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時の流れとは、無常である。

どんなに素晴しい彫刻も、絵画も、時と共に徐々にでは有るが朽ちていく。

人々はそれらの放つ美しさを少しでも長く、後世に伝えようと努力するが……
それでもやはり、時間の流れという宇宙の真理には勝てない。

どんなに美しい輝きを放つものだろうと、いつかは必ず朽ちてしまうのだ。


それは、『もの』だけに限られた話ではない。

『もの』と同じように人に創られしもの、『文化』もまた、時代と共に衰退していく。


我々の愛した『体操服はブルマ』という文化。


この学園では、すでに滅びてしまった黄金の時代………。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ~この町大好き! vol.6 ~ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



  
「うぅ…体育は苦手ですぅ…… 」
ブツブツ言いながら、翠星石は着替えたジャージのポケットに手を突っ込む。
「まあまあ。これもダイエットだと思って… 」
蒼星石が苦笑いしながら、そんな彼女をたしなめる。

「さて…授業の内容によっては…手加減しないわよ。水銀燈…! 」
「ふふふ…そんな強がって、後で後悔しても知らないわよぉ…? 」
真紅と水銀燈がジャージ姿で火花を散らす。

そんなこんなで校庭まで移動すると…

やけにビートの激しい、重低音の効いた音楽がかかっていた。
『♪~~かーらーたちーの朝が来たー希ー望ーの朝ーだー~~♪』

一体、どこでそんなCDを手に入れるのか…
翠星石たち含め、クラス全員がどんよりする中…

ジャージ姿のめぐ先生がご機嫌な表情でラジカセを担いでいた。

ダメだこいつ…早く何とかしないと…
クラスの心が一つになった瞬間だった。


「という訳で、今日の授業はセパ(先生とパープリンなオマエら)交流戦。つまり野球をするわ 」
にこやかな表情で、開口一番そう言うめぐ。

どういう訳なのかは理解できなかったが…まあ、そういう事らしいし仕方が無い。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

 
「さあ!手加減しないわよ! 」
ピッチャーのめぐ先生がそう意気込み、ビシィ!と天を指差す。

対する一番バッターは…アイウエオ順で雪華綺晶。
「ふふふ…強気……でも投げてこないのは打たれるのが怖いから? 」
いきなり、挑発的な態度をとる。

「教師の凄さ…思い知りなさい!! 」
言い切ると同時に、めぐ先生が大きく振りかぶる。

バシーン!
ボールがミットに収まる音が大きく響いた。1ストライク。

だが…雪華綺晶は全く動じない。
「ふふふ… 」
不敵な笑みを浮かべたまま、バッターボックスに立ち続ける。

「…ふふふ…見えますわ…あなたの迷いが…… 」
バシーン!
2ストライク。

雪華綺晶はさも楽しそうに目を輝かせる。
「…どのコースを狙うべきか…その迷いが、グルグル…グルグルとあなたを取り囲んで…… 」

バシーン!
アウトーーーーォ!

三球全て見逃しに終わった雪華綺晶は…帰ってくる時も、何故か笑顔だった。
  

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「さて…次は私の番ね… 」
真紅がそう言い、ゆっくりと立ち上がった。

バットを3本束ねて、ブンブンと素振りする真紅。
女の子らしさを微塵も感じさせないその勇姿に…皆、思わず視線を逸らしてしまった。

と…誰もが視線を泳がせながら、あらぬ方向を向いていると…


カキーン!と一際大きな音。それに驚き、皆が振り返ると―――

打ち返された白球がグングンと空へと伸び――― 校庭の隅の壁に当った。
「チャンスです!!真紅!走るですぅ!! 」
翠星石がベンチから応援の声を上げる。

だが、真紅は落ち着いた表情で片手を上げ、それを制した。
「良いこと、翠星石。レディーというのはいかなる時も、落ち着いて行動するものよ。
 こんな時こそ…いいえ、こんな時だからこそ…優雅に歩いてみせるのだわ 」

そう言い、本当に優雅な足取りで歩き出す真紅。

そのせいで、一塁までしか行けませんでした。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆
  

「…順番は変わってしまうけど…こんな時には僕が出るべきだろうね 」
という理由で、続いてのバッターは蒼星石。

何と言うのか……それはもう、見事な送りバントを成功させてくれました。

二塁へと優雅に(歩いて)移動した真紅を見て…
どこか満足そうな表情を浮かべながらベンチへと帰ってくる蒼星石。

皆、涙を隠すのに必死だった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「さぁて…次こそ、真打登場、ってやつよねぇ…? 」
肩をグルグル回しながら水銀燈がバッターボックスへと立った。

そしてそのまま…バットを地平線の彼方へ向けて指し示す。
いわゆる『ホームラン宣言』というやつだ。

対するピッチャーのめぐ先生は……

「ついに来たわね、水銀燈…なら、私も全力で行かせて貰うわ… 」
そう言うと、これまでに無い力強い動きで大きく振りかぶり―――

バシィィィン!!
キャッチャーミットにボールが収まる音が、空高く響き渡る。
   
「…え? 」
今までとは比べ物にならない剛速球。
流石の水銀燈も…上ずった声を出すのが精一杯だった…。

そして…

渾身の一球。
それを投げためぐは…ゆっくりと…地面に倒れた。

「え…えぇぇぇ!?め…めぐぅ!? 」
水銀燈は慌ててめぐに駆け寄り、その体を支える。
「ちょっとぉ!しっかりしなさいよぉ!! 」
そう言いながら、ぐったりとしためぐの背中を擦ったり叩いたり。

