせてやるですぅ!!」「ぅごぇっ!!」
昂ぶった感情に任せ、拳を突き出した翠星石。だが、その拳は不幸にも近くにいたジュンに直撃してしまった。
ジュンが床に吹っ飛ばされる。一瞬の出来事だったが、殴られた側からしてみれば全てがスローモーションに見えたことだろう。
「あ………ご、ごめんですぅ……」
「ふふ…寝起きでそれなら、心配する必要はなさそうねぇ…」
「全くだよ…あぁ痛ぇ…」
吹っ飛んだ眼鏡を拾いながらそう言うジュン。
「…で、出撃する前に言っていた報酬の件なんだが…」
ジュンが後ろめたそうにぼそぼそと言う。
「すっかり忘れてたわぁ…でもアナタ、確かクビに…」
「そうなんだよ…個人で何とかして払ってやりたいが、とてもそんな金は持っていないんだ…姉ちゃんには迷惑かけられないし…。
 …で、代わりといったら失礼かもしれないが………僕を、お前達のガレージで住み込みで働かせてくれないか?」
「「へ?」」
素っ頓狂な声を上げる水銀燈と翠星石。
「もちろん金なんていらない。それに、僕はエンジニアの資格も持っている。
 さすがに改造したりはできないが、修理や整備ぐらいなら僕一人でやってやるさ。
 ………だから、お願いだ…! 僕はもう、得体の知れない兵器なんか作りたくはない…!
 かと言って他の企業に就職しようにも、それまでは無一文に加えて野宿するハメになってしまう…」
頭を抱え、うなだれながらそう懇願するジュン。
「…まさかアナタ、この研究所で寝泊りしていたのぉ…?」
「…お恥ずかしながら…」
生活費を少しでも節約するため、研究所から出ることはなかったという。
「引き篭もり体質は相変わらずねぇ…。
 で、どうするの?翠星石。あそこは私とは全く無関係だから、アナタが決めなさぁい」
「…し、仕方ないですねぇ!そこまで言うのなら雇ってやらないでもないですぅ!感謝しやがれですよ!」
「ほ、本当か!?」
予想外の返答に、ジュンが顔を上げる。
「そんな簡単にOKしちゃっていいのぉ…?」
「大丈夫ですぅ。もともとあそこには翠星石、蒼星石、お父様、お母様の4人で住む予定だったですから。
 翠星石と水銀燈で二人ですから、一人や二人増えたところで何の問題もないです。
 それに、誰か一人でもACの整備ができる人がいないと、整備や修理はこれから全部外に依頼する事になるですよ?」
「それはそうだけど…。って言うか、いつの間に私は翠星石とセットになったのよぉ!」
「細かいことは気にするなです。それに………家族は多いほうが楽しいですぅ!」
満面の笑みを浮かべてそう言う翠星石。
お世辞などではなく、心からそう言っているのだろう。
「はぁ…。初めて会った時からアナタはそうだったわねぇ。ま、暗く沈んだままよりはいくらかマシねぇ」
「ありがとう…!本当に助かるよ…!」
「ただぁし!」
翠星石が、ビッ!と指をジュンに向ける。
「間違っても、翠星石達の寝込みを襲ったりするなですよ!もしそうした場合はぁ…」
背後からオーラのようなものを放出する翠星石。
「だ、誰がそんなことするか!僕はそんなことに興味はない!」
顔を真っ赤にしながら否定する。
「僕にだって理性はあるさ!現に、ここに搬送してくるときだって必死に我慢して……………

 ―――あ」
しまった、という顔をするが、一度口から出た言葉は返ってこない。
「へぇ~え?やっぱりそういう考えはあるんですねぇ…」
「…もう一度考えたほうがいいんじゃなぁい?翠星石」
「ち、違う!誤解だ!信じてくれえええぇぇぇぇ………」

ジュンの悲痛な叫びが、彼らの他に誰もいなくなった研究所に響き渡る―――。



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―――とある企業ビルの一室。
高級感の漂う家具。窓から差し込む月光。
どこか気品を感じさせるその部屋で、紅のドレスを身につけた人物が、ティーカップを机に置く。
空いた右の手を、体の前で開き、また閉じる。

「(―――私は、なぜ―――)」
後ろで、キイィ、とドアの開く音がした。
ドアの方に首だけ振り向き、そこにいた人物に目をやる。
「―――蒼星石?入るときは一声かけなさいと言ったはずよ…」
蒼星石はそれに答えず、ただ真っ直ぐ近くまで歩いてきた。

「―――真紅。今日、水銀燈に会ったよ―――」
「水銀燈に…?」
「ああ、キミの言った通りだ。―――やはり、彼女が『第一』…」
「…そう…」
またティーカップを手に取る。
「………それで、翠星石はどうしたの?」
「…水銀燈に邪魔されてね。殺せなかったよ。でも、次は必ず―――」
「―――貴女、まだそんなことを言っているの? お父様は7人全員が揃ってこそ意味があると仰っている。
 その行動は、お父様に逆らうと同じことなのよ?蒼星石…」
「…キミの知ったことじゃない。それに―――死んだら、必要なときに蘇らせればいい。もうわかっている事じゃないか」
真紅が大きくため息をつく。
「何か貴女は勘違いしているのだわ…。お父様に忠実なようで、本当は大きく食い違っている…」
「―――とにかく、ボクはボクのやりたいようにやらせてもらうよ。…今度こそ、翠星石を―――」
そう言い残し、部屋を後にする蒼星石。

時が過ぎ、月も沈みかける。
ティーカップに注がれた紅茶。そこに映った自分の顔を見つめる。
「(―――水銀燈が、生きている―――)」
そう心の中で呟く。
「(まだ…。まだチャンスは残されていた…)」
そして、顔の前で拳を強く握り締める。
「(水銀燈―――。貴女は、私がこの手で―――)」


To be continued...

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