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最近、この付近で事件が起きている。


最初の被害者は、公園で捨て犬を苛めていた子供。
彼らは、謎の人物にコテンパンにのされ、動物愛護団体の看板の前に転がされていた。

次の被害者は、カツアゲをしていた中学生。
彼らもまた、ボロゾーキンのようになって交番の前で倒れていた。

その次は暴走族で、さらにその次は痴漢。

「町の治安が良くなった」という声も聞こえる。
謎の人物にボコボコにされた連中も、大怪我という程ではない。


それでも…やっぱりこれは、事件だった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ~ この町大好き! ~ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「これは事件ですよ!」
学園の一画――― 新聞部の扉が、大声でビリビリ揺れた。

「……そんな大声出さなくても、聞こえてるのだわ」
「そうそう…耳がうるさいわぁ…」
真紅と水銀燈がうんざりです、といった表情で言い放つ。
 

だが…「部長」と書かれた三角コーンの置かれた机をバン!と叩き、翠星石が叫んだ。
「なーに言ってるですか!もっとシャキッとしやがれですぅ!
 そんなだから、新聞部は幽霊部同然だー、って言われてるですよ!?」
そして、大げさにため息をつき…ポフっと席に腰掛けた。
「最近、我が部の購読数が落ちてるですよ…」

「…そうかな?」
副部長の蒼星石が、小さく疑問の声を上げる。
「確かに今回の…翠星石が特集した『楽しい園芸』号は、学園全体で12部だけど…
 先週の真紅の『バストアップ体操』特集は100部超えたし、
 その前の水銀燈の『脅威の世界・乳酸菌』特集は、出来の良さに先生達に好評だったし…
 何より先月の僕が書いた『ドキっ!翠星石の水着姿』特集なんて…―――」

「う、うるさいです!!大体、なに私の隠し撮りなんてしてるですか!」
顔を真っ赤にしながら、翠星石は足をバタバタとさせる。

そんな光景に一同は…
『何で彼女が部長なんだろう?』と心から疑問に思ったり思わなかったり……

「とにかくっ!!」
翠星石が再び大声を上げて席を立つ。
「決めたですよ!私は謎の正義の味方への独占取材を試みるです!!」

「正体が分からないから、謎の人物と呼ばれているのよ?」
「まぁ、無理でした、ってのがオチねぇ…?」
「……僕も…反対かな…」
部員達から、何とも頼もしい返事が帰ってくる。
 

翠星石は暫く「うぅ~~」と唸っていたが…
やがて諦めたのか、再び椅子に座った。

「…それなら今日はもう解散ですぅ……」
発せられた小さな声で、本日の部活動も終了となった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


夜も更け…
自宅の自室の自分のベッドの上で、翠星石は未だに納得出来ないでいた。

何故、部長である自分の記事より、皆の記事の方がウケるのか。
このままでは、部長の椅子が危うい。

最も、他の部員達は部長なんて面倒なポジションは狙ってなかったのだが…
翠星石は一人、悶々としていた。

「絶対に…記事にしてやるですよ…」
未だに消えない情熱の炎。それを静かに灯らせながら、一人呟いた。

 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 
翌日 ―――

休み時間の合間を狙って、翠星石は真紅と水銀燈を部室まで呼び出した。
「…やっぱり、この事件は記事にするべきです!いや…するべきですよ!!」
大事な事なので二回言う。

「…そう」
「…頑張ってねぇ」
なのに、部員二人の反応は冷めたものだった。

だが、翠星石は慌てない。まだ慌てるような時間じゃない。
「なーに言ってやがるですか。てめぇらにも手伝って貰うですよ」
ニヤリと、まるで悪役のような笑みを浮かべた……。


脅し、すかし、泣き落とし…
どれも通用せず、結局パフェを奢るという条件で協力してくれる事になった二人と、作戦会議を開く。
余計な心配をかけない為にも、蒼星石には内緒で。

「でぇ…?どうやって『正義の味方』を見つけるつもりよぉ…」
「そうね…何と言っても、相手は正体不明の人物ですものね」

「ふっふっふー…それなら、名案が有るですよ…!
 二人とも、耳をかっぽじってよーく聞きやがれですぅ…―――― 」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

夜になり…
翠星石は自室の扉をそっと開いた。

廊下で聞き耳を立てる。

隣の蒼星石の部屋からは、小さな音で音楽が漏れ聞こえている。
(…大丈夫、バレてないですぅ……)
音も無く扉を閉め、足音を殺して階段を降りる。
気配も無く靴を履き…

