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学園内に野太い男子生徒の悲鳴が響き渡る!

今だ!正義の新聞部、緊急出動!!


そして…


誤認逮捕。
勝手に舞い上がった結果、そんな最悪な事態を招いてしまった翠星石達、新聞部一同。

このミスを、何だかよく分からない内にウヤムヤにして誤魔化すには、
もう犯人逮捕しか道は残されていない!

犯人は姿を見せず、男子生徒の服をボロボロにした強敵だ!


どうする!?翠星石!!

このまま停学処分で、一足早い夏休みに突入するのか!?




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ~ この町大好き! vol.9 ~ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 
「…これは…ヤバイですぅ… 」
グルグルに簀巻きにされたみっちゃんを見下ろしながら、翠星石が呟く。

どうやら頭のネジが全て飛んでる彼女にも、ようやく事態の深刻さが飲み込めたらしい。


「でぇ…どうするのよぉ……先生を簀巻きにして停学、だなんて嫌よぉ…? 」
水銀燈が皆の本音を代弁した。

……

沈黙が重く広がる。

「…とりあえず、犯人を捕まえよう。そうすれば、きっと許してもらえるよ 」
蒼星石の一言。
それにすがるように、再び事件について考えを巡らせる事にした。

「…でも…手がかりが完全に途切れたですぅ… 」
「…そうね……こんな時は…次の事件が起こるのを待って… 」
「…ダメよぉ…その前に簀巻きの事、バレるわぁ… 」

チクタクと時計の音が聞こえる。

いっそ、みっちゃん埋めるか。
みたいな空気すら漂う。

「……こんな時は…『おとり捜査』だってくんくんが言ってたわ 」
「…でも…協力してくれそうな男子なんて、居ないですよ… 」
 
 
もう、埋めるしかないな。
そんな悪魔の囁きが、頭の中に入ってくる。

だが…

入ってきたのは悪魔だけではなかった!
悪魔の囁きと天使の声。

素晴しいアイディアが、全員の頭に浮かんだ!


「…そうですねぇ…誰か…男子…ですか…… 」
翠星石の目が、ギラリと光る。
「あらぁ…?ここに…修繕されたばかりの男子の制服が置いてあるわぁ…? 」
水銀燈がニヤリと、笑みを浮かべる。
「……そうね……何って偶然かしらね…? 」
真紅が音も無く、扉の前に立ち塞がる。 


そして…その中心には……蒼星石。

「は……はは…何言ってるんだい…?……僕達…友達だろ……ね…? 」
半端じゃない嫌な予感に、引き攣った笑みを浮かべながらジリジリと部屋の扉の方へ……


だが…
「あら?どこへ行くの?蒼星石……私たち…友達よね…? 」
真紅が蒼星石の背中をガシッと捕まえる。 

「ふふふ…大丈夫よぉ……すぅぐ終わるわぁ…… 」
水銀燈が男物の制服を手に、蒼星石ににじり寄る。 

「さて…男らしく、覚悟を決めやがれですぅ… 」
翠星石が蒼星石へと手を伸ばす。 


「ちょ…!やめ…!!僕は女の子で……!!だから…!ちょ…!!アッー!! 」 


太陽が沈みかけ、薄暗い廊下に…乙女の悲鳴が響き渡った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「うぅ…僕…もう、お嫁に行けないや…… 」

無理やり男物の制服を着させられた蒼星石が、地面に膝を付き泣いている。

「これも青春の苦酸っぱい思い出の1ページですぅ! 」
「そうよぉ。それに、結構似合ってるわよぉ? 」
「そうね。これなら完璧なのだわ 」

やり遂げた職人のような表情で、全員が地面に伏せった蒼星石を見下ろしていた。


「さて…『餌』も出来た事ですし…早速、行動開始ですよ!! 」

シクシク泣き崩れている蒼星石を引き摺りながら、おとり捜査の為に教室へと翠星石は軽やかに進む…。

  
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


「…………………………はぁ…… 」
男装をした蒼星石が、果てしなくドンヨリとした表情で教室の扉をガラリと開けた。

そして、ツカツカと自分の机に向かうとズボンを机の上に無造作に置く。
「……………………………………はぁ………… 」
心の底から深いため息を一つつき、そのまま教室を後にした…。


コチ…コチ…
誰も居ない教室に、静かに時間の刻まれる音だけが残る。

20分。いや、もっと過ぎた頃だろうか……

不意に教室の扉が音も無く、スーっと開いた。

そして…開いた扉の隙間から、誰かが教室の中を窺う。


先ほど見つけた、憂いを秘めた表情の美男子(蒼星石)
これほど、今回の計画にピッタリな人物は居ない。

そう考えた謎の人物は…静かに、気配を殺して蒼星石の机に近づく……
そして、その手に握ったハサミで机の上に置かれたズボンを――――

 
「そこまでですぅ!! 」
突然!教室の中に声が響き渡る!

 
「ついに犯行現場を捉えたですよ!!もう言い逃れは出来んです!! 」
教壇の下にずっと身を隠していた翠星石が、叫びを上げた!

