※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


 キーンコーンカーンコーン …

部活も終わり、下校時間を告げるチャイムが、学園の中に響く。
今日の始まりの舞台は…職員室。

「…あれ?…これって… 」
国語の先生、柏葉巴は…自分の席に戻り、
見知らぬ、小さな箱が机の上にチョコンと置いてある事に気が付いた。

「……なんだろ…? 」
小さく首をかしげながら、心当たりの無い箱を手に取る。

すると…そこから、小さな手紙がハラリと地面に舞い落ちた。

しゃがみこんで、その手紙を拾ってみると……

『トモエ!いっつものお礼に、ヒナからプレゼントなの! 』
と、ちょっと下手くそな文字が書いてある。

「……雛苺… 」
巴は、少し嬉しそうに目を細めると…小さな箱の包みをそっとほどき始めた。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ~ この町大好き! vol.11 ~ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

数日前に遡る……。



「そこで!カナは大好きなみっちゃんの為、あの学園に潜入したかしら!! 」
「ふぇ~…カナリア、すごいのー!! 」

小学校の通学路に、金糸雀と雛苺の声が一際大きく響いていた。

「―――と、そこで!カナは言ってやったかしら!!『みっちゃんは行き遅れだ!』って!! 」
「きゃー!ついに言ってやったのー! 」

金糸雀がいつぞやの武勇伝を200割増しで雛苺に言って聞かせる。
それを聞く雛苺の目は…まるで異国の勇者を見るみたいに、キラキラ輝いていた。


いつか、金糸雀みたいに…
天才と紙一重の素材が集うと言われているあの学園で…武勇伝を作ってみたい。

雛苺の脳裏には、子供らしく、無茶な白昼夢が広がり始めた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


と、言うわけで……


雛苺は土曜日を利用して学園に忍び込んでいた。
 

 
土曜とはいっても、部活が盛んなこの学園では生徒が多数集まっており…
姉のようにいつも優しく接してくれる、大好きな巴も、剣道部の顧問として出勤していた。


「トモエ……?ぅう……どこなの…? 」
半泣きの雛苺が、廊下の陰からキョロキョロする。

巴に会って、先生として頑張ってる彼女を応援する。
その一心でここまで来て、職員室の彼女の机にお土産を置いたまでは良かったが…
正直、そこから先はあんまり深く考えてなかった。

どうせだから、ついでに探検していこう。
そんな感じで学園内をウロウロして…

そして例の如く、迷子になった。という訳だった。

「……ここはどこ…?……トモエ…… 」
今更ながらに不安になってきて、ついつい小さな声が漏れてしまう…。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「~~♪~~♪ 」
食堂でたらふく食事をしてご機嫌な雪華綺晶は、鼻歌交じりに廊下を歩いていた。

これから放送部の部活。
確か今日は、お昼の放送の収録の日だ。
 

お腹も膨れて、いつもより調子が良さそう。
そんな事を考えながら雪華綺晶が廊下を歩くと…ちらりと目の端に、小さな女の子が映った。

「…あら? 」
何でこんな所に、こんな少女が?
ちょっと疑問に思ったけど…それでも心優しく、頭も悪くない雪華綺晶には、すぐに理解できた。

「きっと…迷子になってしまわれたに違いありませんわ… 」
そう考えると、かわいそう。

見知らぬ場所で迷子になる事の不安さは、経験こそ無いが、十分に想像できた。

「そうとなれば、この雪華綺晶。全力で保護してさしあげますわ! 」

とは言うものの…いきなり声をかけて怯えさせるのは愚か者のする事。
雪華綺晶はそう考え、笑顔を浮かべながら近づく事にした。

(でも…これだけでは足りませんわ )

さらに相手の警戒心を解くべく、視線の高さを相手と揃える。
つまりは…地面に四つんばいになって、近づく事にした。

(相手は、あんな小さな子供……ここはとっておきの歌で…友好的な雰囲気の演出ですわ! )

そう考え、唄を口ずさみながら、こっそり。
驚かさないよう気をつけながら、ゆっくり。

雪華綺晶は、雛苺の背後から近づく事にした。

 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ひた……… ひた………

廊下の陰に隠れながら、これからどうしたものかと考えていた雛苺は…
背後から近寄る、謎の音に気が付いた。

 ひた……… ひた………

靴の音とは違う……何か異質な音……。

 ひた……… ひた………

『何か』が…背後から近づいてきている……。

雛苺は、不安に押し潰されそうな心に精一杯の勇気を注ぎ込み、バッ!と勢いよく振り返る。


そこには…
片目に薔薇飾りを着けた、異様な雰囲気の女性の姿。
彼女は四つんばいになり、ひたひたと迫ってきて…その姿はさながら、白い悪魔だ。

「だァれが…殺した…駒鳥さん………そォれは…私…… 」
さらには、何やら不気味な歌をブツブツ呟いている。

そして、その隻眼の人物は…
こちらと目が合うと、ニタリと笑みを浮かべ、白い歯をギラリと輝かせた!

