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四年。
大学に行かず、住み慣れた町を出た。

見知らぬ土地での生活は全くもって厳しかった。
砂漠同然の光景の中、行動範囲はゲームのように日に日に増え、関わる人間を増やす。

そうして打ちのめされた。
何も形ならず、何も内に残さぬまま、故郷へと帰ってきた僕。


(相も変わらず暇を潰すのはこれか…)

深夜―。
明日の起床時間に心配の必要がない今夜、僕の暇を潰すのはやはりパソコンだった。

僕は改めて実感する。この四年でインターネットも進化したもんだ。
学生時代にやっていた無意味な通販よりも、楽しいことがたくさんあるじゃあないか。

僕はマウスを縦横無尽に移動させ、人差し指を動かし続けた。

と、画面右下から四角いオブジェが軽快な音と共に飛び出した。


今年はお花見行けなかったね@蒼星石
ジュン君生きてる?


―蒼星石からのインスタントメッセージだった。
僕は画面とキーボードを交互に見ながらキーを叩いた。


ただいまなさい@ジュン
どうした?

今年はお花見行けなかったね@蒼星石
あ、生きてたんだ。よかった。


―即座に返信が来る。
(蒼星石からメッセか…こんな時間まで起きてるんだな)
僕は画面に映る時刻を見て思った。

この町を出てからも、よくこうして蒼星石とメッセンジャーで連絡を取り合ったりしていた。

寂しい一人暮らしにはこういうのが非常に助かる。

その当時、仕事の終わった後の数時間は大概暇で地元の友達から話しかけてくれることが本当にうれしかった。
特に、蒼星石とのやりとりは比較的多かった気がする。


ただいまなさい@ジュン
どういう意味だw

今年はお花見行けなかったね@蒼星石
ごめんごめん。今、時間大丈夫?


―丁寧に句読点を入れているあたり、蒼星石らしいというかなんというか。


ただいまさない@ジュン
大丈夫だけど

―特に何かをしている訳でもないので、僕も即座に返信する。


今年はお花見いけなかったね@蒼星石
この時間に起きてるってことは、明日休みだよね?


―僕は即座に返信しようとするが、メッセンジャーのウィンドウの下部にある“今年はお花見いけなかったね@蒼星石がメッセージを…”の文字を見て思いとどまる。


今年はお花見いけなかったね@蒼星石
偶然にも、皆も休みなんだ。


―尚も蒼星石のメッセージ送信は続く。


今年はお花見いけなかったね@蒼星石
だから、今から皆でお茶しながら久々に集まろうかって話になってるんだ。
ジュンくんもどうかなって。


今年はお花見いけなかったね@蒼星石
ちなみにメンツは本当に皆だよ。
ジュン君も入れて十二人。


―そこで蒼星石の書き込みが止まった。
僕の返答を待っているのだろう。

ただいまなさい@ジュン
僕も暇してたとこだし、行ってみようかな


―自分で言うのもなんだが、僕の言葉は文字にしてみると随分感情のない冷たい感じがするな…。


今年はお花見いけなかったね@蒼星石
わかった。じゃあ迎えに行くよ。
何時ごろがいいかな?


―メッセンジャーでここまで丁寧に改行を施すのは、後にも先にも蒼星石くらいしかいないだろうな…………え?


ただいまなさい@ジュン
迎えって何?

―思ったことをそのままメッセージにして送信する。


今年はお花見いけなかったね@蒼星石
ふふ。ジュン君は知らなかっただろうけど、僕も車の免許取ったんだよ。
じゃ、今から行くね。


―そのメッセージを最後に、蒼星石のメッセンジャーはサインアウトしてしまった。

(あの蒼星石が免許ねぇ…。四年ってのは長いなぁ…。)

そんなことを考えながら、僕はパソコンの電源を切る。

とりあえず、外に出れる格好をしないと…。

椅子から立ち上がり着替えを始める。


―十分後。

ヴー、ヴー。
携帯電話が不細工な音を立てながら、メール着信を知らせる。
どうやら蒼星石が到着したらしい。

僕は返信もせず、財布と携帯電話と家の鍵を手に玄関へ向かった。

 


外へ出ると、家のすぐ前に藍色のブルーバードが止まっていた。
(しかもシルフィじゃんか…)

