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 その夜中。
 めぐは目を覚まし鞄から出ると、ベッドに眠る水銀燈の枕元までやってきた。
 そのまま顔を覗きこみ、静かに寝息を立てている水銀燈の頬をなでる。
「…水銀燈…可哀想…」
 起きてる時に聞いたら怒る様な事をぼそっと呟いてみた。
 出来る事なら、自分の身を捨ててでも水銀燈を元気にしてあげたい。だが、そんな力は自分には無い。
 病弱であるにもかかわらず自分と契約してくれた水銀燈に、感謝と申し訳無さを感じてしまう。
「…私は何もしてあげることが出来ない…。治す事も、あなたの苦しみを紛らわす事も…」
 何も恩返しできない自分に、歯がゆさを感じてしまう。ただただ、情けなかった。
「その娘を治す方法、教えて欲しい?」
「っ、誰!?」
 不意に第三者の声が聞こえてきて、めぐは辺りを見渡した。
 すると、鏡台の鏡が光って波打っているのが目に入った。声はここから聞こえているようだ。
「誰なの!?」
「そんないきり立たないで。いい事を教えてあげるのに…」
 しばらく鏡を睨んでいると、中から見覚えのある人形が出てきた。
「…巴…」
「その娘、治したいんでしょう? 」
「巴…本当に、治る方法を知ってるの?」
「ええ」

 相変わらず無表情で答える巴。その巴に、めぐは縋るように問いかける。
「本当なのね!? どうすればいいの!?」
「慌てないで。これから教えるから」
 焦るめぐを制して、巴はその方法を口にする。
 それを聞いて、めぐは愕然とした表情を浮かべた。
「…そんな…! そんな事…」
「嫌? その娘を助けたくないの?」
「そ、それは…でも…」
「…別に今すぐ答えを出せとは言わないわ。それに、これはあなたの問題だから。よく考えて決めてね」
 それだけ言うと巴は音も無く鏡の中へと戻って行ってしまった。
 後には、愕然としためぐだけが残される。
「…私に、そんな…でも…」
 
 それから数日後の休日、桜田家。
「だからこの時間はくんくん探偵を見る時間なのだわ! 分からないの!?」
「ビデオに撮ってるんだからそれ見れば良いだろ! 通信販売のチャンネル見せろよ!」
「人形が通販のテレビなんか見てどうするのよ!?」
 テレビの前でギャーギャーとチャンネル争いをする真紅とジュン。
 その光景を、のりは微笑ましそうに眺めていた。
「平和ねぇ…」
「「どこが!?」」
 二人一斉にはもり、それで再び睨み合いになる。
 先に動いたのは真紅で、その直後にジュンも動いたが手遅れ。
 リモコンは真紅に奪われ、チャンネルはくんくん探偵に変わってしまった。
「あー! 変えろよ!」
「嫌よ、悔しかったらこのリモコンを奪ってみなさい」
 立ってリモコンを高く掲げる真紅。
 ジュンはそれを取り返そうとジャンプしたりするが到底届かない。
 しばらくすると諦めたのか、飛び跳ねるのを止めた。
「…もういい。鞄の中に戻る」
「そうしてなさい。これでゆっくりくんくんが見れるわ」
 ジュンはそのままリビングを出て行き、真紅は紅茶を飲みながらくんくんを鑑賞し始めた。
 リビングを出たジュンはイライラしながら真紅の部屋へと戻っていく。
「ちぇ、何だよ下僕のくせに…」
 そう呟いてみたが、よく考えたら下僕らしい事は何一つさせていない。大抵怒鳴られて終わりだ。
 その事実を思い出し、ますますイライラが募っていく。
「…面白くない…何でここに来たんだろ…」
 ブツブツ呟きながら真紅の部屋に戻る。
 すると、聞き慣れぬ歌声が耳に入ってきた。

 …からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ…
 …からたちのとげは痛いよ 青い青いはりのとげだよ…

「…この歌声…鏡の中から…」
 鏡を見てみると、巴の時と同じく波打って光り輝いている。だが、中から何かが現れる気配は無い。
 ここで待ち伏せしようと思ったが、前に真紅に部屋を片付けさせられた時を思い出して鏡に向かって歩いていった。
「…nのフィールド…誘っているのか…」
 そのまま鏡に飛び込み、ジュンはnのフィールドへと飛ばされて行く。

 最初は何も無い白い靄の中を進んでいたが、やがて晴れ渡ったところに出て辺りの様子が見て取れた。
 地面には幾つもの壊れた注射器やチューブなどの医療ゴミが埋められており、空は真っ白だ。
 殺風景な事この上ないこの空間にただ一人、美しい女性の人形の後姿が見えた。
 歌はその女性が歌っているようだ。
「…めぐ、お前が呼んだんだな?」
 名前を呼ばれ、めぐは黒髪をなびかせながら振り返った。
「ジュン、懐かしい顔ね」
「ああ。それで何か用か? 昔みたいに、また歌をゆっくり聞かせてくれるの?」
「…あいにく、今日はそういう馴れ合いをしに来たわけじゃないの」
 冗談めかして言うジュンに、めぐは鋭い目付きで睨みつける。