何とも百合百合しい光景を展開してると…
めぐがゆっくり、目を開いた。

「水銀燈…?……私…… 」
「めぐ!大丈夫!?すぐに保健室、いいえ救急車、むしろ葬儀屋に行くわよぉ! 」
水銀燈はそう言うや否や、めぐを担ぎ上げる。

だが…めぐはその手を振り解いて、一人で立ち上がった。

「水銀燈…私はまだ闘えるわ…あなただって…まだ闘う心は失ってないでしょ…?
 私だって……あなたの気持ちに応える為にも…死ぬまで闘い続けるわ…! 」
そう言いめぐは、水銀燈をバッターボックスへと押しやる。

  
この闘いは、誰にも止められない。
止める唯一の手段は…

「……死が二人を分かつまで、ってやつ…? 」
小さな声で水銀燈が、そう呟いた。


水銀燈が闘志の篭った目をめぐに…命を削ってまで、自分との闘いを望んだ相手に向ける。

全力で叩き伏せる。
それが流儀だと思った。


めぐは再び、大きく振りかぶる。
この一球に全てを賭けるように。

水銀燈はバットを握る手に力を込める。
めぐの心に答える為に。


そして…めぐが最大の力でボールを投げた!

ボグゥ!!

そのボールは…鈍い音と共に…水銀燈の腹にメリ込んだ…。


「ちょ………! 」
それだけを言い残し、水銀燈は地面に倒れ悶絶する。
  
その光景を見て、めぐは…
「…いいえ…死んでも一緒よ…… 」
ニヤリと呟くと、そのまま力尽き地面に倒れた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


水銀燈の捨て身(?)のデッドボール。
そして、めぐが倒れピッチャー交代。

体育の時間は、急展開を迎えていた。

次なるピッチャーは…本人たっての希望で、家庭科の桜田のり先生!
それを迎え撃つバッターは…

「ついに、新聞部部長にして我らが希望、翠星石の出番が来たですよ!! 」
大声で恥ずかしげも無く自己紹介をしながら、翠星石がバッターボックスに立った。

「さあ!来るなら来やがれですぅ!! 」
翠星石の目は、相手ピッチャーの遥か彼方。校庭の外。そこだけを鋭く睨んでいる。

「よ~し、お姉ちゃん、頑張っちゃうわよぅ! 」
のりはそう言うと、振りかぶり……


天然ボケだの何だの言われているが、のりは高校、大学とラクロスを続けており…
それはラクロス部の顧問と形を変えた今でも続いている。

  
のりの投げたボールは…普段の彼女の姿からは想像も付かない剛速球!
問題は…それがあらぬ方向へと飛んでいった事……。

「とーーりゃーーー!! 」
ボールが見当外れの方向に飛んだ事にも気が付かず、翠星石は目を瞑って全力でフルスイング!
勢い余って、一回転。
そのままペタンと地面に尻餅をついた。

「振り逃げだ!翠星石!走って!! 」
キャッチャーがボールを拾いに走るのを見て、蒼星石が声を挙げる。

「振り逃げ…?はて…それは何ですか? 」
翠星石は立ち上がり服の埃を払いながら、キョトンとする。
「いいから!早く! 」
蒼星石がそう伝えるも……

「…何だか分からねーですけど…この翠星石はのり如きを前にして逃げたりなんかしねーですぅ!! 」
何だか変な所だけをしっかり聞き留めて、翠星石はジタバタするばかり。
「姉の闘いっぷり、その目でしかと見届けるですぅ! 」
そう言い、再びのりに向かい合う。

と…
翠星石の肩に、キャッチャーの手がポフっと置かれた。

アウトーーーォ!!


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

  
攻守交替。
今度は、翠星石達が守備にまわる番となった。

そして…
ピッチャーは、ダーツが得意そう、という理由で水銀燈。
キャッチャーは、走り回るのが嫌、という理由で真紅。

最凶バッテリーの誕生した瞬間だった。


対する一番バッターは…
いつの間にか復活しためぐ先生。

『最初は様子見も兼ねて…あえて外して行きましょう 』
真紅は指先のサインで水銀燈に指示を出す。
『お断りよぉ 』
水銀燈は首を横に振り、それを拒否する。

『いきなりド真ん中で行くつもり?それはダメなのだわ 』
『うるさいわねぇ…あなたは黙って私の投げたボール拾ってればいいのよぉ 』

声を出さない会話が、二人の間で展開される。

『何よ!あなたこそ、黙って私の指示に従ってればいいのだわ! 』
『投げるのは、わ・た・し。いちいち偉そうに指図しないでよぉ! 』
  

『…な!?ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと言われた通りに投げなさい!このジャンク!! 』


「真紅ゥゥウウ!!!! 」
突然、水銀燈がキレた。
本人にしたら売り言葉に買い言葉でも…傍から見たら、突然だ。

水銀燈は手に嵌めていたグローブを地面に叩きつけ、真紅目掛けて走る!

「上等よ!修正してやるのだわ!! 」
真紅も叫び、キャッチャー用のプロテクターをかなぐり捨て水銀燈へと走る!


……


体育の時間は、野球を中止して格闘技の時間になった。






    

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