ホイールやボディだけを見てもわかる。こりゃ新車だ。
そのブルーバードに近寄り、運転席に蒼星石が乗っていることを確認してから助手席を開ける。

「やっ。ジュン君久しぶり」

笑顔の蒼星石が片手をあげた。

「驚いたよ、蒼星石が免許だなんて」
車内に体をすべりこませながら僕が言う。
そしてベルトに手をかけた。


「ふふ。あ、ジュンくん。助手席もシートベルト着用、よく知ってたね」
ベルトを締める僕に蒼星石は照れ笑いを浮かべながら言った。

「馬鹿、車のことなら僕の方が先輩だっつうの」

「フフ」

「そういえば、翆星石は?」

「元々真紅と一緒にいたみたいだから、そっちともう向かってる」

蒼星石だけではないが、古い付き合いになる。
先ほどメセンジャーで言っていた“皆”とも、学生時代からの付き合いだ。

蒼星石の双子の姉の翆星石や小姑みたいな真紅。
見た目はいいが中身はアレな水銀燈、策士には程遠い金糸雀。
体だけは誰よりも大人っぽい雛苺、宇宙を腹で飼ってる雪華綺晶、その妹で何考えてるかわからない薔薇水晶。
才色兼備を地で行く柏葉。King of STAND UP 笹塚。リアル天才と馬鹿は紙一重ベジータ。

皆、四年もほったらかしにしていた僕を友人と呼んでくれる…大事な人たちだ。

「しかしまぁ、エラい高級車に乗ってるじゃないか。仕事順調なのか?」

「うーん…、そうだね…」

「…他の皆も、もう向かってるのか?」

「…そうだね…」

僕がいろいろと思考している間に、車はとうに発進していた。
運転中だからだろうか、蒼星石の返答はいささかあやふやだ。

遠くの方で信号が黄色になる。

もちろん、蒼星石のことだろう。きっちりと停止するはずだ。

ヴーンっ

「うおっ」

ところが車は、急にスピードをあげ音量を上げた。
横断歩道手前で信号は赤に変わるが、轟音と共に突っ切る。

 

「…ハンドル持つと性格変わるのな…」

信号待ち。意外な蒼星石の一面に突っ込む。

「ん?何が?」

そうそう、そういう人って大概自覚ないんだ、これが。

「あ、この車はね」

話題を逸らすかのように、蒼星石が先ほどの話題を掘り返した。

(一応自覚はあるんだな…そういうとこは蒼星石らしいか…)

四年という時間を感じさせない蒼星石を見れた気がして少し安心した。


「おじいちゃんのなんだ」

「ほー、じいさん。中々やるじゃん」

「え?なんで?」

蒼星石の眼が点になる。

「この車、高級車だからな。俺はてっきり蒼星石と翆星石の仕事が順調なのかと思ったんだけど」

どうやら蒼星石は知らなかったらしい。加えて俺の話は聞こえていなかったか?
蒼星石の時が止まる。

そして、はっきりと顔色が悪くなるのがわかる。夜なのにわかる。
全く…気まぐれな耳だ。

「……。信号、青だよ」

僕の方を向いたまま動かない蒼星石に人差し指で注意を促す。
まるで“キリキリ”と音をたてるように動き出した蒼星石は、それから目的地に着くまで無言だった。
どれだけ僕が話しかけても返事はなかった。

 

「…ふぅ」
車の後輪が用意された縁石に当たる手ごたえを感じると、蒼星石は安堵の息を吐く。
ちなみに、ファミレスの駐車場に着いてから車庫入れするまでに五分以上を費やしている。

「ホントに知らなかったんだな、お前」

下を向く蒼星石に声をかける。返事が期待できそうなタイミングを見計らったつもりだが…。

「…ぶつけたりすると、おじいちゃんに凄く迷惑掛かるな…って思ったら急に怖くなっちゃって…」

「はは…でも案外うまかったぞ。車にキズがつく時はぶつけられる時だよ」
またもや蒼星石らしい一面を見て、僕は少し笑う。当然だ、笑うしかないだろ?

「ありがとう、ジュンくん。お世辞でも嬉しいよ」

ちなみに、僕の言葉に嘘はない。多少、性格が変わるにせよ根本は蒼星石だ。
優しく、丁寧で、同乗者の事をよく考えての運転だった。

蒼星石はキーを左に回し、エンジンをきる。

「行きますか」

「そうだね。皆もう揃ってると思うよ」

そうして、僕と蒼星石は車を出た。

四年の内に何度か里帰りもしていたが、本当に会うのが久々なヤツもいる。
僕は胸にワクワクを募らせてファミレスの入り口へと向かっていた。

(いい大人が十二人も集まってファミレスか…。高校の時を思い出すな)

隣には蒼星石。
なんだか、本当に僕は帰ってきたんだなぁ…。

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