  
喰われる!

色んな意味でそう察知した雛苺は…

「ぴぎゃーーーーーー!! 」
心からの悲鳴を上げると、一目散に走って逃げた!


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ぴぎゃーーーー! 」
と、悲鳴を上げながら突然走り出した少女。

雪華綺晶には…何が何やら、分からなかった。

「……オバケとか…見えてしまう子…だったのでしょうか…? 」
周囲をキョロキョロしてみるも…やっぱり、何も見えない。

「……とにかく…早く保護して差し上げませんと…! 」
手と膝の埃を払い、雪華綺晶は決意も新たに立ち上がった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「トゥーモーエェェーーー!!助けてなのーーー!!! 」
雛苺は泣き叫びながら、無我夢中で廊下を走る。
  

と……


「ふ~んふふ~ん~ですぅ♪ 」
印刷したての新聞の原稿を持った翠星石は鼻歌交じりにご機嫌に廊下をスキップしていた。

「今回の『ドキドキ!夢占い』号は、大ウケ間違い無しですぅ! 」
早速、これを皆に見せるべく、足取りも軽く部室へと向かっていると……

突然!廊下の角からちびっ子が泣きながら飛び出してきた!!

「はぅあ!? 」
翠星石は奇声を上げながら(本人いわく)ひらりと回避する。


だが、謎のちびっ子は、そのまま翠星石へとしがみ付いた。
「どこの誰か知らないけど、助けてなのー!! 」

「な…なんですか!てめぇ!このちびっ子! 」
翠星石は驚きながらも ―――
頭のネジこそ全て飛んでいるが、それでも心優しい彼女は……

「とにかく!はーなーれーろーですぅ!! 」
心優しい事もごく稀にある翠星石は、必死な形相のちびっ子のほっぺを思いっきり引っ張っていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「―――という訳で、ヒナは食べられそうになった所から逃げてきたのよ… 」
「…なるほど。よーく分かったですぅ。……オマエ、チビチビのくせに苦労したんですねぇ… 」

それにしても…
「この学園にそんな猟奇的なヤツが潜んでるとは…気が付かなかったですよ 」
翠星石は小さな声で呟く。

果たして、そんな危険人物から、このちびっ子を守り通せるか…?

自信が無い訳ではなかったが…やはり、不測の事態に備えるべきだ。
という、至って常識的な考えが思い浮かんだ。

「チビチビ…オマエはここに隠れてろです……その間に、私は仲間を呼んでくるですよ…! 」
「やーなのー!ヒナ、置いてけぼりは嫌! 」
だが、ちびっ子は駄々をこねて言う事を聞いてくれない。

「テメェが居たらうるさくって、すーぐ見つかっちまうですよ!
 …ここは私を信じて大人しく待ってろですぅ! 」

そう言い、翠星石はポケットからポッキーの箱を取り出し、それを雛苺へと手渡した。
「テメェはお菓子でも食べながら、この翠星石が帰ってくるのを待ってやがれですぅ! 」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 
雪華綺晶は優しいお姉さんらしく、先ほどの小さな少女の身を案じてキョロキョロしながら廊下を歩く。

と…
廊下の先から、翠星石がドタバタと走ってくるのが見えた。

「あら翠星石、御機嫌よう。ところで…… 」
この辺りで、小さな女の子を見かけませんでした?

そう言おうとした矢先、翠星石が大きな声で叫んだ。

「おお!雪華綺晶じゃねーですか!いい所に居やがったですよ!!
 向こうでチビチビが助けを求めてるですぅ!私は蒼星石達を呼んでくるですから、
 テメェは一足先にチビチビを保護してやってくれですぅ!! 」

そう叫びながら、一目散に通り過ぎる翠星石。

「……相変わらず…お元気そうですわね…… 」
翠星石の勢いに、ちょっとだけ苦笑いを浮かべながらも…
それでも、雪華綺晶は今の彼女の言葉を心の中で反芻した。

きっと、翠星石があの子を見つけてくれた、という事だろう。

「ふふふ…それじゃあ、翠星石の言うとおり、保護してさしあげませんと… 」
とは言うものの、とりあえずの安心感に雪華綺晶の頬は緩みきっていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

   
雛苺が、翠星石から貰ったポッキーをモグモグ食べていると…

「……あら…美味しそうですわね…? 」
不意に、頭上から声が聞こえた。


まさか!!

