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「…それにしても驚いたわ。まさか水銀燈のところにもローゼンメイデンが来てたなんて…」
「こっちだって同じよぉ。真紅の所も同じだったとはねぇ」
 巴の襲撃から三日間、水銀燈は寝込んだ。今はジュンを連れて水銀燈のお見舞いに来ているところだ。
 ジュンは部屋の隅で部屋にあった本を読んで暇を持て余していて、めぐは真紅が持ってきた花を花瓶に生けていた。
「前お見舞いに来たとき何にも言わなかったもの」
「人形が動いてるの見たら怖がると思って隠してたのよぉ。慌てる事無かったわねぇ」
「…そう言えば、どうしてめぐはここに来たの? 何か変わったことはあった?」
「…そうね、夢を見たわぁ」
「夢?」
「そう。二週間ぐらい前かしら…熱でうなされてる時に見たのよぉ」
「二週間前…」
 確かに水銀燈は二週間前に数日間学校を休んでいて合点がいく。
「今となってはしっかり覚えて無いけど、ただ『まきますか まきませんか』って問いかけられたのだけは覚えてるわぁ」
「へぇ…」
「夢だったし、頭も働いてなかったから何も考えずに『まくわ』って言ったのよ」
「そして起きたら鞄が置いてあって中にめぐがいた…というわけね」

「そうよ。真紅はどうなの?」
「私の場合は紅茶のカタログに変なチラシが挟まっていたわ。
それに『まきますか まきませんか』って書いてあって、『まきます』に丸をつけちゃったの」
「…私とは違うのねぇ。でも、その質問は同じだわぁ…」
「人によって違うみたいね。ジュン、偶々私を選んだって言ってたけど、どうやって決めるの?」
 呼びかけられ、ジュンは本から目を真紅に少しだけ向け、すぐに本へ戻して口を開いた。
「それは人工精霊が選んで決めるんだ。僕の場合はホーリエだな」
「私のはメイメイよ」
 めぐも続いて話しに加わってきた。
「ホーリエ…そう言えば初めて会ったときもその名前言ってたわね。それが人工精霊?」
「そう。出て来い、ホーリエ」
 ジュンがそう呼ぶと、鏡から赤い光の玉が出てきてジュンの傍に近寄っていった。
「これが僕の人工精霊。そう言えば初めてだよな会うの。ホーリエ、挨拶しとけ」
 ジュンに言われるとホーリエは真紅の傍へと寄っていくと、そのまま体の周りをクルクル回り始めた。
 これが挨拶のつもりだろうか。

「よし、もう戻って来い」
 ページを捲りながら呼ぶとホーリエはジュンの傍へ戻って行った。
「人工精霊が判断し、適切だと思ったらそこに契約書…真紅の場合はチラシだな。
それで契約するかしないかを相手に求める。契約すれば鞄ごと僕たちは送られる」
「なんでチラシだったの?」
「さあ。それはホーリエにしか分からないさ」
「私はメイメイには何回か会ってるわぁ。紫色よ」
「ふぅん…契約しなければ、そのドールは出てこれないのね?」
「そうだけど?」
 当然だろ、といった様子でジュンは返事をする。
「…待って、じゃあ巴にもその契約主…ミーディアムだっけ? がいるってこと?」
「…よく考えたらそうなるな。いったいどんな奴なんだ…?」
 本を読むのを止め、ジュンは少し思案する。
「…巴のミーディアム…あんまり想像したくないわね…」
 一旦その場を重い沈黙が包む。だがしばらくしてジュンは溜息を吐いた。
「どんな奴でもいいさ。ただ戦いを仕掛けてきたら返り討ちにする…それだけだ」
「…それしかないわね…。ところでジュン?」
「ん?」

 真紅はおもむろに立ち上がるとジュンに近付いていった。
 やがて目の前に来ると、ジュンが読んでいた本を上から奪い取った。
「何すんだよ!」
「人と話をするときは相手の目を見て話す、て教えなかったかしら?」
「いいから返せよ! まだ読んでるんだぞ!」
「何その態度!? 家に来て一週間以上経ってるのに全然その根性直ってないわね! もっと厳しくしましょうか!?」
「何言ってんだ下僕のクセに!」
「誰が下僕よ誰が! 居候の分際で偉そうに!」
 ギャーギャーとその場で口げんかを始めた二人を、水銀燈とめぐは何もせずに傍観していた。
「…ジュンって昔からああなの?」
「…根はいい人なんだけどね…」
「何だか姉弟喧嘩みたいねぇ…」
「うん…」