翠星石は一人、誰にも悟られる事無く家から脱出した。

薄暗い夜道は、一人で歩くには心細い。
それでも、全ては自分で考えた作戦の為と、ひた走る。

――― 謎のヒーローは、公園を中心に活動してるです! ―――
プロファイリング(我流)を元にした綿密な計画。

その実行の場である公園の入り口に、翠星石は何とか辿り着いた。

「はぁい、5分遅刻よぉ?」
「全く、レディーを待たせるものではないわ」
薄暗い公園の入り口で、真紅と水銀燈が相変わらずな様子で声をかけてきた。
この二人を見てると、闇夜に怯えてた自分が情けなくなる。

だが、そんな考えはおくびにも出さず、翠星石は力強く頷くと、二人を伴って公園の中へと進んでいった……


◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 
 
「…それじゃあ、予定通り頼むですよ」
小声で真紅と水銀燈に告げる。

計画。
公園の中で、翠星石が真紅と水銀燈に襲われ―― それを助けに来た謎のヒーローを逆に捕獲する。
捕獲は無理でも、せめてインタビューを。それが無理なら、写真でもこっそり…

それが翠星石の計画の全貌だった。

と、言うわけで、真紅と水銀燈は翠星石を小突き始める。
見た目は派手に、その実は痛くないように。

「きゃぁーーー!たーすーけーてー!ですぅ!」
翠星石も腹から声を振り絞る。
もちろん、ご近所の迷惑にならない程度に。



来ない。

謎のヒーローは何をしているのか?
そんな疑問が頭を過ぎり…そして別の疑問が脳裏に浮かんだ。

さっきからコイツら、殴るの強くなってきてね?
 

まさか…
そう思い、ちょっとだけ顔を上げてみると…

サディスティックな笑みを浮かべ、楽しそうに拳を振り下ろす水銀燈。
「この胸が!何よこんな物!」と、ブツブツ言いながら殴ってくる真紅。

あ、こりゃ、人選間違えたですよ。
翠星石も今になってそう気付くが…すでに遅かった。
「ちょ…!ちょっと待つです!イタっ!待ちやがれですぅ!」

哀れ、翠星石。
このまま、自身の立てた計画と、間違えた人選のせいでボロゾーキンと化してしまうのか…?

誰も(実質は一人)がそう考えた時 ―――

その声が公園内に響き渡った!


「待て待てーぃ!」

まさか!
翠星石がそう思い視線を上げ、我に返った二人が見つめる先には…一つのベンチ。

そこに腰掛けるは、謎の人物。
その顔は…影になっていて見えない。

「…いたいけな女性を狙った凶行…許す訳にはいかないね……」
 

そう言い、青い服に身を包んだ謎のヒーローは―――
おもむろに、持っていた鞄のジッパーをジジジ…と下ろすと……そこから巨大な鋏を取り出した。
「ところで、僕の鋏を見てくれないか…これをどう思う…? 」

「すごく…大きいですぅ… 」
翠星石が見たまんまの感想を、思わず呟く。

雲の隙間から月が出て、その光が辺りを照らす…―――
ベンチに座った謎のヒーローが、ゆっくりと立ち上がった。

「やら―――」
「…蒼星石!!」
謎の正義の味方…蒼星石の言葉を遮り、翠星石が反射的に叫ぶ。


こうして…
翠星石にとっての『謎の正義の味方』事件は幕を閉じた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


蒼星石は…
通販で買った『庭師の鋏(レプリカ・切れません)』を片手に、腕試しがてら町の平和の為に暗躍してて…
『謎の正義の味方』なんて言いながら、周囲に内緒で警察から感謝状まで貰っていた、との事だった。

でも、翠星石に余計な心配はかけたくない。
そう考え、ずっと内緒にした結果……こんな事になった、という訳だった。

  



そして……


今日も新聞部の部室に、大声が響き渡る。
「だーかーらー!!最近、新聞部の購読数が落ちてるですよ!!」

真紅と水銀燈が「またか」といった表情でため息をつく。
蒼星石が相変わらずクールに声を上げる。
「そうかな…?
 真紅の『拳で語れ!格闘技』特集はかなり好評だったし、
 水銀燈の『都市伝説・腹無し女』特集なんて凄く話題になったし、
 僕の『ドキっ!翠星石のパジャマ姿』特集はあっと言う間に無くなってしまったし…」

「だったら!なんで翠星石の『朝はシャッキリ足踏みお目覚め体操』特集はこんなに残るんですか! 」
翠星石が奇声を上げながら、部室の隅に山積みにされた校内新聞の山を指差した。


学園は今日も平和だった。


「そこで!次は確実に目を引く事件を特集するです!それは…コレですぅ!」
翠星石が馬鹿でかい文字の書かれたホワイトボードをバン!と叩く。


学園は今日も…おおむね平和だった。




    
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