※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


その夜…

テストの採点にと一人学園に残っていた教師・桜田のりは、後日こう語る。

「…あれは…間違いなく、私の人生の中でトップスリーに入るほど恐ろしい出来事だったわ…。
 今でも…思い出すだけで失禁スレスレの限界突破よぅ 」

限界突破という事は、つまり失禁したという事だろうか?
そこについて詳細を尋ねてみたが、そうではないらしい。

本人の言葉を借りるなら、あくまで『スレスレ』であるからだ。

では一体、何の『限界』を何が『突破』したのだろうか?


…世の中には、人間には計り知る事すら叶わない出来事が起こる。


これは――― 今回のお話は――― そういった出来事のほんの一端に過ぎない。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ~ この町大好き! vol.3 ~ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 
「さて…何とか無事に忍び込めたですぅ… 」
薄暗い校舎の一画。
昼のうちに鍵を開けておいた窓から、教室へと侵入した翠星石が小さな声で人心地つく。

「迷子にならないように、全員で手を繋いでいくというのはどうかしら?我ながら名案だと思うけど 」
心なしか青い顔をして真紅が呟く。

「…何もそんなに警戒しなくても… 」
蒼星石が苦笑いを浮かべるが、真紅は必死な形相で答えた。
「…油断するのはまだ早いのだわ。
 こういうのは…油断した瞬間に襲われるって相場が決まっているのよ… 」

そう言うと真紅は、水銀燈に向き直った。
「水銀燈、あなた目が悪かったわね。薄暗いから見えにくいでしょ。手を繋いでいてあげるわ 」
「……私の視力は1.5よぉ… 」
「いいえ、目が悪いのだわ。だから手を繋いで迷子にならないようするのだわ 」

そんな会話をしてる二人を眺め…蒼星石はふと、違和感を感じた。
そして振り返ると――― 発案者であるはずの翠星石が、自分の服の袖を掴んでいた。

こうして…何だかチーム分けみたいに手を繋いだ二組が、教室の隅で作戦を話し合う。

「…でぇ?何から調べようかしらねぇ? 」
「そうだね。まずは有名なところで…――― 」
  

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 
新人教師、桜田のり(家庭科担当)はその夜、一人学校に残っていた。

元々、少し臆病な性格もあり…
夜の学校は彼女にとって、かなり恐ろしいものだった。

その恐怖と教師としての激務。
神経が過敏になっていたのだろう。
彼女は深夜の学園内に、誰かの騒ぐ声が聞こえた気がした。

「ド…ドロボウかぁぁぁあああ!? 」
叫び、身近にあったバットを握り廊下に飛び出す。
だが…当然、廊下には誰の人影も無い。

少し怖いけど…これも教師の責務。
そう自分に言い聞かせ、桜田のり(裁縫は弟の方が上手い)は学園の巡回に出向いた……


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「何でも、この学園の人体模型は…リボルテック可動式で…さらに…
 夜になると、複雑なポーズをとりながら奇妙な冒険をするそうだよ…… 」

薄暗い廊下で、声を押し殺した蒼星石がオドロオドロしい感じで説明する。
「…早速、確かめてみようか 」
  

そう言うと蒼星石はポケットからマスターキーを取り出し、鍵をカチャリと…
「って!何でマスターキーなんて持ってるですか!? 」
翠星石がすかさずツッコミを入れた。

「ああ、これかい?随分前に、何でか知らないけど校長先生がくれたんだ 」
さらりと答えてみせる蒼星石。逆に、どこか清清しい。 



『か~じゅき~~』
全員の脳裏に、ボケかけてる校長の声が再生される。雰囲気ぶち壊しだ。

三人はブンブンと頭を振って、変な光景を吹き飛ばした。 



気を取り直して…改めて保健室の中へと侵入する。

病院のような独特の消毒液の匂いが薄暗い空間の中に漂い、どことなく嫌な空気を感じさせる。
そんな中にひっそりと立つ、人体模型……

「ふぅん…これがそうねぇ…? 」
水銀燈が興味深そうな表情で人体模型に手を触れてみる。
ちなみにさっきから、真紅は一言も発して無い。

「………何の変哲も無い、ただの人体模型ねぇ 」
「そんなハズは無いです!きっと、翠星石達が来たから正体を隠してるに違いねーですぅ!
 皆でボコって化けの皮を引っぺがすですよ!! 」

翠星石の合図で、全員が人体模型をボコる。
  

だが…結局、怒れるオロチの神が降臨するような事もなく…
心なし哀しそうな表情になった人体模型が保健室の床に転がっただけだった。

「……どうやらデマのようね 」
ここにきてやっと、真紅が口を開いた。
「だったら、バレないように元の位置に戻しといた方が良いね 」
「…どうせなら、ちょっと遊んでいきましょうよぉ…? 」

水銀燈の提案で、人体模型は変なポーズで棚に収められる事になった。
何でもテーマは『人間賛歌』らしいが…どう見ても奇妙なポーズだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


桜田のり(天然)は、恐る恐る廊下を進む…。
そして…保健室の前に、彼女は辿り着いてしまった。

そのまま素通りすれば良かったものを…彼女は扉に付けられた小窓から中を覗いてしまったのだ。

そして…見た。
今にも『ウリィィィ!』と雄叫びを上げそうなポーズをした人体模型を…!

