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今日の教室は、いつも以上に朝から騒がしい。
廊下からでもそれは感じ取れた。
大方、クラスの女子が男子達にチョコを配っているのか。
それとも男子が女子にたかっているのか。
今日はバレンタインデー。
そりゃあいつもと違う朝にもなるかも。
と言っても、うちのクラスはいつもこんな感じだっけか。
……違うのは僕だけなのかもな…なにせ、今年は「相手がいるバレンタイン」だもんな…

ドアを開け、教室に入る。
予想道理の光景だった。
…正直言って、期待なんかこれっぽっちもしてない。
適当に擦り抜けて、自分の席へ………が。
「あらっ!JUN、おはよう!」
お気に入りのツインテールを翻して声をかけてくる者がいる。
「ああ、真紅おはよー…」
「んもう、最近来るの遅いわ。だらしない家来ね。また私が起こしに行ってあげようか…?」
いつから、俺はコイツの家来になったんだか…もう10年以上前かもな。
…なんだか、最近よく真紅の事を考えてしまう…
「いや、大丈夫だ。いつまでもお前に迷惑かけてらんないし」
俺はもう真紅と登校することはないと思う。
…彼女がいるから。

「そう…別に迷惑なんて思ってないのに…」
最近真紅に対して冷たいのは自分でも分かってる。
「そ、そうそう!はいこれっ。…あ、あなたの分よ!感謝なさい」
少し落ち込んでるように感じたけど、またいつもの調子になったみたいでホッとした。
手に下げてる紙袋からを包装された小さい袋を取り出し、僕に差し出す。
みんなに配ってる最中だったのかな。
ちょっと回りを見渡すと、みんな同じようなのを持ってる。
…だけど、なんかこれだけ膨らんでるような気が…
どうしよう…
「なに?いらないの…?いらないなら別にいいけど…」
貰わないのが一番だろうけど…
「で、でもJUNは他に貰える宛てもないんでしょう…??ほ、ホントにいらないの…??」
…まぁ、そこまで真紅を突き放すこともないか。
「ありがとう。いつも悪いな」
「何言ってるの。昔からじゃないの」
「そうそう、言っておくけど義理チョコよ!三倍返し、楽しみにしてるわよ♪」
「…やっぱそう来るか」
なんだかんだ言って、真紅との会話は楽し…(!!)

…笑いかけた表情が凍り付いた…
蛇に睨まれたカエルの心境というのだろうか…
一瞬だけど、強い視線を感じた…


「おはよぉ~♪朝から二人とも楽しそうねぇ」
「あら、水銀燈!」
僕はさっきの原因がなんなのか理解できた。
あわてて貰った袋を隠し、挨拶を返す。
「…水銀燈、おはよう」
水銀燈は楽しげに、親友である真紅に話しかける。
彼女らは仲が良いと専らの評判なんだ。
「なぁにぃ~♪真紅ぅ?、もう本命チョコあげちゃったのぉ??」
「な…!そそ、そんなわけないでしょうっ!!もう水銀燈は朝から変なこと言わないで頂戴!」
「うふふ、冗談よ♪」
俺と真紅が水銀燈と初めて知り合ったのは去年の春、二年生になってから。
それでも、水銀燈が真紅なんかと姉妹の様に仲が良いんだ。
「それより、真紅ぅ、そんな袋まで抱えて大変ねぇ」
「そうね。殆どは女の子の友達にあげて回ってるけど、レディは可哀相な男達をほっとけないのだわ」
真紅はニヤニヤしながら僕をわき見してきた。
…僕の事言ってるのか?
「そんな事だろうと、今日は私も作って来たのよ」
水銀燈は鞄から真紅と同じくらいの袋を取り出した。
[水銀燈の手作りチョコ!?]と、それを見た男子達が周りにやって来て、またそれを見た人がやって来て…と、あっという間にクラス中の注目の的に。
その容姿・性格とあって、男子からの人気は高いのは勿論、女子にも人気があるのだ。
「そうゆうことね…だから水銀燈にしては珍しく来るの遅かったのね」
おまけに勉強もよくできる。学級委員もしてる。
「そぉゆぅこと!」


「え…じゃあ?水銀燈も男子に配るのか?」
周りの男子の意志を代表して僕が喋る。
…まぁ、僕はこの答えを聞くまでもないが…
「ふふ…残念ながら、ちょっと時間なくてぇ数が間に合わなかのよ…だから友達の分だけなんだぁ…ごめんなさぁい」
なんだぁ…と集まってた男子が肩を落とし離れて行く。
…何故か、僕は嫌な予感がしてたまらない。
「それじゃ早速配りたい…とこなんだけど、もぉすぐ一限目始まっちゃうね…だから、みんな、配るのはまた後にして、とりあえず席に着いてねぇ~♪」
誰もが水銀燈の言う通りに自分の席に戻って行く。
その時、水銀燈は自分の席に戻る前に、
『放課後、JUNには特別なのをあげるわぁ…』
と、彼氏である僕に静かに告げていった。
僕の机の上には、またチョコが何個か置いてあった。
今すぐ捨ててしまいたい気分だ…