 ジュンは少し表情を真面目に戻すといつでも動けるように構えを取った。
「…アリスゲームをしにきたのよ」
「やっぱりな。しかしどういう風の吹き回しだ? お前がアリスゲームだ何て…」
「……」
「一番争い事を嫌ってたお前がアリスゲームに挑むなんて、思いもしなかったな」
「問答無用!」
 刹那、めぐの地面から幾つもの大型の注射器が飛び出してきた。
 それはまるでミサイルのように一直線にジュンへと向かっていく。
 ジュンは横に飛んでそれをかわすと、巴戦の時に使った二本の刀を召還して臨戦態勢をとった。
「本気みたいだな…訳は知らないけど、大人しくやられるつもりは無い。そっちがその気ならこっちも本気で行くよ」
「初めっから大人しくやられてくれるなんて思ってないわ」
 再び、地面から幾つもの注射器とメスが飛び上がりジュンへと向かっていく。
 それをもう一度かわすが、今度は追尾していつまでも追い駆けてくる。
「味なマネをしてくれるな…!」
 しばらく逃げ回っていたが、一旦地面に着き注射器とメスが来るのを待つ。
 やがて狙いをつけると、ジュンは指先から無数の糸を出してそれらを全て絡め取った。
「お返しだ!」
 絡め取ったそれらを、今度はめぐへと打ち返す。
 糸から離れたそれらは一直線にめぐに向かうが、めぐの地面から表れた鉄板によって全て防がれた。
 カンカン、と耳をつんざく金属音が鳴り響いて攻撃を防ぎ、今度はその鉄板をブーメランのように回しながらジュンへと飛ばす。
 ジュンはそれをしゃがんでかわすと、再び体勢を立て直す。

「…どうした? お前の力はそんなもんか?」
「そっちこそ、逃げてばっかりじゃない」
 汗を拭い、息を整える二人。
 今度も先に動いたのはめぐ。
 手を伸ばして方へ横一直線に凪ぐと、今度は黄色の球体がめぐの手から数個放たれた。
 それをジュンは刀で全て受け止め球体は全て砕けた。が、その代わりに中から異臭がするガスが出てきて鼻を付いた。
「な、何だこれ…!」
 ガスを思わず吸ってしまい、それと同時に全身に電流が流れるような痺れが襲った。
 そのままジュンから力が抜け、その場に崩れ落ちてしまった。
 刀を支えにして立とうとするもそれすら出来ない。
「くっそ…力が入らない…」
「掛かったわね。それ、痺れガスよ」
「痺れガス…? えげつないマネを…!」
 何とか力を出し切って立ち上がったが、もう立っているだけで精一杯な状態だ。
 刀も落としそうである。
「なんとでも言って! 私は…私は、水銀燈のためにアリスにならなきゃならないの!」
 めぐがそこまで言うと、今度はゴムチューブがジュンの立っている地面から生えて来た。
 それは蛇のようにジュンの体に絡みつくと、そのまま全身を締め上げる。
「ぐあああぁ! く、くっそ…!」
「…ジュン、ごめんなさい。これで終わりよ」
 そう言うと、またも地面から幾つもの注射器とメスが飛び上がる。
 そしてそれらはジュンへと狙いを定める。

「ジュン!!」
 不意に、めぐ以外の女性の声が辺りに響いた。
 その方を見ると、人形ではない人間の姿…真紅の姿があった。
「真紅、何でここに…!」
「部屋に戻ったら鏡が光ってて…そのまま吸い込まれたのだわ…そしたら争う声が聞こえて…」
「人間…ミーディアム?」
「真紅! 僕と正式に契約しろ!」
「契約!?」
「いいから早く!」
 これまで見たことも無い迫力のジュンに押されて、真紅はそれに従おうとする。
 だが、そう契約すれば良いのか分からない。
「で、でもどうやって!?」
「ああもう面倒臭い…! この指輪に口付けをするんだ!」
 ジュンはチューブの中でもがき指先だけを何とか隙間から出した。
 その指には確かに指輪がつけられている。
「それにすれば良いのね? 分かったわ!」
「させない!」
 だがそれをめぐは阻止しようと、浮いていたメスを真紅へと飛ばす。
「きゃあっ!」
「真紅!」
 直撃は免れたものの、腕を掠って切ってしまった。傷は大した事無いが、恐怖心を植えつけるには十分すぎるものだ。
「い、いや…」
「真紅、早くしろ! このままじゃお前も死ぬんだぞ!」
「し、死ぬ…?」
「死にたくなかったら契約を!」

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