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 ざわ… ざわ…

体育の授業が終わり、男子生徒達が着替えの為に教室に帰ってくる。

ちなみに女子生徒には専用の更衣棟が用意されており、
国防総省並みのセキュリティーが施された棟の最上階には楽園が広がっているという伝説が……
と、それは今回は関係無い話。

色気もへったくれもない男子生徒達は、これまた見ても何も嬉しくない着替えシーンに突入する。

割れた腹筋。うっすらと滲んだ汗。何故か頬を染める一部男子。目を覆いたくなる光景だ。

と…

「くそったれェェェ!!! 」
突然、一人の生徒が叫んだ。
彼だけではない。
「ああ!!ぼ…僕のズボンが…!! 」
「こっちもだ!! 」「何でこんな事に!? 」

教室のあちこちから、野太い悲鳴が聞こえる。

彼らが手にしたズボンは…何者かの手により、そこら中に穴が開けられていた……




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ~ この町大好き! vol.8 ~ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

  

 
「…これは事件ですよ…… 」

新聞部の部室で……
ワイングラス(中身はファンタ)を片手に、翠星石がブラインドを指先で持ち上げた。
その隙間からは、沈む夕日が空を紅く染めていた。

やけに大きなサングラスをかけた翠星石が、クルリと振り返る。
「この事件は、短パン刑事(デカ)と紅茶刑事、乳酸菌刑事で… 」

と…
部室内には誰もおらず…開け放たれた扉が、風にキイキイ揺れていた。

「あいつら…また逃げやがったですか!!! 」
翠星石が、太陽に咆えた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


翠星石は逃げた3人の部員を捕まえる為に奔走し、
何だかよく分からないボールでモンスターをゲットしたり、チェーンソーで神に戦いを挑んだりしたが……
それもまた、別のお話。

とにかく、何とか全員を部室の中に連れ戻す事に成功した。


「とにかく!!この事件は翠星石達で解決して、我が部の独占取材にするですよ!! 」
バン!と翠星石が机を叩く。
「そこで!捜査の基本、ニックネームから始めるですぅ!! 」 

  
「…昔の刑事ドラマじゃないんだから…そんなの必要ないわぁ… 」
「なーに言ってるですか!こう言うのは形から入るのが重要なんですよ!乳酸菌刑事! 」

どうやら水銀燈のニックネームは乳酸菌刑事(デカ)に決まってしまったらしい。

「ちなみに真紅は紅茶刑事で、蒼星石は短パン刑事ですぅ! 」
満面の笑みで、翠星石がクルリと踊る。

そして再び全員に向き直ると、翠星石はキラキラと目を輝かせた。
「で!?で!?翠星石のニックネームは何が良いですかね?美人刑事とかプリティー刑事ですかね!? 」

「……イカレポンチ、ってのはどうかしらぁ? 」
「そうね。今日からあなたの名前はイカレポンチね 」
「姉さんには悪いけど…ぴったりだね 」

「………… 」


結局、ニックネームは無し、という結論に達した。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「とりあえず!事件の概要を振り返ってみるですぅ! 」
イカレ…いや、翠星石がホワイトボードにキュキュっと教室の見取り図を書く。
  

「男子のズボンがボロボロにされた……犯行時間は、体育の授業中で間違い無いだろうね 」
蒼星石が思慮深い表情で呟く。
「誰か、体育の授業を抜けたり休んだりした男子が怪しくないかな…? 」

だが、翠星石はいかにも残念そうな表情で首を横に振った。
「…あいつら全員、しっかり授業に出てたそうですよ… 」

「という事は、男子生徒が犯人、という線は消えたわね… 」
真紅が呟き、ホワイトボードにバツ印を書き込んだ。


「となると…誰か女子がやったんじゃないのぉ? 」
水銀燈がボールペンを指先でクルクル回しながら言う。

「…無理ね。その為には、『あの』更衣棟を抜けないといけないわ…
 それは…現実的に考えて、無理というものよ 」
真紅が椅子に体重を預けながら答えた。

「なるほど…。確かにその通りだね。となると…… 」
蒼星石がホワイトボードに書かれた女子の名前に射線を引いた。


「となると……残ったのは…… 」
蒼星石が小さく呟く。

ホワイトボードに向けられた全員の視線が、鋭く、険しくなる。
  

 
「まさか…教師の犯行、って事…ですか…? 」
翠星石の言葉が、部室の中に静寂の余韻を残す。


夕日は、既に沈んでいた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


教師が、生徒のズボンに穴をズタズタにする。

例えそうだとしてら…その目的が見えない。


「とりあえず…部屋に篭ってあれこれ言っててもラチが開かないわね。
 現場を見てみない事には、見えるものも見えない。くんくん探偵でも、そう言ってるのだわ 」
人形劇『探偵犬くんくん』のファンである真紅の言葉に従い、新聞部一同は部室から出る事にした。

そして、とりあえず現場の教室へ向かう道すがらに…

被害に会った男子生徒の一人、山本と廊下ですれ違った。

家庭科の桜田のり先生と話をしながら歩く彼を、強制的に拿捕。
そして、事情聴取が急遽始まる。
  

分かった事は…
・ズボンは縫い目にそって破られていた。
・その被害から逃れたクラスメイトは居ない。

そして……

破れたズボンは全て、草笛みつ先生の好意によって、無償で縫い合わせられた、という事。

「肌は荒れてるし、金銭感覚のおかしな先生だけど、一気に評価が上がった 」
山本はそう言い残し、再びのり先生の後を追うように走っていった。


「…草笛みつ……意外な名前が登場したわねぇ… 」
「うん…教師が怪しいとは思ったけど…まさか…ね 」
「いいえ。自分に注目を集める事が目的の自作自演の犯行…そうも考えられるわ 」