放課後。僕は階段を上り屋上へ出た。
まだ外の気温は寒く、屋上には水銀燈が立っているだけで、他に誰もいない。
あの日…僕が水銀燈からの告白を受けた場所も、この寒い二人だけの屋上だった。
返事は勿論OK。
まさか自分が男子のアイドルである水銀燈に好かれていたなんて夢にも思わなかった。
だから、って言うのはおかしいかも知れないけど、僕達が付き合ってるのは誰にも言ってない。勿論、真紅にも。
僕なんかと水銀燈が付き合っているのは、なんか不釣り合いな気がしたからだ。
それから僕達は、放課後は二人で屋上過ごし、しばらくして暗くなったら一緒に帰り、朝は待ち合わせして一緒に登校する。というような関係が続いている。
休みの日はどこかにデートに行くけど、たいていはアパートに一人暮しの水銀燈の部屋に泊まりに行ってる。
水銀燈からのお願いなのだ。
[私以外の女は見ないで]と…
…僕は最近、あの日の返事を後悔しているんだと思う。

「…水銀燈?」
屋上のドアから少し離れた所に立って、向こうを向いたままの水銀燈に近寄って声をかける。
「…JUN。やっぱり他の女の子からチョコ貰っちゃったのねぇ…」
今朝の水銀燈とは明らかに声のトーンが違う。
恐らく、僕の目の前にいる水銀燈が、本当の水銀燈なんだと思う。
「そんな…違うって。あんなの全部適当に配られた義理チョコだよ」
「…じゃあ、なんで真紅からのチョコ貰ったのぅ?」
水銀燈は少しうすら笑いを浮かべたような口調で話す。
「それは…」
水銀燈が振り向いて続ける。
やっぱりその表情は不気味な笑顔をしている。朝とはまるで別の…
「断る事もできたのにねぇ。私が近くから見てたのにも関わらず、しっかり貰ってるもんねえ」
「…しょうがないよ。真紅は僕達のこと知らないんだから」
「はぁ…まだ言ってないのね。じゃあ、私が言っていい?ついでに、もうJUNに近寄るなって言っておくわ♪」
綺麗に整った水銀燈の顔が、いびつに歪む。


「待て…!そんな言い方ないだろ!」
「あれぇ?やっぱり結局は真紅にも好かれていたいのかなぁ?チョコも断らなかったもんねえ」
「違う!真紅は俺の幼馴染みだし、…何より水銀燈の親友だろ!そんなに突き放さなくてもいいじゃないか!」
水銀燈は目を細めて微笑む。
「幼馴染み?親友?ふふふ、そういう考えの幼稚なJUNって、だぁぃ好き♪」
「…所詮、真紅もJUNを惑わす一人の女に過ぎないのよ」
「………」
「気付かなかった??JUNの分だけ他のより大きかったの。きっと中身も面白い形してるんでしょうねえ」
もう、何を言っても無駄な気がしてきた…
「………そこまで言うなら、あのチョコは貰わなかった事にする。すぐ捨てるよ」
「じゃあ、それなら、持ってるチョコ全部私にちょうだい♪」
水銀燈は手で小さいお皿を作り、また微笑む。
僕は鞄からチョコを取り出し、その小さなお皿に乗っける。
すると、そのお皿…水銀燈の手が急に握られ、なんと水銀燈は両手でチョコをバキバキと握り潰し始めた。
「この場で処分してあげる♪」
…僕はこの場に及んで、水銀燈が怖くなった…
握り潰すだけでなく、今度は屋上のコンクリートに叩き付けた。
袋に入ってたチョコがいくつか飛び出す。
真っ二つに割れたハート型のがあった。
だが、次の瞬間には水銀燈がチョコを入れていた袋の下に隠されてしまった。
そして、水銀燈はそれを思いっ切り踏み潰した。
「JUNが私が作ったもの以外を食べるなんて…」
「私、我慢できないのよ!!」
声を荒げて、何度も。


……満足したか、一通り終えると話し出した。
「…今朝は、一緒に登校出来なくてゴメンネ…」
大分落ち着いてくれたみたいだ…
「私、もう我慢できなくなったから、今朝頑張ってきたのぅ」
突然訳のわからない事を言い出す。
やっぱり冷静では無いようだ。
「………何をだ?」
「もぉこれ以上、女の子がJUNの周りにいるのは我慢できない…」
俯いたまま水銀燈は続ける。
「だから、今朝、頑張って女の子みんなに配るチョコ作ってきたの」
「…だから、それとどう関係が……」
…嫌な予感が僕の中を駆け回り、次第に一つの答えを成していく…
だけど、そんな事絶対あるわけない…!
「ふふふ…これで暫くはJUNは他の女の子を見ないで済むわねえ…」
そうまで言って僕に疑われたいのか…?
どうして…
「見ない…って、まさか……おい…配ったチョコに何かしたのか?!…」
「仲のイイ子順に作っていったからねぇ。1番最初に作った真紅の分は結構苦戦したわ…間違って他のよりも多めに入っちゃってるかもしれないわ♪」
水銀燈は僕の質問は無視して開き直っている。
「まさか………そんな……ほ、本当にそんな事したのか?!」
「ま、ちょうどいいかな?」
な、なんて事を…
「し、真紅にそんな事をしたのか!?」
僕は慌てて携帯を取り出し、真紅に連絡しようとする…が……あれ?!
おかしい。ずっと前に登録しといた筈なのに、アドレス帳に真紅の名前がない…どうして
…これでは連絡の取りようが…
「あ、真紅のアドレスは必要ないから消しといたわ…他にも女子のは私以外みんな消したからぁ~♪」
水銀燈の言葉に、全身が凍る…