「さーさー!いざ尋常に、お縄にかかりやがれですぅ!! 」
まだ叫ぶ。教壇の下から。

「正義の使者、新聞部が存在する限り…この世に悪は栄えないです!! 」
さらに叫ぶ。

タッタッタ……
足音が遠ざかる。
いつの間にか犯人は…教室から遥か彼方へと逃走していた。

「それとも!この翠星石相手に無駄な抵抗でも試みるですか!?なら…相手をしてやるですぅ!! 」
翠星石はそう言うと、やっと教壇の下から姿を現した。

だが…当然、その頃には教室には誰の人影も居ない。

「……はて…気のせいでしたか 」
そう呟き、再び教壇の下に身を隠そうとした時―――

教室の扉が、今度は勢いよく開いた!

「翠星石!逃げられた!追いかけるよ!! 」
近くで待機していた、蒼星石だった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 
 
翠星石は蒼星石と二人、廊下を走りながら追跡を始める。

そして…廊下を曲がった瞬間、水銀燈と鉢合わせた。

「追いかけたんだけど…見失ったわぁ……すばしっこいヤツねぇ… 」
そう言い水銀燈は、廊下の彼方に憎憎しげに視線を向ける。

「…確かこの方向には真紅が居るはずだね… 」
「真紅ならきっと捕まえてくれてるですよ!早く行くですぅ! 」

3人で廊下を走る。

「翠星石…男子生徒でも、女子生徒でもない、って……当りだったわぁ…… 」
水銀燈が、小さな声で犯人の事を告げてきた……


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「真紅!犯人は捕まえたですか!? 」
廊下の先で出くわした真紅に、いきなりそう質問を投げかける。

真紅は首を横に振りながらも…それでも普段どおり、落ち着いた表情で告げた。

「でも…逃げた先には…屋上へと続く階段しか存在しないのだわ 」

つまり、追い詰めた、という事だ。

 
真紅も加わり、4人で屋上目掛けて走り出す。

その道中…

真紅が小さく、口を開いた。

「…あの顔…見間違える訳が無いわ……まさか、『彼女』が犯人だったなんてね… 」
「見たですか!?誰が犯人だったですか!? 」
「…あなたも良く知っている人物よ。そう、あれは…――――― 」


……


走る内に、屋上へ続く階段の終点…最後の扉が見え……
翠星石はそれをバン!と勢い良く開け放つ。

そして…

屋上には、一人の小学生が……

翠星石は深く息を吸い込み…そして、一歩踏み出す。

「……ついに見つけたですよ……てめぇが犯人だったですか…カナ何とか!! 」


屋上に立っていたのは…みっちゃんの姪の金糸雀だった。

 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「………もう…全ておしまいかしら…… 」
金糸雀は小さな声で、そう呟く。

空には雲が広がり…ポツポツと雨が降り始めた。

「…てめぇのお陰で…デカ人間は危うく簀巻きにされたまま埋められる所だったですよ!? 」
翠星石は何だかよく分からない怒り方をする。


雨が徐々に激しくなってくる。
だが、誰もそれを避ける為に引き返したりしない。

ここで、決着をつけるべきだ。
その考えが、彼女たちを雨の中に立たせ続けた。


そして…全ての終わりを悟った金糸雀が、静かに語りだした…。

「カナにとって…みっちゃんは…とっても素敵な人かしら…
 ちょっと金銭感覚が変だけど……とっても優しい…大好きな人かしら…… 」

金糸雀の頬をつたい、雨の滴が落ちる。

「だったら、何故こんな…… 」
真紅が小さく、声を上げた。
  

「……皆にも…みっちゃんの優しさを感じて欲しかったから…かしら……
 …これで…男子生徒の心をみっちゃんが鷲掴みに、という作戦だったかしら…… 」

「それは草笛先生が言った事なのかい? 」
蒼星石が、呟く。

「……ううん……カナが勝手にした事かしら……悪いのは…全部カナかしら…… 」


沈黙が広がる。
降りしきる雨の音だけが、時間が正常に流れている事を教えてくれた。


「…あなたが思うほど…彼女は人気が無い訳じゃあないわよぉ…? 」
水銀燈が優しく金糸雀に語りかける。

「だったら!どうしてみっちゃんは全然モテないのかしら!? 」

そう叫ぶと金糸雀は…涙を耐えるように、空を仰いだ。


「カナは…まだ小学生かしら……それでも……カナには分かるかしら……
 みっちゃんは……とっくに『行き遅れ』になってるかしら…… 」


「!! くぅッ…!!」
全員、金糸雀の言葉に…涙を隠せなかった。

 
屋上に集まった5人が、何かに耐えるように、雨の中、空を見つめる。

彼女たちには…世界が泣いているように思えた…。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「晩婚化…思えば、あのカナ何とかは…その被害者なのかもしれねーですねぇ… 」
翠星石が、ブラインドを指先で持ち上げながら呟いた。

みっちゃんが結婚出来ない。
全てはそこから始まった、今回の事件。
記事にするには…あまりに残酷すぎる気がした。

そして、翠星石の目は校庭の端…警官に手を引かれて移動する一人の背中へ向けられた。

この事件の、全ての元凶。草笛みつ容疑者が『行き遅れ』の容疑で連行されていた。


「カナァァ!!?カナァァァァ!!?!?何でこうなるの!!?!!?!カナァァーーーー!!!! 」
独身女性の悲しき慟哭が、学園に響き渡る。


翠星石はスッと、サングラスを自分の目元に運ぶ。

誰もが…涙を隠すのに必死だった……。 




     
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