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フラヒヤ山脈――そう遠くはない未来。
沈鬱に曇った空は、昼間でもただただ無気力かつ惰弱な白光を大地に投げかけるのみ。
大地は当然のごとく氷雪に覆われ、空と同じくのっぺりとした白がどこまでも広がっている。
だが、そこに降り立った「そいつ」は違った。
一歩を踏みしめるごとに、雪に覆われた大地が音を立てて軋む。
一呼吸ごとに、凍て付いた大気が熱い吐息に焼かれる。
その体色は太陽に似た黄色。
その体色は青空に似た青色。
黄色と青色の鱗が縞模様となり、「そいつ」の全身を覆っている。
「そいつ」の頭部には、人間程度ならば軽く丸呑みに出来てしまそうなほど、巨大な顎。
その中には、一本一本が刃物に匹敵する鋭さを持つ、凶悪な牙が生えそろう。
「そいつ」は、そんな巨大な顎を持つ頭部を、このフラヒヤ山脈の頂上部でもたげて見せた。
右を見る。
左を見る。
もう一度、右を見る。
「そいつ」の動作は、獲物を捜し求めている哨戒行為に他ならない。
雪風に混じって流れる、憎いこの匂い。
「そいつ」はしかし、この匂いを漂わせる存在が「人間」と呼ばれていることなど、
生まれてから死に逝くまで、決して知りえぬ定めにあろう。
どずん、と「そいつ」の巨大な前脚が、雪の大地に突き立つ。
この前脚は、しかしよく見れば背から生えた翼……かりそめの前脚に過ぎないことは、誰もが理解できよう。
前脚に張られた肉色の翼膜が、その予感にわなないた。
自分自身の身に、やがて降りかかるであろう死闘の予感が、全身を刺激する。
だが彼は、その死闘の予感に恐怖を覚えはしない。
彼の身を走り抜けるは、それを超越した獣性。
相手をその爪で引き裂き、牙で噛み砕く、その快感を思い出し、胸がはち切れんばかりに高鳴るのだ。
彼は、その巨大な頭部を天高く持ち上げ――
叫ぶ。吼える。打ち震える。
さあ覚悟しろ、侵入者め。今まで屠ってきた、幾多もの獲物と同じ運命を辿らせてやろう。
彼にもし言葉を話せる口があったのなら、おそらくはそう宣言していたのではあるまいか。
全長およそ17m。
原始的な飛竜の面影を残す、凶悪無比の骨格。
彼こそ、「轟竜」の異名を取る雪山の暴君。
「轟竜」ティガレックスは、その名に違わぬ豪壮な咆哮をこのフラヒヤ山脈にこだまさせた。
さながら、侵入者に対する宣戦布告だ、と言わんばかりに。
辺りに積もった雪が舞い上がり、彼の姿を白く覆い隠すが、それもまた長時間のことではなかった。

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第三話「炎山」へ

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