…僕は水銀燈の両肩を掴んでいた。
「自分が何をしたのかわかってるのか?」
「………」
水銀燈は目を逸らしたままだが、それに構わず感情に任せて声が出る。
「こんな事をして、僕が水銀燈だけを好きになるわけないだろ!?」
「…………」
「もういいよ!早く知らせないと!」
手を離し、水銀燈に背を向け、足を上げた-その時。
「嘘よ…」
水銀燈がゆっくりと呟く。
「えっ…?」
「嘘よ…ごめんなさい…全部、嘘なの…」
僕の頭の整理が追い付いていかない。
「…本当に…?」
「本当に…配ったチョコは本当に何もしていないわ…」
じゃあなんで、こんな嘘を…そんなに僕に嫌われたいのか?
これ以上、水銀燈の行動に疑問を感じてもしょうがないと思っていたけど…
「ちょっと、確かめてみたかったの…」
すると水銀燈は申し訳なさそうに話し出した。
「でもやっぱり、つく嘘が悪かったみたい…完璧に嫌われたでしょうね、私…」
「前に言った事もあるけど…私、幼い頃、両親から虐待を受けて育ったんだよ。だから、必死に勉強して、親から逃げる為にここに来たの」
この事は付き合い始めに聞いた。
この事を知って、僕が水銀燈を支えてやろう。なんて事を考えたのを覚えてる。
「愛を受けて育たなかった私は、どうすれば人を信頼出来るのか知らなかった…」
「だから、お互いとても信頼しきってるJUNと真紅に出会った時は凄く新鮮で、二人の事を見ているのがとても楽しかった」



「そのうち、どんどん二人の事が好きになって…そして、二人の事が羨ましくて堪らなくなってったの…」
「きっとJUNなら私の事も信頼してくれると信じてた。だから告白したの」
「だけど、JUNは私と付き合い出してからも、真紅と仲良くしてる…JUNの好きだった所が、次第に憎くなっていくの…」
「一生懸命、私だけを見てもらおうとするけど、愛された事の無い私は、愛し方を知らない…」
「だから、どれも裏目に出て、ただのイタイ女になってたみたいね」
「馬鹿よね…こんなの彼女失格ね……」
「でも、これではっきりしたわ。JUNは私よりも真紅の事が心配なのね。さっきのJUN、怖くてびっくりしちゃったわぁ…」
「……」
知らなかった…
………こんなに水銀燈が自分の事を話したのは初めてだと思う…
彼女の言う通り、確かに僕はあの時真紅の事が心配だった。
…今まで気が付けば側にいた存在が、急に居なくなるなんて考えたくない…
「真紅のチョコに酷い事しちゃって、本当にごめんなさい。。。」
「お詫びに…と言うか、最後に今朝言ったのを受け取って欲しいの……お願い、最後に一緒に私の部屋まで来て…お願い…」
最後…か。
僕は水銀燈なりの愛を受け取る事にした。


翌日
「ねぇ、水銀燈。JUNを知らない?」
「あらやだぁ♪私が真紅よりJUNに詳しいわけないじゃない」
「も、もういい加減にしてちょうだい/////…そうじゃなくて、JUNったら携帯に電話しても出ないのよ。家にかけても誰も出ないし…今JUNの両親は家にいないから…」
「さあ~?インフルエンザで寝込んでるんじゃなぁい…??」
「……そうかしら…」
「ふふふ。やっぱり、心配??好きな人だから♪」
「もぅ…JUNの前では絶対言わないでよ!本当に昨日はヒヤヒヤしたわ…」
…安心して、真紅ゥ。
気持ちがバレるなんて事はもうないわよ。
JUNと真紅が会う事はもうないからぁ。
本当、昨日はヒヤヒヤしたわぁ。
朝から準備しといてよかったぁ~
「……どうしたのかしら…まさかJUNの身に何かあったのかな…?」
「もう、心配症ねぇ真紅は…乳酸菌採ってるぅ?」
「……今まで身近にいた存在が、急にいなくなると、少し余計に…」
ふふふ…本当に二人は息がピッタリ♪同じ事言って。
でもねぇ…真紅の好きなJUNはもういないの。
遂に昨日、邪魔物を排除することに成功したの。
これからは、真紅はJUNばっかりになることはなく、もっと私に構ってくれるの。
唯一、私が愛を知る事のできた真紅…
「大丈夫。私が側にいてあげるわ♪」
「水銀燈…ありがとう…放課後、また一緒に紅茶を飲んでくれるかしら…?」
「もちろんよぅ。私達、親友でしょう♪」


END

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