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返ってきた期末テストの点数について激しく口論しながら、真紅と水銀燈は廊下を歩く。

「…英語は勉強してなかったのよぉ…? 」
「あら、よく言うわね。目の下に真っ黒なクマ作って来てたくせに 」
「………でも…数学は私の圧勝よねぇ…? 」

本人達は認めないが、やっぱり仲が良いのだろう。
そんな二人は今、部長の翠星石に呼ばれて新聞部の部室に向かっていた。

「…決着は古文のテストに持ち越し、という事ね…… 」
真紅がそう締めくくり、部室の扉をガラリと開く。

中には…
カーテンを全て閉め切って薄暗い中、机の上に肘を付き、口の前で指を組む翠星石の姿。
そして…翠星石の手元で隠れた口が、二人の姿を見てニヤリと持ち上がった。


何も見なかった事にして、水銀燈は扉を閉める。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ~ この町大好き! vol.2 ~ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「ほぁぁぁああああ!? 」
今しがた閉めた扉の向こうから奇声が聞こえた。
  


 
「…さ、帰りましょうか。水銀燈 」
「…帰りに駅前で鯛焼きでもどうかしらぁ? 」
それを心から無視して、真紅と水銀燈はたった今来た廊下をスタスタと戻る。

後ろから勢いよく扉が開かれる音が聞こえるが、それも無視。

「そうね…でも、どうせならケーキと紅茶というのも捨てがたいのだわ 」
「あらぁ?鯛焼きってヘルシーで、あんまり太らないのよぉ? 」

「ちょ…!せめて話位は聞きやがれですぅ! 」
大声が廊下に響くも、無視。

「…鯛焼きも捨てがたいわね 」
「ふふふ…それじゃぁ、決まりねぇ 」

そう話しながら二人が廊下を少し歩くと…
同じように翠星石に呼ばれたのだろう。蒼星石と鉢合わせた。

「あら、蒼星石。これから鯛焼きを食べに行くのだけれど、あなたもどうかしら? 」
「え?二人は翠星石に呼ばれなかったの? 」
「嫌な予感がしたから逃げてきたわぁ 」
「……… 」

蒼星石が二人の遥か後方―― 開け放たれた部室の扉に視線を向けると…

扉に半分隠れるようにこっちを見る翠星石。
ちょっとだけ目の端に涙を浮かべて、子犬のような視線を向けてきている…―――
  

蒼星石はちょっとだけため息をついて、それから真紅と水銀燈の手を取った。
「…僕からも頼むよ…ね?いいだろ? 」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


蒼星石の説得により、真紅が再び部室の扉をガラリと開く。

そこには…
カーテンを閉めて薄暗い部屋の中、翠星石が背中を向けたまま椅子に座り、優雅に足を組んでいる。
片手にワイングラス(中身はファンタぶどう味)を持ち、
「…諸君……よく来たですね…今日呼んだのは他でもない…大切な話があるですよ…… 」
と、のたまっている姿。

ダメだコイツ…早く何とかしないと…
真紅の脳裏にそんな言葉が過ぎる。

「でぇ?…まさかこんな演出を見せたい為に呼んだ訳じゃあないわよねぇ? 」
パチパチと部室の電気をつけ、呆れ声の水銀燈がいつもの席に座る。

翠星石は未だに自分の演出にはまっているのか、「ふっふっふー」と笑ったまま。
とりあえず彼女がぶっ飛んでいるのはいつもの事なので、放っておく事にした。

暫くして…
全員がいつもの定位置に座った事を確認すると、翠星石は立ち上がり、バン!と机を叩いた。
「ついに!ついにテストが終わり!後は楽しい夏休みですぅ! 」
 

「古文が残ってるのだわ 」
「夏休みも、まだまだ先よねぇ… 」
「…翠星石…… 」
全員の口から、呆れたような声が漏れる。

「……と…とにかく!!夏休みへ向けて、臨時スペシャルゴージャス特別ハイパー増刊号を創るですよ!! 」
翠星石が再びドン!と机を叩く。

皆の気持ちを代弁するように、机の上の『部長』と書かれた三角コーンがパタンと倒れた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「夏といえば怪談!怪談といえば!!
 ついに学園の七不思議が私たち新聞部によって明らかになる瞬間ですぅ!! 」
勢いよく、そこまで言い放った翠星石だったが…そこから急に、しおらしい態度を見せ始めた。

「ただ…その為に、夜の学校に忍び込もうと思うですけど……その…… 」
そう言ったっきり、恥ずかしそうに下を向いてモジモジしている。

「…つまり、怖いのね? 」
まるでフラグを叩き折るかのように、真紅がバッサリとそう言ってのける。
「なぁ!?だだだ誰も怖がったりなんかしてねーですぅ!
 そう言う真紅こそ、オバケが怖いんじゃないですか!? 」
  