彼女の神経は、そんなに太くない。
「……きゅぅ 」
小さな声と共に、そのまま気を失った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 

「さて…次はこの音楽室のピアノが夜中に勝手に鳴るらしいけど… 」
蒼星石がそう説明しながら音楽室の扉を開く。

「…ピアノどころか、リコーダーの音すら聞こえねーですぅ… 」
薄暗い以外、いつもと同じ音楽室。
そこを横切り、ピアノの近くまで移動する。
と…

「ピアノなら任せて頂戴。淑女の嗜みとして心得があるのだわ 」
真紅がこの夜初めて活躍した。

ピアノの鍵盤を、確かめるように一つずつ指で押していく真紅。
「…調律もちゃんとされてるし…普通のピアノね… 」
そう言うと今度は、流れるような動作で優雅に曲を奏で始めた。

「…モーツアルトかい? 」
感心したように蒼星石が小さな声を上げる。
「ショパンよ 」
さっきまでの怯えっぷりが嘘のように、真紅は得意げな表情で答える。

「…夜の学校でショートコンサート、ってのも、案外素敵ねぇ… 」
水銀燈が聞き惚れたようにうっとり、呟く。
「これはこれで、なかなかにロマンティックですぅ 」
翠星石がご機嫌な表情でクルリと踊る。

本来の目的から外れた、少しだけゆっくりとした時間が流れた。

  
◆ ◇ ◆ ◇ ◆


どこか…遠くで聞こえる音で、桜田のり(眼鏡っ子)は目を覚ました。

「…ぅ…ん…ここは…… 」
何故自分は学校の廊下で寝ていたのか。
疑問が浮かぶが、分からない。

彼女の脳は、先ほど見た恐ろしい光景を一時的に記憶の彼方に封印してた。

だが…よく分からないながらも…
深夜の学園、人が居ないはずの場所に響くピアノの音……

その異常性だけは、本能として理解できた。

「あ…あわわわ…… 」
昭和の人間のリアクションをとりながら、腰が抜けて立てないので這いながら職員室へと逃げようとする…


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「何だか、思ってたより怖くなくなってきたですぅ~ 」
音楽室から出る頃には、あんなに怯えていた翠星石の表情にも笑顔が浮かび始めていた。
「この調子でドンドン調査するですよ!さあ蒼星石、次は――― 」

翠星石はそう言い、蒼星石の顔を覗き込んで…異変に気が付いた。
 

いつの間にか蒼星石は鋭い目つきで廊下の彼方を睨みつけており…
繋いだ手には、少し力が込められ…少し汗ばんでいる。

誰も、何も言わない。

皆が蒼星石の表情から『何かある』そう察して、呼吸すら止める。
真紅に限っては、心臓すら止まりそうな表情をしている。

静かに、闇に包まれた学園の廊下に立ち尽くす。
そして…

  『 ズル…… ズル…… 』

何かを引き摺るような音が……。 


「……行ってみよう 」
小さな声で蒼星石がそう告げた。

翠星石はブンブンと、取れそうなほどの勢いで首を横に振る。
真紅は半泣きで、出口の方向を指差す。


「……今更、後には引けないわよぉ… 」
水銀燈がそう言い、真紅の手を引っ張る。
まるで散歩を嫌がる子犬みたいな真紅が、グイグイと水銀燈に引っ張られていった。

蒼星石も、二人が心配なのでその後を追いかける。
駄々をこねる子供が親に連れられていくように、翠星石もズルズルと引っ張られていった。

  
◆ ◇ ◆ ◇ ◆


翠星石達は廊下の影に身を隠し、息を潜める。

  『 ズル…… ズル…… 』

何かを引き摺るような音は少しずつ、確実にこちらに向かってきている。

その正体を突き止めて…記事に…
誰もがそう考え、薄暗い廊下に視線を凝らす……

そして……

廊下の先から…這いながら進む、女の姿が……―――


まさか!
全員の心が、一つの考えに至る。

闇の住人。戦慄の堕天使。体の一部を失い、歩けなくなった代価として恐るべき力を手に入れた存在。
誰もが一度は耳にし、恐怖するそれは……―――都市伝説『腹無し女』!!

翠星石と蒼星石と真紅が、咄嗟に(何故か)水銀燈を見る。
水銀燈はそんな視線を浴びて(何故かは分からなかったけど)凄く嫌な気分になった。


と…『腹無し女(?)』がこちらの方へと振り返った!
その眼鏡が月光を照らし、ギラリと異様な反射をする―――!
 

「きやぁぁぁぁーーーーーーーー!!! 」
翠星石が、真紅が、蒼星石が、水銀燈が、叫ぶ!

「きゃぁぁぁぁーーーーーーーー!!! 」
腰を抜かして地面を這っていた桜田のり(ラクロス部顧問)も叫ぶ!


5人の悲鳴が、地獄絵図の如くに響き渡る。


「逃げるですぅ!! 」
翠星石の合図で、思い思いの悲鳴を上げたまま廊下を走り去る新聞部一同。

桜田のり(独身)は…散々叫んだ後、静かに本日二度目の失神をした。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


翌日…

家庭科の桜田先生が倒れて病院に運ばれたそうだが…学園はおおむね平和だった。


いつもと違う事をしいて挙げるなら…

真紅がやたらと味塩を周囲に撒いていた事くらい。 





   
|