「とりあえず…デカ人間について探ってみるですよ… 」

ちなみに、この『デカ人間』というのは草笛みつ先生の事で…
翠星石が勝手にそう呼んでいるが、一向に浸透していない。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


草笛みつ。通称みっちゃんは一人、理科準備室で男子生徒達のズボンの修復に精を出していた。

裁縫は、得意な方だ。これで料理にも才能が有れば、家庭科の授業でも見たかったが……
何の因果か、化学の教師になってしまった。
  
 
趣味としてしか活躍の場の無かった裁縫。
それが今日、望まれざる事件の結果とはいえ…役に立った。

「…生徒達から、あんなに尊敬の眼差しを向けられるなんて…照れちゃうな… 」
生徒のズボンの修復の合間、気が付けば言葉として漏れていた。

自分の顔が、年甲斐も無くほころんでいる事にも気が付く。

「……帰ったら、カナに自慢しなきゃ… 」

可愛い、姪っ子。
一緒に暮らしてる、たった一人の家族。

その姿を思い浮かべながら、再び裁縫針に糸を通そうとして……


突然、理科準備室の扉が吹き飛んだ!


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……さて、やろー共…覚悟は出来てるですか?私は出来てるですぅ 」
ココアシガレットを煙草みたいに咥え、翠星石がチャッとサングラスをかける。

全員、返事の変わりにサングラスをかけた。

何だかんだ言って、けっこうノリノリな彼女達だった。
  

翠星石はそれを確認すると…理科準備室の扉に必殺・体当たりをかまして、中へと突入する!!

「動くなですぅ!!プリーーーーズ!! 」
持っている水鉄砲を油断無く容疑者・草笛みつに向けながら叫ぶ!

と…
「動くな、って言いたいなら、正しくは『フリーズ』だね 」
「プリーズは、『どうぞ』という意味よ? 」
「……本当にあなた、同級生なんでしょうねぇ…? 」

何だかんだ言って、しっかりツッコム彼女達だった。


そして、当の容疑者・みっちゃんはと言うと……

「え?えぇぇぇえええ!?何!?何なの!?カナァァァ!!助けてーー!! 」

突然、扉をぶち破り、「どうぞ」と叫ぶ謎のサングラスの集団。
それを前に彼女の精神は完全なる恐慌状態じ陥った。


「不味いですぅ!騒がれる前に…ヤっちまうですよ!! 」
翠星石が咄嗟にそう叫ぶ。

最早、完全に悪役のセリフだった。

  
◆ ◇ ◆ ◇ ◆


簀巻きにされ、地面にのびているみっちゃんを尻目に、翠星石達のガサ入れが始まった。

目ぼしい証拠は、見つからない。

ただ、みっちゃん先生が授業の際に自慢げに話す『金糸雀』という姪の写真だけは、大量に見つかった。


「…何か証拠は見つかったですか? 」
「…ひょっとして、ハズレなんじゃないのぉ? 」
「いいえ…そんな筈は無いわ……だって…この事件で得をしたのは彼女だけなのよ? 」

勝手に教師の机を物色しながら、何か証拠となる物を探す。

その時…蒼星石が一枚の紙切れを発見した。
「これは…関係無さそうだね 」
そう言い、蒼星石がその紙切れを捨てようとして…―――

「ちょーっと待ったですぅ! 」
翠星石が素早い動きで蒼星石の手から紙切れを奪い取る。
「頭脳は見た目!子供は大人!名探偵・翠星石がひらめいたですよ!! 」

そう叫び、紙切れ…時間割表を机の上にバン!と置く。
  

 
「よーく思い出すですよ…事件が起こったのは、何時間目かを…… 」
「確か…4時間目…よねぇ? 」
水銀燈が首をかしげながら答える。

「そうです!そしてその時間、このデカ人間はと言うと…… 」
「……普通に、一年生の授業をしてるわね 」
真紅が、小さく震える声で答える。

「……まさか……想像したくないけど…ひょっとして僕達は…… 」
蒼星石が顔色を真っ青にする。


「つまり!!私達は無関係の教師をボコって、簀巻きにしただけですぅ!! 」


視線を泳がせる真紅。バタリと倒れる蒼星石。慌ててキョロキョロしだす水銀燈。

「大発見ですぅ~! 」
何故か、鼻高々な表情の翠星石。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

   
事件は、振り出しに戻った…より、タチが悪くなった。

何とかして自分達の手で犯人を捕らえない事には…
教師を簀巻きにした事への言い訳をする場すら与えてもらえそうに無い。


かつて無い危機に陥った新聞部の面々。

残された手段は、犯人逮捕しか無い……。


彼女達に、明日は来るのか!?

犯人の正体は!?その目的は!?


そして、翠星石はいつになったら懲りるのか!?







    

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 次回予告! ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


―――― 卑劣な罠により、次々と斃れ行く仲間。

「そんな…!何で…何で私なんかを庇ったですか…! 」
「…翠星石…僕はもう…捜査を続けられそうにない……僕の分も君が……犯人を…… 」

覚悟の先に見えた光。それは希望とは限らない ――――

「もし生きて帰ったら……一杯奢ってあげるわぁ…… 」
「…二杯ですよ……私と…蒼星石の分です… 」

―――― 死神の鎌も…時に眩い輝きを放つ…

「……まさか……てめぇが全ての黒幕だったですか!? 」
「…気付かれたのは予想外だったけど…全ては、予定通りなのだわ…あなたがここで死ぬ事も…ね 」

最期に放たれる銃弾。
貫くのは己が体か、信念か。


「――――……それでも私は……この町が大好きなんですよ…? 」


          劇場版『 Love.this City... 』 

   そこで、全ての謎が解ける ―――――  





   
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