「…私はそんな非科学的な存在、信じてないのだわ 」
「だったら、私と一緒に来て、怖くないと証明すれば良いですぅ! 」
「…嫌よ 」
「ほーら!やっぱり真紅もオバケが怖いんですぅ! 」
「! こ…怖くないのだわ!!
 オバケなんて嘘なのだわ!オバケなんて無いのだわ!酔っ払った人が見間違えただけなのだわ! 」

まるで童謡の歌詞のような事を叫ぶ真紅。
つまり…ちょっと怖い、と。

「でも、ちょっとした探検、って感じで…面白そうじゃなぁい? 」
新聞部員として過去『口裂け女』や『腹無し女』の記事を扱った水銀燈が、案外乗り気な声を上げる。
「いつかは記事にしようか、って思ってたけど…このチャンスに便乗させてもらうわぁ 」

「…夜の学校に忍び込む、っていうのは問題だと思うけど…
 それでも、皆との楽しい思い出になりそうだしね。僕も行くよ 」
蒼星石も、参加を表明する。

すると…
皆の注目は、自然と真紅へと集まっていった。

「な…何よ。…私は嫌よ 」
拗ねたように、呟くように、真紅は小さな声でそう答える。

「女は度胸。何でも試してみるものだよ? 」
(何故かやたらと良い表情で)蒼星石が語りかけるも…真紅は首を縦に振ろうとはしなかった。
 

「そもそも…『4』という数字…人数は不吉なのだわ!『4』は『死』を連想させるわ。
 『3』や『5』なら問題無いのだわ!でも『4』はそれだけで死亡フラグなのだわ! 」
真紅はなりふり構わず、滅茶苦茶な理論をわめく。
何故か…蒼星石が激しくへこんでいた。

このまま、真紅抜きで行くしかないのか。
そんな雰囲気が漂い…

そしてそれを打ち破ったのは他ならぬ水銀燈だった。

「…怖いのなら、あなたは来なくて良いわよぉ…? 」
口元に笑みを浮かべ、小バカにしたような声で呟く。
「……何ですって 」
真紅の目つきが一瞬にして鋭いものに変わる。
「ふふふ…だってそうでしょぉ…?怖がって騒がれたら、堪ったものじゃないわぁ… 」

「誰が!怖がるものですか!!オバケなんて全部殴り倒してやるのだわ!! 」
真紅が拳を固め、ガタン!と席を立つ。

間髪入れず、翠星石が叫ぶ。
「よし!全員参加が決定です!早速詳細を説明するですよ!!」

ああ…皆、真紅の扱い方を心得てるなぁ…
蒼星石はしみじみと、そう感心した。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

  
夜…――――

フクロウがホーゥ、ホーゥと鳴き声を上げる。
この近くに、フクロウなんて居たっけ?そんが疑問が浮かぶが…まあ、いいや。

すっかり明かりの消えた学園の正門の前に、翠星石と蒼星石、そして水銀燈が立っていた。

「…真紅のヤロー…来ないですぅ… 」
「…いつもなら遅刻なんてしないのにね… 」
「怖くなって逃げたんじゃないのぉ…? 」

三人が三人、勝手に言う中…闇夜にザッ!と足音が響いた。
「…勝手に人を臆病者扱いしないで頂戴 」

そう言う真紅は…まるでピクニックにでも行くかのような重装備。

「真紅…その格好は… 」
「ああ、この水筒ね 」
唖然とする蒼星石を尻目に、真紅は首から下げた水筒を指し示す。

「この中には清められた水が…つまりは聖水ね。それが入っているわ。
 これを頭からかぶれば、オバケなんて… 」
「そんな事したら、びしょ濡れになるですぅ… 」
一瞬広がった沈黙が耳に痛い。
「………そうね……これは置いていきましょう 」
真紅はスルスルと水筒を地面に下ろした。
  
 
「…でも、これが有るから、大丈夫なのだわ 」
そう言い真紅は、ポケットからメリケンサックを取り出した。

「…これは、銀で作られた十字架を潰して作り直した一品よ。これさえあれば… 」
「十字架を潰したりしたら、逆にバチが当りそうだね 」
「………嘘よ。置いていくわ 」 


今度は背負ったリュックから小さな小瓶を取り出し、真紅はそれを全員に見せる。

「…これなら文句は無いでしょ?清めの塩よ 」
「味塩、って書いてあるわねぇ… 」
「……ダメなの? 」

泣きそうな顔になった真紅から、全員無言で視線を逸らした。



結局、手ぶらになった真紅も揃い…4人が学園の正門に向き合う。
昼間見るそれとは違い…校舎はどことなく、禍々しい気配を発しているように見えた。

「さて…学園の七不思議……見事に記事にしてやるですよ…!! 」


闇より暗い夜が始まる……――――




    
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