体をビクッ!っと跳ねさせ、雛苺が頭上を見上げると……
先ほど出会った白い悪魔(仮)が、目を輝かせながらこちらを見下ろしていた。

(こ…こいつ……今、ヒナの事を『美味しそう』って言ったの…! )
嫌な汗が全身から噴き出すのが分かる。

こりゃ、喰われるな。

どこか冷静な自分の心が、絶望を告げてくる。


「ふふふ…一口、頂いてもいいでしょうか? 」
その言葉と共に、白い手が雛苺へと伸びる!

「…ぅ……ぁ……ちゃ…… 」
雛苺は恐怖にすくんで、言葉が出ない。

◆ ◇ ◆ 
 
何やら、目の前の少女は大層怯えた様子。

雪華綺晶は…何かを思い出したのか、手を引っ込め、周囲をキョロキョロしだした。
(きっとこの子は…オバケとかが見える子に違いありませんわ……何とかして…安心させてあげませんと…)

そう考えた心優しい雪華綺晶は、微笑みながらしゃがみこみ、雛苺にそっと語りかける。
「…大丈夫。ここには…私しか居ませんわ 」

そして、精一杯の素敵スマイルを少女へと向けた。

◆ ◇ ◆ 

(『ここには私しか居ない』!?…つまり、誰も助けに来ないって言う事なの!!? )
目撃者が居ないのを良い事に、本気で自分を食べる気だ。
雛苺は、完全にパニックに陥った。

さらに恐ろしい事に……

目の前の女は、ニタァ…と、笑みすら浮かべ始めた。

(こ…この学園は…悪魔のスクツなの… )

体が意識とは関係なく、ガタガタ震える。
頬が熱い。雛苺は自分が泣いている事に気が付いた。

◆ ◇ ◆ 
 
(ふふふ…よっぽど心細かったのでしょうね… )

目の前で涙を流し始めた少女。
きっと、安心感から緊張の糸が切れたのだろう。

雪華綺晶はそう考え…そして、
(年長者らしく…ここは、優しく抱きしめてあげるのが一番ですわね… )

慈しむように、優しく、少女の顔へと手を伸ばした ―――

◆ ◇ ◆ 

隻眼の女性の手が、自分を絡め取ろうと伸びてくる…。
恐らく…想像したくはないが、頭からバリバリと丸かじりにするつもりだろう。

だが…最早、抵抗する心すら絶望を前に折られてしまった雛苺には…静かに目を瞑る事しか出来なかった。

(さようなら…トモエ……今まで…ありがとうね……。グッバイ・マイライフ…なの…… )

心の中で巴に別れを告げると…
雛苺の意識は、限界を超えた恐怖に、暗転した…。

 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 
………


 
「………はッ!? 」
雛苺は、柔らかなベットの感触に目を覚ました。

何故、自分は生きているのか…
それ分からないが…とにかく、生きている。


安堵に深く息を吐く。
と、扉がガラリと開き、巴が部屋に入ってきた。

「!!! トモエーーーー!! 」
雛苺は感動的な再開に、奇声を発しながら巴の胸に飛び込む。


「…廊下で倒れていた所を生徒の一人、雪華綺晶がここまで…保健室まで連れてきてくれたの… 」
少し落ち着いた頃になって、巴は雛苺にそう説明した。


どうやら…あの悪魔に食べられる直前、キラキショーとか言う人が助けてくれたらしい。
「だったら、ヒナもお礼言うのー!! 」

誰とも知れぬ命の恩人。
感謝しても、し足りない。
 

雛苺がそう考えていると……

不意に、扉の方向から何か恐ろしい気配を感じた。

見ると……

あの白い悪魔(本名・雪華綺晶)が、扉に付けられた小窓からこちらを窺っている!
そして白い悪魔は雛苺と目が合うと……ニタァ…と笑みを浮かべた!


「ぴぎゃーーーーーーーー!!! 」

いたいけな少女の悲鳴が、学園に響き渡った。 






     
|