 翌日の昼休み、図書室。
 真紅達は課題を終わらせるための資料を借りに図書室に来ていた。
 昼休みという事もあってか人も多い。
「確かこの辺に…あ、あったわ」
 目的の本を見つけて手に取り、パラパラと捲って中身を確認する。間違いは無さそうだ。
 それを持って水銀燈達が居る机に戻った。
「もぅ、体が良くなったらいきなり研究課題なんて…ついてないわぁ」
「まったく、梅岡は授業が面倒臭ければ宿題まで面倒くさいですぅ」
「まあまあ。そう言っちゃダメだよ」
「そうよ。文句言ってても始まらないわ」
 ブーブーと文句を言う二人をなだめつつ、本をみんなに見えやすいように机の真ん中に広げる。
――――
 それからああだこうだと資料を書き写していくとすぐに時間になってしまった。
「もう時間だ。教室に戻らないと」
「本当。これは借りて行きましょう。私が手続きしてくるから先に行ってて頂戴」
「ありがとう。任せるわぁ」
「先に教室で待ってるですよ~」
「遅れないよう気をつけてね」
「分かってるわ」
 先に三人が図書室を出て行き、真紅は受付に向かう。
 受付では図書委員の受付である金糸雀が最後の片づけをしているところだった。
「金糸雀、悪いけどこれお願いね」
「了解。でももうちょっと早く持ってきて欲しかったかしら」
「ごめんなさいね。長引いちゃって」
 少し怒り気味の金糸雀をなだめつつ図書カードを差し出す。
 それを受け取り金糸雀が手続きをしている間に、なんとなしに図書室を見渡した。
 もう残ってる人はほとんどいない。いたとしてももう荷物を持って帰ろうとしている人だけだ。
 そうして見渡してみると、ある本棚が目に付いた。
(…そう言えば…)

「金糸雀、確かローゼンメイデンの本ってあそこにあったわね?」
「え? そうだけど…」
「ちょっと見てきていい?」
「いいけど、早くしないと私まで授業に遅れるかしら!」
「すぐ終わるわ」
 真紅は受付から離れると、その本棚へ近寄り目を通した。
 上から見ていくと、その本はすぐに見つかった。
 オカルト雑誌で『怪奇!? 生ける人形の伝説大特集!!』と胡散臭さ満点の煽り文が表紙に書かれている。
 それを取ると早足で金糸雀に差し出した。
「これもお願いするわ」
「真紅もローゼンメイデンに興味を持ったかしら?」
「え…ま、まあちょっとね」
 まさか家に実物のローゼンメイデンが居るなんて言えない。
 言えば根掘り葉掘りと延々に質問されそうだ。
 そうやって話している間にも金糸雀はその二冊の手続きを終えて真紅に差し出した。
「はい。返却期限はキチンと守って、綺麗な状態で返却するかしら」
「分かってるわよ」
 それを受け取ると金糸雀も自分の荷物を持って受付カウンターから出てきた。
「はぁ~、次の授業は梅岡かしら~。このままここで本でも読んでたいかしら~…」
「そんな事すればもっと面倒な暑苦しいお説教が待ってるわよ」
「あ~あ…」
 げんなりした金糸雀を苦笑いを浮かべてなだめつつ、それぞれの教室へと分かれた。


 その日も学校が終わって、真紅は部屋で借りたオカルト雑誌を読んでいた。
「…それ、僕たちの事が書いてあるのか?」
 その真紅を、ジュンは面白く無さそうに見た。
「ええ。ちょっと気になってね」
「気になる事があれば言えば良いのに…」
「じゃあ言えば聞かせてくれるの?」
「気が乗ればな」
「やっぱりあてにならないわね」
 やれやれといった様子で苦笑いを浮かべ、肩を竦めるとページを進める。
 ちなみにジュンは真紅のパソコン机を陣取り、インターネットの続きをしていた。


――ローゼンメイデンは伝説の人形師ローゼンが作り出した人形達である。
 その作風はあまりにリアルで、まさに「生きている」ようでもあるという。
 だがその存在は明らかではない――


「…大した事は書いてないわね…」


――だが、我々はそのローゼンメイデンの存在を裏付ける証拠を突き止めた!
 突き止めたのはあの夜見島の取材で大反響を呼んだ一樹守編集者!
 ではその証拠達を見ていただこう――


 一気にノリが軽くなったページの次には、古ぼけた廃墟の概観や内部の写真が載っていた。
 壊れた小さな食器類や人形サイズの衣服、更には人形の腕などの部品…色々な写真もあるがどれも胡散臭い。
 とてもローゼンメイデンに関係があるとは思えなかった。
「…何よこれ…馬鹿馬鹿しい…。まあそういう雑誌だから仕方ないわね…」
 真紅は呆れ返り、次のページを捲ったがもう特集は終わっていた。
 あとは並行世界だとか、謎の失踪を遂げたベストセラー作家の記事が載っているだけだ。
 馬鹿馬鹿しいと思ってその本を閉じ、腰掛けていたベッドへ適当に放った。
 それに気付き、ジュンは机から離れてその本を手に取ってページを捲る。
「これが僕達の記事? 随分とバカらしく飾ってくれたもんだ」
「その手の雑誌はそういう物よ。諦めなさい」
 自嘲的な笑顔を浮かべつつ、ジュンはページを捲っていく。
 と、あるページでジュンの表情が真面目に戻った。
「…これは…」

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