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『もしゃ……もしゃ……』
新聞部の部室から、何とも言えない音がする。

『もしゃ……もしゃ……』
窓の外に降る雨は、梅雨の最期のあがきと言わんばかりの大雨。

『もしゃ……もしゃ……』
真紅が新たな煎餅に手を伸ばす。

『もしゃ……もしゃ……』
湿気で歯ごたえの無くなった煎餅を囲む4人の少女。

『もしゃ……もしゃ……』
誰がどう好意的に解釈しても、異様な光景。

『もしゃ……もしゃ……』
くぐもった咀嚼音以外、何の会話も聞こえない。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ~ この町大好き! vol.4 ~ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「いい加減にして頂戴! 」
最初にキレたのは、真紅だった。

 

真紅は立ち上がり、机の上に置かれた煎餅の山を指し示した。
「何が悲しくって、こんなお葬式みたいな雰囲気でお菓子を食べる事になったの!? 」

「…それもこれも…この雨のせいですぅ… 」
どんより顔で翠星石が煎餅をもしゃもしゃ食べる。

そう。
誰のせいでもない。

全ては梅雨という名の魔物が成せる業だった。

「…そうね…ごめんなさい。取り乱したわ… 」
真紅はそう言い、再び煎餅に手を伸ばした。


食べ物を捨てる訳にもいかず…かといって、このまま置いていてはカビてしまう。
仕方無しに、全員でふにゃふにゃした煎餅を(おなかの中に)処分しよう…

それが本日の新聞部の活動だった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 
「…流石にこれは…しんどいね… 」
いつもクールな蒼星石も、減る気配の見えない煎餅を前にゲッソリした。

「…もう、お腹一杯よぉ… 」
水銀燈もしんどそうにため息を漏らした。

「認めたくないものね…若さ故の過ちは… 」
食べ過ぎた真紅は椅子にもたれかかり、虚ろな目をしている。


部員一同、満身創痍なのは誰の目にも明らかだった。

翠星石は…
部長として苦肉の決断を迫られる。

このまま作戦(食事)を続けて、見えない勝機に賭けるか…それとも……

やがて…
翠星石は静かに席を立ち、煎餅が大量に詰まった箱を手に取った。
「…私に…考えがあるですよ…。こんな時は… 」
静かな声で、全員の注目を集める。

「……丸投げですぅ!! 」
それは、人として最悪だ。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 
と、いう訳で。

翠星石たち新聞部は、とある別の部の活動場所までやってきた。

「ここの放送部の連中がコンテストに出場する、と聞いたですぅ。
 その彼女達にインタビューを行い…そして、『お礼』として煎餅を渡してやるですよ! 」

何やら、人として大切な事を忘れ去っている翠星石の発言。
だが…彼女には考えが有った。

勢い良く放送部の扉を開け放つと、そこには―――


鉄の胃袋。悪食の神。雪華綺晶の姿が!

あと、薔薇水晶も。


翠星石は二人に近づくと、早速インタビューの交渉を始めた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


とりあえず、お昼の放送の収録現場の見学は許可してもらえた。
アポ無しで突撃してそこまで出来れば、まあ上出来だろう。

そして……
 

~~~~~

「皆さん、こんにちは。お昼の放送の時間です。
 本日は皆さんから受けた音楽のリクエストと、邦楽トップチャートをお届けしますわ 」
「……… 」
「ええ。お送りするのは、私、雪華綺晶と 」
「……… 」
「はい。ちょっと無口なばらしーちゃんの二人です。
 それでは、先ずはお便りを。え…っと、『匿名希望なのだわ』さんからの相談、ですわね 」
「……… 」
「早速、読んでみますわ。…えー…『私は胸が無いせいで不人気と――― 」

~~~~~ 


「…薔薇水晶、全く喋ってないね… 」
「マイクの電源が切れてるんじゃないのぉ? 」
「いいえ…彼女、全く口を開いてないのだわ…! 」
「…あれでよく、放送として成立するですぅ… 」 


~~~~~

「―――…という訳で、今週のトップ4までが出揃いましたわ。気になる1位は、何でしょうね? 」
「……… 」
「ふふふ…そうですわね。その他にも新曲のリリースが沢山ありましたし、楽しみですわ 」
「……… 」
「あら?もう、そんなお時間ですの?
 それでは気になるトップ3の発表の前に、皆さんからのリクエストを。
 え…っと、ペンネーム『スィドリーム』さん。本名、翠星石さんからのリクエストで―――― 」

~~~~~

 
「な…!?アイツ今、ペンネームが書いてあるのに本名まで読んだですぅ!! 」
「そうかしらぁ? 」
「気のせいよ 」
「聞き間違いじゃないかな? 」 


~~~~~

「―――…が、今週の1位でしたわ。少し意外でしたわね 」
「……… 」
「ええ。それでは、そろそろお別れの時間ですわ。本日お送り致しましたのは、私、雪華綺晶と 」
「……… 」
「ちょっぴり恥ずかしがり屋なばらしーちゃんでした 」

~~~~~ 


「…ねえ、誰か…薔薇水晶が喋った所、見た子いるぅ…? 」
「残念ながら…彼女は一切喋ってなかったね… 」
「…これは…意外な事実が判明したのだわ… 」
「ちょ!?アイツ私の事、本名で呼んでたですよね!? 」 



◆ ◇ ◆ ◇ ◆

  

その後、翠星石はお礼にと煎餅の山を雪華綺晶と薔薇水晶に渡し…

それから彼女達が放送部を後にするまでの5分足らずの時間で、いつの間にか煎餅は消えていた。

新聞部の面々は、どこか背中に空寒いものを感じながら、放送部を後にした…。


そして…翌日。

彼女達は…因果応報というのか、湿気た煎餅を食べ過ぎたせいで全員、お腹を壊して学校を休んだ。
でも雪華綺晶は無事だった。



そして、その日の学園は…

新聞部達が欠席した学園は……

本っっっっっ当に!久々に!平和だった。 






   
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